オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
ダンデライオンで休んでいた光良がラビットハウスに出勤して来た。
アロハシャツにグラサン、麦帽子を被って。
「尿の出しすぎで頭でも狂ったか ? 」
「聞け、リゼよ」
「あと5分で開店だから、それまでに終わるなら良いぞ」
「昨日の午後、同級生の朝ちゃんが夏休みの宿題を届けてくれたんだ」
「はぁ、それで ? 」
「徹夜で全部終わらせた」
「だから頭がおかしいのか」
どうやらリゼから見ると、今の光良はかなり頭がイっているように見えるらしい。
だが、無敵の光良にとってそんな呆れた視線など屁でもない。
「俺は残りの夏休みを遊んで暮らせる ! ! ! 良いでしょ ! すごいでしょ ! 羨ましいでしょ ! 」
「へー、良かったなー」
「もうちょっと興味持ってくれても良いんじゃない…… ? 」
食器を棚にしまう流れ作業のまま、リゼは子供をあしらう母親のような態度で接してくる。
「ちーちゃん ! 夏休みの宿題、手伝えるよ ! 」
「とりあえずその場違いな格好を何とかしてください。店の雰囲気に合いません」
「ウクレレまで持って来たのに……」
「没収です」
身ぐるみを全て引っ剥がされ、光良はいつもの制服姿になってしまった。
なんだか皆の対応に冷たさを感じ、光良はopenの看板を出すついでに日の光で元気を溜めに行く。
「コンたろー ? 空なんか見上げてどうしたんだ ? 光合成 ? 」
「紫外線セロトニンチャージをしてるところ。3分経ったらそこのテラス席の日陰で涼むんだ」
「サボり ? 」
「今日の俺は夏色ハッピーハワイアン。サンシャインの影が似合う男なのさ」
「何するんだ ? 」
「このウクレレくん2号で店内BGMを弾いて客寄せする。店に入ればアイスラテアートが待ってる勝確演出よ」
「ウクレレくん1号は壊れたのか ? 」
「さっきちーちゃんに没収された」
心なしか泣いている気がする2号を抱きしめ、そっと愛撫する。
気づいたらマヤはいなくなっていた。
「流石にちょっとキモかったかな」
しかし、そんな事は気にせず光良はウクレレを弾いた。
夏の日差しとウクレレと木組みの街。ハワイアンでないが、何かオシャレな夏のパワーを感じる。
「〜♪ ふ~ん♪ ふー……ん……」
ウクレレの音色を聞いた瞬間、光良は寝た。徹夜が祟ったらしい。
だが、今日の光良は夏色ハッピーハワイアン。
この程度でウクレレを引く手は止まらないのだ。
──
「んっ……ほげ……?」
何か視線を感じ、光良は目覚める。
智乃にバレたかと思い、急いで視線を出どころを探った。
「おはようございます。おにーさん」
「あぁ、メグちゃん。いらっしゃい。どうしたの ? 幸せそうな顔して」
「幸せだな〜って思ったので〜」
「それは何よりだ。ところで、なんかずっとシャッター音が聞こえるんだけど、メグちゃんの携帯から鳴ってる ? 」
「あっ…… ! ごめんなさい、カメラつけたままにしてたみたいで〜」
「分かる〜。よくあるよね。俺も画面つけっぱで寝ることあるし」
なぜカメラをつけていたのか光良には分からなかったが、学校の課題か何かだろうと言う事で片付けた。
「マヤっちなら多分店にいると思うよ ? 待ち合わせでしょ ? 」
「あぁ、マヤちゃんには言ってあるので大丈夫ですよ〜」
「そっか。まぁ、あと少しやったら店に戻ろうと思ってたし、ちょっとくらいなら──」
寝てる間に落ちたであろう、カッコつけ用のピックを拾おうとして光良は固まる。
光良が寝落ちしたのは開店前。朝10時くらいの出来事だ。
なのに、足元の影の向きは、昼時を指していた。
「つ、つかぬことを聞くんだけどさ、メグちゃんってどれくらいここにいた ? 」
「ここに来たのが10時過ぎなので〜、だいたい2時間くらいですかね〜」
「そっか……ずっといたの…… ? 」
「ですね〜。でも、おにーさんが寝ながらちっちゃいギターを弾いていたので、すごく楽しかったですよ〜」
「それは良かった。ありがとう」
「いえいえ〜」
こんな小さい子に気遣わせてしまったショックに光良は沈む。
メグが良い子過ぎて涙ぐんでしまった。
「加えてで悪いんだけど、ちーちゃん……怒ってた…… ? 」
「あぁ、それなら〜、チノちゃんから伝言を預かってますよ〜」
言いながらメグが渡してきたメモには、『客寄せしたからチャラにしてあげます』と書かれていた。
「あ、あぶねー……命拾いしたぜ……」
「相変わらず、チノちゃんのお尻に敷かれてますね〜」
「お恥ずかしい限りでございます……」
いつも以上にニコニコ笑顔なメグから、光良はそっと目を逸らす。
情けなくてメグの顔が見れなかったから。話題をそらさなければ。
「そういえば、今日はなにしに ? 」
「実は、学校の宿題で『大人の見学』が出されてですね〜。憧れてる人の素敵なところとか、頑張ってるところを纏めようって。提出は夏休み明けなんですけどね〜」
「それでか。この店で大人って言うと……リゼかな ? 軍隊仕込みの礼節と、持ち前の力強さで頼れるバイトリーダーだぞ」
「私はおにーさんを書きました〜」
「俺……? 大丈夫 ? 採点で0点貰ったりしない…… ? 」
「私たちから見ると、かっこよく見えますよ〜」
今朝方ハワイアンセットを没収された小学生ボーイを褒めてくれる、メグという名の天使。
メグ達の課題は光良にこそ必要なのではないかと、ヒシヒシと感じた。
「メグちゃんは課題終わった ? 」
「はい〜。まだ夏休みの宿題が残ってますけどね〜」
「まだ夏休みが始まってないのにその心意気。なにかご褒美をあげよう」
「え〜 ? なら、おにーさんのウクレレが欲しいな〜」
「こんなので良いの ? 暇つぶしに作ったおもちゃだよ ? 」
「なおさら欲しいですね〜」
メグの背後に『欲しい』オーラが漂っていたので、快く譲り渡した。
どうせならウクレレ1号もプレゼントしようと思い至り、光良は店に戻る。
「マヤっち、学習ドリルなんて広げてどうしたの ? 」
「コンたろー……私、気づいちゃったかもしれない」
「世界の真理に辿り着いたか。して、その心は ? 」
「夏休みの宿題、今日全部終わらせれば残りの時間を遊んで暮らせる ! 」
「世紀の大発見だ…… ! 」
二人で『うぉ〜 ! 』と少年になりながら、ハイになった目で学習ドリルに鉛筆を走らせた。
厳密に言うと光良は見ていただけだが。
「そうだ、コンたろー。ウクレレの作り方おしえて ! 自由研究にするから ! 」
「うちに材料あるし、あとで寄ってく ? 」
「良いの ! ? 行く ! ……あっ、でも、良いのか ? 研究だから日にちかけなきゃだぞ…… ? 」
「マヤっちに研究の極意を教えてやろう」
「そ、それって…… ? 」
「実は不可抗力なんだよ、研究の時間って。結果が見つからないから、致し方なく時間をかけて探してるだけで」
「つまり…… ? 」
「結果が出るなら、一日で終わったとしてもそれは研究なんだ」
「おぉ……なんか、かっこいい…… ! 」
バーン ! と格言じみた様子で語る光良。
マヤはこれ以上ないほど目を輝かせていた。
「光良さん、仕事してください」
「たった今少女の家庭教師という大役を果たしたじゃないか」
「あなたの職業は ? 」
「ラビットハウスの爆イケウェイトレス」
「なら、ウェイトレスをしてください」
「はーい……」
泣く泣くマヤの教育係から離れ、光良は喫茶店のウェイトレスとしての責務を全うした。
とうのマヤは光良が離れて集中力が切れたのか、帰り支度を始めている。
「マヤさん、さっき頼まれた紅茶はどうしますか ? 」
「そのままで ! ちょっと着替え取りに行くだけだから ! 」
「どこかに泊まるんですか ? 」
「コンたろーの家 ! 」
「……はい ? 」
問いかける隙も見せぬまま、マヤは嵐のように去っていった。
「あれ、ちーちゃん ? ブルブル震えてどうしたの ? クーラー、寒すぎたかな ? 」
「コウさん……あんな幼気な子を手籠めにするなんて……」
「なにかあらぬ誤解を抱かれているな」
震える身体を見せられ、凍てつく視線で見つめられ、光良のハワイは氷河期に入った。
視線が怖すぎてダンデライオンになってしまいそう。