オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
閉店を迎えたラビットハウスの片隅に、テーブルからこっそりと顔を覗かせる男が一人。
「こーくん ? なにしてるの ? 」
「ちーちゃんを見てる」
「パンケーキなら、あとで食べるってチノちゃん言ってたよ ? 」
「今までにないくらい怒ってたし……もしかしたら一生あのままかも……」
「あはは……。今度は何しちゃったの ? 」
「わかんない……友達とお皿を選んでたらちーちゃんと鉢合わせて、その時にはもうすごい怒ってた……」
「な、謎だ……」
一緒について行った心愛だが、店の前に着くなり待機を命じられ、許可が下りた時には既に光良はいなくなっていた。
「そういえば、シャロちゃんからスタンプカード ? を渡して欲しいって頼まれてたんだった。はい、こーくん」
「あんがと……。あっ、あのお皿買ってくれたんだ……」
「あのお皿って ? 」
「カップルプレートっていう、一枚のお皿が半分に割れてて、くっつけると皿に戻る縁結びアイテム」
「こーくんって、シャロちゃんのことが好きなの ? 」
「いや……親友同士のリストバンド的な……。お家が物置同盟だし……」
「不思議な関係なんだね……」
特殊な案件ゆえに心愛も原因を突き止めるまでには至らなかった。
出来る事と言えば、テーブルに隠れるしょんぼり狐の頭を撫でてあげる事くらい。
「私も一緒に謝る ? 」
「なんか、むやみに謝ると余計に悪化しそうで……。未だに何が理由でこうなったのかがさっぱり分からないから……」
「うーん……なんとなくだけど、寂しかったから、とか」
「寂しい……? ちーちゃんが ? 俺相手に……??? 」
「前もシャロちゃんの事でしっと──じゃなくて ! 少し不安になってたことがあったから。側にいて欲しいんじゃないかな ? 」
「そういえば、トラブル体質ってシャロちゃんにも言われたっけな……」
「そうそう。だから……だから、なんて言えば良いんだろう……」
こんがらがった心愛がウンウン唸り始め、話が締まらなくなってしまった。
心愛が言葉をまとめる間に、光良は心愛の言葉を反芻してみる。
今朝の装飾品扱いと、心愛の『寂しがってる』『側にいて欲しい』の発言。相反する物が絡み合い、光良まで唸り出した。
「ココアさん、こんな隅っこで何してるんですか ? 」
「あっ、チノちゃん。実はね──って、あれ ? こーくん ? 」
「コウさんがどうかしたんですか ? 」
「さ、さっきまでテーブルの下にこーくんがいて……あれ ? 幻……? 」
「はぁ……」
「ち、ちがうのチノちゃん ! ほんとにさっきまで……」
「あぁ、いえ、そうでなく」
おもむろに智乃は窓を空けて辺りを見回し、その後心愛が座るイスの下を見る……ふりをして窓に視線を戻すと、窓から脱走を試みる光良がいた。
「こ、こーくん !? えっ、どこにいたの !? 」
「心愛さんが座ってたイスの下ですよ。上手いこと影になるよう隠れてたんです」
「き、気づかなかった……。こーくんってかくれんぼが上手なんだね」
「はい。今もこうしてドアからこっそり逃げようとしていますし」
「ぎくっ」
心愛が気づいた頃には、もうドアノブに手をかける寸前だった。
「あなたのかくれんぼは、いつもワンパターンなんですよ」
「ご、ごめんなさい」
「とりあえず、こっちに来てくれませんか ? 」
「うす……」
恐る恐る、音もなく心愛の隣に座る。
そして、テーブルの上には光良の作った狐のパンケーキが置いてあった。ご丁寧に3等分されている。
「ち、ちーちゃん ? これは…… ? 」
「見てのとおりです」
「これからお前もこうなるぞってこと……? 」
「違います。はぁ……しょうがない人ですね」
一口分に切ったパンケーキを光良に向ける智乃。
やはり、お前もこうなるぞという意味合いにしか見えなかった。
少なくとも、ギアが下がりまくった今の光良の頭では、そうとしか考えられず……
「あ、あーん……です……」
時間が止まった気がした。
「 ? ? ? ? ? ? ? ? 」
「こーくんが動かなくなっちゃった……」
「5秒くらい鼻をつまめば帰ってきますよ」
言われ通りにやったら本当に5秒で帰って来た。
復活した光良は、瞬時にゆでダコを思わせるくらい顔を真っ赤にする。
「ち、ちち、ちーちゃん !? どうしたのこんな事して !? 」
「いえ……怒ってると思われてるのが不服だったので」
「お、怒ってないの…… ? 」
「店を出る頃には収まってましたよ」
「そ、そっか……。ごめん、避けるような真似をして……」
「いいですよ。私も紛らわしい事をしたので。それより早く食べてください。腕が疲れます」
言われた光良は、智乃の腕をそっと心愛の方にずらした。
「コウさんは、怒っている私が好きなんですね」
「ごめんなさい ! いただきます ! 」
やけと言わんばかりにパンケーキへとかぶりつく。
フォークまで噛みちぎりそうな勢いだ。
「……もう、なんで泣いてるんですか」
「安心したら、涙が出てきた……」
ポロポロと、子供みたいに光良は泣いていた。
定期的に泣くので見慣れてはいるが、今日の光良は何というか……可愛かった。
「チノちゃん、私も ! 私にもあーんってして !!! 」
「今いいところなので待っていてください。あと九時間くらい」
「寝てる時間 ! ! ! 」
悔し泣きで姉も泣き出してしまい、智乃は年上の弟妹の世話に走った。
本当にどうしようもない人たちだ。