オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
コンコンと扉を鳴らしたら、入っても良いと許可が出た。
一言も声を発してないのに誰が来たか分かるあたり、智乃も期待していたのかもしれない。
「ちーちゃん ? 調子どう ? 」
「よく見えますか ? 」
「ぜーんぜん。隣、座っていい ? 」
「どうぞ……」
顔を合わせないフリをして、目だけは光良を捕らえている智乃。
見るからになにか言いたげだった。
「ここあとは仲直りできた ? 」
「……なんでずっと、ココアさんの肩を持つんですか ? 」
「誤解だからかな。ちーちゃんだって分かってるんでしょ ? 」
「そ、そんな事……ないです。あんな、コウさんを押し倒して……」
「俺を敷き布団にしてたからね」
「パジャマも脱ぎかけで……」
「寝相が悪くてハダけただけだね」
唇を噛んで智乃は次の言い訳を探す。
ウンウン唸って、眉間にしわを寄せて、なんとか光良を説き伏せようとしていた。
「そもそも、あの爆発した寝癖で夜這いは無理じゃない ? 」
「ぐぬっ……」
胸に針が刺さったように、智乃は体を硬くさせた。
「ここまでゴネたのは小3の時以来だね。懐かしいなぁ」
「……怒らないんですか ? 」
「怒ってるわけじゃないからね。話を聞きたいだけなんだ」
「話……」
「うん。聞かせて欲しい」
宥めるように会話を促すと、智乃は気まずそうにしながらも口を開いてくれる。
「私にも……わかりません……」
ただ、智乃から返ってきた答えは謎を加速させた。
これは迷宮入りの予感。
「わからないんです……。なんで、こんなに胸がざわざわしてるのか……」
「寂しいとかじゃなくて ? 」
「それだけじゃないんです……。コウさんが誰かと一緒にいるのを見ると、胸がムカムカして……」
「それ、恋愛のやつでは…… ? 」
「確かにコウさんの事は好きですよ……。でも、今更恋人関係になりたいなんて思いません……。昔から家族同然に過ごして来たのに……」
「そっか……」
振られているのか好かれていのか分からない答えを前に、光良も戸惑ってしまう。
「とりあえず、そのムカムカの解消が問題解決の鍵になりそうだね。どうやったら消せそう ? その、ムカムカってやつ」
「それが分かれば苦労しませんよ……」
「うーん……じゃあ、どういう時にムカムカする ? ここあの時以外で」
「……マヤさんとメグさんに、膝枕をしているのを見た時、とか……」
「なら、まずはそれからだね」
ポンポンと、光良は膝を叩いて寝るように促す。
恥ずかしそうにしながらも、智乃は横になってくれた。
「どう ? ムカムカ、直った ? 」
「頭も撫でてください……」
「はいはい。昔から好きだったよね、これ。実際どんな感じなの ? 」
「心地良いです……。すごく、安心できます……」
「そういえば、お父さんからも言われてたっけな」
「お、お父さんにもしていたんですか ? 」
「あぁ、そうじゃなくて。『智乃は光良くんの膝枕が好きなようだから、これからもお願いね』って。俺以外のは微妙だったの ? 」
「い、いえ……特段嫌というわけでは……。ただ、コウさんのが一番落ち着くので……」
相当心地が良いのだろう。
部屋に来た時に見せた、モヤついてツンツンした様子の智乃は消えていた。
これは……機嫌が回復したとみて良いのだろうか。
「ムカムカ、なくなった…… ? 」
「なくなったような気がします……」
「そいじゃ、ちょっと休んで下に戻ろうか──」
光良が言い終えるか否かのタイミングで、智乃は咄嗟に耳かきを手にする。
「俺、ちーちゃん以外に耳かきした事ないんだけどな……。夢で見たの…… ? 俺が誰かに耳かきしてるところ……」
「つ、ついでです。前はよくしてくれたのに、最近は……というより、ココアさんが来てからしてくれなくなったじゃないですか……。家にも泊まらなくなって……」
「独り立ちも大事かなと」
「ダメです……。コウさんは、ずっと──なるべく、ここにいるべきなんです……」
「死ぬほど愛されて夜も眠れなくなりそうだよ」
独占欲か、それとも純粋な寂しさか。
自身を必要としてくれる智乃を見て、光良は舞い上がりそうになってしまう。
「こんくらいで良いかな。ちーちゃん、綿棒ある ? 」
「も、もう終わりにするんですか ? 」
「すごい綺麗だし、これ以上やったら傷ついちゃうよ」
「そうですか……」
「終わったら頭撫でてあげるからさ。機嫌直して ? ね ? 」
「べ、べつに……グズねてるわけじゃ……」
目に見えるほどションボリしていて、いたたまれなくなってしまった。
そのまま泣いてしまいそうだったので、光良は智乃を頭をそっと撫でる。
「……あっ、そうだ……コウさん、やっぱり撫でなくていいです。そのかわり、少し私に付き合ってください」
「良いけど ? 何するの ? 」
光良の質問には答えず、智乃は改まったようにベッドの上で正座をする。
なにか大事な話でもあるのかと、光良も姿勢を直した。
「し、失礼します…… ! ! ! 」
「えっ──」
ドサッ !
智乃の掛け声が聞こえたかと思えば、目の前には綺麗な青色の瞳があった。
鼻と鼻がくっつきそう……いや、すでに鼻の頭がかすれている。
「えっ……ち、ちーちゃん…… ? 」
「うぅ……はずかしい…… ! 」
「なら、どうしてこんな事を……」
「わ、わかりません…… ! 」
「言い切っちゃったよ……」
男を押し倒すようになるとは、随分とたくましく育ってしまったらしい。
どこでこんな事を覚えたのかと、光良は見えない男の影に脳を震わせた。
「これもムカムカのためなの ? 」
「たぶん……。ココアさんに押し倒された時、ドキドキしましたか…… ? 」
「いや、全然。ドッキリ的な意味じゃしたけど」
「じゃあ、今はどうですか…… ? 」
「めっっっっっちゃ、ドキドキしてる。心臓が止まりそうなほどには」
「そ、そうですか……」
へにょへにょとした嬉しそうな顔でニヤけながら、智乃は光良の胸に顔を埋めた。
「あたま、なでてください……」
「結局するんだね」
「うるさいですよ……。昔からコウさんが撫でるから、わたしはこうなったんです……」
「はいはい。仰せのままに」
そういえば、昔はこんな感じで甘えていたっけ……と、昔を思い出しながら智乃を撫でる。
「フラストレーションでもたまってたのかなぁ……。ちーちゃんもまだまだ甘えたい盛りだもんね」
「こ、子供扱いしないでください……」
「子供扱いなんてしてないよ。俺はちーちゃんが張り詰めすぎないように、隣にいたはず……だったような、そうじゃなかったような…… ? あれ ? 」
「良い雰囲気にしたいなら、もっとしっかりカッコつけてください」
「良い雰囲気にしたら、なにかしてくれるの ? 」
「……キスでもしましょうか ? 」
「いらないよ。それはちーちゃんの旦那様にあげて欲しいな」
「今すっごいムカムカしてます」
「そりゃ大変だ」
プクーと、フグとタメを張れそうなほど膨らむ智乃の頬。
「さてと、そろそろ戻ろっか」
「まだやってない事があります」
「押し倒す以上になにを…… ? 」
「私に意地悪をしましたよね ? シャロさんが本命だとか、花嫁修業がどうとか」
「その節は本当にごめんなさいでした……」
さっきまでロマンティックをしていたのに、甘えて抱きつく智乃の腕は、光良を締める絞首の縄になった。
光良は生きて帰れるだろうか。