ジャックちゃんのエミュが地獄のように難しいこの頃
「「「………」」」
USJの襲撃から数日。前まで賑やかすぎるくらいに響いていた声も無く、教室は静まり返っていた。その理由は一つ、あの事件で唯一の死者であるレフ・ライノールその人だ
そして僕も、一種の放心状態にあったのだと思う。足手まとい、役立たず。そう何度も自分を責めた。レフさんは僕を庇って死んだ、僕が殺したようなものだと、心の深いところで黒い歪となって沈殿して行く、蠢いていく。あの時の僕たちは足手まといの他なかった、ヴィランを僕たちだけで上手く倒せたことで少しだけ慢心していたのだろう、そうでなければあの戦いの場にむざむざと近づいたりしない。結果としてそんな僕たちをヴィランは狙ったし、レフさんは身を挺して僕達を庇ってくれた
見知った人が死んだ事実に心が追いついていない、きっと他の皆も同じ気持ちなんだろう。ヒーローを心目指したとは言えまだ学生なのだから、その心的負担は計り知れないものだ。あの日僕達は、ヒーローが命がけで戦っているという事実に改めて気付かされたんだ
「ッッッがぁぁぁぁ!いつまでもシケてんなやクソが!!!辛気臭えンだよお前等!」
「かっちゃん」
そんな空気に耐えかねてか、かっちゃんが声を荒げる
「…ごめん」
「オイラ………っ!す、すまねぇ…」
「…」
「あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!ンだもうコイツラ…!いつまでもくよくよしてんなや!!イライラしてくるわ!」
そんな事言われても…
「――あ、ごめん。僕少し外の空気吸ってくる」
「…緑谷ちゃん」
「緑谷君…分かった、授業開始には戻ってきたまえ」
「――ありがとう飯田くん」
そうして、僕は教室を出た
■
廊下に出た僕は、思い出していた
『あの……………レフさんは…どうなりました?』
『っ…………あぁ、レフなら、死んだよ』
思い出すのはあの日。レフさんの容体を聞きに医務室に行った時、その入り口前で黄昏れていたオールマイトの顔。僕の中でオールマイトは理想のヒーロー像であり、平和そのものの象徴、でも、あの時だけは僕には、ただの何処にでも居るような、親しい友を亡くした男性に見えた。普段のヒーローとしての皮を脱ぎ捨てた、オールマイトでは無く八木俊典としての顔が、見えた気がした
驚いたし、戸惑った。けどだからこそ、どういう顔をすればいいのかが分からなかった
あの時レフさんを死なせたのは僕なのに
『…そんな顔をするな少年、むしろレフの親友として誇らしいぜ私は。アイツはその命をもってして、君という少年を守り抜いたんだから。だから、そんな君がいつまでも気負うことはない、ないんだよ緑谷少年』
オールマイトは優しく慰めてくれた。僕にはそれが辛くて、そしてなにより――
「おい、いつまでお通夜テンションで居るつもりだ?」
「うわっ!?あ、相澤先生…!?」
「おう、その相澤先生だ」
後ろから声をかけられる。振り返ってみると、そこには腕に包帯を巻いた相澤先生が居た
「相澤先生、どうしてここに」
「どうしてもこうしても無いだろ馬鹿。はぁ、幾ら休憩時間だからってそんな顔しながら廊下を歩くな」
「……あー、いいか緑谷。レフさんは、あの人は正しくはヒーローじゃないが、それでもあの人はヒーローだと俺は思っている。今の職業としての
「ヒーロー…」
先生が語り出す
「あの人は間違いなくお前たちを救った。あの人があの時動かなければ、少なくとも死ぬことは無かったろう。だがその代わりにお前たちの中の誰かが被害にあっていたかも知れないし、最悪死んでいたのかも知れない。それは俺も例外じゃないさ、あの人が居なけりゃ
「………」
先生の腕は包帯で巻かれている。見るからに骨折だ
「お前もまだ子供だ。そんなお前には受け止めるには少し重いだろうのも事実、俺も百も承知だ。だがここはヒーロー科だ、ヒーローになりゃヴィランと戦って殉職することもそりゃあ有る。だが慣れろって訳じゃない」
「え…?」
「今回の件で身に染みたろ、ヒーローの世界。ただそれでもだ、あーー、なんだ………あんま気負いすぎんなよ」
「っ」
相澤先生からの言葉を聞いて、僕は胸が痛くなる。慰めの、心からの心配を感じさせるその言葉。それを聞いて僕は――
「――ありがとうございます、相澤先生」
「おい」
「でも大丈夫です」
「緑谷」
「心配してくれてありがとう御座います」
「緑谷!」
「では、これで失礼しますね、先s」
「緑谷!!!」
「っ!?」
突然、動けなくなる。何事かと視線を相澤先生の方へと向け、そこで漸く今自分が抱きしめられていることに気がつく。僕が苦しくないように優しく、しかし逃さんと言わんばかりの力を出してその片腕で僕を包み込んでいた
「……お前、目の下のクマ、凄いことになってるぞ。気づいてるか?」
「それは」
「なぁ、緑谷……休んでいい、休んでいいんだよ、お前は。十分頑張った、十分悩んださ、だからもう、辞めてくれ。少しくらい、自分を赦してやれ…!」
「……ぁ…」
■
「……寝た、いや気絶か…?」
今腕の中で寝息を立てている教え子を見る。酷い顔だ、とても、見てられないような
「…柄じゃないんだがなぁ」
俺はこれでもヒーローだ。緑谷はヒーローを志す卵とは言え生徒、子供だ。それをどうにかするのはヒーローの務め、引いては担任である俺の役目
……アーキマンさんに任せときゃなんとかなりそうなもんだが…あの人もあの人で今忙しい。あんなんでもここの医療という分野でトップなんだ、やる仕事は溜まってる。まぁだからこそ今回俺が出張った訳なんだが
「……白雲」
どうしたもんか、緑谷とお前が重なっちまったよ
全部全部抱え込んで、レフさんの死すらも自分で背負って、自分のじゃない荷物さえ抱え込んで、潰されそうになってもまだ抱えて。見てられなかった
「あー、しょうがねぇか」
俺はスマホを取り出して電話を掛け、2コールもすれば電話が取られた
『もしもし?どうしたんだい、君が此方で連絡してくるだなんて』
「アーキマンさん、今から重症患者送りますね」
『え?』
「今から部屋空けといて下さい、じゃ」
『急にどうしたんだい相澤く――
掛けた電話をぶつ切りする
こっから先は俺の仕事じゃない。緑谷は心配だが、だからこそアーキマンさんに預ける。あの人、外科医だけじゃなく精神科医の心得もあるからな
そうして俺は緑谷を抱え、医務室へと向かうのだった
■
「それじゃあ、後はお願いします」
「うん、任せて。君は戻っていいよ相澤くん」
そう言い渡すと、相澤くんは緑谷くんへと心配そうな目線を送るが、僕を軽く見た後に医務室から退出する
「さて、と」
ベッドで横になる緑谷くん、その目の下には隈が出来、パット見でもいい顔色とは言い難い。しっかりと眠れているのだろうか、いいやこの調子じゃあまり快眠できてないのだろう
緑谷出久はこの物語の主人公だ。でも、それでも子供、それにまだ精神が未成熟だ。なにせ漫画で言って10話前後の出来事だったろうし、メタ的な話にはなるが物語の都合的にも精神がヒーローとして完成されているとは思えない。まぁ原作で1年経たずで
いやほんと、約1年とは思えない濃密な時間だなぁ原作
「………呼吸、心拍共に良好。相澤くんのメンタルカウンセリングが刺さったね、これなら良くなっていくんじゃないかな?僕の出番ほぼ無いかな」
そうそう、僕も観てたんだけどさ、意外だったなぁ相澤くん。そういうのしなそう――いや、態度と見かけによらずに相澤くんやっさしいからやるかやらないかで言えばやるな。でもキャラじゃないというかなんというか……相澤くんの強火ファンなら脳焼かれる優男っぷり、ファンサが過ぎるよ。なんだい出会って数日数週間の落ち込んでる教え子相手にわざわざ会いに行って慰めて、それでハグして「大丈夫だ」「無理するな」?さてはモテるな相澤くん?
「すぅ……………すぅ…………………」
「おっと、そうだったそうだった」
元ファンとしての思考に溺れたところで、意識を現実に勢いよく引き戻す
そうして緑谷くんの服に、
〘おーいモリアーティ、居るかい?〙
〘ン?ハーイ、なんだねロマニ君?君から連絡とは珍しい、計画になにか変わりがあったかな?〙
ワンコールも無くコンマのラグで、
〘いや、少し聞きたいことがあってさ。そっちに
〘え?〙
暫くの沈黙、モリアーティが声を上げる
〘――アァァァまた居なくなってるぅ!?何回逃げ出すのかなァあの馬鹿は!少しは落ち着きと言うものをだねェ…〙
〘あのねモリアーティ、それをどうにかするのが――〙
〘――うん、私の仕事だネ、そうだったネ……はぁ〙
「全く悪性サーヴァントと言うものは…」と愚痴のようなものが聞こえてくる。いやこれ念話だから、心から漏れ出た本心ってやつか……苦労してるねモリアーティ
〘アー………いや、今は厳密に言えばサーヴァントとは似て非なるものだったか……いやそれにしてもアレに至っては気狂いの狂人の類かな、うん。何故ベリトはよりにもよってアレに……ん、話が逸れてしまったね、ベリトに何か用事かね?〙
〘用事、うん用事、用事ねぇ………あの馬鹿、緑谷出久に手を出してた〙
〘は?〙
空気が再度凍る、再びモリアーティとの間を静寂が駆け抜ける。酷く困惑した様子でモリアーティが問いかける
〘…いやいや何の冗談だ?まだ出番は先だろう?流石の彼もそこら辺は自重できて――るよネ???〙
〘冗談で済んでたら良かったね?〙
〘あっ………〙
〘と、言うわけだモリアーティ。ここまでの話を聞いてもらって早速なんだが……彼女、借りてくね?〙
■
「ンンンン♪」
雄英高校、そこから僅か数km離れた路地。何やら上機嫌に鼻歌を歌う一人の男。浴衣を着崩して着用し、長髪で髪の色が左右で黒と白に分かれており、その髪の毛の先には小さな鈴が付けられている。派手な色使いと装飾が施されたインナーを浴衣の中に着ており、その手には焼き切れた紙切れのような物を持っている
その紙切れを投げ捨てると、空中で燃え尽き灰となる
「あぁ……折角の試みでありましたのに、燃やされてしまわれました。ええ、ええ。同族とはいえ、こうもあっさり見破られようとは…!まぁ数日気づかれなかっただけでも流石ですか、はい」
残念、と、ニタニタと笑いながら呟く
彼は魔神柱。ソロモンの72柱。観測所フォルネウス序列28位、ベリト。人の姿を形取った魔神柱であり、幻影魔人同盟の内一柱であり、現段階で
本来のベリトは嘘の騎士、黄金の錬金術という機能を有した柱だ。他の魔神柱とさして変らない筈、であった。しかし悲しきかな、擬態し再現する人物を誤った
そして、本質が引っ張られた。いや引っ張られすぎた。ただそれだけの事であった
「さて、さて、お次はどうして仕舞いましょうか?爆豪勝己?相澤消太?八木俊典?心操人使もいいですなぁ……ンンン、昂ります!」
「すまないがその昂りは要らないな。ジャック」
「はーい、おかあさん!」
「――ン?ンンンンンンンンンン!?!?」
「あまり勝手なことをしないでもらおうかベリト」
「ライノール殿にジャック殿!?何故、此処に…!?」
「いや君が勝手なことを好き勝手するからだろう」
「ねーおかあさん」
「おっと、そうだねジャック。良くやってくれたよ、ありがとう。私は心底から助かった、感謝を述べよう。ご褒美だ、ほら、飴ちゃんを上げようか」
「わーい!」
「暫し待たれよジャック殿!拙僧、もしや固飴と比べられられて負けました?」
わざとらしく「ソソソ…」と見ているのも億劫な泣き真似を冷めた顔で見つめるレフと、そんなものより飴に夢中なジャック。道満の頬を一筋の液体が流れ落ちた
「というか儂、別にそこまで悪いことはしてませんが?これは些かやりすぎなのでは?拙僧抗議いたしますぞ!?」
「よしジャック、縄」
「はい!」
「このエセ法師縛るから手伝ってくれないかい?」
「あ、あ、あ、あ、お辞めくだされ御二人!暴力反ー対ー!ちょ強く縛りすぎ――ンンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!」
■
「ンンンンー!ンンンンンンンーー!!!」
びったんびったん
「………オーイ、誰かこの芋虫知ってるー?」
「ンンンンンンンンンン!!!」
後日、芋虫のように乱暴に縄で巻に巻かれた道満(粗大ゴミ)がアラフィフの元へと送られるのだが、それはまた別のお話
◆緑谷出久
精神的に弱ったところに道満(ベリト)の精神汚染をモロに受けた可哀想な主人公。ものすっごくメンタルブレイクしてた、鬱一歩手前。おめーやりすぎだよドーマン
◆相澤消太
教え子を昔の親友と重ねて見てしまった教師。緑谷のメンタルケアとその後の最終的な処置をロマニに投げた、有能ムーブ
◆ロマニ・アーキマン(ブエル)
同胞が緑谷に予定に無い度を超えた悪戯をして憤慨。自分は行けないので直ぐ様レフとジャックを向かわせた
◆ジェームズ・モリアーティ(バアル)
寝耳に水
◆レフ・ライノール&ジャック・ザ・リッパー(フラウロス&グレモリー)
ロマニ(ブエル)に急遽ドーマン狩りに駆り出された。ジャックはレフから飴玉を貰った
◆蘆屋道満(ベリト)
悪。純然たる悪性。胴を真っ二つにされてそのまま紐でぐるぐる巻きの芋虫にされクーリングオフ。悪気はあるし悪意もある、反省する気は微塵もない