オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
誤登校事件から帰ってからの一時。
気づけばラビットハウスが開店する時間になっていた。
「今日はココアさんに接客をしてもらいます」
「うん、頑張るよ!」
「というわけなのでコウさんはキッチンに入ってください」
「why?接客といえば俺じゃないか。接客売上ナンバーワンだぞ?どーんと任せれば未来永劫安泰よ」
「参考にならないので却下です」
「教育係としてまだ何も教えられてないんだけど」
「教えてるじゃないですか。防犯とか、警戒心とか」
「保登の『保』は保育園の『保』ってこと?」
「保安の『保』では?」
「二人とも、何の話してるの?」
心愛が話についてこれず、ぽけーとし始めたので話を中断した。いつか心愛にもわかる時が来るだろう。
────
しばらく心愛に接客を任せたのち、暗算が早いという心愛の意外な特技を発見した智乃。
せっかくなのでレジにも立たせて回転率のニューレコードを目指してみた。
「ねぇねぇ、チノちゃん。こーくんの接客ってそんなに駄目なの?」
「ダメというかなんというか……ココアさんはホストクラブって知っていますか?」
「ほすと……くらぶ……?なにかのスポーツ?」
「こう……女の人がお金を払って、かっこいい男の人に色々なサービスをして貰うお店です」
「へぇ、そんなお店があるんだね。でも、こーくんには関係ないかなって思うんだけど」
「まあ……色々込み入ってて……」
どう説明しようかと頭を悩ませた智乃だったが、結局直球以外の方法が浮かばなかったため素直に説明した。
「まずは……あの奥の席で携帯をしている方。あの人は週一でここに足を運んでくれます」
「綺麗なお姉さんだね。大人な雰囲気で憧れちゃうな〜」
「あの人はコウさん目当てで来ています」
「……えっ?」
「正確にはコウさんと話すのが一週間の楽しみと言った感じです。興が乗ると紅茶を十杯くらい頼んで、おかわりの時にコウさんを指名します」
「お、おぉ……大人の恋なんだね」
「そしてカウンターにいる女の子」
「見た感じ小学生だけど……」
「あの子はコウさんにラブレターを渡した過去があります」
「えっ。だ、大丈夫だったの?」
「やんわりと断ったそうですが、結局今日まで通い続けています」
「は、初恋泥棒だ……」
智乃の説明を聞き、ホストがいけないものだと感じ取った心愛。
同時に光良が本物の不審者なのではないかと、出会った日の疑いの気持ちがぶり返してしまう。
「で、でも、皆いい人そうだし、やっぱり問題はないんじゃ……?」
「あの人達はライト層なので」
「ら、らいと……?」
「軽めな方ということです」
「お、重めもいるの?」
「えぇ、いますよ。一人」
気まずそうに目を逸らす智乃。
同時に、店のベルがカランカランと響き渡る。
「チノちゃーん、こんにちは〜」
「いらっしゃいませ。メグさん」
「お兄さんいる〜?」
「はい。裏に呼んでありますので、あとはいつも通りに」
「ありがと〜」
そうしてスタッフ専用の扉をくぐり抜け、メグと呼ばれた少女は店の奥に消えた。
ふわふわした雰囲気で、絵に書いたようないい子という印象である。
「チノちゃん?さっきの子は?」
「奈津恵さんと言います。私の友達で……さっき話した重い方の張本人です」
「……えっ、あの子が!?コウくんと二人にして大丈夫なの……?」
「元々お淑やかな子なので、おかげで大事には」
「く、苦労してるんだね……」
「いえ……まぁ、慣れです……。今も少しだけ受け入れきれてませんけど。む、昔はあんなに純真だったのに……」
「あはは……」
ガタガタ震える智乃の姿に、恵の豹変ぶりが伺えた。
「うぅ……コウさんがいつ襲われるかを考えると余り一緒にいさせたくないのですが、コウさんが絡むとすごく押しが強くて……」
「こーくんから何か言ってもらえば?」
「今は、店の手伝いをしてくれるだけなので、蔑ろには出来ず……。料理や皿洗いを手伝ってくれて、本人曰く花嫁修業と……」
「は、花嫁……」
心愛の中の不審者ゲージかぐんぐん上がった。危ない人すぎる。
◇
香風家のキッチンにグツグツと鍋の煮立つ音が響く。
「そういえば、新しい店員さんがいましたね〜。新人さんなんですか〜?」
「あぁ、進学と同時にね。うちにホームステイを」
「へぇ〜……なら、お兄さんと同居って事なんですね〜。良いなー」
「同居……同居か。そう言われると新鮮味が湧いてきたな」
「馴染んでるんですね〜、あの店員さん」
「活力の塊って感じでさ。一緒にいると楽しいよ」
「へぇ〜」
今更ながら、環境の変化を感じ取ってしまった。はて、心愛とは昔なじみの義兄妹で……
恐るべし、保登心愛。
「お兄さんから見て〜、店員さんってどうな感じなんですか〜? ちのちゃん以外の女の子との同居ですしー、ドキドキしちゃうとかー」
「妹みたいなものだしなー。それに俺、ちーちゃん一筋だし」
「初耳ですねー。またチノちゃんに怒られますよ〜?」
「かもねぇ……」
光良の記憶では、小5辺りまでは喜んでくれていた。
やはり、同じネタを擦るのはセンスに欠けているのだろうか。
「口説く事でしかちーちゃんを喜ばせることが出来ないんだけど、何かいい案ないかな? 年頃の女の子にバカウケする良い感じのやつ」
「わたしと付き合ってることにするとかはどうですか? 」
「追われるのではなく、追いかける側にする、と」
「そんな感じです〜」
「う〜ん……あんま必死になる姿が見えないな……。素直に祝ってきそうじゃない?」
「そうですかね〜? ちのちゃん、お兄さんのこと大好きですよー?」
恵の脳裏に浮かぶ、光良の愚痴を話す幸せそうな智乃の姿。
さながら、熟年夫婦の愚痴風惚気のようだった。
「まあー、わたしと付き合うまでとは行かなくても、少し距離が離れただけで変わると思いますよ〜」
「なるほど。流石メグ御大将」
「なのでわたしの家に住みましょう! お兄さんの部屋はありますので ! 」
「あはは。なら、またお泊まりさせてもらうよ。今度のお見上げは何にしよっか……時期的にイチゴとか?」
「むぅ……そうじゃないのに……」
プリプリ頬を膨らませ、毎度よろしく恵は流される。
「お兄さんって、女の子の扱いが上手ですよねー 」
「そうかな……? 毎日ちーちゃんに怒られてるけど……」
「お兄さんを叱っている時のチノちゃん、すごく活き活きしてます。甘えているんだと思いますよ?」
「変わった甘え方だね」
親しい男を叱って活き活きする。
やはり智乃には鬼嫁の才がある。光良評は間違いなかった。
◇
恵の自称花嫁修業が終わり、相手様のご帰宅を見送った光良。
ラビットハウスのドアが閉まると同時、心愛が税関ばりにボディーチェックを始めた。
「どしたの? テレビの影響かなにか?」
「いや……こーくんが何かされなかったかなって……」
「何かって?」
「えっと……なんかこう……危ないやつ……?」
「大丈夫大丈夫。ラビットハウスで仕事する時は危ない事してないから。変なものはつかないさ」
「ラビットハウス以外でなにかしてるの?」
「あ、やっべ……今のはカットでお願い」
「えっと……なにしてるの? 」
「人にはさ、誰にも言えない秘密があるんだよ」
「こーくん、危ない事はめっ!だよ!」
どこか姉オーラを漂わせる心愛を横目に、含みを持たせたキメ顔で光良はコーヒーを啜る。
味わい慣れた智乃を味を感じながら、窓の月を見上げた。
「またおかしな嘘をついて。昔からうちでみっちりしごかれて、ヒイヒイ言っていたのはどこの誰ですか」
「あぁ、ちょっ……今良い雰囲気だったのに……」
「……えっ、嘘だったの!?」
「いつもの悪ノリですよ」
「コウくん!」
「ぴぇ……」
心配そうに見つめていた心愛の様子は一変、怒モードになってしまった。
「いや、あの……なにかあらぬ疑いをかけられていたので……。ヤクのガサ入れ的な……。ここで乗らずは芸人の恥だと……」
「もう……本当に心配してたんだからね!メグちゃんになにかされてないかって……」
「メグちゃん……??? あんな良い子が悪さをするわけないじゃないか」
「でも──」
言いかけたところで、心愛は耳打ちをされる。
「すみませんココアさん。この人、そういう話に疎いんですよ」
「えっ、でも、こーくんってほすとなんでしょ?」
「思わせぶりなだけで、すごく鈍いんです」
「わ、悪い男の子だ……」
ヒソヒソとなにか良からぬ風潮を囁かれている気がする光良。
何もしていないのに、仲間からの評価がドンドン落ちている気がする。