オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
おちょこに入れた甘酒をぐいっと飲み干しながら、光良は山のようなおはぎを雑に放り込んでいく。
「光良さん ? 食べ過ぎは身体に毒よ ? 」
「今日だけ……ちーちゃんに捨てられた今日だけはヤケに走らせてくれ……」
「糖尿病になって足でも切ることになったら、もうチノちゃんには会えないわね〜」
「…………なんか、砂糖入ってないやつちょうだい……」
「かしこまり〜」
出されたせんべいと緑茶を齧りながら、光良は再度ため息を吐く。
「これからどうしよう……。ちーちゃんといるためにこの街に住む準備をしてもらったわけだし……でも、帰りたくねぇよ〜……」
「光良さんの本当の家ってどこにあるの ? 」
「この街から電車で10駅離れたところ」
「割と近所なのね」
「だからこそ、しょっちゅうこっちに遊びに来れて、今のちーちゃんとの関係が築けたんだ。まぁ、その関係も崩れ去ったけど……」
自分で言ったくせに胸を痛め、ヤケ緑茶を喉に流す。
思い出せば思い出すほど、涙が止まらなかった。
「帰る前に、少しうちに泊まっていったら ? シャロちゃんとも話したいでしょう ? 」
「それはそうだけど……良いのか ? こんな、嘘しか取り柄のない狐男を……」
「自虐になってないわね」
「そう…… ? 他所じゃただの短所だと思ってたんだが……」
光良の自信消失が酷過ぎて、千夜は体内時計が狂ったような違和感を覚えてしまう。
「それじゃあ、早速働きましょうか」
「えっ、良いの ? 過労で倒れた前科持ちだぞ ? 」
「良いの良いの。私がちゃんと教えるから。おねーさんに任せなさい ! なんて。ラビットハウスの代わりにはなれないけど」
千夜なりに元気づけようとしてくれているのに気づき、光良も涙を拭う。
少しだけ元気が湧いたような気がした。
「俺、何すれば良い ? 調理 ? 」
「実はね、最近キツネうどんとたぬき蕎麦みたいな和菓子を作ったんだけど、宣伝する方法が思い浮かばなくて。たけのことキノコみたいに売りたいんだけどね ? 」
「なにそのピンポイントに俺向きな仕事……。今作ったとかじゃなくて ? 」
「もう一カ月は頭を悩ませてるわ。キツネ耳が似合う人が見つからなくてね〜」
「シャロちゃんは ? 」
「フェネックみたいになっちゃうのよ」
「あ〜……THE・洋風って感じだからな〜」
キツネ耳を装着したシャロを想像してみる。
可愛い。しかし、キツネうどんと言われると確かに違和感だった。
「というわけで、お願いね ♪ 」
「お任せあれー」
千夜と話していると本調子が湧いてくる。
本気で甘兎庵に転職しようかと、光良は迷ってしまった。
──
甘兎庵は入店ベルも和風だ。
風鈴のようにも聞こえるし、寺の鐘のようにも聞こえる。
「コーラ先輩、何してるんですか ? 」
「なにって、バイトだけど」
「さっきラビットハウスを覗いて来ましたけど、すごい忙しそうでしたよ ? チノちゃんも大変そうでしたし」
「ラビットハウス、クビになっちゃった」
「……はぇ ? 」
魂が抜けたという表現がしっくり来るシャロの顔。
ぽけ〜っと空いた口が、ショックの大きさを物語っている。
「だから、ここで少しバイトして、実家に帰ろうかなって」
「コーラ先輩はそれで良いんですか ? 」
「やだ…… ! 欲を言うなら帰りたくない…… ! ! ! せめて高校卒業まではちーちゃんといたいよ…… ! 」
「未練たらたらで安心しました」
『悔いはない』と言ったらぶっていた。
シャロの目はそう語っている。
「なんでクビになっちゃったんですか ? 」
「昨日、過労で倒れて……今朝ちーちゃんに……」
「それで、甘兎庵に拾われたと」
「いや、香風家で看病して貰ってたんだけど、辛くて脱走して来たんだ。それで、ここでヤケ甘酒してたら、思い出作りにどうか、と」
「だ、脱走 ? なんでそんな事を……」
「だって、クビになった店に通うの気まずいし、それだとちーちゃんに会えないし。そう思ったら、あの家の景観とか匂いとか、全部……心に刺さって来て……うっ゛……」
「あぁ、もう……泣かないでください……。よしよし……」
思い出しただけで大粒の涙が出てきてしまう。
撫でてくれるシャロの温かみが、本気で心に沁みて来た。
「ここで少し働いたら、ほんとに帰っちゃうんですか ? 学校は ? 」
「俺の通ってる学校。俺の家とちーちゃんの家の中間くらいなんだ。だから、実家からでも通える」
「なんでそんなちょうど良い位置に…… なんか、今の状況を見越してませんか ? 」
「まぁ……遅かれ早かれ、ちーちゃんに嫌われるのは決まっていた事だったし……」
シャロの頭では理解できなかった。
智乃が光良を嫌う。どこからどう見ても光良大好きっ子の智乃が。
詳しく聞きたいところだが、今の光良のメンタルじゃ会話は無理だとシャロは断念した。
「シャロちゃんにもお世話になったね……。一緒に遊ぶの楽しかったよ……」
「小学生の引っ越し挨拶ですか……」
今更ながら、光良とさよならをしなきゃいけない事実に胸が締め付けられてしまう。
「千夜は挨拶とかしないの ? 」
「あら ? 混ざって良いのかしら ? 」
「混ざりたいって顔に書いてあるわよ」
「うふふ、そうね。ちゃんと言いたいことは言わないと」
普段と変わらない素振りの千夜は、光良に何かの鍵を差し出した。
「うちの鍵よ」
「す、住めってこと ? だめだよ……そんな迷惑かけられない……」
「だって、嫌だもの。光良さんとたまにしか会えなくなるなんて」
「それにしたって ! 住まわせるのはやり過ぎだよ ! あ、遊びに来ようと思えばいつでも──」
「その遠くから遊びに来るっていうのが嫌なの。もう、乙女心の分からない光良さんね」
「友情って乙女心なのか…… ? 」
「広義で見ればそうよ」
珍しくプリプリ怒る千夜を横目に、今一度渡された鍵を見つめる。
やっぱり、どう考えてもそこまでの迷惑をかける気にはなれなかった。
心苦しいが、シャロにも協力して貰って──と、光良は目配せしようとするが、気づけばシャロも何かの鍵を握っていた。
「オチが見えてるから手短に聞くけど、なんで…… ? 」
「私も嫌ですもん。コーラ先輩と会えなくなるの」
「欲張りね〜。シャロちゃんまで手籠めにするなんて」
「ツッコミが、ツッコミが追いつかない…… ! 」
メッセージカードのノリで合鍵を渡してくる2人に、光良の頭はパンク寸前だった。
「街から出れないとか因習村か ? 」
「嫌なんですか ? 」
「ありがたい限りだけど、流石にちょっと遠慮が勝つと言うか」
「なら、決まりね。今日はどっちの家に泊まってもらう ? 」
「というより、住居は私の家で良いでしょ。甘兎庵の隣だし、なによりコーラ先輩も泊まり慣れてるし」
「独占欲可愛い〜」
「そんなんじゃないわよ ! 」
いつものやり取りを見せる2人を前に、もう拒否権を行使する隙がない事を察した光良。
変な方向に話が拗れた気がする。