オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
「えっ !? こーくん、今日も出かけるの !? 」
ラビットハウスが開店する三十分前。
店中に心愛の声が響いた。
「ごめんな、最近任せっきりで。外せない用事があってさ」
「大丈夫だけど……今日は何してくるの ? また学校まで出張とか ? 」
「いんや、今日はただのプライベートな用事。俺ん家の食器を買いにね」
「そういえば、こーくんってどこに住んでるの ? 夜は気づいたらいなくなってるし」
「道路の向かいに、レンガ建ての倉庫みたいな建物があるじゃん ? あれ」
「ほんとにチノちゃんとお隣さんなんだね。良いな〜」
「ここあはここに住んでるだろ」
「ロマンだよ ! ロマン ! 」
鼻息をフンスフンスと鳴らしながら、心愛は光良の境遇を羨んでくる。
「良いな〜、お隣さん。お泊り会とか出来るし、家の中からメールで連絡とかも……ロマンチックだなー」
「うちに住むか ? 」
「大丈夫 ! わたしは香風家の人間だから ! 」
「勝手に籍を置かないでください。それに、昨日ホームシックになってパンを貪っていたのはどこの誰ですか」
「うぐっ……。ち、チノちゃんが添い寝してくれれば、寂しさも吹っ飛ぶんだけどなー……」
「しません」
「そこをなんとか ! 」
チラ、チラ……っと、これ見よがしに智乃にアプローチをしかける心愛だが、あえなく撃沈し倉庫へと駆り出された。
「コウさんも、あんまり店を空けないでくださいね。ココアさんがいるからって」
「あはは……いやー、人手があるってだけで安心しちゃってさ。明日からちゃんとするよ」
「本当に頼みますよ。コウさんがいないと……」
「も、もしかして……寂しいとか ? 」
「いえ、店が普通になるので。なにか、違和感というか」
「俺、いない方が良くない…… ? 」
「必要ですよ。自営業は個性がなきゃやっていけないので」
まさかの装飾品扱い。
智乃が鬼嫁からブラックプレジデントに進化してしまった。どう見ても暗黒進化。
「うぅ……酷い……」
「時間、大丈夫なんですか ? 欲しいお皿、売り切れちゃうかもしれませんよ」
「うぅ……行ってきます……」
「はい、行ってらっしゃい」
例えようがないほどのどんより顔で、光良はトボトボと店を後にした。
光良を見送ったあと、少し俯いたままカウンターへと足を運ぶ智乃。
光良がいてもいなくても、店の営業はやらなければならない。
「素直じゃないのぉ……」
「別に……拗ねてるわけじゃ……」
ぷくーっと膨れる智乃の頬。
頭の上という兎目線でもよくわかる。
心なしか、皿を拭く手つきも少し荒かった。
「ち、チノちゃん !!! ごめんなさい ! またお皿割っちゃった ! 」
そんな不機嫌な智乃の元に、ドタドタと忙しなく走る心愛が現れた。
また、皿を割ったらしい。そろそろ割った枚数が二桁に行きそうだ。
このままでは、店のお皿が足りなくなってしまう。
「新しいの、買いに行きましょうか」
「チノちゃん、なんで嬉しそうなの……? も、もしかして、怒りがピークに……」
「早く準備してください。今日は午前休にします」
「うぅ……ごめんなさい……」
「おねーちゃんがいつまでもクヨクヨしないでください」
「えっ !? おねーちゃん !? もう一回言って !!! 」
「置いて行きますよ ? 」
「チノちゃ〜ん…… ! 」
半べそをかいた心愛をお供に、智乃は食器屋目掛けて歩き出す。
頭の上から「本当に素直じゃないのぉ……」なんて声が聞こえた気がした。
◇
カップル用プレートと書かれた、半分に割れた皿に目をつけた。
なんとなくの使用感を感じるため、光良は手に持って確かめてみる。
おそらく、良い感じの皿だ。
「シャロちゃん……! 」
「買いませんよ」
「ちぇ〜。これなら共用感出て良いと思ったのに」
「そもそも、お皿の体裁を成してないじゃないですか」
お出かけ相手のシャロには却下を貰い、カップルプレートは無事商品棚に戻された。
「というか、今日はお互いに食器を買いに来ただけなんですから。共用なんて気にしなくて良いんですよ」
「いや〜、バラバラで買ったらスタンプカードがそれぞれにしかつかないしさ。まとめて買ったらスタンプ2倍」
「それ、私か先輩のどっちかのスタンプが付かなくないですか ? 」
「常連のよしみで特別だよっておばちゃんが言ってた」
「それを先に言ってください」
瞬間、シャロの目が節約の主婦が如く燃え上がる。
「さっきのカップルプレートを買ったら、追加でスタンプ5個くれるってさ」
「カップルじゃないので遠慮しておきます」
「え〜。でもほら、割れた半分を体につけて、お皿が刺さったみたいに出来るし」
「何に使うんですか」
「肝試しとか…… ? 」
「先輩もピンと来てないじゃないですか。あと、買わない物をあんまりベタベタ触らないでください」
「手厳しい……」
相変わらず母親のように小言を垂れてくるシャロ。
スーパーのパック寿司を触っていた幼き日を思い出してしまう。
「はぁ……しょうがないですね。私を説得出来たら買っても良いですよ」
「ほんと !? 男に二言は無しだからね ! 」
「こっちは女ですけどね」
そうして、ゴング代わりと言わんばかりに入店ベルの音が響いた。なんて気の利いたベルだろうか。
「そうだねー、やっぱりカップル用だから仲良しさが前面に──」
「店をほっぽって女の子をすけこますとは、随分と偉くなったんですね──コウさん」
レビュー用の営業スマイルで固まったまま、硬い動きで店の入り口へと顔を向ける。
そこには、見たことない怖い笑顔で笑ってる智乃がいた。
「ち、ちち、違うんだちーちゃん ! これは別にナンパしてるとかじゃなくてね ! 」
「なら、そちらの方はどなたなんですか」
「ほら、前に話した友達のシャロちゃん ! カップの貸し借りしてる友達 ! 」
「は、はじめまして。桐間紗路です。先輩にはいつもお世話になっていて……」
「ご丁寧にどうも。香風智乃です。うちのコウさんがいつもご迷惑をかけているようで、すみません」
「だからね ? ほら、違うでしょ !? 」
「なにも違わないじゃないですか」
「違うよ !?!?!? 」
智乃の不機嫌が加速した。
訳もわからず、言い訳のような弁明が長々と続く。
ペラペラとまくし立てるような早口は、光良の見た目と合わさり怪しさ全開だ。
「コウさんなんて知りません」
「うわーん !!!! 」
KOのゴングが如く鳴る店のベル。
……っと、思ったら、光良はそそくさと店に戻ってきた。
「スタンプカード、シャロちゃんに預けとく……」
「は、はぁ、わかりました。あの、ハンカチいりますか ? 涙、すごいですよ…… ? 」
「武士に情けは不要……!!! 」
「千夜みたいなこと言ってる……」
光良はもう一度悲しみにくれ、全力ダッシュで店を出て行った。