オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
おやつの時間を少し過ぎた頃合に、千夜とシャロが店にやって来た。
「あら〜、今日は一段と賑やかね〜」
「えっと……どういう状況 ? 」
そこそこの客足まで落ち着き、忙しなさはなくなったリゼと心愛。
その二人を他所に、大人数用の長椅子で光良に膝枕をされている小柄な女の子。
光良似の制服を来て、召されそうな顔をしていた。
「メグー、交代まだ〜 ? 私もコンたろーの膝で寝たいよ〜」
「も、もうちょっとだけ〜……あと1分……ご、5分くらい……」
「そういって30分はそのままじゃん。は〜や〜く〜」
「こらこら、喧嘩しないの」
「だってメグがさー」
「メグちゃんも、少しだけ頭ずらせる ? そうすればマヤっちも寝れるからさ」
「は、はい〜……ごめんなさい……。マヤちゃんもごめんね…… ? 」
「じゃっ、これでお合い子だな」
女子中学生二人の頭を膝に乗せている光良。
絵面が危ない気がした。
「はぁ……ほんとにコウさんは……。うちはそういう店じゃないと何度言えば……」
「チノちゃんも苦労してるのね……。コーラ先輩っていつもあんな調子だし、大変でしょ ? 」
「はい……。でも、今日はおとなしい方なので、いつもと比べればまだ……」
「いつもは膝枕をされる側だしね。ワガママで、すぐ駄々をこねて──」
「はい ? 」
「えっ ? 」
刹那の速度でノートを取り出した智乃に睨まれ、シャロはそっと目をそらした。
「コンたろー、頭撫でて〜」
「実家みたいにくつろぐじゃん」
「家じゃこんな事しないよ〜」
「なら、この甘えはどこ由来の甘えなんだ……」
「昨日じゃな〜い ? またコンたろーの家に泊まりたいな〜。というか住みたーい」
「気に入りすぎじゃないか ? 」
「当然だよ。夜中までゲーム出来るし、勉強教えてくれるし、ベッドはホテルみたいに綺麗でフカフカだし、ご飯はコンたろーの手作りかカップ麺を選び放題かのどっちかだし──」
撫でられて心地が良いのか、マヤは気の抜けた声で光良の家に泊まっていた時の事を語る。
旅行から帰って来た人の雰囲気だった。
「あ〜……そっか、コンたろーと結婚すれば良いんだ……」
「ダイナミックな着地したな。パルクールか ? 」
「メグー、コンたろーが私達と結婚してくれるってさー……」
「夢うつつだね。寝て起きたら恥ずかしくなるぞ ? 」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。私とコンたろーの仲じゃん」
「け、けけ、結婚……おにーさんと、私が……」
「ほらー、メグちゃんもびっくりしてるよー ? 」
「コンたろーは、コンたろー……だなー……ふぁ〜…… 」
大きな欠伸をかいて、マヤはうつらうつらとし始めた。
どれだけ居心地がいいのだろうか。何とか分身して光良自身で確かめたくなってしまった。
「コンたろ……十分くらい、したら……起こしてくれ……」
「いくらでも寝て良いよ。お仕事頑張ったんだから」
「うん……。おやすみ……」
「おやすみなさい。起きたら見た夢、教えてね」
目を閉じたマヤは、一秒も持たずに夢の世界へと誘われた。
もう片方にいるメグはと言うと、寝てはいないがトリップのような事になっている。
そっとしておいた方が良いだろう。
「平和だなー〜……周りの視線に目を向けなければ」
千夜と心愛以外、性犯罪者を見る目で光良を見ていた。
おかしい。もう出会って4カ月は経っているのに誰からも信用されていない。
「俺、今けっこう良い上司をやれていたと思うんだけどな」
「コーラ先輩、それは上司じゃなくて彼氏って言うんですよ」
「謀らずともスパダリを見せつけてしまったわけか。隣のシワシワちーちゃんはどうしたの ? 」
「キャパ超え、ですかね」
時空の歪みか加工のしすぎを疑うほど、智乃はシオシオになっていた。
一体誰がこんな酷いことを……。光良は誠に遺憾である。
「こーくん、良いなー……。私も妹達を──チノちゃん ! お膝いいよ ! 」
「チノなら千夜の膝で寝たぞ」
「ち、チノちゃん取られちゃった…… ! チノちゃ〜ん ! 」
「ココアちゃんもどうぞ〜」
「くっ…… ! でも、姉の意地が…… ! 」
「光良さんもよく寝てるわよ〜」
「な、なら……大丈夫なの、かな…… ? 」
誘惑に負けて千夜の膝に落ちた。
心愛は安らかな顔を見せる。
「いや、床で寝るなよ……」
「あれはもう手遅れですよ……。私達はああはならないようにしましょう」
「膝枕ってそんなに良いものなのか ? 」
「へっ ! ? あ、あ〜……コーラ先輩はよくせがんで来ますけど……ど、どうなんでしょうね〜。あ、あはははは」
シャロの脳内を駆け巡る、リゼが膝に寝転がる絵。
世界がリゼの魅力に気づいてしまうのではないかと、シャロは不安で胸がいっぱいだ。
「ああいうのにご興味が ? 」
「少しは女の子っぽくなるのかと思って。あとは、甘えやすいって頼りやすいって事なのかな、とか」
「……だ、誰か頼られたい相手が…… ? 」
言い方は変だが、恋敵の気配をシャロは感じ取った。
「ほら、光良って全然アタシを頼らないから」
「自立していて良い事なのでは…… ? 」
「守られてるって感じがしてな。光良は全然そんな事は思ってないんだろうけど。アタシ、そういうの苦手だからさ」
「……まぁ、人を巻き込んでいるようで、いつも誰かの世話を焼いている気がしますしね」
シャロも色々と光良の世話になってきた身だ。リゼの言いたい事もなんとなく分かる。
ただ、思い返すと奇想天外ハチャメチャな言動が多く、『言うほど世話焼きか ? 』とシャロは一瞬だけ疑心暗鬼になってしまう。
日頃の行いが悪すぎる……と、シャロは感謝半分、呆れ半分で光良の方をチラリと覗いた。
「うぉ……ま、マヤっち……寝相ヤバすぎ…… ! だ、誰か……だれかヘルプを…… ! 落ちる落ちる落ちる…… ! ! ! リゼー…… ! ヘルプミー…… ! ! ! 」
椅子から転げ落ちそうなマヤを、必死で支える光良がいた。
「さっきの話、気の所為だったかもしれない」
「あはは……」
奇跡的にリゼのフォローに入った光良を褒めるべきか否か、シャロは日が暮れるまで悩んだ。
◇
夕暮れ時にマヤは目覚め、何かを悟った顔で謎のシールを光良に貼った。
「マヤっち、これは ? 」
「持ち物シール。今日からコンたろーは私の筆頭ひつじだ ! 」
「安眠枕用って事 ? 」
「世話係的な ? 」
「どこで誰の世話をするの ? 」
「私の家で私の世話。コンたろーを見たらアニキも姿勢正すと思うし ! 」
「俺、今の家気に入ってるから遠慮しとくよ」
「雇えば良いのか ? 」
「絵面ヤバいから財布はしまおう ? 」
バリバリ財布から今日の給与を渡してくるマヤ。危機感を感じて光良は全部突き返した。
これは智乃どころか、皆からも軽蔑されてしまう。
「マヤさん ! やめてください ! ! ! コウさんはうちの主力営業マンなんですから ! 」
「せめてそこは大切な幼馴染とかに……」
「えー、夏休み中だけで良いから貸してよ。いきなりコンたろー無しの生活は無理だしさ」
「俺は競り出された家電かなにかなの…… ? 」
「お、おお、お兄さんの取り合いなら私も混ざらないとだね〜 ! お小遣い全部出すよ〜 ! ! ! 」
「メグちゃんの寝起きテンションやば……。その手の通帳って使って良いやつ……? 」
ちょっとラリってるのは光良の見間違いだろうか。
マヤ達が寝て覚める間に、光良は誰もが欲しがる便利グッズになってしまったらしい。
人権は誰の夢の中にあるのだろうか。
「妹達 ! 喧嘩は良くないよ ! 」
「誰が妹ですか」
「ココアー、この中で誰がコンたろーに合ってると思う ? 」
「おにーさんを迎え入れる準備ならいつでも出来てます ! 」
妹達(心愛の自称)に詰め寄られ、お姉ちゃんの気分を感じる心愛。
こういう時のために温めておいた、とっておきの言葉を使う時が来た。
「取り合いになったら、半分こだよ ! それで喧嘩はおしまい ! 」
「コンたろーを半分にするのか ? 」
「えっ…… ? あー……き、気持ちの話だよ ! 思いやりとか ! 」
「テキトー言わないでください」
「うっ、手厳しい……」
お姉ちゃん失敗。
たじたじになった心愛の尊厳のため、光良は最終手段を発動した。
「皆で泊まるぞ。この家に」
ここにいる全ての者を巻き込み、光良は強引に事を収めた。
旅は道連れ、世は情けである。