オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
この春、彼の環境は大きく変わった。
中学生という義務教育を終え、昔馴染みの少女がいる喫茶店に従業員として雇われ、手始めとして下宿予定の女の子の教育係を任される事になった。
『ふしんしゃだ!』
そんな祝いと転換の時期に、義務教育が敗北してそうな少女が店にやって来た。
「どうします店長?不審者が来ましたけど。警察呼びますか?」
「コウさん、あの人が下宿予定の子です」
「今年1年で敏腕教育係になれるってわけね。これは次期店長確定か〜?」
「……あれ?店員の人……?」
彼の昔馴染みがいるお店、ラビットハウス。古い知り合いの名は香風智乃。下宿人の名は保登心愛。
そして、不審者呼ぼ割りされた彼の名は狐賀光良(こが こうら)。何でも屋を営む祖父の家に住み、今はラビットハウスで働いている一般従業員兼普通の男子高校生である。
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下宿先の女の子にあらかた事情を説明した。
「ご、ごめんなさい!私、早とちりしちゃった!」
「恒例行事みたいなもんだし、気にせんで良いさ」
「うぅ……でも……」
「それよりさ、ホトちゃんって兎好きなの?」
「う、うん!好き!」
「だってさ、店長」
「ティッピーはお触り厳禁です。誰がなんと言おうとここは譲れません」
智乃の頭の上にいる兎へと手を伸ばす光良だが、あえなく手を払われてしまった。
そして、光良に続けと言わんばかりに、心愛も兎へと手を伸ばした。バレないように、そーっと……
「心愛さん、どさくさに紛れて触ろうとしないでください」
「げ、バレちゃった……」
「お客さん、ティッピーのお触りはスタンプカードをためてからだよ。コーヒー1杯でスタンプ一個。十個で3秒お触りだ」
「じゃあ、メニューにあるコーヒー全部ちょうだい!」
「おっ、太っ腹ー」
「コウさん、変な商売を始めないでください」
「えっ、嘘だったの……?やっぱりこーくんって不審者……」
「ははっ、可愛い子にはイタズラしたくなるものだからね。ほら、可愛い子には旅をさせよって言うじゃろ?」
「な、なんだかわからないけど……騙されてる気がする!」
警戒心バリバリの心愛を前に光良はケラケラ笑い、最後にコーヒーを持ってきた智乃から説教を貰った。
「本当に淹れてくれたんだね」
「そのうち味を覚えて貰うことになりますので」
「わー!美味しそー!」
適当なカップを手に取り、一口試飲する心愛。そしてカップを置くと同時に目をキラリと光らせる。これは名ソムリエの予感。
「キリマンジャロだね、これは」
「ブルーマウンテンです」
静けさが訪れた。心愛は「あはは……」と苦笑いを浮かべながら次の試飲へ。
「あっ、このカフェラテ好き!」
「カフェオレです」
「……こ、これはアメリカンコーヒー!」
「ただのエスプレッソです」
「これはなんかこうすごく良いやつ!」
「ヤケクソに入ったぞ。ちーちゃん、あんまいじめないで上げて?」
「すみません、面白かったので」
「えっ、これもいたずら?」
「心愛さんにティッピーを触らせてあげます。優しく撫でてくださいね」
ティッピーを押し付け、智乃は逃げた。
「おぉ……モフモフだー」
心愛は兎に気を取られ、遊ばれた事実を忘れた……が、向かいに座った光良にジト目を向ける。
「じー……」
「安心しな、俺はコーヒーが飲めない。取ったりしないから大丈夫だよ」
「そうじゃない」
「俺の主食は魚だ。兎肉に興味はない」
「そうでもないよ」
「となると……あぁ、また遊ばれないか身構えてるの?」
「やっぱり遊んでたんだ……」
「悪いね。見た目のせいか、ホトちゃんみたいな人と巡り会う機会がなくてさ。それでテンションが上がっちゃったんだ。嫌だったなら謝る。すまなかった」
「……良いよ。私も、ひどいこと言っちゃってごめんなさい」
「さっきも言ったが恒例行事みたいなものだし、気にしないで」
そうして、本当に気にしていない素振りで手近なコーヒーに角砂糖を六個入れながら、光良は一口コーヒーを飲んだ。
「苦いの、苦手なんだ。なんだかちょっとかわいいね」
「人生も店長もビターだからさ。甘いコーヒーだけが癒やしだよ」
「お、大人だ……」
「ははっ、そんなことないよ。うちの女房が鬼なだけ」
「誰が鬼ですか」
「え〜?ちーちゃんの事だなんて一言も言ってませんけど〜?まったく、昔からおませさんな所は変わりませんね〜──待って角はダメだって角は」
トレーの角を立てて光良に襲いかかる智乃を心愛は止めた。賑やかしい店である。
◇
頭の隅にたんこぶを作りながら、光良は心愛に店の中を案内していた。
「こーくん?大丈夫?」
「鬼嫁を持つと苦労するよ……」
「あはは……まだ言ってるんだね……」
「昔はこう言うとすごい喜んでくれたんだよ。ちょっと顔も赤くしちゃったりして」
「あんまり掘り返さない方が良いと思うよ。でりけーと?な話だと思うし」
「昔の癖が抜けないとは言え……あとで謝っとくかー……」
少ししょんぼりした様子で部屋の鍵を開けた光良。なんだかその姿が可愛くて、心愛は頭を撫でたくなってしまう。姉魂だろうか。
「まずここが女の子用着替え室。たまにミリタリーの妖精さんがロッカーに潜んでるから、見つけたら優しくお話してあげてね」
「みりたりー?」
「うーん……アサルトライフルとかそういう……とりあえず実物を見れば分かるよ。こういう時はドアから2番目のドアに隠れてるんだけど、今日はシフトがまだだし、もしかしたらいないかも──」
なんとなしにロッカーを開けると、そこには下着姿の女の子がいた。紫ツインテのナイスバディーな女の子が。
「ご、強盗だー!」
「ま、待て!私はここのバイトで──おい!コウラ!見てないで説明しろ!」
「心愛、こちらミリタリーの妖精さんこと天々座理世さんだ。リゼが持ってる銃とか、あと戦車や戦闘機。そういうのがミリタリー。そんで、リゼの実家は軍隊」
「お、おぉ……強そう……。よろしくね、リゼちゃん」
「あ、あぁ……よろしく……」
「ちなみにこの拳銃は本物」
「危ない人だー!!!」
「おい!嘘を吹き込むな!!!」
その後、拳銃でたんこぶを増やされ、リゼの下着を見たとの事で追加でたんこぶを増やされた。
あと何回たんこぶを増やせば、皆の気は収まるのだろうか。