The Blank Card   作:カナヤン

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今回、長めです。


霧の町

 

国境を超えてパキスタンに入国した。

そして、今は空港にいる。アンちゃんを香港へ帰すためだ。

 

「……帰るのヤダ」

「おめー、いい加減にしろ!足手まといになってんだよ!」

「君の家族も心配しとるだろう、帰るんだ」

「どうせ、あたしは邪魔者だよ!」

 

アンちゃんは女子トイレに駆けこんで行った。みんなが私を見る。うーん……うまく説得できるかな?

アンちゃんも本当は帰らなきゃいけないのはわかってると思うけど。

 

トイレに入ると、彼女は涙ぐんでいた。胸が少し痛む。でも、一緒にいるのは本当に危険なんだよ。

 

「アンちゃん、お家に帰ったほうがいいよ」

「……あんたはいいな。一緒に行けて。あたしも不思議な力を持ってたらよかったのに」

「アンちゃんが帰ったら、寂しいよ。他はむさ苦しい男ばっかりだし」

「……」

「でもね、アンちゃんが怪我をしたり酷い目にあったら、もっと辛い。私たちのほうが耐えられないよ」

「ほかのみんなも、そう思ってる?」

「うん。だからね、安全なところにいてほしい」

 

アンちゃんは少し唇をかんでから、やっと言った。

 

「……わかった。帰るよ」

 

一緒に外に出ると、みんなホッとした顔をした。

 

「元気でね、アンちゃん」

「あんたもね、晶。ジョジョ、絶対にお母さんを助けなよ。応援してるからさ!」

「ああ」

 

アンちゃんは、笑顔で手を振り、飛行機に乗った。墜落のジンクス持ちはいない。きっと無事に帰れるだろう。

 

 

***

 

次の目的地は、港町カラチ。再び車での移動だ。

崖ぞいの道を進むが、霧が異常に濃い。ポルナレフも慎重に運転しているけれど、数メートル先もよく見えない。

時間は早いが、ちょうど見えてきた町で宿をとることになった。

 

昼なお暗い霧のせいだろうか、町は静まりかえっている。人の姿は見えるのに、話し声が聞こえない。

おかしなことは他にもあった。レストランの入り口に立っている主人にホテルの場所を聞いても、「知らない」の一言で背中を向けてしまうのだ。

滅多によそ者が来ない村なら、こういう事もあるのかもしれない。でも、これほどの規模の町でこんなのある?

他の人に聞いてみようと話しかけるが、様子が変だ。

 

「おい!おまえッ!どうした⁉︎」

 

グラリと崩れ落ちた男は、恐怖で引きつった表情のまま息絶えていた。

次の瞬間――口から、爬虫類めいたものがヌルリと這い出ていった。肌がざわりと逆立つのを感じた。とっさに声も出ない。

男は、まだ硝煙をあげる銃を手にしたまま死んでいる。

ほんの数分前、何かが起きたんだ。それなのに、周りは気にした様子もない。銃声がしたはずなのに、野次馬もいなければ、警察を呼ぼうとする人もいない。

みんなも、この男がなにを撃ったのか、なにが起こったのか、町の人たちの異様さに周囲をうかがっている。

 

「そこの人、すまない!人が死んでいる。警察を呼んできてくれッ!」

 

近くを歩く人に花京院くんが声をかけるが、その反応も鈍いものだった。

なんだか、悪夢を見ている時みたいだ。こちらが必死に怪物から逃げていても、周りは普通に歩いているみたいなあの感じ。

霧の向こうに何か潜んでいるようで、足先がじんと冷えた。

 

「なんかますます霧が濃くなって来たぜ」

「町は霧ですっぽりという感じだな」

「うす気味わるいな。なんかあの部分、ドクロの形にみえないか」

「ちょっと、やめてよ」

「おっ、なんだよ、怖いのか〜?」

「……」

 

とっさに言葉につまってしまった。

 

「えっ?おい、マジか晶!」

「心霊系ホラーは苦手なんだよ!物理的にどうこうできないでしょ」

「意外な弱点ですね」

「はははっ、手でもつないどいてやろーか?」

「いい!要らない!」

「遠慮すんなよ〜?」

 

ポルナレフが楽しそうにからかい始めた。こ、こいつ……!

 

「おまえら、ふざけてる場合じゃあねーぞ。新手のスタンド使いの仕業かもしれねえ。警察が来る前に、なるべくさわらんように死体を調べてみようぜ」

「うむ」

 

先輩は、この男の死因が気になるみたいだ。

 

「こいつ我々と同じ旅行者のようじゃな。バスとか列車のチケットを持っておるぞ。それにインド人のようだ。インドの紙幣をもっている。この町の人間じゃないぞ」

 

さらにそっと服をめくると、のどの下に10円玉ぐらいの傷穴があった。これが死因だろうか?でも――

 

「しかし、なぜ血が流れ出てないんだ?こんな深くでけー穴があいてるんなら、大量に血は出るぜ。普通ならよ」

 

そう。この場に血の跡がないんだ。

 

「どうやら、こいつはもう普通の殺人事件じゃあねーようだ。俺たちは知っとく必要がある。かまうことはねー、服を脱がせようぜ」

「なっなんだこの死体はッ‼︎」

 

服の下は、穴だらけだった。しかも、一滴の血も出ていない。もうほとんど間違いない。新手のスタンド使いが近くにいる。

 

「みんな!ジープに乗ってこの町を出るんじゃッ!」

 

ジョースターさんが、ひらりと飛び乗ろうとしたが――

 

「リミナルスフィア!」

 

ジョースターさんの体は空中で止まった。その下は鋭く尖った鉄柵だ。あ、危なかった……。

 

「す、すまん、晶くん。助かったわい」

「おい…ジジイ、ひとりでなにやってんだ……?アホか」

「なにやってるんだって、今……ここにジープがあったじゃろッ⁉︎」

「霧で見間違えたんですか?」

「ジープならさっき、あそこにとめただろーが」

「えっ!い…今たしかに…」

 

その時霧の中から、杖をついた小柄なお婆さんが歩いて来た。

お辞儀をした彼女に会釈をかえす。

 

「旅のおかたのようじゃな…。この霧ですじゃ、もう町を車で出るのは危険ですじゃよ。ガケが多いよってのォ…。わたしゃ、民宿をやっておりますが…今夜はよかったら、わたしの宿にお泊まりになりませんかのォ。

…安くしときますよって」

「おお〜っ、やっと普通の人間に会えたぜ!」

 

いっそのこと、不自然なくらい普通のお婆さんだ。ホラー映画なら、主人公をだまして窮地におとしいれる役だろう。ちょっとばかり失礼なことを考えてしまった。

 

「この町のどこかにスタンド使いが潜んでいる可能性が強い…。この濃すぎるほどの霧もヤツらにとっては絶好のチャンス…。今夜はもうずっと油断は禁物ですね」

 

花京院くんの言葉に、アホなことを考えてる場合じゃないと気を引きしめる。

やっと現れた警官たちが、担架に乗せて男の死体を運んでいった。警察たちも、霧の中でかすんで見える周りの人たちも、ボソボソとよく聞こえない声で話している。まるで、泥でもつまったような声だった。

 

「しかし…誰が襲ってくるわけでもねーが、不気味な町だぜ。あの警官どもも、あんな変奇な死体の殺人事件だというのに、大さわぎもしてねーぜ」

 

全員、警戒しながらお婆さんの案内する宿に向かった。

 

「ささ!ジョースター様、あれがわたしのホテルですじゃ。ご案内いたしますよって……ついてきてくだしゃれ」

 

見えてきたのは、なかなかの大きさのホテルだった。

お婆さんはにこやかに案内していたが、先輩がそれを遮った。

 

「待ちな婆さん。あんた…今、ジョースターという名を呼んだが、なぜその名がわかった?」

 

……あ。本当だ。みんなの視線が集まるが、

 

「いやですねェ、お客さん。今さっき、そちらの方がジョースターさんて呼んだじゃありませんか」

「え!俺⁉︎ そういやあ、呼んだような…」

「言いましたよォ。客商売を長年やってるから、人様の名前はパッとおぼえてしまうんですからねェ!確かですよォ〜〜」

 

ポルナレフはあっさり納得したみたいだけど、先輩の表情は硬いままだ。正直、私は名前を呼んだかどうかはわからない。でも、これは警戒した方がいいかもしれない。

普通じゃない町にいる、ただ1人の普通の人。逆にあやしいよね。

でも、この霧の中では車は動かせない。あやしいけど、このホテルに泊まらなければ野宿だ。

 

 

高い天井、薄暗い廊下。照明も少なく、外の暗さも手伝って、どことなく不気味な雰囲気がする。いやいや、考えるな!大丈夫、不気味とかそういうのないから!

 

「大丈夫ですよ、柏木さん。幽霊なんていませんよ」

「花京院くん、君ねえ!」

 

いい性格しとるのう、ワレ!おぼえてなよ!……チクショウ、ビビり散らかしてるのがバレてる。観察力が鋭いのも考えものだ。わかってて追い打ちかけないでほしい。

 

案内された部屋は3階、しかし少々問題があった。

 

「部屋にトイレがない……」

 

各部屋にトイレがないタイプの宿だ。別に今の時間はいい。もしも夜中に行きたくなったらどうしよう。

 

①朝まで我慢する

②今の私に怖いものなどない!1人で行くぜ!

③誰かについて来てもらう

 

①はダメ。体に良くない。万が一の場合、社会的に死ねる。

……②と言いたい。言いたいが、それが平気なら苦労しない。ポルナレフのドクロに見えないか?発言から、ありとあらゆる怖い想像が止まらなくなってるんだ。普段はそっち方面の思考は閉じているのに。

そうなると③……。ジョースターさんに頼もう……。揶揄わないでいてくれるよね?どうもジョースターさんからはポルナレフ成分も感じるからなぁ。

 

ぐるぐる考えていると、下の階からガラスの割れる音がした。

廊下に出ると、ジョースターさんと花京院くんも部屋から出て来ていた。

 

「今の音は⁉︎」

「ポルナレフの戻りが遅いから、承太郎が様子を見に行ったんじゃ!敵かもしれん!」

「私たちも行きましょう!」

 

階段を降りてロビーに向かうが、すでにことは終わっていた。先輩の足元に、お婆さんが倒れている。もしかしなくても、この人がスタンド使いなんだろう。

そして、霧が晴れている。

 

「霧がなくなってる……あれはスタンドだったってこと?」

「ああ、おっそろしいスタンドだったぜ、本体のババアもな」

「ポルナレフ、承太郎、ケガはないか?」

「俺も承太郎も軽傷ってとこだな」

「部屋から薬と包帯とってくる!」

 

ジョースターさんの波紋はこの旅の間、全員少なからずお世話になっている。でも、それだけではダメなんだよね。

傷薬と消毒液、包帯。とりあえず要りそうなものを持って戻ると、空気が変だ。

 

「このくそジジッ!からかってやがったのか。くそーっフン、薬はもういい!」

「わかったわかった。悪かったよ、ポルナレフ。手当てしてやるよ。手当てしないとバイキンが入るぞ。オホン、オホ、ベンキをなめたから」

「ちくしょう。さあ!旅を急ごうぜ承太郎!花京院、晶」

 

ジョースターさんは床を叩いて爆笑している。……やっぱりこの人にはポルナレフ成分も多分に含まれている。

 

「みんな、外に出てみろ」

 

先輩の声に、みんな外に出た。

 

「ぴェ」

 

全身に鳥肌がたった。

ホテルの外は、荒野に広がる墓場だった。あちこちに死体が転がっている。お婆さん――エンヤ婆のスタンド、『正義《ジャスティス》』が死体を操り、町やホテルを仕立てあげていたのだ。

今は意識がないが、とんでもないパワーのスタンド使いだ。

 

「どうしますか?意識を失っていますが、このままここへおいていくのは、我々にとって危険です。再び復讐して来ますよ」

「それだよそれ、俺の心配は!」

「うむ……承太郎とも相談したが、このバアさんなら一緒に連れていく」

「このババァには、しゃべってもらわなきゃならんことが山とある。たとえば、これから襲ってくるスタンド使いは何人いて、どんな能力なのか。

エジプトのどこにDIOのやつは隠れているのか。そしてDIOのスタンドの能力は」

「どんな正体なのか?このバアさんからそれを聞き出せれば、我々は圧倒的に有利になる」

 

でも、そんなことを簡単に聞きだせる?どうやって?

 

「わしのハーミットパープルを忘れるなよ。TVにこのバアさんの考えを映し出せばいい」

「なるほど!ちくしょう、墓場にゃTVはねーから、次の町でか〜〜」

 

偽証も隠蔽もできないもんね。よく考えたら怖い能力だ。

その時、エンジン音が響きわたった。

私たちのジープにホル・ホースが乗っている。なんであいつがここに⁉︎

 

「俺はやっぱりDIOの方につくぜッ!また会おうぜ、もっともおたくら死んでなけりゃあな」

「てめーーッ、戻ってこい!ジープを返せ、この野郎ッ!」

 

ホル・ホースは、エンヤ婆をすぐに殺した方がいいと忠告して去って行った。

「なに言ってるんだ、あの野郎ーー」

 

え?私たち、この墓場を歩いて通り抜けないといけないの?エンヤ婆を連れて?いや、無理だよ……。ほんと、ムリ……。

なんで今回、こんなにホラー要素盛り盛りなの?イジメか!勘弁してよー!

 

おのれ、ホル・ホース!絶対に許さない!絶対にだ!





【おまけ:墓場脱出の図】
この後、晶は目をつぶって手を引いてもらいます。スタンドで地面からちょっと浮いて、人型風船のように。
「もう墓地は抜けたぞ」
「ホント……? ‼︎ まだじゃん!酷い!もう人間なんか信じない!」
「人間に裏切られた魔族みたいなセリフになってますよ」
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