オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
カチ……カチ……。
時計の針が回る音が響く。
心愛の真っ直ぐな眼差しが、光良を次々と刺していった。
「どこから話したもんかなぁ……」
「難しい話なの ? 」
「難しかしくはないよ。なんなら中身はアホの塊だから」
「そ、そうなんだ……」
「うん。でさ、心愛ってちーちゃんのお母さんについては知ってる ? 」
「う、うん……亡くなってるんだよね ? 」
光良は一つ頷いたあと、一度2階に上がり、話の種である日記を持って来た。
「一応確認なんだけど、ほんとに聞く ? ただの友達の身の上話だぞ ? 」
「わたし、こーくんのおねーちゃんだよ」
「それを持ってこられると何も言えないな……」
覚悟万端と言った様子なので、光良は『嘘のページ』から少し遡ったページを見せる。
「ちーちゃんのお母さん……ママさんって呼ぶけど、ママさんが亡くなった時さ、ちーちゃんすげー泣いてたんだ」
「あ、当たり前だよ ! 大好きなお母さんが亡くなっちゃったんだから……」
「でさ、俺、この頃からちーちゃんと仲良く交流していて、なんなら葬儀にも呼んでもらえるくらいには仲良くなってた」
「やっぱり仲良しさんなんだね」
「まあねぇ。それでこの時の俺は、なんとかちーちゃんに元気になって貰いたかったんだ」
正確には、智乃の笑った顔が見たかった。
そう付け加えたあと、光良は日記を数ページめくる。
それは、文の上からグシャグシャの線が引かれた不気味なページだった。
「これは…… ? 」
「読めないだろうけど、ここら辺に『おれのおかーさんもたおれて、にゅーいんした』って書いてある」
「……えっ ! ? 大丈夫だったの ! ? 」
「そこはおいおいね。問題なのはここからで」
バカを見る目で、光良はそのページを見ていた。
憎しみとかそういう重苦しいものではなく、クラスでバカをやってる男子を見る時みたいな、そんなラフな眼差し。
「母さんが入院してさ、思っちゃったんだ」
「な、なにを ? 」
「『ちーちゃんと同じになれた』って。ちーちゃんの気持ちが分かるから、隣に座って元気づけてあげられるって」
「た、たしかに悪い事かもだけど、チノちゃんのためだったんだよね ? それに、こーくんも子供だったんだし……」
「そうなんだけどさぁ……」
光良は大きなため息をついたあと、ページを1枚めくる。
「もしかしたらこのまま母さんが死ぬかもって思った時……俺は喜んじゃった。それがずっと嫌いでさ。チノちゃん達にも、自分の家族にも、最低な事だって」
「でも、チノちゃんを元気づけられたんだよね ? 」
「上手くいったのはチノちゃんのおかげだよ。俺に『いつもありがとう』って言ってくれて……きっと、あの時の笑った顔も、無理くり作ってくれたんだろうな」
きっと、自分は余計な事しかしてない。
そんな言葉を足して、光良は日記を閉じた。
神妙な面持ちに、心愛は辿々しい言葉しかかけられない。
「ち、チノちゃんにそのことは…… ? 」
「言えてない。嫌われるのが怖くて、ずっと隠してる。バレないように、日記にお化けの写真を張り付けて、部屋にも近づかないようホラー系の装飾で固めてさ」
「だからあんなに怖いんだ……」
「うん。それで、暗い雰囲気にならないように、嘘ついたり、手品したりしてた」
ポロっと、光良のルーツのような物が漏れ出て、心愛も唇を噛んで口を結ぶ。
「あとは、両親に無理言って、俺だけこの街に住めるよう色々準備して貰ったりもかな。諸々の事情を全部話して、生まれて初めて土下座もしたよ。自業自得」
「で、でも ! 私、こーくんのそういうところ好きだよ ! 一生懸命で、意外とすぐこんがらがったりするところ ! 」
「ありがと。ここあにそう言われると元気がでるよ」
お礼も言葉も本心だけど、光良の顔色は晴れなかった。
「こーくんは自分のこと、嫌い…… ? 」
「ここあは、店の皿を割りまくる自分を好きになれる ? 」
「うっ……」
「そんな感じ。自分が嫌いで、本当はちーちゃんと一緒にいる資格もないんだけどさ──」
そこまで語ったあと、ヤケと言わんばかりにふんぞり返り、大きなため息をついた。
「ちーちゃんが大好きで死ねほど離れたくない。せめて、木組みの街には居続けたいって思っちゃってる」
「それは、当たり前のお願いじゃないかな…… ? 好きに叶えて良いと思うよ…… ? 」
「己の罪と欲が混じって、俺の情緒はめちゃくちゃなんだ。マジで何をしてるのか、何をしたいのかが自分でも分からない」
「チノちゃんと一緒にいようよ。こーくんがいなくなったら、すごい悲しむと思うから。それに、私も悲しい」
智乃がどう思っているのかは分からないが、智乃が光良を想っている事だけは分かる。
いなくならないであけて、と光良に頼んでみるが、ハイともイイエとも言えない顔が返って来た。
気まずいので、心愛は話をそらす。
「ところでさ、こーくんのおかーさんはなんで入院したの ? 」
「盲腸」
「も、もうちょー……」
「閻魔様への土産にはぴったりでしょ ? ほんとに、昔の俺は素直でバカ正直で早とちりで、どーしようもないお子様だった」
「ちょっと気が抜けちゃったよ……」
「良い時間だし、そろそろお開きにしよっか。気になった事があったらまたおいで」
このまま朝まで語り続けて、皆が『心愛がいない』と騒ぎ出したら大変だ。
「ちゃんと寝なよ。こっちも鍵かけるから、次に起きたら土の上だぞ」
「あはは……気をつけるね……」
すぐ隣だが、念のため軽い上着を持たせて心愛を玄関まで見送った。
サンダルを履いた心愛は、最後と言わんばかりに光良の頭を撫でる。
「無理しないでね。こーくんの気が楽になるなら、いくらでも話聞くから」
「優しい親友を持てて心がしみるよ」
「おねーちゃんだからね。任せなさい ! なんて」
「ありがとさん。んじゃ、おやすみなさい」
おやすみと返してくれる心愛を見届け、光良の秘密は二人の秘密のなった。
心愛に話したおかげで、頭の中がだいぶスッキリした気がする。
◇
目覚ましは、電話の着信音だった。
発信者は智乃。通知を見てみると10分前あたりから何度もかけていたらしい。
「もしもし……どしたの…… ? おねしょでもしたゃった…… ? 」
『こ、ココアさんがいないんです ! ! ! 心当たりはありませんか ! ? 』
慌てる智乃の声で目が覚める。どうやら心愛がいなくなったらしい。
話は反れるが、昨日心愛が帰ったあと、嫌な予感がして家の鍵を空けたままにしたのだ。
そして、一階に布団を敷いて光良は寝た。
だから、少し布団をめくってやれば、そこにはきっと──
「ここあなら……俺の上で寝てるよ……。ふぁ〜……」
『……………はい ? ? ? 』
ブツっと電話が切れた。驚いて携帯を落としてしまったのだろうか。
一応、皆からは信頼されてるし大丈夫だろうと楽観的に考え、光良は二度寝に備える。
──ドドドドド
床から聞いたことない振動音が聞こえて来た。
老朽化のせいかは分からないが、怖いのですぐに逃げられるようにと、光良は心愛の体をゆする。
「ここあー、起きて〜」
「んん〜……あとごふん……」
「今起きるとちーちゃんがホッペにちゅーしてくれるよ。俺は早起きだから5回して貰った」
「チノちゃんからのちゅー ! ? ! ? 」
ガバっと腕を立て、眠れる獅子が目覚めるように起き上がった心愛。
おかしい、女の子に迫られているのにドキドキしない。
「あれ、こーくん ? なんで私の下にいるの ? 」
「虫の知らせと真面目さ。アリさんマークが頑張ったからやで」
「どういう事 ? ……あっ、おはよう ! 」
「はい、おはようさん」
お互いに朝の挨拶を交わした瞬間、ドアが勢いよく開かれた。壊れそうな勢いだ。
「ココアさん ! ご無事ですか──ココアさん、何してるんですか ? 」
心愛を心配する声音が、凍てつく殺戮の声に変わった。
「チノちゃん ! おはよー ! 」
「コウさんに何してるんですか」
「なにって──」
チノ、光良、自分自身。
順番に見ていったあと、たった今目覚めた頭ですべてを理解する。
「ま、ままま、待ってチノちゃん ! ! ! 誤解なの ! ! ! 」
「そこまでセッティングしておいて何が誤解なんですか ? 」
「こ、こーくんに聞けばわかるから ! ねっ ! ? 」
「安心してちーちゃん。寝相が悪すぎて俺のところに来ただけなんだ」
「可哀想に……。襲われる怖さでまともな思考が出来なくなったんですね。よしよし……」
「どちらかと言うと寝起きの低血圧のせいかな」
「ココアさん、話があります」
「ゔぇあ……」
「おれの話聞いて〜……」
「今は安静にしていてください。寝相で隣の家の男の布団に入ったなんて、犯罪者でもしない言い訳ですよ。大丈夫、私がついてますから」
慈しみの目で光良を撫でたあと、阿修羅の覇気で心愛を引きずり智乃は帰っていった。
「ママみのあるちーちゃんも良いな……」
ホットココアの粉を香風家の方にお供えしながら、光良はそっと合掌をする。
朝七時から一時間くらい、ずっと隣の家から『ゔぇあああああ! ! ! 』という悲鳴が聞こえて来た。