オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
いつぞやの、迷子の心愛を保護してもらった礼として、甘兎庵のお手伝いをする事になった光良。
智乃と心愛に渡された、お守り代わりのお弁当は忘れられない。惜別の時みたいな顔をしていた。
「光良さんに相談があるの……」
「おう、良いぞ。あと、この『月光とワルキューレ』ってメニュー食べていい ? 」
「良いわよ。『月光る癒やしの詩』だけど」
黄色い団子が乗ったかき氷が出てきた。
礼儀としてかき込んで頭を痛めておく。
「それで、相談って ? 」
「シャロちゃんがね、恋愛漫画の愚痴りながら好きな人の好きな所を語るみたいな顔で、『ムカデって昆虫じゃないわよね』って言ってたの……! 嗚呼、きっと……前途多難な恋を……」
「普通に俺のせいだな。昆虫スイーツ教に誘った時に、次はムカデまんじゅうを作るって言ったから」
「今日のお給金、無しで良いかしら ? 」
「そんな……! お金目当てで来たのに……! 」
「嗚呼、シャロちゃんの目を覚ましたい……! 」
お互いにオヨヨオヨヨと悲しそうなボケをかますが、ツッコミ役がいなかったので自然消滅した。
「んで、今日は何すればいいの ? いつもみたいに接客 ? 」
「そうねぇ。そろそろ和菓子、作ってみる ? 」
「良いのか ? 企業秘密だろうに」
「良いの良いの。うちだってラビットハウスの企業秘密を使ってるわけだし」
「えっ、そうなの ? 実感わかないけどな……あっ、看板兎がいるところとか ? 」
「そんなところかしらね。さっ、お喋りはこの辺にしておきましょ」
パンと手を叩き、千夜は店の奥から何かの布を取り出してきた。
「これは ? 」
「うちの制服よ。男性用のね」
「おぉ……ついに俺も甘兎庵制服に袖を通す時が」
「おじいちゃんのお下がりだけどね。ちなみに私のはおばあちゃんの」
「ラブコメ漫画だったら良いおまじないになりそうだな」
「私は白無垢派よ」
「ドレス派」
「破局ね」
「だな〜」
お互いに冗談を交わしつつ、光良は制服に袖を通してみる。
和装をした試しはないが、個人的には似合っている気がした。
「どう ? 様になってる ? 」
「完璧よ。小指詰めてそうだわ」
「それ褒めてる ? ていうか、どういうコンセプトでこの服を用意したの ? いったんそこのすり合わせを──」
「こちらが和菓子を作るための道具達よ〜」
質問は受け付けない態度のまま、どんどん和菓子の作り方を説明していく千夜。
仕方ないので、今は素直に新人研修を受けておく。
「そういえば、開店はしてるんだよな ? 付きっきりで良いのか ? 」
「大丈夫よ。光良さん、飲み込みが早いもの」
そして不意に、入り口の鈴が鳴り響いた。
「お~、ほんとにコンたろーがいる」
「お兄さーん、こんにちは〜」
「あれ、マヤっちにメグちゃん ? いらっしゃいだけど、珍しい組み合わせだね」
「私達、友達なんです〜」
「そうそう。チノと三人でチマメ隊なんだ ! 」
「へぇ〜、良い名前だね。めっちゃ努力してるって感じがする」
いきなり知り合いが来るとは運命的……なんて思ったが、どうやら智乃から聞きつけて来たらしい。
「ちーちゃんはどんな感じだった ? 俺がいなくて寂しい、とか」
「いや ? いつも通りだったぞ ? 」
「私も聞いてみたけど、『もう何回も経験してるから』って言ってました〜」
「やっぱりかぁ……。相変わらずだなー」
「ほんと、コンたろーってチノのこと大好きだよな〜」
「こういうの、あうとおぶがんちゅーって言うんだよね〜」
「やめいやめい、照れちまうぜ。がっはっは」
茶化して誤魔化しつつ、智乃の素っ気なさに撃ち抜かれたハートを諌める。
「そういえば、メニューどうする ? 」
「じゃあ、この漢字の龍がいっぱい入ってるやつ !」
「私はお兄さんのおすすめ〜」
「かしこまりー。ちょっと待っててね」
相変わらず、店員目線で見ても訳のわからないメニュー表だ。
「千夜ー、注文入ったぞー。龍がいっぱい入ったやつと、俺のおすすめだってさ」
「光良さんのおすすめ ? 何を出すのかしら ? 」
「つっても、俺ここだとオハギしか食べないしな……。うーん……女の子にオハギ直出しはありえないとして……なにか、良い感じのメニューない ? 」
「相手の子って、あのおっとりしてる子で大丈夫 ? 」
「そうそう。おっとりしてて、将来のために料理を学んでる真面目な子なんだ。年上の俺相手でも物おじしない強さもある」
「なら、これはどう ? マンゴーシロップの果物かき氷とか」
「あー……メニューで言うと ? 」
「色彩が踊る南国の夕日」
「あぁ、これね。覚えた」
早速調理にかかりつつ、分かりにくいメニューを思い出して苦笑いを浮かべる。
「ご意見ご要望ならいつでも受付中よ」
「クビになるから遠慮しておく。あぁ、店長が可愛すぎて仕事に集中出来ないってのは送信しとくよ」
「セクハラで却下。第三者委員会よ」
「こわー」
完成したメニューを持ってそそくさと逃げた。
千夜と軽口を叩き合うのは妙な居心地の良さがある。
「おまちどうさま。龍群の滝登り、龍昇る龍の千龍と、色彩が踊る南国の夕日です」
「お~、すげー。あんこが山盛りだ〜」
「デッカイかき氷だね〜」
「食べ切れなかったら遠慮せずに言ってね。俺のまかないにするからさ」
「あはは、そんな行儀悪い事はしないよ」
「そうです。それに、お菓子がご飯は不健康ですよ ? 」
「大丈夫。俺、大食いだから」
女の子というのは、意外とパワフルな生き物なのだということを知った。
光良は余計な心配をしていたらしい。
「うっし、この調子でバンバン働いて、甘兎庵の資本金を一億にするぞ〜 ! 」
「期待の新人ね。こういうの、大型新人っていうのかしら ? 」
「照れる〜。褒められたの久しぶり」
「うちに来たら毎日こうしてあげるわよ ? 朝から晩まで」
「ヘッドハンティングだ。ラビットハウスをクビになったら考えてみるよ」
「うふふ、先に寿命が来ちゃいそう。手回ししちゃおうかしら」
「狩りをするなら慎重にな」
千夜のことだし、智乃も心愛もリゼもまとめて受け入れそう。
光良自身、千夜の懐の大きさには何度もお世話になって来た。
「まぁ、あと数年もすれば、ちーちゃんが一人前になって俺もお役御免になるはずだし。転職先として検討してみるよ」
「時間が経つのは早いわね〜」
予想とは裏腹に、和菓子作りも慣れてしまったせいか、柄にもない事を考えてしまった。
自分が智乃の側を離れるなどありえない。
また、鈴が鳴った。将来に思いを耽馳せるのは後にしよう。
「えっ、コーラ先輩 !? なんでここに、甘兎庵の制服……しかも見たことない制服だ……」
「転職しちゃったぜー」
「まっ゛……!? ば、バイト探してたなら言ってくれれば良いのに ! あっ、お金大丈夫ですか……? たぶん、金欠ですよね……? 」
「落ち着いてシャロ様。千夜がすごい目で見てるから。というか狩られる。俺まだ死にたくない」
蒸籠で蒸されるのか、あんこをこすやつで絞め殺されるのか、めんぼうで半殺しにされるのか。
方法は分からないが、千夜は光良を殺る。そんな目をしていた。