オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
珍しくフリーな時間を手に入れたとかで、光良は朝一で家を出ていった。
光良がいないラビットハウス。思いのほか馴染めるものだと心愛は感心する。
「コンたろー ! 実習で先生がめっちゃ褒めてくれたー ! ! ! ……って、あれ ? 」
「マヤちゃん、もう少し優しくドアを開けないとだよー。こ、こにちはー」
兄貴の自室に飛び込むようなノリで、マヤはラビットハウスに入店して来た。
「いらっしゃいませ。まだ開店してませんけども……」
「ごめんごめん。興奮しててつい。それより、コンたろーって今日は休み ? 」
「はい。隣町に行くと言っていたので、帰るのは夕方頃だと思います」
「そっか。なら、今日はゆっくり出来そう」
「も〜、それだとおにーさんが落ち着きがない人みたいに聞こえるよ〜 ? 」
「コンたろーって私と同類だからな〜」
反応に困る返事にチノは苦笑いしか返せなかった。
光良が子供な事には同感だが。
「あっ ! せっかくだし恋バナしよ ! 恋バナ ! 」
「こ、恋バナ……って、誰の恋を話すんですか ? 」
「チノとか ? 誰かいないの ? 好きな人ー」
「わ、わたしは別に……」
「えー、じゃあ、ココアは ? 」
「私もいないかな〜」
「リゼは ? 」
「な、ない……生まれてからずっと……」
「そっか〜。じゃあ、メグだけだな〜」
「へっ ! ? 」
唐突に初恋を暴露され顔が赤くなるメグ。ぼのぼの汗が止まらなかった。
「なあなあ、コンたろーのどこが好きなんだ ? やっぱ一緒にいて楽しいところ ? 」
「そ、そんな急に言われても〜 ! 」
「私にも聞かせてください。コウさんと何があって今の関係になったのか」
「か、関係なんて……まだ付き合ってないのに〜……」
ノートを広げるチノを気にも止めず、メグはひたすらに顔を赤くしていた。
「でも、そうだなー。今思うと、きっかけは一目惚れだったのかも」
「一目惚れ……そんな素振りはありませんでしたけど」
「最初は『ちょっとカッコいい人だな〜』ってくらいの気持ちだったからね〜。でも、それから仲良くなっていく内に、なんとなーく好きになっていって」
「店に通い詰めるほどにですか ? 」
「えへへ〜、おにーさんの顔を見てないと落ち着かなくなっちゃって〜」
「なんか、アニキの漫画で見た危ない薬みたいだな〜」
「ひ、ひどいよ〜」
「ごめんごめん」
ケラケラ笑うマヤと、マヤをポカポカ叩くメグ。なんともほのぼのした光景だった。
それに比べて、チノのノートは物騒な情報でいっぱいだ。
シャロとの浮気、千夜との逢引、ココアとの姉弟プレイ、極めつけのクスリの三文字。
「それで、結局の決め手は何だったんですか ? 」
「なんだろね〜 ? やっぱり、マヤちゃんが言ったみたいに、一緒にいると楽しいからなのかな〜 ? 」
「なら、私もコンたろーに恋してるのか ? 」
「どうなんだろうね〜 ? おにーさんといてドキドキする〜 ? 」
「一緒にデッカいチョウチョを捕まえた時とかにする ! 」
「恋だ〜 ! 」
「メグさん違います。それは少年のワンパク精神です」
危うく恋の基準がおかしくなるところだった。
「えー、なら……一緒にデッカいキャンディーを作った時に、それがこっちに倒れて来て、コンたろーが庇ってくれた時とか。これは恋だろ。めっちゃドキドキしたぞ ? 」
「吊り橋効果では ? 」
「 いや、でも、ムカデのキャンディーがグアーッ ! って来て、コンたろーが私の肩をギュッてして……めっちゃドキドキしたんだぞ ? 」
「生存本能の類かと」
「恋って難しいんだな~」
「ちなみにそのキャンディって、どれくらいのサイズなんですか ? 」
「チマメ隊が縦に並んだくらい ? 」
「おっきいね〜」
「写真あるよ ! 」
マヤの携帯には、大層リアルなムカデが写っていた。
飴の前でツーショットをしている光良達が小さく見える、そんな遠近法を克服したキャンディー。
「そういえば、一緒にこれ食べてる時もドキドキしたよ ! 」
「それは絶対恋だ〜 ! 」
「良いんですかメグさん。競争相手になるかもしれないんですよ」
「大丈夫〜。略奪愛も嗜んでるから〜。チノちゃんも遠慮しなくて良いからね〜」
何も大丈夫ではない嗜みのせいで、光良を好き認定されている事に智乃は突っ込めなかった。
「やっぱり、チノもコンたろーが好きなんじゃん」
「べ、別に、好きとかじゃ……」
「それに、学校だとよくコンたろーの弁当がーとか、頭撫でてきて子供扱いがーとか、よくコンたろーのこと話してくるし。グチ風ノロケ ? って言うんだろ、こういうの」
「ラブラブだよね〜。けど、あんまりつっけんどんな態度だと、おにーさんが可哀想だよ〜 ? 」
「それは……まぁ、分かってますけど」
素直になれない自覚はありつつも、やはり光良の前だと智乃はツンツンしてしまう。
思い返していたら、今日くらいは光良に優しくしても良いような気がして来た。
「ただいま〜」
「あれ、こーくん ? まだお昼だよ ? 」
「千夜から急なヘルプの連絡が来てさ。ちょっくら捌いてそのまま帰って来た。みんなは何してたの ? あっちでちーちゃん達がしてるのは何の会議 ? 」
「恋バナだぞ。光良の彼女候補の選定」
「お見合いでもさせられるのか…… ? 」
少し身構えた光良の前に、マヤが軽い足取りで走ってくる。
「なーなー、コンたろー ! 私、コンたろーのこと好きかもしれない ! 友達じゃなくて恋の方で ! 」
「おー、それは良かったな〜。なら、マヤっちにはこれを進呈しよう」
「これなに ? スーパーで売ってる指輪の飴 ? 」
「スーパーで売ってる指輪の飴に偽装した小豆バー。硬さはダイヤモンド再現」
「お〜 ! 指輪って薬指にはめるんだよな ! 」
「ちょい待ち、俺が付けたる」
「お姫様みたいだな〜」
片膝をついて、いかにもな雰囲気でマヤに指輪をはめる光良。
気づいたらマヤの隣にメグがいた。忍を感じる。
「はい、メグちゃんも。狐だからドレスじゃなくて白無垢になっちゃうかもだけど」
「は、はは、はい……! わ、わたしはどっちでも、だいじょーぶです…… ! 」
「そう ? 前にドラマのウエディングシールに見入ってたから。良かったよ」
「も、も〜、いつの話をしてるんですか〜。ずっと前の事なのに……えへ、えへへへ……」
アイスより先に溶けてそうなメグの顔。
喜んで貰えたようで何よりだと、光良はアイスを齧るマヤ達にほっこりした。
ハムスターみたいだ。
「フッ……やはり時代は小豆……ちーちゃん ! 小豆でコーヒー作ろうぜ ! ラビットハウス爆盛新商品タイムだ ! 」
キラキラした目で稼ぎの匂いを語る光良だが、とうの智乃はユラユラとこちらに向かって歩くのみ。
なんだか、テンションが低い。
いや、違う……大きすぎて気づかなかったが──これは、グラビティ。
「な、なんて強い重力なんだ…… ! もはや、ブラックホールの領域…… ! リゼ、これは一体 ! ? 」
「残当、だな」
「お店は任せて ! 二人でやるの慣れたから ! 」
「立派なおねーちゃんを持てて俺も鼻が高いよ」
同僚2人に見送られ、光良は無言の智乃に引っ張られていく。
そして、いつも通り2階へと連れて行かれた。