The Blank Card   作:カナヤン

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恋人

 

馬車です。今、馬車に乗っております。ホル・ホース(憎)に車を乗り逃げされたせいだ。なんというアナログ。そして馬が可愛い。

え?墓場を歩いたこと? そんな昔のことは忘れた。

 

それはいい。問題は隣で絶賛気絶中のエンヤ婆が乗っていることだ。勘弁してほしい。今までに遭遇した敵の中でもトップクラスの強さだと思う。正直、ちょっと怖い。みんなと一緒じゃなければ絶対そばにいたくない。

でも、この人の頭の中をのぞければ、DIOについてかなりの情報を手に入れられるだろう。できれば気絶してるうちにテレビのある場所にたどり着いておきたいところだ。

 

 

 

 

 

***

 

やっと街に着いた。ここなら補給や宿泊もできそうだ。今日はやっとベッドで眠れる。

とりあえず腹ごしらえ、ということでジョースターさんがケバブ屋で買い物を始めた。だんだん慣れてきているけど、ちょっとした買い物でも値段交渉が普通なんだよね。

例に漏れず、ここでも丁々発止のやり取りをしている。生き生きしてるな、ジョースターさん。大富豪のはずだけど、それはそれ、これはこれなんだろう。

ケバブを手にしたジョースターさんがこちらに戻ってくると、ギョッとした顔でこちらを指さした。

 

「おいッ!みんな、そのバアさん!目を醒ましておるぞ!」

「えッ!」

 

しまった、目を離すんじゃなかった!慌てて飛び退ろうとするが、エンヤ婆はこちらに見向きもせずに驚愕している――違う、これは恐怖の顔だ。恐怖に震えている。

 

「わしは、わしは何も喋っておらぬぞッ!な、何故お前がわしの前に来る。このエンヤが、DIO様のスタンドの秘密を喋るとでも思っていたのかッ!」

 

エンヤ婆の見つめる先には、ケバブ売りがいる。

 

「あ、あ、あ、あババババババア――ッ」

 

悲鳴をあげるエンヤ婆の顔から何本もの触手が飛び出した。これに似たものを、見たことがある。これは――

 

「なぜ貴様がこのわしを殺しにくるーーッ‼︎」

「DIO様は決して何者にも心を許していないということだ。口を封じさせて…いただきます。そしてそこの5人……お命ちょうだいいたします」

 

男が気取って話す間にも、触手はさらに飛び出す。エンヤ婆は、悲鳴をあげて倒れた。

 

「わたしの名はダン……鋼入りの(スティーリー)ダン。スタンドは『恋人(ラバーズ)』のカードの暗示。君たちにもこのエンヤ婆のようになっていただきます」

「なんてことを!このバアさんは、てめーらの仲間だろうッ!」

 

エンヤ婆の顔は、もう原形を留めていない。それでもなお、エンヤ婆はうわ言のようにつぶやいている。

 

「う、うそ、うそ……う…うそじゃ。DIO様がこのわしにこんなこと…………するはずが……ない」

「ばあさんの体から出ているのは『スタンド』じゃあないぞッ!実体だッ!本物の動いている触手だ‼︎」

「あの方が、このわしにこのようなことをするはずが……『肉の芽』をうえるはずが……。DIO様はわしの生きがい……………信頼し合っている…………」

「肉の芽⁉︎」

 

そうだ、これは肉の芽。花京院くんやポルナレフを洗脳していた、そのままなら彼らの命を奪っていた“あれ”。

先輩が引き抜いたそれとは、比べものにならないほど大きくなっている。

 

「ばあさん!」

 

ポルナレフがシルバーチャリオッツで触手を切り落とした。日向に飛び散ったそれは、溶けて消えた。

 

「こ…これは!太陽の光で溶けたぞッ!『肉の芽』!DIOのヤツの細胞だッ!」

「いかにも!よーく観察できました。それはDIO様の細胞『肉の芽』が成長したものだ。今この私が、エンヤ婆の体内で成長させたのだ。

エンヤ婆……あなたはDIO様にスタンドを教えたそうだが、DIO様があなたのようなちっぽけな存在の女に、心をゆるすわけがないのだ。

それに気づいていなかったようだな」

 

エンヤ婆は、血まみれの顔で虚空を見つめている。

 

「ばあさんッ!DIOのスタンドの正体を教えてくれッ!」

 

ジョースターさんが、エンヤ婆に駆けよって叫んだ。

 

「言うんだッ!DIOという男に期待し信頼を寄せたのだろうが、これでヤツがあんたの考えていたような男ではないということがわかったろうッ!

わしはDIOを倒さねばならんッ!たのむ!言ってくれッ!

教えるんだァーーーーッ!!DIOのスタンドの性質を教えるんだァーーーーッ!!」

「DIO…様…は」

 

その場にいる全員が固唾をのんだ。だけど、

 

「このわしを信頼してくれている。言えるか」

 

その言葉を最期に、エンヤ婆は息絶えた。

……なんで、そこまで。こんな酷い死を押しつけた相手に、なんでそこまで尽くすの⁉︎

この人は敵だった。今まできっと、罪のない人も手にかけてきただろう。あの霧の町で殺されていたインド人の旅行者のように。だけど、味方にこんな風に殺されなきゃいけないの⁉︎

ダンは、エンヤ婆の最期を嘲笑った。

 

「悲しいな……くくっ。どこまでも悲しすぎるバアさんだ。だがここまで信頼されているというのも、DIO様の魔の魅力のすごさでもあるがな……くっくっくっくっくっ」

 

こいつは……!

 

「俺はエンヤ婆に対しては、妹との因縁もあって複雑な気分だが、てめーは殺す」

「5対1だが、躊躇しない。覚悟してもらおう」

「立ちな」

 

ダンは周りを囲んだ私たちなど眼中にないかのように、テーブルに座ってお茶を飲んでいる。

 

「おいタコ!カッコつけて余裕こいたふりすんじゃねえ。てめーがかかってこなくてもやるぜ」

「どうぞ。だが君たちは、この『鋼入りの(スティーリー)ダン』に指一本さわることはできない」

 

その言葉が終わるかどうかで、スタープラチナが拳を叩きこんだ。

ふっ飛ぶダン、そして同時にジョースターさんも飛んだ。

えっ⁉︎

 

「このバカが………まだ説明は途中だ。もう少しできさまは自分の祖父を殺すところだった。いいか……このわたしがエンヤ婆を殺すだけのために、君らの前にこのわたしの顔を出すと思うのか……」

「き…きさま『恋人(ラバーズ)』のスタンドとかいったな……い…いったいなんだ、それは⁉︎」

「もうすでに戦いは始まっているのですよ。ミスター・ジョースター」

 

ジョースターさんは、ダンと同じように口から血を吐いている。こいつのスタンド攻撃っていうことか。

いったい、どこからどうやって?周りを見渡しても、気配も感じられない。

 

「おろかものどもが…探してもわたしの『スタンド』はすぐに見えはしないよ。

おい小僧。駄賃をやる。そのホウキの柄でわたしの足を殴れ」

 

ダンはそう言うと、近くで掃除していた少年にお金を投げつけた。訳がわからずきょとんとする少年になおも「殴れ!」と命令した。

少年がダンの足を殴ると、同時にジョースターさんが叫んだ。背筋がゾッとする。まさか、これって……、

 

「いっ…痛いっ!わけがわからんが激痛がッ!」

「気がつかなかったのか⁉︎ ジョセフ・ジョースター。わたしのスタンドは、体内に入り込むスタンド!

さっきエンヤ婆が死ぬ瞬間、耳からあなたの脳の奥にもぐり込んでいったわ!」

「なにっ」

「つまり『スタンド』と『本体』は一心同体!スタンドを傷つければ本体も傷つく。

逆も真なり! この私を少しでも傷つけてみろッ!

同時に脳内で私のスタンドが、私の痛みや苦しみに反応して暴れるのだ!

同じ場所を数倍の痛みにしてお返しする! もう一度言う! 貴様らはこの私に指一本触れることはできぬ!」

 

全員、顔色が変わった。最悪だ。さらにダンは続ける。

 

「しかも『恋人(ラバーズ)』はDIO様の肉の芽を持って入った! 脳内で育てているぞ‼︎ エンヤ婆のように内面から食い破られて死ぬのだ!」

 

最悪にはまだ底があった。血の海に沈んだエンヤ婆の姿が視界の端に映っている。あれと同じものが、ジョースターさんに……!

 

その時、さっきの少年が再びダンの足を殴った。ジョースターさんが痛みに叫び声をあげる。

ダンは、「いつ2回殴っていいと言った…? このガキが……」

そう言うと、少年を殴り飛ばした。

 

ダン自ら、髪の毛一本動かせない史上最弱のスタンドだと言う『恋人(ラバーズ)』。それが今、ジョースターさんの脳内で彼の命を握っている。

さらに時間がない。急いでこいつを倒さなければ、エンヤ婆と同じく肉の芽に殺されてしまう。

 

先輩がダンをつかみ上げるが、花京院くんが止めた。

 

「承太郎、落ち着けッ!バカはよせッ!」

「いいや、こいつに痛みを感じる間を与えず、瞬間に殺してみせるぜ」

ダメだよ、それで大丈夫な保証がどこにもない。痛みでジョースターさんがショック死してしまうかもしれない。

 

「痛みも感じない間の一瞬か……ほう〜〜。

いいアイデアだ……やってみろ承太郎」

ダンは嬉々として挑発し始めた。

 

「面白いな…どこを瞬間にブッ飛ばす。ホレ!顔か?喉か?ほれどうした!試してみろよ。

どうなるか、やってみろよ。胸に風穴あけるってのはどうだ?

それとも、スタンドはやめて石で頭を叩きつぶすってのはどうだ?ほら石を拾ってやるよ。

このぐらいのでかさでいいか」

 

先輩が、ダンを締め上げた。

「あまりなめた態度とるんじゃあねーぜ。俺はやると言ったらやる男だぜ」

でも、それ以上にジョースターさんの首がしまっている。やっぱりダメだ!

 

「はやまるなッ!承太郎――ッ

こいつの能力はすでに見たろう!自分の祖父を殺す気かッ!」

「ほ…本当にやりかねねーヤツだからな」

花京院くんとポルナレフが、2人がかりでとめる。

 

「なめたヤローだ」

冷や汗を浮かべたダンは、イヤな笑いを浮かべると、無防備な先輩を殴った。さらに、石を掴む……まさか。

 

「ジョースターのジジイが死んだらその次は……」

ダンは、思い切り先輩に石を叩きつけた。

「貴様の脳に『恋人(ラバーズ)』を滑りこませて殺すッ!」

 

咄嗟に頭を庇った腕から血が滴り落ちた。

ダンは、可笑しくてたまらんとばかりに、爆笑している。

 

その時、ジョースターさんが街の中へ走り去った。ポルナレフと花京院くんも続く。

「承太郎、そいつをジョースターさんに近づけるなッ

そいつから、出来るだけ遠くへ離れる!」

「柏木、おめーも行け」

首を振る。こんなヤツと2人にできないよ。

 

「ほう、なるほど。遠くへ離れればスタンドの力は消えてしまうと考えてのことか……

だがな、物事というのは、短所がすなわち長所になる。

私のスタンド『恋人(ラバーズ)』は力が弱いぶん、一度体内へ入ったらどの『スタンド』より遠隔まで操作可能なのだ。何百キロもな…」

 

先輩は、沈黙している。でも、私にもわかるよ。めちゃくちゃに怒っているね、これは。私もだよ。今は手出しできないけど、ただじゃ置かない。

 

「おい、承太郎。おめーとその小娘に話してんだよ。なにすました顔して視線避けてるんだよ。こっち見ろ」

「てめー、だんだん品が悪くなってきたな」

「貴様…ジョセフが死ぬまで、この私につきまとうつもりか」

「ダンとか言ったな。このつけは必ず払ってもらうぜ」

 

ダンは、ニヤニヤしながら、先輩のポケットを探った。

「ククク、そういうつもりでつきまとうなら、もっと借りとくとするか……。これしか持ってないのか。時計は生意気にタグホイヤーだがな。借りとくぜ……」

 

このドクズが!長々語るから、お前をどうすればいいかわかったよ!

もう一歩踏み込めば触れる。でも、その“一歩だけ足りない”位置に私は立った。

 

「退屈だな〜〜、おい、小娘、脱げ」

 

隣にいるからよくわかる。先輩の顔に青筋が浮いた。

 

「聞こえなかったのかぁ?ストリップしろって言ってんだ!」

「あんたが脱がせてみなよ、このクズ野郎」

「生意気な口をたたくなと何度言えば……」

 

ダンはこちらに近寄ろうとしたが、その足は空をかいた。

 

「なぁッ!こ、これは……!⁉︎」

 

ダンは、3cmほど、宙に浮いている。手を伸ばすが、届くわけがない。

空中でもがくだけだ。何も知らなければ、パントマイムでもやっているように見えるだろう。

 

半歩、近づく。ダンは顔を引きつらせ、喚いた。

「わ、私を傷つければ、ジョースターのジジイがどうなるかわかっているだろうな⁉︎」

「わかってるよ。だからね、私たちは、あんたを蝶よりも花よりも丁重にあつかう」

「俺たちは、な。

……貴様は俺たちのことをよく知らねえ。花京院のやつのことを知らねえ」

先輩、それ花京院くんに直接言ってあげてくださいよ。

 

突然、ダンの頭から血が噴き出した。呆然としながら、自分の血を見つめるダン。お、あちらも上手くいったみたいだね。

 

「おやおやおやおや。そのダメージは花京院にやられているな……。残るかな、俺のお仕置きの分がよ」

「楽しいお仕置きタ〜イムってやつだよ、ゲス野郎」

 

さっきまでのニヤけた態度は吹っ飛んだ。走れるなら、ダッシュで逃げ出してるだろう。

空中でもがきながら、改心する、命だけは助けてくれと喚いている。

でもさぁ。「おらあ――ッ!!」スタープラチナが、何かをつまんだ。あー、やっぱりそう来るか。

ダンが悲鳴をあげた。手足がおかしな方向を向く。折れてるね、これ。

スタープラチナの指先を見ても小さすぎてなにもわからない。潰さずにこの力加減が出来るってすごいな。

感心してる間も、ダンの命乞いは続いていた。宙づりになってなければ、土下座もしてただろう。

 

「ウソは言わねーな。今度出会ったら千発そのツラに叩き込むぜ」

「言いません、決してウソは言いません」

「消えな……柏木、降ろしてやれ」

 

背を向けて歩き出した私たちに、ダンが叫んだ。そこの女の子に『恋人(ラバーズ)』が入った、動くなと。

 

「このナイフで、てめーらの背中をプツリと突き刺す!てめーらにも再起不能になってもらうぜ」

予想通り過ぎて、ため息が出る。

 

「やれやれだ……いいだろう、突いてみろッ」

「おい!わからねーのかッ!動くなと言ったは……はずはず………………え、え⁉︎」

「どうした…プツリと突くんじゃあねーのか。こんな風に……」

先輩が、ダンの手をつかんでナイフで顔を刺した。わあ、痛そう。

「か…体が動かない…なっなぜ〜〜〜〜〜?」

 

そりゃあ動けないよ。ハイエロファントグリーンに捕まってるもん。

細く細く伸びたそれに、ダンはやっと気がついたみたいだ。

 

「わっ……許してくださ――いッ」

ナイフを放りだして膝をつくダン。

 

「許しはてめーが殺したエンヤ婆にこいな……

俺たちは初めっから、てめーを許す気はないのさ」

「ディ…DIOから前金をもらってる……そっそれをやるよ」

 

どこまでもどうしようもないこと言うな、こいつ。

 

「やれやれ、てめー正真正銘の史上最低な男だぜ……

てめーのツケは、金では払えねーぜッ!」

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーッ」

 

目でも追えない速さで拳が叩き込まれる。悲鳴もかき消すほどのそれが、雪崩のようにダンを襲った。

吹っ飛んだダンの体は、建物の壁を破って見えなくなった。

先輩は、なにやらハッとした顔でこちらを見る。

「おめーも、ヤツにお仕置きしときたかったか?」

「いや、もう殴る場所残ってないんじゃないですか?」

 

 

 

ジョースターさんの頭の中の恋人(ラバーズ)を倒すために、花京院くんとポルナレフは、スタンドを小さくして戦ったそうだ。……スタンドってそんなこと出来るの⁉︎

試しにやってみる……出来る、出来るけど、かなり疲れない?これ。2人ともお疲れ様です。 

 

「おめーら、大丈夫だったか!ヤツにひでぇことされてねーか⁉︎」

ポルナレフたちは、こちらをずいぶん心配していたみたいだ。

 

「大丈夫。盗られた財布と時計は取り戻したし、脱げとか言われたけど、未遂だから!」

こちらのことも説明すると、ジョースターさんたち3人から殺気が滲んだ。

 

「あいつ、もう少し殴って来ようぜ!」

 

いや、だからね、もう殴る場所残ってないから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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