オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
光良とリゼは悩んでいた。
泊まり会が明けてから、智乃と心愛の関係が冷え切ったままなのだ。
1日経ってもそれは変わらず、2人の間には距離があった。
「そもそも、ちーちゃんはなにをあんなに怒ってるんだ ? 」
「まあ……程度はわからないが光良を慕っていたし、それが襲われたかもってなったら警戒もするだろ」
「俺の友達がちーちゃんと未遂疑惑……的な感じか ? 」
「そんな感じだと思う。やり過ぎなのは否定しないが」
そう言われると智乃の気持ちは痛いほど分かる……が、相手は心愛なのだ。
誰から見ても無罪なのは明らかだった。
「あんまやりたくなかったけど、アレをやるか」
「アレって ? 」
「昔、友達の家に3日くらい連続で泊まった時、帰ったらめちゃくちゃ泣きつかれた事があったんだよ」
「それが対策になるのか ? 」
「悪い事したから俺がいなくなったーって」
「なるほど。反省させるのにはちょうど良さそうだ。ちなみに悪い事って ? 」
「俺が大事にしてた合体ロボを壊しちゃった。実際は、ロボの分離を壊れたって勘違いしただけなんだけど」
「ははっ、可愛いじゃないか」
リゼの賛同も得られたことなので、光良は早速旅行支度を始める。
「コウさん ? なんですかその大荷物」
「シャロちゃん家に行く。しばらく帰らないからシフト抜いといて ! 」
「な、なにしに行くんですか ? 」
「なんて言えば良いんだろう……花嫁修行 ? 」
「……はい ? 冗談は営業の時だけに」
「そろそろ、俺も身を固めないとなーって思って。ほら、俺って本命シャロちゃんだし」
「へっ…… ? あっ、え……、う、うそですよね…… ? 」
「半月くらい経ったら帰ってくるよ。ラビットハウスを辞めるなんて事はしないから安心して」
智乃の頭を撫でたあと、光良は足早に店を出ていった。
残された智乃は、客も店員もティッピーもいる中で、孤独感を感じていた。
◇
シャロの家にて、トラベルケースを置いた光良が一息つく。
「──というわけだから……ごめん、シャロちゃん ! 迷惑なのは分かってるけど、2日ほど泊まらせて欲しい ! 生活費半分出すから…… ! 」
「泊まるのは良いんですけど、私めちゃくちゃ流れ弾じゃないですか ? 」
「いやぁ……本命感出せるのがシャロちゃんしかいなくて……」
「マヤちゃんとかメグちゃんは ? 」
「ご両親の前で花嫁修行しに来ましたとか言えないじゃん…… ? 事情も事情だし」
「まあ、確かに」
紅茶をズズズっと含み、シャロは一息つく。
「それにしても、コーラ先輩って意外とスパルタなんですね。こんな精神攻撃を使ってくるとは」
「狐は物理じゃなくて、スピリチュアルの怪異だからね。まあ、俺も精神ダメージを食らう諸刃アタックだけど」
「先に先輩が限界を迎えたり」
「あり寄りのあり」
光良も紅茶を一口啜り、ホッと息を吐く。
このまま茶をしばくだけでも良いのだが、せっかく遊びに来たんだし、何か面白いことがやりたい。
良い感じのネタはないかと、光良は頭をグルグル回した。
「今更な話なんだけどさ、シャロちゃんってあれからも俺のこと先輩呼びだよね。敬語もそのままだし」
「まぁ……憧れの人という事で、無理してタメ口に必要はないのかなって。コーラ先輩的にはどうですか ? 距離を感じるから嫌、とか」
「最初から全部知った上で先輩呼びを受け入れてたからな。シャロちゃんのお好きにどうぞとしか」
「そういえばそうでしたね。ほんと、あれを知った時は殺してやろうかと」
「憧れの人に向けるに感情じゃないよー……」
殺意のこもった目が、紅茶の湯気の向こうから見える。
湯気フィルターを通しても殺気は緩和されていなかった。なんという殺意。
「ちょっと今日だけタメ口になってみてよ。俺はシャロちゃんに敬語使うから」
「また酔狂な事を……」
「お願いしまーす、シャロ先生」
「切り替え早っ……。はぁ、しょうがないですね──しょうがないわね、今日だけよ ? 」
「わ〜い、シャロ先生大好き〜 ! 」
むず痒い気持ちが胸に芽生えるシャロ。
「おもろいですね、呼び方変えるの。シャロ先生に跪きたくなります」
「やめなさいよ……。一応、花嫁修行に来たんでしょ ? 花嫁らしい事でもしたら ? 」
「そうですねぇ……あぁ、そうだ。来る時に持って来た、賞味期限ギリギリのコーヒーでも淹れますか」
「もう紅茶飲んでるんだけど……」
「あっはっは、冗談じょうだん。コーヒー味のクッキーっすよ」
カバンを漁ったら出てきたクッキーを紙皿に乗せ、シャロに差し出す。
「変わったクッキーね。コーラの手作り ? 」
「分かるんですか ? 前に千夜に試作品を見せた時は、既製品扱いで終わったのに」
「千夜は和菓子屋だしね。洋菓子をメインに取り扱ってる人なら分かるわ」
「すげ〜。さすがシャロたそ先生」
「作ったコーラが一番すごいでしょ……」
憧れの眼差しを向けられたシャロだが、見当違いすぎて突っぱねてしまった。
「本当は今日の昼あたりに、ちーちゃんに完成品を出そうと思ってたんですけど、ちょっとオヘソ曲げちゃってるのでね」
「まだそこまで時間は経ってないけど、リゼ先輩に確認してみたら ? 」
「そっすね。さてさて、ちーちゃんとここあは仲直り出来たかな〜っと──」
携帯を見た光良が一瞬で固まる。
「そんなに酷いの ? 」
「見てもらえれば……」
光良が見せてきた画面には、何十件にも及ぶメールと電話の通知が残っていた。送り主は心愛とリゼ。
ホラー画像過ぎて、シャロの背筋も伸びてしまった。
「ちょっと、様子見に戻ります……」
「心配だから私も連れてって」
主従逆転ごっこのままシャロの家を後にし、気の重い足取りでラビットハウスへ向かった。
──
ラビットハウスに入った瞬間、ドンヨリとした重い空気が襲ってくる。
とても飲食店の空気とは思えない。
そして、ドンヨリの震源地には当然智乃がいて、真っ白に燃えつきていた。
「シャーロック先生……これは一体…… ? 」
「別人になってるじゃない……」
勝手に探偵扱いしてくる光良を他所に、シャロは目も当てられない智乃に歩み寄る。
「チノちゃん、大丈夫 ? 」
「シャロさん…… ? コウさんと結婚したんじゃないんですか…… ? 」
「あはは……。コーラとは何もないわよ。いつも通り、ちょっとアホな人の面倒をみていただけで」
「呼び捨て……」
「えっ ? 」
「呼び捨てになってます……。やっぱり2人で花嫁修業したんですね…… ! ! ! 」
「えっ、ちょっ──」
涙目でシャロを振り払い、智乃は2階へと逃げてしまった。
頭が追いつかないまま、シャロは涙目で光良の方へと向き直る。
「すみません、コーラ先輩……悪化させちゃったかもしれないです……」
「そんな事ないよ。思ったよりちーちゃんにダメージ入ってただけで。やり過ぎたかな……」
「今までもあんな感じだったんですか ? 」
「いや、もっと拗ねてるって感じで……とりあえず、話を聞いてくるよ。あそこまで弱ってるなら、ちゃんと弱音を愚痴ってくれるはずだし」
思いのほか大ごとになってしまった事に申し訳なさを感じながら、光良は智乃の部屋へと向かった。