オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
目覚めたら、良さげな日差しが窓から差し込んでいた。すこぶる気分が良い。
あまりに理想的すぎて、ポエムの一つでも唱えてしまいそうだ。
「ん〜 ! この部屋も久々に見たな〜。俺がいた時のまんまだ」
心愛が来る前、光良はこの部屋によく寝泊まりしていたのだ。
智乃を案じていたのもあるが、好きな女の子と同じ屋根の下というのは、大変魅力的だった。
「昨日は……店が終わったあたりで記憶がないな。ずっと寝てたって事か ? 」
独り言で昨日の総集編をしてみるが、半日気絶していたので何も編集出来なかった。
ひとまず、皆への礼と謝罪を……とベッドを出ようとしたところで、身体が何かに引っ張られる。
「んっ……んん……コウ、さん…… ? 」
「えっ……ちーちゃん…… ?」
隣に智乃がいた。
寝ぼけ眼の智乃は、光良を瞳に移すと同時にガバっと身体を起こす。
「コウさんっ ! ! ! 」
勢いよく抱きついて来て、そのまま頭をグリグリして来た。
「心配……したんですからね……」
「ごめんね、迷惑かけちゃって」
「身体は大丈夫なんですか ? 」
「この通り。万全で意識もスッキリしてるよ。今日からまた働けるから、安心して」
今日もビシバシ稼ぐぞと意思表示を見せた光良。
その瞬間、智乃が怖い目で見上げて来た。
「ち、ちーちゃん ? どうしたの ? 」
「コウさんは、しばらく何もしないでください」
「な、なにも ? 働かないでとかじゃなくて……なにもしちゃダメ ? マヤっちと山行ったりとかも…… ? 」
「はい。安静が絶対です」
「どうして…… ? 」
「どうしてもなにも。過労で倒れたんですよ ? 寝てなきゃダメじゃないですか」
「えっ、ヤダ」
流石に軟禁はキツイと無理やりベッドから出ようとしたら、智乃の抱きつく力が強くなった。
つまるところ、光良はしばらくのベッド生活が確定したわけで。
「せ、せめて、皿洗いくらいは……」
「ダメです。なんで働こうとするんですか。世間では、労働はくそと言われてるんですよ ? 」
「いや、そういう意見もあるけど、俺はラビットハウスの手伝いをしたくて……」
「なんでですか ? 」
「ち、ちーちゃんの助けになるし……」
「私の助けになるから、頑張っちゃうんですか ? 」
「そ、そうだよ ! ちーちゃん大好き ! 」
大ぶりなアクションでラビットハウス……ひいては智乃への愛を語ってみた。
これで気持ちが伝わると良いのだが。
「これ、コウさんにあげます」
「封筒 ? ちーちゃんからのラブレター ? 」
おおよそラブレターには見えない茶封筒の封を開け、中にあるメモ帳サイズの紙を取り出す。
そこには、「解雇通知」と書かれた手書き文字が──
「……へっ ? かいこ…… ? 」
「はい、解雇です」
「な、なんで……」
「これが一番私のためになるからです」
「ろ、労基でも来たの…… ? 」
「違います。私が決めたんです。コウさんに無理をさせないために」
「そ、それでもクビはやり過ぎだよ ! 」
頭が追いつかない。捨てられた犬の気分だ。
光良にも理屈は分かる。ただ、心が受け入れようとしなかった。
「好きなだけここにいて良いですから。でも、動こうとはしないでください」
「ち、ちーちゃん……」
「泣きそうな顔をしてもダメです。私の役に立ちたいと言うなら、私の言うことを聞いてください」
「……わかった」
「はい。いい子いい子です」
サスサス頭を撫でられて、光良は病床の身になってしまった。
智乃の優しさなのは分かっているが、言うなればこれは従業員への優しさ。
「お店があるので、私はそろそろ行きますね。絶対、安静にしてなきゃダメですよ ? 」
「うん……ちょっと一人になりたいから、鍵かけて良い…… ? 」
「お好きにどうぞ。あと、小腹が空いたらそこのミニ冷蔵庫から取ってください。昨日大急ぎで買って来たんです」
「うん……ありがと……」
「では、お大事に」
どこかご満悦そうな智乃を見送り、光良は部屋に鍵をかける。
一度ベットに寝転がり、窓から入る日差しで頭を整えた。
「窓か……脱走少年マドカ・カギカ、なんて。ぷふっ……」
自分で言って自分で笑いながら、光良は窓にかかったカーテンをバサッと靡かせる。
「よし ! 男は度胸 ! ! ! 」
意を決して、光良は窓の鍵に手をかけた。
◇
光良の容態を伺いにやって来たマヤとメグ。
なにやら、リゼと智乃が揉めている様子だった。
揉め事に熱が入りすぎて、店は心愛のワンマン状態になっている。
「リゼ、どうしたんだ ? 」
「け、喧嘩は良くないよ〜…、」
「あぁ、マヤメグか。実は、光良の事でちょっとな」
「お、おにーさんになにかあったんですか ? 」
「わ、私、解熱剤持って来たよ ! ほら ! 」
「あぁ……そうじゃなくて。智乃が光良をクビにしたんだよ」
「「……えっ ? 」」
ポカンとしたまま二人は固まる。
マヤにいたっては、あまりのショックに薬の入れた袋を落としてしまった。
「「なんで ! ? ! ? 」」
「光良がもう無理をしないようにだと」
「それにしてもやり過ぎだよ〜 ! 」
「そ、そうだよ ! コンたろー、あんなにチノが好きで、店のこと頑張ってたのに ! 」
なぜなぜ攻撃が止まらないマヤとメグ。
2人の猛攻に気圧されながらも、硬い意地は曲げず、智乃は制服のスカートをきゅっと握った。
「あのままにしたら、死んじゃうかもしれないじゃないですか」
そっけない素振りで答えた智乃。
ただ、スカートを握る手は小さく震えていた。
「……うん、そうだな……。ごめん、チノの気持ち考えてなかったや……」
「そ、そうだよね、おにーさんが倒れちゃったら不安にもなるよね……」
「あっ、い、いえ……ごめんなさい……。意地悪を言ったみたいで……」
気まずい空気が流れる。
そこに耐えきれなくなったリゼがジュースを持って来た。
「ほら、飲め。気が沈んでると出来ることも出来なくなるぞ」
「なんか、男前だな。リゼの気遣い方」
「おにーさんとは違って新鮮だな〜」
「力も強いですしね」
「お前ら……」
頭を抱えつつ、少しは場を和ませられた事にリゼは安堵する。
「光良はもう起きてるんだろ ? 」
「はい。容態としては万全の状態かと」
「やっぱり、クビにしなくても良かったんじゃないか ? それに、光良も店に来にくくなるだろうし」
「そこは大丈夫です」
「えっ、どうしてだ ? あいつ、そういうのめちゃくちゃ気にするだろ ? 」
ジュースを一口飲んだ智乃が、満面の微笑みで語る。
「コウさんは、私が養うので」
ここに住まわせ、世話をし、無理はさせない。
光良はここにいられるし、智乃も不安にならずに光良といれる。
お互いWin-Winだと、智乃は満足そうに語った。
「あれ ? 皆どうしたの ? 怪談を聞いた時みたいな顔してるよ ? 」
店が一段落した心愛が皆の元にやって来る。
状況が飲み込めず、ポカンとしていた。
「ココア、どうしよう……。チノが壊れちゃった……」
「えっ、どういう事 ! ? チノちゃんも具合悪いの ! ? 」
「違いますよ。コウさんとの将来を語ったら、おかしな人みたいに言われただけです」
「なんて言ったの ? 」
「コンたろーを養いたいんだって」
「ち、チノちゃんも姉に目覚めたの ! ? 」
「ほら、今のチノはココアと同類なんだぞ」
「ちょっとマヤちゃん ! ? チノちゃんもショック受けたような顔しないで〜 ! ! ! 」
豆鉄砲を食らったような智乃の顔を見て、心愛にもショックが連鎖する。
「あっ、でも ! おねーちゃんの先輩になれるから、名実ともにチノちゃんのおねーちゃんだね ! 」
「一緒にしないでください……。そこまでジャンキーじゃないです……」
「チノちゃ〜ん ! 」
いつも通りあしらわれてしまった心愛。
「うぅ……私を姉と慕ってくれるのはこーくんだけだよ……」
「はいはい。あとで好きなだけおねーちゃんして良いから」
「こーくんがいないのにどうやるの〜 ! 」
「大げさだな……。2階行けば良いだけだろ…… 」
リゼに言われた心愛が、ポカンとした顔で尋ねる。
「えっ、こーくんって実家に帰ってるんじゃないの ? 」
瞬間、静寂と皆の真顔が心愛を襲った。
「あれ…… ? 私、なにか変なこと言った…… ? 」
「ココアさん、コウさんが実家に帰っているとは ? 」
「えっ ? ほら、さっきメッセージで『実家に帰ります。夏休み明けに会おうね。アデュー ! 追記:皆に土産は何が良いか聞いといてくれ』って」
メッセージを見た智乃が、フラフラと椅子に倒れ込む。
「ち、チノちゃん ! ? やっぱり具合悪い ! ? 」
「あー……ココア ? 今はそっとしておいてやってくれ」
「えっ……ど、どいうこと ? 」
「長くなるから後でな──はぁ……野生児かあいつは……」
「な、仲間外れにしないでよ〜 ! 」
頭を抱えるリゼに、ココアはワケもわからず情報共有をせがんだ。
これからどうすれば良いのか、リゼはワナワナ震える智乃を見ながらため息を吐いた。