オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
あと6話くらいで終わります。
ルンルン気分で鼻歌を歌う智乃を前に、失礼ながら不気味さを感じてしまうリゼと心愛。
「光良、チノに何したんだ…… ? 」
「ストレス解消の手伝い ? ここあはちーちゃんと仲直りできた ? 」
「う、うん ! なんとか許してもらえたよ……」
智乃に反していつも通りな光良。
テーブルを布巾で拭きながら、頭の中でまた賑やかしを考える顔を見せていた。
「それにしても、本当に何したらああなるんだ…… ? 」
「こういうのは専門家に聞くのが早いぞ」
「専門家って ? 」
見た方が早いと言わんばかりに光良が電話をすると、数分とたたずに千夜が入店して来た。
「あれは ! 『ハーレム主人公に告白とまでは行かないけど脈あり発言を貰ったヒロイン』の顔…… ! 実在したのね…… ! ! ! 」
「すげー。さすが千夜御大将」
「私に見えないラブコメはないもの」
「だってさ」
「なおさら光良は何したんだよ……」
六股のクズ男をみるような目がリゼから飛んでくる。
これは弁明が必要そうだ。
「ハーレム主人公とは言っても、そんな恋愛的なものとか感じた事ないけどな」
「光良さんのは『お互い意識してないせいで、逆に付き合ってる感が出ちゃってる』タイプの関係が多いのよ」
「へぇ……誰と、誰だ ? 」
「シャロちゃん、マヤちゃん、私。たまに心愛ちゃん」
「えっ、私 ! ? だ、ダメだよ ! 姉弟で恋愛は ! こーくんがホントに捕まっちゃう ! 」
「義理やで」
「あっ、そっか」
「どれだけ姉役にのめり込んでたんだ……」
姉にのめり込んでいるし、さらっと光良を檻にぶち込んでるしでツッコミが追いつかない。
「そういえば、光良っていつも女の子と一緒にいるよな」
「マヤっちは推定少年だろ」
「でも、前に指輪をあげていたじゃないか」
「オママゴトみたいなもんじゃん。マヤっちもメグちゃんも真に受けてないさ」
「意外と気にすると思うけどな。結婚しても良いとか言ってるんだぞ ? 」
「別に俺も、してくれって言われたらいくらでもするけど」
「いくらでもはしたらダメだろ……」
リゼが突っ込むと同時に、光良はなにかを閃いたように手をポンっと叩いた。
「ジューンブライドをやろう」
「今8月だぞ ? 」
「2カ月遅れということで」
「何するんだよ ? 」
「ちょい待ち」
そのまま台所に消えていった光良。
十分ほどで戻り、手には四角いパンケーキを持っていた。
「こーくん、これなに ? 」
「婚姻届パンケーキ。チョコペンで名前欄に名前を書ける」
「また珍妙な物を……。横にあるレーズンとオレンジのアイスはなんだ ? うちにこんなのなかっただろ」
「あっ ! これ、前に私が間違えて発注しちゃったやつだ ! 」
「心愛……」
「まあまあ。こうして役に立った訳だし良いじゃないか」
「お前もお前だな……」
甘やかしが過ぎると呆れながらも、パンケーキ自体は美味しそうなので、リゼも強くは言えなかった。
「というわけで、写真をとってインターネッツに放流 ! 」
「チノに許可貰ってからにしろよ……」
「良いですよ別に。というか、いつも勝手に出してるじゃないですか」
「いや……まぁ、そうなんだけど……。良いのかそれで…… ? 」
「幸い、生肉などは扱っていないので」
どこか腑に落ちないリゼだったが、客が来たため考えるのは後にした。
「おにーさん ! ! ! プロポーズパンケーキをください ! ! ! ! 」
「おぉ。宣伝してから10秒も経ってないのに」
「名前変わってないか ? 」
「婚姻届パンケーキじゃ堅苦しいじゃん ? 」
厨房から出てきた光良がリゼに答える。手には例のパンケーキを持っていた。
メグに差し出すと、キラキラした目でチョコペンで名前を書き出した。
「お、おー……おにーさんと私の名前が、婚姻届に……」
「俺のこと書いてくれたの ? 嬉しいな〜」
「これを市役所に出しにいきます ! ! ! 」
「向こうの人がお腹空かせちゃうからやめようね」
「そういう問題じゃないだろ……」
もうちょい危機感を持てと、リゼは光良の頭にチョップを食らわした。
こんな調子が続くのかと、リゼは内心辟易してしまう。
「お客さん、来ませんね〜」
「うーん……美味いこともう一食売れてくれると手を打てるんだが……。ヤラセはおもんないしな〜」
「メグだけじゃダメなのか ? 」
「もうワンパンチ欲しいんだよ」
ウンウン頭を悩ませる光良をよそに、店のベルがもう一回鳴った。
「コンたろー、このネットのやつなに ? 」
「プロポーズパンケーキ。婚姻届を模して作ったパンケーキアートだ」
「こんいん届け…… ? 」
「結婚する時に使う書類。指輪を渡してもこれを出さなきゃ意味がないんだ。学校じゃまだ習わない感じか ? 」
「聞いたような、聞かなかったような……」
興味がなくて頭からスッポ抜けたであろうマヤに、パンケーキを見せる。
「こんな感じの書類、家庭科あたりで見なかった ? 」
「あー……たぶん ? 名前書かなきゃいけないことは思い出した」
「パンケーキにも書いてみてよ」
「夫の名前の部分、コンたろーで良い ? 」
「ええで」
慣れないチョコペンで名前を書いたあと、一仕事終えた風にマヤは手で汗を拭う。
「書いたらどうするんだ ? 」
「市役所に出しに行く」
「えっ、これを ! ? 」
「それは食べていいやつ。本物は紙で出来てるからね」
「びっくりした〜。結婚って難しいものなのかと思ったよ」
本気でパンケーキを市役所に持っていく気だったらしい。
メグとマヤは仲良しなのだと、光良は微笑ましさに頬を緩める。
「よし、これで2食売れたな。条件達成」
「なにか新しい能力が解放されるのか ? 」
「2個以上売れるとな、人の争奪本能を刺激出来んだよ」
「そうだつ……本能…… ? 」
「皆が欲しがってるものは、自分も欲しくなる」
「コンたろー……いつからそんな頭良くなったんだ ? 偽物か ? 」
「ひどない ? 」
疑心暗鬼の目でガチめに疑われていた。
確かにらしくない事をした自覚はあるが、そこまで警戒心を抱かれるとは夢にも思うまい。
「『早速2食注文が入りました』っと。おまけでここに『限定200食』って書いておけば大丈夫。2人とも、またお手伝いお願いしていい ? 」
「えっ、やる ! 」
「せ、制服は前と同じですか ! ? 」
「同じだけど……やっぱり嫌だった…… ? 」
「ぜ、ぜひ ! そのままで ! 」
どうやらあのブカブカ制服に愛着が湧いたらしいメグは、少し血走った目のまま制服に袖を通した。
やる気があるのは大変ありがたいけど、ちょっと怖い。
◇
ラビットハウスの閉店時間。
ソファーには、ぐでーっと魂の抜けたチマメ隊がいた。
「み、皆大丈夫かな ? チノちゃんなんて両手でパンケーキ焼いてたし……」
「リゼの鍛えたレンジャーだ。休めば持ち直すさ」
「そこまで厳しく育ててないぞ…… ? 」
「糧にはなってるだろ」
チマメの三人を遠目に、光良達も仕事終わりのティータイムを楽しむ。
「光良は大丈夫なのか ? 最近、徹夜なりなんなりで動きっぱなしだっただろ」
「大丈夫だいじょーぶ。これくらいで音を上げるほどヤワじゃないさ」
リゼの心配をあしらいつつ、光良は優雅に紅茶を嗜んだ。
とは言え、疲れているせいか紅茶の味が薄く感じた。
思っていた以上に疲れていたのだと、光良は胸の内で反省する。
「こ、こーくん ! 」
「んっ ? どしたん、そんな慌てて」
「紅茶 ! すごい零してるよ ! 」
「んえっ…… ? おー……なんか味がしないと思ったら。口に入ってなかったと……」
布巾を取るために立ち上がった瞬間、光良の世界がグラッと回った。
「光良 ! ? 大丈夫か──って、身体熱っ……」
「触った感じ、7度5分くらいかな……。こーくん、やっぱり無理してた ? 」
「いや、全然……。具合の悪さとかはまったくなんだけど……これ、死ぬ感じのやつ…… ? 」
「その弱音が出た時点で確定だろ。ほら、肩貸せ。運んでやるから」
リゼに肩を貸し、ゆっくり立ち上がった。薄っすらと吐き気も催している気がする。
そんな光良の危機を察知してか、マヤとメグも寄って来てしまった。
「こ、コンたろー ? 大丈夫か ? 」
「おにーさん……」
「そんな不安な顔しないでよ。ほら、世界が回って、小さくて可愛いマヤっち達がいるから、It's a すもーるわーるど〜……なんて」
「言ってる場合か ! ったく、こういう時まで人を気遣わなくて良いんだよ」
可愛い女の子たちに運ばれる様子は、さながら天使のお迎えだと、場違いな事を考えてしまう光良。
「うぅ……ちーちゃんの涼しい髪色が見たい……」
「これからいくらでも見れるよ。この家で看病してもらうんだから」
「あはは……そんなご迷惑したら、ちーちゃんに呆れられちゃうね〜」
「智乃 ! 冷やしたタオルを作っといてくれ──って、智乃 ? 」
リゼが見る先には、服の裾をつかみ、ふるふると身体を震わす智乃がいた。
「り、リゼちゃん ! タオルは私が ! あと、チノちゃんも私が見ておくから ! 」
「あぁ、任せた」
「ごめんな……リゼ、ここあ。世話になるよ……」
「礼なら明日聞いてやる」
謝罪はいらないイケメン対応で心を撃ち抜かれた直後、光良の意識はぱたりと途絶えた。