オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
カランカランとラビットハウスのドアベルが鳴る。
「光良せんぱい……いますか……」
客人はシャロだった。見たところかなりヘロヘロだ。
「ちょっと指名入ったから行ってくるよ。しばらく店をお願い」
「はーい ! おねーちゃんに任せなさい ! 」
「そういうお店じゃないのですが……」
ヘロヘロになったチノを介抱するここあ。
それを背に、光良はシャロにメニュー表を渡した。
「ご注文の光良せんぱいだよ。はい、サービスのコーヒー」
「ありがとうございます……。すいません、営業中に……」
「大丈夫。この時間はあんまりお客さん来ないから」
ズズズ……と、コーヒーを一口含んだシャロ。
そのまま一息ついて、沈んでいた顔がわずかに明るくなった。
「それで、どうしたの ? 俺に用って事は家で何かあった ? また冷蔵庫が壊れたとか」
「そうではなくて……この間、光良せんぱいが同い年って分かったじゃないですか……」
「そうだね。いやー、俺もビックリ」
悩みのタネはなんてことの無い勘違い。
しかし、シャロからすると気落ちするほどの物だったらしい。
「わたし……光良せんぱいに憧れていたんです……。年上で、爽々としていて、何でも出来て……でも、すぐ泣くし、意外と情けないし、頼りないし……けど、何でか頼っちゃう不思議な人で……。それで、これが年の功かーって……」
「一応確認だけど、褒めてるんだよね ? 」
「自分でもわかりません……」
「重症だ……」
気のせいか、シャロの目がグルグルしている気がした。
これは波乱の予感。
「でも、それもこれも、全部光良せんぱいが年上だからで、年上の茶目っ気みたいなものだと思っていて……だからこその憧れで……」
「それが同い年だったから、根底が崩れて混乱してるって感じ ? 」
「たぶん……。わたしは、今までなにを見ていたのでしょうか……? なにか、夢から覚めたのに、その夢は確かに現実で、写真やメール、光良せんぱいと買った物がここにあって、夢なのに夢じゃなくて、もう訳わからなくて──」
「雲行きが怪しくなって来たな」
怪奇現象に精神を病んだ人みたいな反応を前に、光良も居た堪れなくなって来た。
「ごめんね」
「な、なんで光良せんぱいが謝るんですか」
「いや、シャロちゃんが勘違いしてる事、ずっと前から知ってたから」
「……はい ? 」
「なんなら放置してた理由も面白かったからだし」
「はい ? 」
「まさかここまで大事になるとは思わなくて。ほんとにごめん」
瞬間、シャロの中で何かが弾けた。
◇
リゼがラビットハウスに出勤すると、学校の後輩がバイトの同僚にパイルドライバーを仕掛けていた。
最近、出勤すると何かしらのアクシデントが店で起こっている気がする。
「あー……光良 ? 今度は何したんだ ? 」
「話すと長くなるから、このメモを読んで欲しい」
光良から受け取ったメモに目を通す。
「お前……これを茶化すのはダメだろ……」
「だから謝意しかないんけど、あえて言い訳をさせて欲しい」
「一応聞いてやる」
「シャロちゃんの中で、俺がそんなビッグな存在になっているとは思わなかった」
「おまっ……いや、まぁ……光良ならそう思うか……」
学校だと会えばだいたい光良の愚痴を聞いていたリゼとは違い、光良から見たシャロは友達の一人。
なので今はグッと堪えた。
「お前、結構シャロの世話を焼いていたんだが……自覚あるか ? 」
「世話……? 普通に遊んでただけなのに ? 」
「よく聞く話だと、一緒に食器を買いに行ったとか」
「いや……皆するだろ……」
「すごい嬉しかったらしいぞ。他に変えが利かないくらいには」
「へぇ……そうなんだ……」
シャロのコブラツイストを噛み締めながら、光良は己の罪深さを知る。想像以上に罪は重そうだ。
「ところで……そのプロレスはいつまで続くんだ ? 」
「シャロちゃんが満足するまで ? 」
「そもそもなんでシャロはプロレスを……なんか、顔赤くないか ? 」
「あぁ、今酔ってるから」
「酒を飲ませたのか !?!? 」
「いや、コーヒー。シャロちゃん、カフェインで酔うからさ」
耳元から聞こえる「びえ〜」というよく分からない鳴き声を聞きながら、光良はなんとかシャロの猛攻に耐える。
ちょっとカフェインを入れすぎたかもしれない。
「なんでそんな事を……」
「いや、ここに来た時はほんとに沈んでてさ。気を持ち直せるならと。それにほら、やっぱ話聞くなら酔わせた方が良いじゃん ? 居酒屋の醍醐味っていうか」
「うちは喫茶店だろ」
「まあまあ、ちっちゃい事はコーヒーにでも溶かしてもろて。それより、これどうにかできない ? 」
的確なリゼのツッコミを噛み締めつつ、フェイスハガーになったシャロを引き剥がせないかと試みる。
「首、大丈夫なのか ? 」
「平気。それよりも前が見えないのが難点。ここはどこ……? シャロちゃんって良い匂いするね……」
「割と余裕そうだし、一日それで働いてみたらどうだ ? 反省も込めて」
「流石にキツイよ。はっはっは。冗談はさておき、リゼのパワーで引き離して欲しいんだけど──………リゼ ? 何か言ってくれる ? あれ、そこにいるよね ? おーい」
さっきまでリゼの声がした方に向かって手を伸ばしてみるが、当たり判定はなく。
ラビットハウスにいるはずなのに、一人になったみたいだった。
「誰かたすけて……! 」
「光良、声をおさえてくれ」
「店にテロリストでも来たの ? 」
「シャロが寝た」
「はい……? 」
声を抑えて耳を澄ますと、頭の上から規則正しい寝息が聞こえて来た。
心地がいいのか、かなり深い眠りに入っているご様子。
「リゼ……たすけて……」
「いや、アタシに言われても……。光良ごと担いで二階に運ぶか ? 」
「シャロちゃんが危ないから却下で」
何かいい案はないかと、光良は捻れない頭を捻る。
「あっ、そうだ。ここあー ? 今どこにいるー ? 」
「後ろにいるよ。どうしたの ? 」
「ちょっと千夜に連絡してくれないか ? 」
「任せて ! 」
そうして、あっという間に千夜が来た。
やはり持つべきものは友達兼おねーちゃん。
「こんにちは〜。今日もラビットハウスは賑やかね〜。あら ? 見ない顔だわ」
「見ない顔っていうか、顔が見えないっていうか」
「うふふ、冗談よ。シャロちゃんの家まで引っ張っていけば良いのね ? 」
「流石千夜。以心伝心で助かるよ」
「一度は結婚を視野に入れた仲ですもの。当然よ」
「あれは刹那の恋じゃった」
「元気そうで良かったわ。あと、これ。うちにあった獅子舞」
「おぉ、これでシャロちゃんの尊厳が守られるぜ」
大きめの獅子舞が光良とシャロを包みこんだ。
端から見れば妖怪だけど、顔に女の子を貼り付けた男の方が妖怪として怖いので、ノーカンである。
「それじゃあ、しゅっぱ〜つ」
「宇治松大芸団のお通りだ〜」
こうして、シャロを貼り付けた光良は獅子舞となり街を駆けた。
しばらくの間、街には和服の少女とデカい獅子舞の噂が広まったという。
いつか伝承になりそうだ。
──
「たっだいま〜。千夜から土産のオハギを貰ってきたよ ! 」
意気揚々と店のドアを開けると、グラビティを感じる空気が店に漂っていた。
これは、間違いない。
智乃が鬼嫁になっている。
「すぅ……はぁ〜……して、家族会議の議題は…… ? 」
「千夜さんとの結婚を視野に入れていたとは、どういう事ですか ? 」
「なんかちょっと改変されてるな。そういう時期があったってだけだよ」
「いつからですか。どのくらいですか。どこまで進んだんですか」
ジリ……ジリ……と、ノートを片手ににじり寄ってくる智乃。
顔に影をつくり、心なしかハイライトが薄くなっている気がした。
「最近のちーちゃん、なんか恋バナに積極的だね。学校で恋愛モノの劇でもやるの ? 」
「言いたいことはそれだけですか ? 」
にじり寄った智乃に捕まり、光良は2階へと連れて行かれた。