オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
朝にしては忙しないドタドタした足音で、心愛は一階に下りて来た。
「ち、チノちゃん ! こーくんってどこにいるかな !? 」
「露店の出店で、今は駅の方にいますよ。コウさんがどうしたんですか ? 」
「おねーちゃんが来る ! 」
「はい ? 」
「おねーちゃんが来るの ! 」
壊れた機会のように「こーくん」と「おねーちゃんが来る」を繰り返し鳴く心愛。
「おねーちゃんが来るとして、コウさんにどうしろと……」
「なんか、こう……私が頼りがいのあるおねーちゃんってところを見せられるように、一緒に作戦を考えたくて……! 」
「その言葉が出てくる時点で、もう作戦を立てるのは無理ですよ」
「そこをなんとか…… ! 」
心愛がお姉ちゃんに憧れていた事を今になって思い出す智乃。
ありのままの自分を受け入れろとしか言えなかった。
「リゼちゃんも何かないかな !? わたしの頼れるところ ! 」
「心愛の頼れるところ……明るくて、ドジで、茶目っ気のあるところ……とか ? 」
「そ、それって、おねーちゃんに見える……?」
「いや、全然」
「うわーん !!! 」
この世の終わりと言わんばかりに、心愛は膝から崩れ落ちた。
「というか、なんで心愛はお姉さんにおねーちゃんな所を見せたいんだ ? 」
「妹扱いされちゃうから……」
「いや、妹だろ……」
「そうだけどそうじゃなくて ! 」
「見栄を張りたいって事ですか ? 」
「そう、それ ! 」
「それで良いのか…… ? 」
姉に頑張っているところを見せたい的な物 だと各々で察し、なんとか力になれないかと智乃とリゼは考えてみる。
「じゃあ、トラブルを起こして、それを心愛さんが解決する感じで……」
「と、トラブルって…… ? 」
「プロパンガスの大爆発とか……」
「み、皆が危ないからダメ…… ! 」
「姉でも無理だろ、それは……」
一同は今朝の新聞に載るラビットハウスを幻視した。
「あとは……お客さんまで全部ヤラセで演技するとか」
「それだ…… ! 千夜ちゃんとシャロちゃんを呼ぼう ! あと、メグちゃんにマヤちゃんも ! 」
「そうと決まれば演技の練習だな。お姉さんはいつ来るんだ ? 」
「えっとね──」
心愛が携帯を取り出すと同時、カランカランと店のベルが鳴った。
「いらっしゃいま……せ……」
出迎えようとした智乃は言葉を失う。
そこには、フランパンみたいな笛をピロピロ吹く心愛似の女性と、サンドイッチを両手で貪る光良がいた。
◇
「お、おねーちゃん ? 」
想像の5倍は早く、心愛の下に姉が来訪した。
しかし、姉を見るはずの目は、姉本人ではなくその手にある笛を見ていた。
「それ、なに…… ? 」
「フランスパンリコーダー」
「フランスパンリコーダー ? ? ? 」
名前を聞いても訳がわからない。
見栄などすっとび、心愛の頭の中はハテナでいっぱいになった。
「なにそれ……」
「あら ? 店で作ったフエラムネみたいなフランスパンって、コーくんが言ってたんだけど」
「コウさん……また店名義で変な物を売りましたね……」
「変な物とは失礼な。フエラムネをでっかくしてパンにしただけだぞ。デカさは強さ ! 故に王道商品」
「誰が買うんですか……」
「1本800円で500本焼いて完売したぞ。はい、帳簿」
「うちのコーヒーより売れてる……」
売上表を受け取った智乃は複雑な気持ちになった。
「それより ! なんでこーくんがおねーちゃんと一緒にいるの !? 」
「いや、完売して『今日からパン屋でもやろうかな〜』とか調子に乗ってたら、モカに決闘を持ちかけられて──えっ、待って、モカって年上だったの ? モカ先輩じゃん」
「成人済みよ〜」
「まっ ! ? リゼ ! リゼ ! ちょっとモカさんに甘やかされて ! 」
「変な願望をアタシに向けるな ! 」
「そうカッカしないの。よしよ〜し」
「あ、ちょ、撫でるな……撫でないでください…… ! 」
「うぉ〜 !!! すげー !!! リゼが年下みたいだー ! ! ! ! ! 」
真性の姉に逆らえないリゼを前に、光良は目を輝かせる。
数秒後、光良の頭にたんこぶが出来た。
「じゃなくて ! 決闘ってなに !? 」
「なにって言われても、決闘は決闘で。こんな遊びのパンをパンとは認めないーって、モカさんが」
「年甲斐もなく、パン屋の血が騒いじゃった」
「ちなみに今も決闘中」
「どうかな〜 ? 本物のパンの味は ? 」
「パン屋のパンとしか。モカさんの方はどう ? 俺のフランスパンリコーダー」
「音が出る以外、普通のフランスパン」
お互いにモッモッモッとパンに夢中になるが、勝敗は付きそうになかった。
「1回戦は引き分けだね。2回戦 ! 保登屋スペシャルアンパン ! ふっふっふ、コーくんにフランスパン以外の手札はないでしょ ? 」
「甘いぜモカ姉 ! トラップカードオープン、こだわりバターの潤滑油 ! 」
「これは ? 」
「ほら、リコーダーってつなぎ目に油指すじゃないですか ? 組み立て易くするための。あれです」
「あ〜 ! あったあった ! 懐かしい〜」
「ちなみにフランスパンリコーダーもバラせますよ」
「そうなの !? 」
カポッとバラしたフランスパンのつなぎ目に、バターを塗って齧り付く。
懐かしさと面白さに顔を綻ばせるモカの隣で、光良は和やかに微笑んだ。
「惹かれましたね ? 俺のパンに」
「あっ。待って ! 今の無し ! 番外戦術はノーカン ! 」
「パンにバターを塗るのが番外戦術なら、朝食からパンとバターは消えちゃいますね〜」
「も〜 ! ! ! 」
「オーヒョッヒョッヒョ〜 ! 」
ポカポカ殴ってくるモカのパンチを受けながら、光良はフランスパンをピロピロ鳴らして煽り散らかした。
そんな光景を、場外から見せつけられるラビットハウス原産組。
「なんか、普通にココアさんの姉ですね」
「言うほど慌てなくて良かったんじゃないか ? 」
「……ちがう」
「心愛…… ? 」
拳を握りしめ、プルプルと身体を震えさせる心愛。
「おねーちゃんは、誰かに揶揄われたりなんかしない…… !!! 」
光良に弄ばれる姉を見て、心愛は解釈違いを起こしていた。
◇
話がややこしくなるため、光良にはパンの追加販売という名目で店を出ていって貰い、ラビットハウス組で心愛とモカの面談を始めた。
「あはは、ココアに会える〜って思ったら昂ぶっちゃって。ごめんね ? 」
「むぅ……おねーちゃんが遊ばれてると、なんだか悔しくなるよ……」
「そうだったんだ……ごめんなさい。コーくんから、ココアはよくやってるって聞いたから。肩の荷が降りちゃって」
「こーくんが…… ? 」
光良の事だ。社交辞令で話をしたのはなんとなく分かる。
が、それでも何を話したのかなんとなく気になった。
「コーくん、言ってたよ ? 『ここあと一緒にいると楽しくて、いつも元気を貰える』って」
「……そっか」
「あら ? 浮かない顔してる。ウソじゃないよ ? 」
「ううん、そうじゃなくて。私、いつもお皿を割っちゃったり、たまにメニューを作り間違えたりしてるから」
「うんうん、それで ? 」
「それでね、こーくんはいつも助けてくれるんだ。メニューを覚えるのも付きっきりになってくれたり、教科書まで作ってくれたりして。お皿を割った時は、ケガしてないかーって真っすぐに心配してくれる」
「コーくんの過大評価ってこと ? 」
「うん……。私、結構ダメダメなんだ」
そこまで話すと、想像通りと言うようにモカは笑った。
「コーくんもね、ココアと同じことを言ってた。お皿は割るし、メニュー表はとんちんかんになるし、コーヒーをたくさん運ぶ時は周りが見えなくなるとか、色々」
「うっ……耳が痛い……」
「けど、そういうところも全部面白くて、『こんなおねーちゃんがいたらなぁ……』 って、物欲しそうな目をしてたの」
「こーくんが…… ? 」
「うん、コーくんが」
パン決闘の合間に随分と真面目な話をしていたもんだと、外野のリゼと智乃は場違いな事を考えてしまう。
「そこまで分かったら、心配事なんてもう全部吹っ飛んじゃった。だから、目いっぱいこの街を楽しんでたの」
「そ、そうだったんだ……」
光良がそこまで自分を見てくれていた事に、心愛は少し照れくさくなってしまう。
「顔、ニヤけてるよ ? 」
「えへへ……なんか、久々に人に甘えられた気がして」
「コーくんも結構ドジっ子なんだね」
「そうじゃないけど、なんだか……私がついてなきゃって時が多くて」
「うふふ、理想の弟なんだね」
「うん ! あっ、取っちゃダメだよ ? 」
「どうしようかな〜。連絡先も交換しちゃったし」
「おねーちゃん ! ! ! 」
思わずテーブルから身を乗り出してしまう心愛。
勢いのあまりコーヒーが零れそうだ。
「こーくんは私の弟だよ ! 」
「心愛の弟ってことは、おねーちゃんの弟でもあるわね」
「うっ……。じゃ、じゃあ……! こーくんに選んで貰おうよ ! 」
「良いよ〜」
仁義なき弟争奪戦が幕を明けたのだった。
◇
グラビティを感じ店に入るのを躊躇っていた光良だが、意を決して店のドアを明けた。
「こーくん ! ! ! 」
「はい」
「私とおねーちゃん、どっちの弟になりたい ! ? 」
「えっ、なに ? 輪廻転生の話 ? 」
主語がなさ過ぎて、光良も素で混乱してしまった。
どっちを選んでも殺されることになるわけだが、選ぶしかないのだろうか。
余談だが、光良は八百万の神教である。あと昆虫パティシエ教。
「おねーちゃんがこーくんを取ろうとしてるの ! 」
「人聞き悪いな〜。おねーちゃんはコーくんの意思を尊重するよ」
「えーっと……弟が婿の隠語とかじゃなくて、シンプル姉にするならどっちかみたいな話 ? それでバトルしてたとか」
「そうだよ ! 」
大方話の趣旨が見えて来たため、光良は真面目に考えてみる。
「ど、ち、ら、に、し、よ、う、か、な──」
「こーくん ! ! ! 」
「うそうそ ! 冗談だから ! 振り上げた腕を下ろして……」
話題の割に真面目に議論していたらしい。
甘く見ていた光良は、真面目な顔で怒られた。
「うーん……とはいっても、今は二人から姉味を感じないしなー。子供みたいだ」
「「えっ」」
「たった今から俺が二人のおにーちゃんね。よしよーし、可愛い妹たちよ〜」
面白そうなので、どちらも選ばず話をそらした。
「めっちゃ顔赤いやん。やらかしたか ? 」
照れているのか怒っているのかは分からないが、二人はすごいコンビネーションでラッシュを披露した。
確かに心愛はモカの妹だし、モカは心愛の姉だった。