オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
なぜか久しぶりと思えるラビットハウスの定休日に、フランスパンをピロピロさせたメグとマヤがやって来た。
民族の移動みたいだ。
「待って。昨日売ったやつを一晩吹いてたの ? 」
「違うよ。これは買い置きしたやつをさっき開けたの」
「良かった。ラビットハウスが食中毒でニュースになる未来はなかったんだ」
「コンたろーは大げさだな〜」
カラカラとマヤは笑うが、割と本気で危惧していた光良には冷や汗が伝っていた。
「それで、今日はどうしたの ? 」
「これの作り方おしえて ! 」
「企業秘密〜」
「ちぇー、ケチンボ。メグも知りたがってるのに」
「お願いします……おにーさん……」
「良い子を盾にしても駄目です」
売れる事がわかった以上、おいそれと教えるわけにはいかない。
なにより、家庭でフランスパンを焼くのは物理的に難しすぎる。
全国のマダムを困らせるのはご法度だ。
「そもそも、なんでこんなキテレツパンを作りたいんだ ? ぶっちゃけフエラムネをパンにしただけで、大した物じゃないぞ ? 」
「学校ですごい流行ってるんです〜」
「昨日の今日で……? 」
「そうそう。『狐のおにーさん屋がまた変なもの売ってる』って、放課後には学校中で持ちきりだった」
「なにその怪しげな店名……」
知らない間に謎の顧客人気を勝ち取っていたらしい。
身に覚えがなさ過ぎて、光良は少し怖くなった。
「てか、結局これを作る理由にはならないだろ。はい、解散解散」
「なんか今日のコンたろー、そっけないな。風邪引いてるのか ? 」
「俺は儲け話にガメついんでな。あと、やるならパクリじゃなくてパロディーにしておけ」
「何が違うんだ ? 」
「パクリは楽のために元ネタをそのまま使うこと。パロディは敬意を払いつつも自分の楽しい気持ちを混ぜる事」
「私達、楽しそうだからこれを作りたいんだけどなー。ダメか ? 」
「それなら良いけど──まあ、まずはカバンから覗いてる『調理実習・創作料理』のプリントを隠してからだな」
「「あっ」」
しまった……と、言わんばかりにそそくさとカバンを隠すマヤ。
狐への道はまだまだ遠そうだ。
「珍しいね。二人がそこまで見栄を張ろうとするなんて」
「見栄って言うか、何にも案が出なくてさ。猫のパンケーキとか考えたんだけど、恥ずかしくて」
「それで、おにーさんに相談しようと思ったんですけど……」
「確かに、自分のアイデアを発表するのってむず痒いしな」
「ごめんな、コンたろー」
「やっぱり私達、自分で考えます ! 」
事情を聞いていただけだったのだが、どうやら自分たちで再起までしてしまったらしい。
最近の女子中学生というのは、随分とたくましく育てられているらしい。
「せっかくうちに来たんだし、色々作ってみたら ? 俺も考えるの手伝うよ」
「ほんと !? 」
「やった〜 ! 」
「たぶん、ちーちゃんも悩んでるだろうし。ここあにも相談してみるか」
そうして、光良とチマメ隊のマメの部分による創作料理プロジェクトが始動した。
◇
なにか話が紆余曲折し、パン作り会が開幕してしまった。
「いや結局パンなんかい」
「なんかもう頭がパンから離れなくてさー」
「実習って発酵とかオッケーなのか ? 」
「使っていい発酵食品の一覧があるんです〜」
「今の調理実習ってそんなガチるのか……」
パン作りに燃える心愛を言葉を右から左に流しながら、光良は学校のプリントに目を通す。
「みんな ! パン作りは命がけだよ ! 」
「心愛が歴戦の教官みたいに見える…… ! 」
「言葉にはサーを付けて !!! 」
「サー ! イェッサー ! 」
めちゃくちゃ楽しそうなノリで進んでいるので混ざりたい一心だが、光良は副監督役になったので見守る事しか出来ない。
「コーラ先輩、混ざらないんですか ? 」
「今日は教師役なので。教える側が遊んでちゃ示しが付かないでしょ ? 」
「変に真面目ですね……」
「唯一の取り柄なので〜」
厨房の広さ故に、マヤとメグが少し離れたところに配置されてしまった。
だからこそ光良が配置されたわけだが。あと、ここからだと智乃がよく見える。
「こ、こうぼ菌って、爆発したりしないんですか…… ? 」
「うふふ、チノちゃん可愛い〜」
「こ、子供扱いしないでください……! 」
「子供扱いはしてないわよ〜。シャロちゃんも怖がってるし」
「こ、怖がってなんかないわよ…… ! 」
「そこ ! 作業に集中 ! 」
「「「さ、さー ! 」」」
鬼化した心愛のせいか、遠目から見ると怪しい団体に見えた。
「へー、心愛が使ってる何とか菌、プリントのパン作りのところに推奨品として載ってるやつだ」
「すご〜い。プロの人なんですねー、ココアさんって」
「パン屋ってすごいんだなー」
第2班なので第1班の光景を他人事として見ていた。
「創作料理って言うから、何か独創性を求められているのかと思ったけど、自分で考えたならハンバーグ定食とかでもよかったのか ? 」
「えー、でも、せっかくなら面白いもの作りたいよ。虫とか電車とかロボットとか。あと、なんか……カバンみたいなやつ」
「あ〜、バケットブレッドか。中に何か詰めなきゃだけど、どうする ? 」
「それって、 アップルパイとかでも良いんですか〜?」
「クッキーでもなんでも良いよ。餃子とかでも大丈夫」
「あっ ! なら、この間のカブトムシクッキーいれたい ! 」
「ええやん」
一体どれだけ作っていたのかは分からないが、マヤが楽しそうなので野暮なことは言わないでおいた。
「そうだ。前に千夜からもらった白餡があったな。あれでお花も作ろう」
「お〜、女の私よりオシャレだ」
「教えるよ」
「ほんと !? 」
「ほら、メグちゃんも」
「は、はい ! 」
膝を屈んで目線の高さを合わせ、三人仲良く白あんを揉んだ。
なんだか、過去一穏やかな時間を過ごしている気がする。
背後から『ここで負けたら武士の恥 ! 』とか、『こうぼ菌でオーブンがショートして爆発』とか、なにか物騒な物言いが聞こえるが……賑やかなのも良い事だ。
「そういえば、アップルパイって作れるの ? 」
「前の調理実習で習ったよ ! 」
「それに、時間がかかりそうなら既製品でも大丈夫なんですー。一部だけですけど」
「意識高いな……。みんなの学校って、プロシェフの養成校かなにかなの ? 」
「女性たるものこれくらいは〜とか何とか、先生はよく言ってる」
「気合入ってるんだね……」
お高いホテルの使用人学校でしか聞かない厳しさに、光良は打ちひしがれる。
ただの普通科高校でぬくぬく生きてる自分が恥ずかしく思えて来た。
「申し訳ないからメロンをおまけで乗せておくよ……」
「おぉ、よく分かんないけどありがとー」
「これで完成だね〜」
目の前には、パンで出来たカゴに入ったカットメロンと兎のリンゴ、周りにはカブトムシのクッキー。
「なんだか、夏の青春を感じるな。小学生の頃を思い出す」
「ばあちゃんちの山みたい」
「私は新鮮で好きだな〜」
生粋の女子はメグしかいないようだ。
「みんなの方も出来たっぽいな」
「ほんとだ。みんな〜! 見てこれ ! ばあちゃんちの山 ! 」
「改めて聞くとすごい紹介文」
クワガタケーキの親戚みたいなパンをその道の専門家に見せて良いのか一瞬迷ったが、当の心愛は『負けた……! ! !』と膝をついていたので、光良は気にしない事にした。