オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
──フルール・ド・ラパン──
『あなたの心と身体を癒します』
文言が大変いやらしいチラシを前に、一同は固まる。
「とりあえず、光良さんはお留守番ね」
「そんな……お風呂屋さんじゃなくてマッサージ屋さんかもしれないのに…… ! 」
「ここにハサミがあるわ」
「ん〜 ! 今日も張り切って営業するぞ〜 ! ! ! 」
お稲荷さんの危機を前に光良は逃げた。
千夜は深淵の目で光良を睨む。
「して、ガチでそういう店だった場合どうするの ? 」
「そのまま攫ってくるわ。たとえ傷物でも、大切な幼馴染だもの…… ! 」
「分かる……! 分かるよ…… ! 幼馴染は命に代えても守りたいよね ! ! ! 」
智乃の頭に伸びた手が、パシッと弾かれる。
「それじゃ、行ってらっしゃい。きび団子いる ? 」
「いただくわ」
千夜は決意の顔で店を出た。智乃と心愛というお供を連れて。
◇
千夜達が去ると同時、カランカランという音が店に響く。
「あれ、リゼ ? どうしたの ? 」
「客として来た。チノ達は ? 」
「葉っぱが癒してくれる店に慰安旅行中」
「なんだその危ない店は……。大丈夫なのか ? 」
「平気平気。豆を砕いた黒い粉を使ってるのと同じだから」
「茶屋って感じの店なんだな」
なんとも紛らわしい言い方だと、リゼは呆れながらコーヒーを啜る。
「この立体のラテアート、すごい飲みにくいな……」
「普通は飲む前に潰すからな」
「つ、潰す……」
可愛い狛犬と見つめ合うリゼ。
ティースプーンで狛犬の頭を狙った。
「くっ……出来ない…… ! 」
「仲良くなった敵兵を撃てないシーンだ」
静かに皿を拭きながら、光良は映画の観るようにリゼを眺める。
「なんか、光良が騒いでないと違和感がすごいな」
「店長監視の元でのハッチャケだし。そもそも、ちーちゃんの店だからねここ」
「他人事だな。お前だってこの店の一部みたいなものだろ」
「気持ちはそうだけど、書類上はね」
「給料日に『謎の金が入ってて怖い』とか智乃に泣きついてたのに」
「やめてよカッコつけてるんだから」
ご容赦願う光良の二ヘラ笑いに、リゼはただジトッと視線を返すだけに留めた。
給与の概念を忘れるほど店に入れ込んでる人に、他人事が務まるわけがない。
「光良って、なんでそんなにチノが好きなんだ ? 」
「可愛い可愛い幼馴染だぞ。好かない要素があるなら教えて欲しいくらいだ」
「そんな昔からベタ惚れする程だったのか」
「それはもう……愛くるしくて、儚いキラキラの光がいつも舞っていて……例えるなら、そう……天使。千年に一人……いや、人類史始まって以来の美少女 ! ちーちゃんの笑顔のためなら、他人の家の壺だって割るし、ちーちゃんが泣くならこの世界の苦しみを世界ごと消し去って──」
「なんでちょっと治安が悪いんだよ……」
いつものようにネタで言っているのではなく、本当に崇拝してるような素振りだった。
「とりあえず、チノちゃんにはもう何の苦しみもない一生を送って欲しいんだ」
「重いな、お前……」
「さっきも言ったけど、あんな美少女と幼馴染になれちゃったからにはもう……ね」
「何されたらそこまで惚れ込めるんだ……」
リゼに問われ、今一度過去を振り返ってみる光良。
智乃が年中に上がる頃にはお熱だった記憶が蘇って来た。
「幼稚園時代のちーちゃん、可愛かったなぁ。コロッとしてて、そのままコロッと行っちゃって」
「その年の子に恋って出来るんだな……」
「こっちも小学生か年長そこらだし」
「昔の光良ってどんな感じだったんだ ? チノが言うには、素直だったらしいけど」
「あぁ、素直でバカ正直だったとも。単純で、短絡的……いや、早とちりって言った方が良いか」
「今とは違いすぎて想像がつかないな」
「ある日突然嘘つきの才能に目覚めたんだ。それからは人生全部がエンタメみたいになった」
「ふーん……」
何かを探るような目を向けられる光良。
なんだか無い罪を自白しそうなので、話を逸らすためにハーブを出した。
「それ、なんだ ? 新メニューか ? 」
「ハーブティー。前にシャロちゃんに勧められてさ」
「シャロってハーブティーが好きなのか。初耳だな」
「一人で楽しみたい趣味らしくてさ。あんまり話さないようにしてるんだと」
「それを光良には教えたのか。ほんとに仲が良いんだな」
「まあ、俺が家に押しかけまくってたし。バラすしかなかったんだろ」
ティーポットで茶葉を蒸らしながら、シャロが初めてハーブティーの話をした時の事を思い出す。
とりあえず、執拗に他言無用を強いられていた。『コーラ先輩が信頼してる人以外に教えちゃダメ』……的な。
後でリゼにも釘を差して置かなければ。
「はい、出来た。アマサナクナルハーブ。お試しのクッキー」
「まんまだな……」
「無理言って分けて貰った時のやつだから、ずっと小入れのジップロックに入れててさ。名前分かんなくなっちゃった」
「危ない草の入れ方じゃないか」
「誰かに見られたら大変だね」
光良が語ると同時に、ドタドタと勢いの良い音が聞こえて来る。
この活きの良さは間違いなく心愛。
「こーくん ! フルール・ド・ラパン ! ハーブティーのお店だった ! ! ! 」
「おぉ、ハーブティー。大人のお店なのは合ってたな。なに頼んだの ? 」
「ダンデライオン ! 美味しかったよ !」
「そかそか。楽しめたなら何よりだ。シャロちゃんは元気にやってた ? 」
「なんか、ずっと怖い顔してたよ ! たまにこーくんの名前も呼んでた ! 」
元気の良い無邪気な心愛の横で、リゼのジト目が光良に刺さる。
「光良さん」
「はい」
気づいたら後ろに立っていた千夜に呼ばれ、光良は振り返る。
鬼の覇気を感じた。今の千夜はアヤシン侍だ。
「全部知ってたわね ? 」
「滅相もない。俺はただ、シャロちゃんを案じる千夜の心に感銘を受けて──」
「はい、お土産のダンデライオン」
「おー……ここあが飲んだというあの。効能は ? 」
「ライオンみたいに強くなれるわ」
「膀胱がマーライオンってこと ? 」
「やっぱり全部知ってたわね ? 」
「やべっ」
吹けない口笛でやり過ごそうとした光良だが、ニコニコ笑顔の千夜によりワンコダンデライオン(200杯)を開催されてしまった。