オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
『そういえば、今日からラビットハウスで新作のお菓子を出すんだ〜! よかったら来てよ ! 』
心愛に誘われ、ラビットハウスを訪れた千夜。
開ける店のドア。店のど真ん中で正座をする光良。顔を赤くしてプンスコ起こる智乃。
今日はいい夫婦の日キャンペーンだろうか。
「ち、智乃ちゃん!? どうしたの !? 」
「聞いてくださいココアさん !!! 」
智乃にしてはとびきり張り切れた声で、抑えきれない怒りをぶつけてくる。
心愛が何枚皿を割ろうと怒らなかった智乃が、ここまでブチギレている。
一体、光良は何をしでかしたのだろうか。
「この人、また私のお弁当にハートマークのごはんを入れて来たんですよ !!! 」
「……へっ ? ハートマーク ? 」
こわばった肩の力が抜けていく。
大事じゃなくて良かったと、心愛は一つ息をついた。
「そういえば、私のお弁当にも入ってたっけ。可愛くて良いと思うけどな〜……なんて」
「そういう事じゃないんですよ !!! 」
「ご、ごめんなさい……!!!」
気迫迫る智乃の顔。思わず心愛まで正座してしまった。
「こ、こーくん……チノちゃんはなんで怒ってるの……? 」
「いや……前にピンクフレークでハートマーク作ったらバチギレられた事があってさ。反省して今回は海苔で小さいハートを作ってちょっと散りばめたんだよ。それでまたバチギレられてる……」
「ち、チノちゃん? やっぱり、こーくんは悪くない気が……」
「う、うるさいですよ ! だいたい、コウさんはいつもいつも──」
そこからグチグチと光良への愚痴を垂らしまくる智乃。
「わ、わかったよ。今度はもっと小さいハートにするから……」
「ハートをやめろって言ってるんです !!! 」
「でも、それじゃただの白米とおかずだけのお弁当に……」
「それで良いんですよ !!! 」
「で、でも!!! そんな事したら、彼氏スペックポケモンバトルでちーちゃんが負けて、他所から馬鹿にされちゃうかもじゃん !!! 」
「なんの心配してるんですか !!!! うちにそんなおかしな事をする人はいません !!!! あと彼氏じゃないです !!!!! 」
お互いに「でも」や「だって」や「だけど」の殴襲。
どんどんヒートアップしていき、最後には二人とも息を切らしていた。
「ぜぇ……ぜぇ……ちーちゃんのバカ ! もう知らない !!! 」
そして、乙女オーラを出しながら光良は店を……いや、香風家から出ていった。
「ち、チノちゃん!? 追いかけなくて良いの!?」
「た、大丈夫、です……。はぁ……はぁ……」
「二人ともハッスルし過ぎね〜。お茶、飲む ? 」
「あ、ありがとうございます」
やけ酒と言わんばかりの勢いでお茶を飲み、智乃はおっさんみたいな勢いで息を吐いた。
────
智乃の身体が冷めるまで5分の時を有した。
どれだけヒートアップしていたのだろうか。
「えっと、とりあえず……こーくんはどうするの……? 家出しちゃったけど……」
「大丈夫ですよ。家出した日はうちの庭でテントを張って過ごしますので」
「慣れてるのね〜。常習犯なのかしら ? 」
「まあ、年一、二回って感じですかね……」
「でも、意外だわ。光良さんって智乃ちゃんに楯突くのね〜」
「そ、そんな……奴隷じゃないんですから……」
半目を千夜に向け、智乃は一口お茶を啜る。
「けど……まぁ、今回は流石に言い過ぎました」
「えっと……一晩経てば解決する……って事で良いのかな ? 」
「はい、そんな感じです。あと、ごめんなさいココアさん。お騒がせしてしまって」
「全然大丈夫 ! いつもは私の方が迷惑かけてるし ! 」
フォローとしては微妙なフォローだと思いつつも、少し感傷に浸かっていた智乃は安心してしまう。
同時に千夜も胸を撫で下ろしたが……
瞬間、千夜の携帯がブルブルと震えだした。
「あら、シャロちゃんから ? ──」
メールを開く千夜。
内容は……
『コーラ先輩が泊めて欲しいって言ってるんだけど、妹さんと何かあったの ? あっ、コーラ先輩っていうのは前話した仲の良い先輩の事で──』
「あらあら、まぁまぁ……」
思ったより重症だった事と、いつの間にか幼馴染が爛らな男の手に落ちていたショックが千夜を襲う。
知りだったんかお前ら……なんて、心の中で突っ込んでしまった。
「『妹さんはもう許してるわ。って伝えといて』っと……」
皆には見えないように返信しつつ、千夜はニコニコ笑顔で何事もなかったかのように振る舞った。
「ちーーーーちゃーーーん!!!」
一分もたたずに光良は帰って来た。
その勢いのまま、気持ち悪い挙動で智乃に抱きつく。
心愛ですらちょっと引いていた。
「コウさん、気持ち悪いですよ」
「せ、せっかく帰ってきたのに……! 」
「帰って来たって……庭から戻って来ただけでしょうに……」
「いや、今日はシャロちゃんの家まで行って、さっきシャロちゃんからちーちゃんが機嫌直したって聞いたから」
瞬間、智乃の眉がピクっと反応する。
「……シャロちゃんって誰ですか ? 」
「ほら、前に『食器センスがめちゃくちゃ合う友達』の話したでしょ? その子」
「あれ、男の子じゃなかったんですか ? 」
「いや、全然女の子だけど」
「……なるほど」
そして、智乃は気をためるように深呼吸をした後、ダイニングテーブルにて光良と面談のような物を始めた。
「ご職業は?」
「ラビットハウスの爆イケウェイトレスです」
「シャロちゃんとやらのご職業を聞いているんですよ」
「バイトじゃない? まだ学生だし」
「年齢は ? 」
「年下かな? 先輩呼びなのを見るに」
「出会い」
「アンティークショップでレア物の食器を見つけたんだけど、その時にその子と手がぶつかってさ。お互い譲り合いバトルしてたら仲良くなった」
光良の一言一句を記録していく智乃。
面談というより尋問のような雰囲気で進む謎のイベントに、千夜と心愛は困惑する事しか出来なかった。
「あれ、心愛 ? どうしたんだ? そんなところに立ちっぱなしで」
「リゼちゃん……!」
リゼが出勤。心愛は事の一部始終を話した。
リゼならこの状況をどうにかしてくれると信じて。
「あれな、嫉妬してるんだよ」
「し、嫉妬……? チノちゃんが ? 」
「まあな。客の軽い好意なら平気なんだけど、ちゃんとしたのが出てくるとあんな風になるんだ」
「へ、へぇ……」
「意外とおませなんなのねぇ。チノちゃんって……」
「あぁ、光良ばっか目立つけど……割とチノも重いぞ」
智乃と光良がお似合いの二人だった事に失礼にも驚愕してしまう。
仲が良いとは思っていたけど、まさかここまでとは。
「でも、半分は心配なんだと思う。光良が変な女の人に捕まってないかって。あいつ、見た目だけは危なっかしい系だし」
「そ、そっか。ずっと仲良しそうでよかったよ」
「愛ね〜」
そうして、温かくもしんみりとした空気の中で、リゼは心愛の肩を優しく叩く。
「だから、お互い仕事頑張ろうな。智乃と光良のためにも」
「任せて ! ……って、リゼちゃん ? なんでエプロン着てるの ? 今日は接客じゃ……」
「智乃がああなったら、半日はそのままだぞ」
「……えっ ? 」
「だから、二人で頑張ろうな」
この日、ラビットハウスに鬼嫁の尋問と社畜の悲鳴が轟いた。