オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
『ダンデライオンに敗北したので、今日はお仕事をお休みます。誠に謝意の極み。追記:御用のある方は狐賀家一階トイレまで。または下記連絡先にて──』
そんなふざけた文言と共に、光良は仕事を休んだ。
幸いな事に本日の天気は雨。客足が見込めない日だ。
「おー……こーくん、おしっこがすごいんだ……」
「品のない事を言わないでください」
「でもほら、心配だし……」
「自業自得ですよ」
いつも通りクールな智乃。
これは幼馴染としての信頼か、それとも呆れか。
「お見舞い、行かないの ? 」
「むしろ、ココアさんはなんでそこまで心配を…… ? 」
「だって、こーくんが体調不良で休むの初めて見たから……。もしかしたら、身体の水分が全部抜けてミイラに…… ! 」
「そこまでおバカさんじゃないですよ……」
「でも、些細なことでも気にかけられるのがおねーちゃんだから ! 」
何かにスイッチが入ったらしい心愛は、燃える瞳で店を飛び出して行った。
「あの、仕事──ココアさん、大丈夫でしょうか……」
「その時はその時じゃな」
智乃の言葉は届かず、静かになった店におじいちゃんの声が響いた。
◇
あれから半日、心愛は帰って来なかった。
まさか、心愛の帰りよりリゼの出勤が先になるとは。
「さすがに遅すぎませんか…… ? 」
「光良はトイレに籠りっぱなしなんだろ ? 家の掃除でも引き受けたんじゃないか ? 」
「ココアさん一人に任せたら、逆に散らかりますよ…… ? 」
「酷い言いようだな……」
帰りが遅い理由を本気の顔で考察する智乃。
そして、一つの仮説と共に智乃に電流が走った。
「ま、まさか……くんずほぐれつしてるんじゃ……」
「流石にそれはないだろ。光良に限って」
「で、でも、この店で一番可愛いのはココアさんですし……」
「これくらいで手を出すなら、とっくの昔に付き合ってるはずだし。ないない」
着々とダッシュゲージをチャージしていく智乃。
爆発したら光速を超えそうな勢いだった。
「ちょ、ちょっと、様子を見て来ます…… ! 5分くらいで戻りますので ! 」
「行ってらっしゃい。光良によろしく言っといてくれ」
結局5秒と持たずに我慢の限界を迎え、智乃は見た事のない足の速さで光良宅へと向かった。
◇
休日に家で過ごすのはいつぶりだろうか。
そんなブラックワーカーのような思考に耽りながら、光良はサイダーで口をビリつかせる。
「ココアさん ! いつになったら帰ってくるんですか ! ! ! 」
智乃にしてはとびきり大きい声を轟かせながら、弧賀家のドアを乱雑に開ける。
「いらっしゃい。入る時はノックをして欲しいな。それかインターホン」
「そんな事より ! ココアさんはどこですか ! 」
「俺の部屋で寝てるけど」
「はい ? 」
如何わしい事への誤解ではない。
なぜそんな事をしたのか……ありえない人を見るように、智乃は眉間にシワを寄せた。
「なんでそんな事を……」
「いや、ここあが俺の部屋で気絶してたから。介抱のために」
「だから ! それを踏まえた上でなんであの部屋にかくまったのかを聞いてるんですよ ! ? あの部屋は──」
瞬間、二階から『ゔぇあああぁああぁ ! ? ! ? 』という奇妙な悲鳴が聞こえて来た。
智乃が急いで二階の部屋に向かうと、腰を抜かした心愛がガクガク震えていた。
「ココアさん ! ? 大丈夫ですか ! ? 」
「ち、チノちゃ〜〜〜ん ! ! ! ! 」
おおよそ姉とは思えない情けなさで、智乃に抱きつく心愛。
普段見せる姉の意地は抜け落ち、末っ子相応の子供っぽさが出ていた。
「こ゛わ゛か゛っ゛た゛よ゛ぉ゛〜 ! ! ! 」
「よしよし。ごめんなさい、うちのコウさんが変な趣味を持っていたばかりに」
心愛を宥めながら、智乃は今一度光良の部屋を見回す。
壁や天井に張り巡らされた人の目の写真。
床には血のような模様がいっぱいで、窓には幽霊の写真がぎっしり。
本棚やコレクションだ棚には、日本人形や不気味な西洋人形、たまに動くリアルな手の模型の数々。
一言で表すなら、世界一怖いお化け屋敷。
昔から見ている智乃でも、腰を抜かしそうになってしまう。
「あっ、おはよう。よく寝れた ? 」
「こーくん ! ! ! 何あの部屋 ! ? ! ? 」
「ほら、俺って趣味がホラーだから」
「限度があるよ ! ! ! 」
「ごめんごめん。まあ、防犯の意味も含めてこのデザインだからな。設計思想としては効果抜群」
心愛が驚いた時に落としたであろう、小説や日記、昔の教科書などを本棚に戻す。
薄暗くてよく見えないが、かなり派手に倒れた事が見て取れた。
「それにしても、なんでここあは俺の部屋に ? 無断で立ち入ったあげく、二階まで物色するなんて。なにかあったの ? 」
「その……」
「うん、聞かせて ? 」
「一階に、ゴキブリがいて……驚いた勢いで……」
心愛が言い終える前に、光良はダッシュで一階に戻って行った。
「災難でしたね」
「ほ、ほんとに、心臓が止まったかと思ったよ……」
衰弱しているんじゃないかと疑うほど、心愛はぐったりとした顔を見せる。
本当にこのまま天に召されそうだった。