オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
ゴーン、ゴーンと、ラビットハウスにノスタルジックな音がお昼に響いた。
「最近、こーくんの休みが多いね。なんだかちょっと寂しいよ」
「今日は午前休だってさ。飽くなき探求スピリッツがどうとか言ってたぞ」
「そっか。風邪とかじゃなくて良かった」「本当に光良の姉みたいになって来たな」
「そ、そうかな〜 ? えへへ……」
姉弟プレイも極まれば杯の仲になるのかとリゼは感心する。
そこまで物騒なものではないけれど。
「ここあー、リゼー、おはよー」
「おっ、噂をすれば」
「おはよー、こーくん。マヤちゃんもおはよ〜」
「おはよー ! 」
話の中心、光良がラビットハウスにやって来た。
大きいバックと、小さめのバイオリンケースを携えたマヤをお供に連れて。
「マヤちゃん、今日はすごい大荷物なんだね」
「ウクレレ ! コンたろーの家で作ったんだ〜 ! 」
「へ〜 ! 良いな〜 ! 」
「最高に熱い夜だったよ ! 」
無邪気に笑うマヤと心愛を他所に、リゼは引いた目で光良を睨んでいた。
「お前……女子中学生に手を……」
「出してない ! 出してない ! ウクレレ作ったりバトロワゲーで徹夜しただけ ! 」
「冗談だ」
「犯罪者を見る目だったよ…… ? 」
「そもそも智乃だって中学生だしな」
「ちーちゃんをそんな目で見ちゃダメだぞ ! ! ! 」
「そんな目で見る対象扱いではあるんだな」
「だってあんなに可愛いんだよ ! ? 」
「少しは包み隠せよ」
徹夜明けのせいか、光良のテンションは少し迷子になっていた。
「いや、待て。確かお前、昨日も徹夜してたよな ? 夏休みの宿題を終わらせたとかで」
「そうだな。まあ、でも、まだ若いからモーマンタイ ! 」
「寝ろ。二徹は作戦行動に響く」
「俺を寝かせたきゃ、添い寝して欲しくて甘えてくるちーちゃんでも連れてくるんだな ! 」
小2を最後に見ていない智乃の姿を要求しながら、扇子で口元を隠す光良。
その姿と要求の難しさは、カグヤ姫を連想させる。
「光良、後ろ」
リゼが指差す方を見ると、顔を赤くしながら涙目になった智乃がいた。
例のノートを手にして。
「え、えーっと……どこら辺に怒ってる…… ? 」
「最初から最後までです……。マヤさんに手を出したあげく、わたしを……え、ぇっちな目で見てたなんて……」
「ご、誤解だよ ! ちーちゃんの事は世界で一番大事に思っていて ! ! ! ちゃんとABCは踏むから ! ! ! ! 」
「そ、そういうところに怒ってるんですよ ! ! ! 」
どうやら重力と恥ずかしさが混ざったらしい智乃を前に、光良は必死の弁明を続ける。
色恋攻めに耐性がなさ過ぎて、智乃のクールが剥がれ落ちていた。
「と、とりあえず ! コウさんは罰として今日一日お休みです ! さっさと帰って寝てください ! 」
「そ、そんな…… ! ちーちゃんの役に立つのが生きがいなのに…… ! 」
「やめてください ! 店に労基が来たらどうするんですか ! 」
「じゃあ、ジャンケン勝負ね ! 俺が勝ったらチノちゃんに子守唄と絵本読みきかせをして貰うから ! 」
「わ、わかりましたよ ! 私が勝ったら3日間自宅待機の休日ですからね ! ! ! 」
そうして、お互いに『最初はグー ! 』と熱い叫び声を轟かせた。
◇
智乃の部屋に光良が招かれた。
「ちーちゃんってさ、結構大胆だよね」
「か、勘違いしないでください。コウさんの家じゃ、店の様子が見えないから致し方なくここにしただけで……」
恥ずかしそうに目をそらしながら、智乃はぶつぶつと言い訳をこぼした。
「それで、私はなにを読み聞かせれば良いんですか ? 」
「ごんぎつね ! 」
「後味が悪いので読みたくないです」
「かぐや姫 ! 」
「ごんぎつねと同じ理由で嫌です」
「真夏の夜の夢 ! 」
「韻踏むのやめてくれませんか ? 腹が立つので」
やたら注文の多い智乃を前に、光良はネタ切れを起こしてしまう。
加えて、テキトーに題名を出したせいか、急激な眠気が襲って来た。
これが認知シャッフル睡眠法。
「あっ、そうだ。リアルASMRしてよ。ずっと同じ方向からで良いからさ」
「セクハラで訴えますよ」
「えー、昔の耳かきのお礼だと思って……ダメ ? 」
「お、脅しなんて……卑怯な真似を……」
「ぐへへ〜。早くしないとこれからのおまえの耳がピンチだぞ〜 ? 」
芝居臭い悪役演技で智乃に詰め寄るが、ほっぺを抓られて成敗された。
「もう……絵本の読み聞かせは無しにします」
「ショック……。子守唄は何歌ってくれるの ? 」
「ラビットハウスの店内BGMです」
「歌ちゃうやん……」
枕元に置かれた携帯スピーカーから、馴染み深い音楽が流れてくる。
曲がオシャレなせいか、ムードだけは完璧になった。
「これでコウさんのお願いは全部叶えました。契約完了です」
「歪んだ願望器だ。詐欺られて俺は悲しいよ」
「本当に叶えたら、コウさんは犯罪者になっちゃいますよ ? 怪しい見た目をしているんですから」
イタズラに笑う智乃に見つめられながら、光良は今一度現状を振り返る。
「まあ、女子中学生と添い寝してる男じゃ男が捕まるか」
「そういう事です。理解したならさっさと寝てください」
「その前になんだけどさ、なんでちーちゃんは添い寝してるの ? 」
「あ、あなたがしたいって言ったんじゃないですか……」
「いや、ジャンケン勝負の中には含まれてなかったから……無自覚だった ? 」
「えっ…… ? あっ──」
脳裏を過る一連の記憶。
なら、なぜ自分は光良と……なんて思考が巡った瞬間、智乃の顔は一気に赤くなった。
「無意識に願うほど俺と添い寝をしたがっていたなんて……おにーちゃん冥利に尽きるよ」
「う、うる、うるさいですよ ! 良いからさっさと寝てください ! こっちは仕事があるんですから ! 」
プリプリ怒る智乃の声を子守唄に、光良は爆睡を決め込んだ。
久々に良い夢が見れた気がする。