励みになります。
セスナをチャーターしての砂漠越え。しかも、人生で3回の墜落経験を持つジョースターさんの操縦だ。
全員、微妙な顔をしている。特に花京院くんは顔色が悪い。昨日も夢見が良くなかったみたいだし、疲れてるのかな?
さらに赤ちゃんを預かってのフライトになってしまった。あのー、もしこの子になにかあったらどうするんです⁇
「大丈夫じゃ!乗るのはわしらだけ、敵も近寄れん、墜落するわけないじゃろ」
「まあ、流石に4回目にはなりませんよね。そもそも飛行機ってそうそう落ちるものじゃないし!」
あまりにもみんなから疑いの目を向けられるジョースターさんを励ましてみる。
「おい、それってフラグって言うんじゃあねーのか?」
こらポルナレフ、余計なことを言うな。
* * *
嘘みたいだが、マジでフラグだったようだ。
セスナに乗ってまもなく、眠ってしまった私をみんなの大声が起こした。
「起きてくれ、晶‼︎ このままじゃ墜落する‼︎」
「ぅえっ⁉︎」
慌てて目を開けると、窓の外には椰子の木が迫っている。えっ、ちょっ、間に合わない!リミナルスフィアで避ける間もなくセスナはぶつかってしまった。
せめて地面に激突しないようにセスナを減速させ、タンポポの綿毛のようにふわりと着地させる。
「4回目の墜落…」
ジョースターさんが肩を落とした。これはフォローするのはちょっと難しいな。それでも無事だったんだし元気を出してほしい。
私も責任を感じる。セスナの大きさなら私のスタンドでなんとかできたはずなのだ。だから楽観視してたのにな。
怪我人は出なかったが、セスナはもう飛べそうにない。
救援の無線はDIOにこちらの場所がバレるから、本当は使いたくない。でも今はか弱い赤ちゃんが一緒にいる。使わないわけにはいかないだろう。
救助を待って今日はここで野営だ。
墜落の理由は、花京院くんが眠ったまま暴れたからだった。そんな寝相ある⁇
「花京院もそうだが、晶、お前もあれだけセスナが揺れて目が覚めないってのもどうなってんだ?」
それは本当にそう思う。なんで目を覚まさなかったんだろう。起きていたら墜落させたりしなかったのに。
ポルナレフと空条先輩は花京院くんの精神状態を気にしている。旅で心が疲れているんだろうと。今日は朝から顔色悪いけど、そんなヤワな人かなぁ?
沸かしたお湯でコーヒーを淹れる。ご飯は食べたけど、こういう時はおやつもだよね。
ジョースターさんは赤ちゃんのご飯を作っている。この子も無事で良かった。味見と言いながらポルナレフがパクパク食べている。早く食べさせてあげなよ。
みんなにコーヒーとお菓子を配りながら、花京院くんの様子を見る。何やら考え込んでいるみたいだ。
「はい、コーヒー。疲れてるなら甘いものも食べるといいよ」
「ああ、すまない……まさか、墜落させてしまうなんて」
「私も起こしてもらうまで寝こけていたしね。相当揺れたはずなのにさ。今日は早めに休もう」
日が暮れると砂漠は途端に寒くなる。コーヒーは焚き火の近くで飲もうかな、と火の近くに向かう。歩きながらコーヒーを口にしたところで危うく噴き出しそうになった。
赤ちゃんがサソリをピンで刺しているじゃあありませんか。
思わず周りを見ると、花京院くんが愕然とした顔をしている。君も見たのか、今のを。
赤ちゃんは花京院くんに見られたことに慌てている。私にも目撃されてるが、こちらには気がついていないみたいだ。こっちにももう1人目撃者がいますよー?
この子は、普通の赤ちゃんじゃない。この目で見てもなかなか信じられないけど、旅に出てからはそんなことの連続だった。でも、これほど困惑させられる相手はいなかった。だって、赤ちゃんだよ?
どうしたらいいかと動けずにいた私と違って、花京院くんの行動は早かった。
「この赤ん坊はただの赤ん坊じゃないッ!一歳にもなっていないのにサソリのことを知っていて、そしてその小さな手で殺したんです‼︎」
「サソリ……!どこに?」
サソリがいたという言葉に、ジョースターさんが慌てて赤ちゃんの服やカゴの中を調べる。が、どこにもいない。
どこに隠したと詰め寄る花京院くんをみんなが止める。
このやり方じゃダメだ。とりあえず、落ち着こうか、花京院くん。
「ちょっとクールダウンして、花京院くん」
花京院くんの腕を掴み、リミナルスフィアで上空に飛ぶ。20メートルほどの高さで静止した。風が頬を打ち、夜の冷気が肌を刺す。焚き火の灯りが小さく滲んでいく。みんなも驚いてこちらを見上げている。
この高さならあの赤ちゃんにも私たちの会話は聞こえないだろう。
「私も見たよ、あの子がサソリを刺すの」
「ッ!それなら、みんなにもそれを!」
「落ち着いて。普通じゃないけど、見た目は赤ちゃんだよ。いきなり乱暴なことしたらみんなが止める。どうしたらいいか一緒に考えよう」
「…そうですね。止めてくれて、ありがとう。もう大丈夫です」
花京院くんは冷静さを取り戻したみたいだ。きっと、何かいい手を思い付くよ。
ゆっくり地上に戻る。
「おい。花京院、オメー大丈夫か?」
「すまない、確かにサソリを見たと思ったんだが」
「服の中にもカゴの周りにもいなかったぞ」
どこに隠したのか、サソリは見つからない。ますます怪しい。
少し離れた場所で、小声で話す。
「これを見てくれ」
花京院くんが袖をまくると、刃物で切りつけた文字があった。
BABY STAND
思わず目を見開く。やっぱり、あの赤ちゃんはスタンド使いなのか。
「ポケットにナイフはあるけど、書いた記憶はないんだ。誰かに切られたわけでもない。僕の字だ。眠って起きたらこうなっていた」
「朝起きた時?」
「いや、着替えるときにはなんともなかった」
「セスナで眠ったとき…でも、ナイフで切りつけてたらみんなが気が付かないわけないよね?」
「赤ん坊…スタンド……夢……まさか、夢の中のスタンド?」
「夢の中であの赤ちゃんのスタンドに攻撃されてるってこと?そんなのどうやって反撃すれば…」
「もしかしたら、だけど。身に付けているものなら夢の中でも持っているのかもしれない。だからナイフで傷つけられた。スタンドを出したまま眠ればいい」
「でも、もしダメだったら?」
花京院くんはちょっと申し訳なさそうに、
「柏木さん、起きて見張っていてもらえますか?」
徹夜が決定した瞬間だった。マジか。
「よろしい、任せなさい。あ、それと」
花京院くんの腕を見る。
「痛いでしょう、それ。せめて包帯巻くよ」
ポーチに入れている包帯を巻く。
「ありがとう。徹夜の見張りもよろしく」
爽やかに笑いながら言うんじゃあない。
***
朝だ朝だよ朝日が昇る。みんなの夢を守るための徹夜の見守り、完了だ!
ーー眠い。
「おはよう、柏木さん。徹夜させてすみません」
「おはよう。どうなった?首尾は上々って感じ?」
「それはもちろん。ただ、現実世界のあいつにも2度と僕たちにちょっかいを出さないように、お仕置きをしておかないとね」
「それもそうだね。でも、相手は赤ん坊だし、どうしたものかな。うーん……駄目だ、眠すぎて頭が働かない……」
「それは僕に任せてください。少し眠った方が良いですよ。お疲れ様です」
「よろしく……立ったまま寝れそう……」
ちょっとふらふらしながら木陰に向かう。
「おはよう、晶くん。どうしたんじゃ、目の下にくまができてるぞ」
「おはようございます、ジョースターさん。なんか寝付けなくて。今更眠いです」
みんなも起きてきた。昨日の騒ぎで花京院くんの様子を心配しているみたいだが、見なさいよーーピカピカの朝食を用意してるよ!スパダリかな!
甲斐甲斐しく赤ちゃんの世話をする花京院くんに安心したようだ。
ポルナレフはまたも離乳食を拒む赤ちゃんをくすぐって、口にスプーンを押し込む。
赤ちゃんは声にならない悲鳴をあげている。……花京院くん、なに入れたの?
まぁいいや、少し寝ようっと。ああ、太陽が黄色いぜ!
花京院とオリ主の2人で証言したら普通に信じてもらえてそうですが、花京院にお仕置きさせたかったので。