オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
紅茶を一口含み、深刻な顔で光良は語る。
「ちーちゃんに、好かれ始めている……」
揺れる紅茶の水面を深刻な顔で見つめる光良に、家主のシャロは答える。
「いや、元からコーラ先輩大好きっ子では……」
なにを当たり前なことを……と、シャロは呆れた眼差しを向けた。
「違うんだシャロちゃん。ちーちゃんはあんな直に嫉妬してる態度を出したりなんかしない。思春期だし、何より俺にからかわれるから」
「良いじゃないですか。コーラ先輩もチノちゃんが好きなんですし」
「いや……ちーちゃんには一生俺にツンツンしてて欲しくて……」
「気持ち悪いことを言いますね……」
智乃と出会って間もないシャロでも、確かに智乃の変化は感じられた。
ただ、特に問題のない恋路なので、光良がなにを危惧しているのかがシャロには分からない。
「何か困るんですか ? チノちゃんがコーラ先輩にデレて」
「だって俺、当て馬役じゃん」
「初耳ですけど……」
「とりあえず ! 俺の予定では身長高くて明るい性格で、内外面がカッコいい激モテ爽やか王子様みたいな人とくっついて貰う予定で ! 」
「なんですかその無理難題の煮凝りみたいな条件……」
やたら切羽詰まったような顔を見せる光良に、シャロは一層疑問を抱く。
あんなに好き好き智乃に言っていたのに、なぜそこまで焦っているのか。
「そもそも、なんで今更そんな危機感を ? モテたくないなら最初から鬼嫁とか言わなければ良かったじゃないですか」
「好かれたくないんじゃなくて……嫌われてないけど、彼氏としてはありえない、そんな面白いだけのニーちゃんになりたかったんだよ……俺は……」
「コーラ先輩が勘違いしてるだけで、実際はそうなんじゃ ? 」
そう問いかけてみるが、光良の反応はよろしくない。
「……昨日さ、恒例のマンツーマン説教に連れて行かれたんだ」
「あぁ、半日尋問が続くというチノちゃんの」
「うん……それで、いつもみたいにクドクド説教をされると思ってたんだけどさ」
「軟禁されかけたとか」
「ううん……ずっと抱き着いて来ただけだった。一時間、ずーっと……」
「可愛いじゃないですか。そんな世界の終わりみたいな顔をしなくても」
なにがなんだかシャロにはさっぱりだ。
聞けば聞くほど、光良なら鼻の下を伸ばして喜ぶであろう事ばかり。
「話が見えてこないのですが……。付き合う前の甘酸っぱい時間だけ欲しかった、とかではないんですよね ? 」
「違う……ただ、ちーちゃんにはちゃんとした人を選んで欲しいだけで……」
「先輩がグイグイ行ってたの、そもそもフラれる前提だったからなんですね」
「端的に言えば……」
「なら、もうこっちからチノちゃんをフれば解決では」
「ちーちゃんの事は好き……。友達でも恋人でも夫婦でも何でも良いくらいには……」
「頭でも打ったんですか ? 」
支離滅裂な発言にシャロはついていけなくなった。酒入りのチョコでも食べたのだろうか。
「ほんとにどうしよう……」
「よく分からないですが、先輩がしょうがない先輩になっているのは分かりました」
理解は出来ないけど、話を聞けば鎮静化は出来そうだったので、シャロはひたすら聞き手役に徹した。
◇
10番テーブル。ラビットハウスにある中で一番薄暗い席。
その隅っこで、智乃は頭を抱えていた。
「り、リゼちゃん…… ? チノちゃんどうしたの ? 」
「わからん……。ココアも聞いてないのか…… ?」
「全然なにも聞かされてない……」
売上が悪い日でも、あそこまでは落ち込まなかったのに。
訳が分からず、気づけば二人は智乃の下に話を聞きに行っていた。
「智乃 ? 大丈夫か ? 」
「大丈夫……では、ないかもです……」
「なにかあったの…… ? 」
「いや……その……」
目線だけこちらに向けた智乃は、恥ずかしそうにポソポソ語りだした。
「コウさんに……思いっきり抱きついてしまいました……」
「……どうしてそれが悩みの種に ? 」
「恥ずかしいじゃないですか…… ! わ、私は……なぜあんな事を……」
耳まで真っ赤にした智乃の頭を心愛は撫で、リゼは智乃と同じくらい頭を悩ませる。
「いつもそんな感じだろ ? ずーっとイチャついてたし」
「し、してませんそんな事 ! 」
「前から気になってたんだけど、チノちゃんってこーくんのこと好きなの ? 」
「そんな事…… ! い、いや……別に、好きか嫌いかで言えば、まぁ……好きの部類ではありますけど……」
どんどんゴニョゴニョしていく智乃。
思い返してみると、光良と智乃は不思議な距離感だった。
仲は良いけどよく喧嘩をする。喧嘩はするけど、喧嘩ップルというわけでもない。
「一応、幼馴染なんだよな ? 光良とチノって」
「えぇ、正真正銘ふつうの幼馴染ですよ。素直で可愛い男の子と、引っ込み思案の女の子の」
「こーくんのあれ、生まれつきじゃなかったんだ」
「ある日突然嘘つきに目覚めたんですよ」
「態度が変わったのが嫌になったか、不気味に思ったかで、今の距離感になったのか ? 」
「いえ、そういうわけではないのですけど……」
いきなり煮え切らない態度になり、訳ありかのような意味深さを覗かせてくる。
ただ、嫌ってるわけではないのを見るに、そこまで複雑な話ではないのだろう。
「ま、まぁ、そこら辺は置いといて……。問題は私なんですよ…… ! もう、ほんとに……どんな顔でコウさんと会えば…… ! 」
「普通にしてれば良いじゃないか」
「それが出来れば苦労はしません…… ! 」
「重症だね……」
思い出す度に顔が赤くなる様は、どれだけ濃厚な一時を過ごしたのかが伺える。
「そんなに好きなら付き合えば良いじゃないか。応援するぞ ? 」
「難しいかもしれません……」
「な、なんで ? こーくんなら絶対OKしてくれるよ ! 」
「いや……その……ちょっと、片付けないといけない問題があって……」
──それが片付かないと、何をしてもダメ。
智乃は言外にそう語り、目をそらした。
リゼと心愛は首を傾げる。心愛はまだしも、古株のリゼですら想像がつかない。
そんな大きな問題が、ここにあるのかと。
「とりあえず、チノは光良が好きってことは確定で良いのか ? 」
「……なんか、素直に好きと認めるのも癪ですね……」
「お年頃なんだねー」
謎の対抗心を燃やす智乃。
リゼと心愛は苦笑いのまま、ぶつくさ何かを呟く智乃を眺めていた。