[完結] オラ!ご注文のキツネうどんだ!!!   作:コントラポストは全てを解決する

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ラビットハウス盟約第二条『イチャつくなら店主とイチャつけ』

 

 コンコンと扉を鳴らしたら、入っても良いと許可が出た。

 一言も声を発してないのに誰が来たか分かるあたり、智乃も期待していたのかもしれない。

 

「ちーちゃん ? 調子どう ? 」

「よく見えますか ? 」

「ぜーんぜん。隣、座っていい ? 」

「どうぞ……」

 

 顔を合わせないフリをして、目だけは光良を捕らえている智乃。

 見るからになにか言いたげだった。

 

「ここあとは仲直りできた ? 」

「……なんでずっと、ココアさんの肩を持つんですか ? 」

「誤解だからかな。ちーちゃんだって分かってるんでしょ ? 」

「そ、そんな事……ないです。あんな、コウさんを押し倒して……」

「俺を敷き布団にしてたからね」

「パジャマも脱ぎかけで……」

「寝相が悪くてハダけただけだね」

 

 唇を噛んで智乃は次の言い訳を探す。

 ウンウン唸って、眉間にしわを寄せて、なんとか光良を説き伏せようとしていた。

 

「そもそも、あの爆発した寝癖で夜這いは無理じゃない ? 」

「ぐぬっ……」

 

 胸に針が刺さったように、智乃は体を硬くさせた。

 

「ここまでゴネたのは小3の時以来だね。懐かしいなぁ」

「……怒らないんですか ? 」

「怒ってるわけじゃないからね。話を聞きたいだけなんだ」

「話……」

「うん。聞かせて欲しい」

 

 宥めるように会話を促すと、智乃は気まずそうにしながらも口を開いてくれる。

 

「私にも……わかりません……」

 

 ただ、智乃から返ってきた答えは謎を加速させた。

 これは迷宮入りの予感。

 

「わからないんです……。なんで、こんなに胸がざわざわしてるのか……」

「寂しいとかじゃなくて ? 」

「それだけじゃないんです……。コウさんが誰かと一緒にいるのを見ると、胸がムカムカして……」

「それ、恋愛のやつでは…… ? 」

「確かにコウさんの事は好きですよ……。でも、今更恋人関係になりたいなんて思いません……。昔から家族同然に過ごして来たのに……」

「そっか……」

 

 振られているのか好かれていのか分からない答えを前に、光良も戸惑ってしまう。

 

「とりあえず、そのムカムカの解消が問題解決の鍵になりそうだね。どうやったら消せそう ? その、ムカムカってやつ」

「それが分かれば苦労しませんよ……」

「うーん……じゃあ、どういう時にムカムカする ? ここあの時以外で」

「……マヤさんとメグさんに、膝枕をしているのを見た時、とか……」

「なら、まずはそれからだね」

 

 ポンポンと、光良は膝を叩いて寝るように促す。

 恥ずかしそうにしながらも、智乃は横になってくれた。

 

「どう ? ムカムカ、直った ? 」

「頭も撫でてください……」

「はいはい。昔から好きだったよね、これ。実際どんな感じなの ? 」

「心地良いです……。すごく、安心できます……」

「そういえば、お父さんからも言われてたっけな」

「お、お父さんにもしていたんですか ? 」

「あぁ、そうじゃなくて。『智乃は光良くんの膝枕が好きなようだから、これからもお願いね』って。俺以外のは微妙だったの ? 」

「い、いえ……特段嫌というわけでは……。ただ、コウさんのが一番落ち着くので……」

 

 相当心地が良いのだろう。

 部屋に来た時に見せた、モヤついてツンツンした様子の智乃は消えていた。

 これは……機嫌が回復したとみて良いのだろうか。

 

「ムカムカ、なくなった…… ? 」

「なくなったような気がします……」

「そいじゃ、ちょっと休んで下に戻ろうか──」

 

 光良が言い終えるか否かのタイミングで、智乃は咄嗟に耳かきを手にする。

 

「俺、ちーちゃん以外に耳かきした事ないんだけどな……。夢で見たの…… ? 俺が誰かに耳かきしてるところ……」

「つ、ついでです。前はよくしてくれたのに、最近は……というより、ココアさんが来てからしてくれなくなったじゃないですか……。家にも泊まらなくなって……」

「独り立ちも大事かなと」

「ダメです……。コウさんは、ずっと──なるべく、ここにいるべきなんです……」

「死ぬほど愛されて夜も眠れなくなりそうだよ」

 

 独占欲か、それとも純粋な寂しさか。

 自身を必要としてくれる智乃を見て、光良は舞い上がりそうになってしまう。

 

「こんくらいで良いかな。ちーちゃん、綿棒ある ? 」

「も、もう終わりにするんですか ? 」

「すごい綺麗だし、これ以上やったら傷ついちゃうよ」

「そうですか……」

「終わったら頭撫でてあげるからさ。機嫌直して ? ね ? 」

「べ、べつに……グズねてるわけじゃ……」

 

 目に見えるほどションボリしていて、いたたまれなくなってしまった。

 そのまま泣いてしまいそうだったので、光良は智乃を頭をそっと撫でる。

 

「……あっ、そうだ……コウさん、やっぱり撫でなくていいです。そのかわり、少し私に付き合ってください」

「良いけど ? 何するの ? 」

 

 光良の質問には答えず、智乃は改まったようにベッドの上で正座をする。

 なにか大事な話でもあるのかと、光良も姿勢を直した。

 

 

「し、失礼します…… ! ! ! 」

「えっ──」

 

 

 ドサッ !

 

 

 智乃の掛け声が聞こえたかと思えば、目の前には綺麗な青色の瞳があった。

 鼻と鼻がくっつきそう……いや、すでに鼻の頭がかすれている。

 

「えっ……ち、ちーちゃん…… ? 」

「うぅ……はずかしい…… ! 」

「なら、どうしてこんな事を……」

「わ、わかりません…… ! 」

「言い切っちゃったよ……」

 

 男を押し倒すようになるとは、随分とたくましく育ってしまったらしい。

 どこでこんな事を覚えたのかと、光良は見えない男の影に脳を震わせた。

 

「これもムカムカのためなの ? 」

「たぶん……。ココアさんに押し倒された時、ドキドキしましたか…… ? 」

「いや、全然。ドッキリ的な意味じゃしたけど」

「じゃあ、今はどうですか…… ? 」

「めっっっっっちゃ、ドキドキしてる。心臓が止まりそうなほどには」

「そ、そうですか……」

 

 へにょへにょとした嬉しそうな顔でニヤけながら、智乃は光良の胸に顔を埋めた。

 

「あたま、なでてください……」

「結局するんだね」

「うるさいですよ……。昔からコウさんが撫でるから、わたしはこうなったんです……」

「はいはい。仰せのままに」

 

 そういえば、昔はこんな感じで甘えていたっけ……と、昔を思い出しながら智乃を撫でる。

 

「フラストレーションでもたまってたのかなぁ……。ちーちゃんもまだまだ甘えたい盛りだもんね」

「こ、子供扱いしないでください……」

「子供扱いなんてしてないよ。俺はちーちゃんが張り詰めすぎないように、隣にいたはず……だったような、そうじゃなかったような…… ? あれ ? 」

「良い雰囲気にしたいなら、もっとしっかりカッコつけてください」

「良い雰囲気にしたら、なにかしてくれるの ? 」

「……キスでもしましょうか ? 」

「いらないよ。それはちーちゃんの旦那様にあげて欲しいな」

「今すっごいムカムカしてます」

「そりゃ大変だ」

 

 プクーと、フグとタメを張れそうなほど膨らむ智乃の頬。

 

「さてと、そろそろ戻ろっか」

「まだやってない事があります」

「押し倒す以上になにを…… ? 」

「私に意地悪をしましたよね ? シャロさんが本命だとか、花嫁修業がどうとか」

「その節は本当にごめんなさいでした……」

 

 さっきまでロマンティックをしていたのに、甘えて抱きつく智乃の腕は、光良を締める絞首の縄になった。

 光良は生きて帰れるだろうか。

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