「えっ、ラクダですか?」
このまま車で砂漠を走るよりも、ラクダの方が速い道程らしい。
ジョースターさん、ラクダにも乗ったことあるんだ。旅の間も感じてたけど、本当にいろんなことができる人だ。料理から飛行機の操縦まで、年の功の範疇を軽く超えている。
ラクダ……ラクダかぁ。観光地で乗馬体験はしたことあるけど、ラクダなんて実物は動物園で見たことあるくらいだ。
間近で見るとその大きさに圧倒される。馬より大きいな。
鞍に乗るところから大変なんですが。ジョースターさんのレクチャーを頼むしかない。
――が、どうにも様子がおかしい。
「おい、本当に乗ったことあるんだろーな」
ポルナレフが問いかける。当然の疑問だ。
「わしゃあのクソ長い映画『アラビアのロレンス』を3回も観たんじゃぞッ!
乗り方はよーく知っとるわい。2回は半分寝ちまったが」
ジョースターさん、マジか。それで乗れるなら、NHKでシルクロード観てた私だって乗れますよ。
ラクダを座らせるところからすでに苦戦している……。
「えいや」
スタンド使ってさっさと乗ってみた。ラクダに座ってもらうより簡単だ。
「あっ、ズルいぞ晶!」
ズルいと言われても。みんなもその方が手っ取り早いよ。
全員やっと乗れた。
「それでは砂漠をつっきるぞ!
みんな! 北西へ向かって出発進行じゃ〜〜!!」
次の瞬間、全員のラクダが別々の方向へ歩き出した。あああ、もう!
***
どうにかラクダを乗りこなし、ヤプリーンを目指す。
こうして見るとラクダも可愛い。まつ毛長いなぁ。
遮るもののない日差しが容赦なく降りそそぐ。日よけの布がなければ、肌が痛いほどだ。
花京院くんと先輩が、誰かに見られている気配がすると言う。この2人が言うなら、きっと何かがおかしいんだろう。
スタープラチナが双眼鏡を使って、周囲を見渡す。不審なものは見つからない。
「それにしても暑いぜ。見ろよ、気温が50℃もあるぜ」
ポルナレフが温度計を見て声をあげた。
うわ、改めて言われるとなお暑いな。
「今の時間がいちばん暑い時間じゃ……、承太郎! お前の時計、今何時だ?」
「8時10……」
8時⁉︎ 午後のだよ⁉︎
「どういうことだ!午後8時を過ぎているというのに!
なぜ太陽が沈まないッ!」
「ばっ馬鹿なッ! 温度計がいきなり60℃にあがったぞ!」
異常事態に気がついた途端に、温度があがっただけじゃない。太陽が昇り始めた。
まさか、あの太陽がスタンド⁉︎
気温は更に上がっている。こんな状態が続いたらそれほどの時間も経たないうちに倒れるだろう。
「あの太陽のスタンド、遠いのか近いのかもわからねーぜ。距離感がまったくねーッ」
「てっとり早いのは!……本体をブチのめすことだな」
「うむ……本体か……。どこか近くにいるはずだ……。
探すのだ……。敵は何らかの方法で、我々に気づかれないように潜んで尾行してきていたのだ…………」
でも、どこにいる?こんな隠れる場所のない砂漠の真ん中で、私たち以外には動くものもない。
これほどの強いエネルギーのスタンドは遠隔操作はできない。必ず近くにいるはずなのに。
暑さに耐えかねて、ラクダが倒れ始めた。
「じっとしていてもしょうがないッ!
僕の『
「花京院ッ!」
「気をつけて!」
「敵『スタンド』の位置をみるだけです。どの程度の距離にいるのかわかれば……
本体がどこにいるかわかるかもしれないッ!」
『
「……! なにかやばい! 花京院『
「なにか仕かけてくるぞッ!」
太陽が四方へレーザー光線のようなエネルギーを放った。
「花京院ッ!」
攻撃を受けてよろけた花京院くんをジョースターさんが支える。
レーザー光線は岩をも抉り、直撃を受けたラクダが倒れた。
「うおおおおお、野郎ッ!」
ポルナレフが『
その隙に、先輩がスタープラチナで地面に穴をあけると、全員、そこへ逃げ込んだ。
……毎度のことだけど、すごいパワーだと思う。一撃で大穴があいたんですが。
「大丈夫か、花京院……」
花京院くんは、頭から血を流している。
「ええ……エメラルドスプラッシュを半分出しかけていたので、それがガードになって軽傷ですみました。
ハァハァ……し…しかし…それより暑い…頭がどうにかなりそうだ」
「しかし今の攻撃、恐るべき命中度。
やはり敵はどこからかこっちを見ているぜ!
どこだ! どこなんだ敵はッ⁉︎」
穴の中は直射日光の下よりはずっとマシだけど、やっぱりすごい暑さだ。
ジョースターさんが双眼鏡で外を探ろうとするが、即座にレーザー光線が双眼鏡を破壊した。
「どこにいやがるッ! どーやってこっちを見てやがるんだッ! 透明人間かッ!敵本体はッ!」
こんなピンポイントに狙えるってことは、こちらからも見える位置にいるはずなんだけど……。
不意に、花京院くんが笑いだした。えぇ?
次いで先輩、更にポルナレフも。
そんな爆笑するほどのなにが見えたのさ?
…………あ、うわ〜、あれか!ええー、笑うより脱力ものなんだけど、これ。
「Oh My god! つ…ついにみんな暑さのせいでおつむがやられちまったか……わ…わしと晶くんだけか!冷静なのはッ」
ジョースターさんが気づかないなんて珍しいなぁ。孫の滅多にない爆笑に気を取られてるのかな?
「あはは」思わず私も笑うと、ジョースターさんはますます愕然とした顔になった。
「おい! 承太郎、冷静になるんじゃッ‼︎
気をしっかりもてッ! こんな苦しい時こそ冷静に対処すれば、必ず勝機はつかめるはずじゃッ!」
「ウクハハハハハ、勘違いしないでください、ジョースターさん。あそこの岩を見てください。
人が隠れるほど大きくありませんか?」
花京院くんが少し離れたところの岩を指さした。
「? なんのことだ?」
「こんどは反対側にあるあそこの岩をも見てください」
「?」
「まだ気がつきませんか?
反対側にあの岩とまったく同じ対称の形をした岩がある。影も逆についている。
ということは……」
「ウヒヒヒヒヒ、ハハハハ、アホらしい」
勘のいいジョースターさんには珍しいなぁ。
もう、みんな笑ってないでさっさと終わりにしようよ。暑い。
「オラァ!」
スタープラチナが勢いよく石を投げた。
そこは先ほど花京院くんが指さした影が反転した岩のあたり。
ガラスの割れる派手な音と同時に悲鳴があがった。
「あっ⁉︎ 空間に穴があいたぞッ」
「やれやれ。情けねージジイだ。
てめー、暑さのせいで注意力が鈍ったことにしてやるぜ。
とても血のつながりがある俺の祖父とは思えねーな」
お孫さんが辛辣すぎるよ、ジョースターさん……。
偽の太陽が消えて、一瞬にして夜空が広がった。
う〜ん、涼しい! やっと楽に息ができる。
太陽のスタンド使いを確認すると、なかなか快適な改造車を使っていた。エアコン完備で、冷たい飲み物の入ったクーラーボックスまである。……こっちは暑さで死にそうだったというのに。ゆ、許せん。
「『太陽』のカードのスタンドか。
なかなかすごい敵だったが、タネがばれてみりゃあ、アホらしいやつだったな。フフフフ」
「さあ、次の目的地へ行きましょう。
砂漠の夜は冷えますね」
花京院くんのセリフにかぶるように、ポルナレフがくしゃみをした。
しかしまあ、すごい敵ではあったよ。空条承太郎をあそこまで爆笑させたんだから。
みんな、残り笑いが抜けないのか、まだ笑っている。なんだか釣られて笑いがこみ上げてきた。
砂漠の夜空にしばし笑い声が響いたのだった。