オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
光良の頬がじんじんと痛む。虫歯の次に痛かった。
よほど力を込めたのか、殴ったリゼも息切れを起こしている。
この展開は、一体──
「なにすんねんッ ! ! ! 」
「それはこっちのセリフだバカ ! ! ! 丸一日連絡もよこさないで ! こっちがどれだけ心配したか……」
途端に涙ぐむリゼを見て、何か認識の齟齬がある事を光良は理解する。
「リゼ、部下にストライキされて人質になってたんじゃないの ? 」
「なんだその映画みたいな状況は……」
「えっ。じゃあ、あの街にいるリゼの使用人は ? 」
「アタシが組織した捜索隊だが」
「捜索隊…… ? 誰の ? 」
「お前の」
「俺の ? 」
「うん」
訳が分からず、光良は一度深呼吸をする。
「えっ……なんで…… ? 」
「なんでもなにもあるか ! 勝手に抜け出した挙句、実家にも帰ってないって分かったから……ほんと、どこ行ってたんだよ……」
「ちなみに、捜索範囲はだいたいどれくらいだったの ? 」
「光良の実家からこの街までだ。ヘリまで飛ばしたのに…… 一体、どこに隠れてたんだ…… ? 」
「どこって言われても、シャロちゃんの家に泊まっていただけで。あと、別に隠れてたわけじゃ」
そう伝えた瞬間、リゼは今までに見せた事のない勢いで膝から崩れ落ちる。
「これが……灯台下暗し…… ! ! ! 」
「あー……なんか、ごめん。実家に帰る前に思い出でも作ったらって、千夜たちに誘われてだな」
「そうか……まあ、事情はわかった。とりあえず、チノに連絡するからちょっと待っていてくれ」
「ちーちゃんに連絡 ? なんで ? 」
「はっ ? 」
純粋な疑問として尋ねたら、親の敵みたいな顔のリゼに睨まれた。
「お前、それ本気で言ってるのか ? 」
「えっ、いや……だって、クビになったんだよ ? どう見ても嫌われてるのに、なんでわざわざ……」
「…………あー……光良の中だとそういう認識なのか……。いや、まぁ、よくよく考えると普通はそうなるのか…… ? 」
「えっ、なに。もうこの時点から誤解があるの ? 」
実はめちゃくちゃ好かれていた……みたいな物を光良は期待してしまう。
いや、そうなると智乃がとんでもなく重い女の子になるので、ありえない話なのだが。
「チノは、光良を養おうとしてたんだよ」
「冗談はやめてくれ。嫌いな相手を養うとかちーちゃんが可哀想だろ」
「流石にそれはグーが出るぞ ? 」
「その予備動作は銃が出るやつでは…… ? 」
上着の内ポケットに手を忍ばせるリゼ。殺る気だ。
「はぁ……今のお前は殴られても分からなそうだな……」
「えっ、なに。ほんとにちーちゃんは俺を養おうとしてたの ? クビにした相手を ? 」
「最初からそう言ってるだろ。そもそも、なんでチノに嫌われたとか勘違いしてるんだ。嫌われるような事なんてしてないだろ」
「……まあ、リゼの前では」
「アタシの前以外でもだ」
「なんでそんな信頼度高いの…… ? 」
「心愛やマヤを見てれば分かるよ」
なにか、普段懐かない動物に懐かれてるから優しい……みたいな評価を貰った気がする。
それで良いのかと、光良は訝しんだ。
結局、チノに嫌われていない理由にはなっていない訳だし。
「とりあえず、なにか二人だけにしか出来ない話があるのは分かったよ。なら、尚のこと話はした方が良いだろ」
「夏休み明け辺りに挨拶しにいくけど」
「今行け。チノがもう限界なんだよ」
「げ、限界って…… ? 」
「言葉じゃ説明できん。行けば分かる」
どんな状態なのかが気になりすぎて、今すぐ行きたくなってしまった。
「ちーちゃんって今どこにいるの ? 」
「光良の家。確か、『コウさんの部屋を片付けて来ます』って言ってたから、そこにいると思う」
「えっ ? あんなところにいたら生気なくなるぞ ? 」
「お前、普段どんな家に住んでるんだ……」
最後はリゼに呆れられ、光良は屋敷の玄関へと向かった。
「あれ、マヤっちとメグちゃん ? 」
「お迎えしてくれるほど好かれてるって事だな」
リゼは好かれていると評すが、あまり良い印象は持てなかった。
玄関の先にいる2人が、ピコピコハンマーを持っていたから。
「あっ ! コンたろーがいた ! かかれ〜 ! ! ! 」
「や、やぁ〜 ! ! ! 」
ピコ
ピコ
ピコ
「いてっ……いてっ……。り、リゼ ? なんかめっさ攻撃されるんだけど ? なんで ? 」
「わ、わからん……。2人とも、どうしたんだ…… ? ほら、探してた光良だぞ…… ? 」
「リゼ ! こいつ偽物だよ ! ! ! さっき屋根の上を走ってるの見たし ! きっと、オバケか妖怪に乗っ取られてるんだ ! うお〜 ! コンたろーから出ていけ〜 ! ! ! 」
「で、でていけ〜 ! 」
「いてっ……いてっ……」
ピコ
ピコ
ピコ
ハンマーの音が鳴り響き、割りかし痛いより痛みが光良の腹を襲う。
「ま、マヤっち。俺は正気だし、本物だぞ ? 」
「じゃあ、なんで屋根の上を走ってたんだ ? 」
「この屋敷に来るための近道だからとしか」
「コンたろーなら人ん家の迷惑を考えて絶対そんな事しない。それに、私の前でそんな危なっかしい事するわけない ! 」
「いや、そんなセンサーばりの気配りとか出来ないし、そもそもそこまで考えてないよ……」
「コンたろーはもっと頭良くて優しいんだぞ ! やっぱりニセモノだなお前 ! コンたろーを返せー ! 」
「か、かえせ〜 ! 」
「いてっ……いてっ……」
ピコ
ピコ
ピコ
絵面は面白いが、思っていた以上にマヤとメグに愛されていたようで、光良の目尻に涙が潤んでしまう。
このまま偽物として成敗されても良いとさえ思えた。
「ま、待て ! 2人とも ! そのルートを教えたのはアタシなんだ ! だから、光良を責めるのは──」
「……リゼもニセモノか ? 」
「せ、せいばい ! 」
「えっ…… ? 」
ハンマーの矛先がリゼに向く。
このまま眺めているのも良かったが、流石に度が過ぎている気がしたので止めに入った。
「マヤっち、メグちゃん。心配かけてごめん。でも、俺もリゼも本物だから、話を聞いて欲しい」
「……本当に本物 ? 」
「あぁ、本物だ」
「で、でも、行方不明になったらそう簡単には見つからないって、前にアニキが……」
「マヤっち、ちょっとタンマ」
「う、うん……」
予想の数倍深刻な理由でアタックをしかけられていた事実に、光良は胸が締め付けられる。
気づけば、マヤを思いっきり抱きしめていた。
「こ、コンたろー ? 」
「バカな事してごめん……。ちょっと、傷心旅行に出ていただけだったんだ。ほんとにごめん。それと、ありがとう」
「……うん、ちゃんとコンたろーだ……」
「ちゃんとコンたろーだぞ。メグちゃんもおいで」
「おに〜さん…… ! 」
ポロポロ泣いてるマヤとメグを見て、罪悪感が芽生えてきた。
これは、嫌われてるからなどと逃げてる場合ではない。
──
マヤとメグをなだめた後、光良は自分の家へと向かった。
香風家の隣、できれば一生住んでいたかった家。
「あれ、ここあ…… ? 」
「こーくん…… ! ? 」
家に入って真っ先に目に入ったのは、誰かの洗濯物を畳んでいる心愛だった。
「良かった……。無事だったんだね…… ! 」
「結構ガチ目の行方不明扱いを受けてた感じ…… ? 」
「まあ、そうだね……。最初は皆で周りを探して、駅の方まで行ったけどいなくて」
「シャロと千夜にはなんで聞かなかったんだ ? 」
「皆、街の外にいるんじゃないかって考えで……。私も……」
「本当に灯台下暗しだったんだな……」
膝から崩れ落ちたリゼの気持ちがなんとなく理解出来た。
ここまで大ごとになっている事を考えると、推定光良大好きの智乃の容態が気になってしまう。
「あれ、ちーちゃんの携帯 ? なんでここに ? 」
「こーくんに連絡を入れたけど、返事が返って来ないのが辛かったらしくて。今日はまだ一回も触ってない」
心愛の話を聞き、慌てて携帯の電源を入れる。
その瞬間、恐ろしいほどの通知が押し寄せて来た。
待ち受けが智乃の写真なので、見るのが辛くて電源を消していたのが仇になった。
「ちーちゃんの容態は…… ? 」
「見るからに塞ぎ込んでるって感じかな。こーくんをクビにしたの、すごい後悔してた」
「もしかして、クビにしたのに戻って来て欲しいとか言えない……みたいな事にもなってる ? 」
「たぶん…… ? それも塞ぎ込んでる理由かも……」
どうやら、ずっと智乃の世話を見てくれたらしく、容態にも詳しかった。
しかし、智乃を案じているはずの心愛の目は、なぜか光良に向いていて──
「こ、こーくん……」
「どしたの。そんな不安そうな顔して」
「日記のこと、話すんだよね ? 」
「話すよ。流石にそろそろ種明かしをしないとね。皆にも失礼になるから」
「そっか……」
どこか心苦しそうに、心愛は意を決して口を開く。
「チノちゃんとのこと、ダメだったらウチにおいでよ ! おねーちゃんも喜ぶし……私も、こーくんとバイバイするの……イヤだから……」
「うん、ありがと」
2、3回、心愛の頭を撫で、光良は礼を述べる。
葛藤の末の言葉らしく、苦渋の決断のような表情を心愛はしていた。
「ちなみに、心愛は今なんのジレンマを抱えているんだ ? 」
「妹は裏切れない…… ! けど ! 弟も裏切れない…… ! ! ! 」
「いつも通りだな〜。大丈夫、心愛はどっちも裏切ってないよ」
心愛といると元気が出てくる。
良いおねーちゃんを持てたものだと、光良は何度抱いたか分からない感謝を抱いた。