「柏木さん、なにを読んでるんですか?」
「んー、物理」
移動の合間に本を読んでいると、花京院くんが話しかけてきた。
「物理ィ⁉︎ なんだってそんなもん読んでんだ」
ポルナレフものぞき込んできた。
「スタンドが重力操作だから。理論的な知識があれば、もっと自分のスタンドがわかるかなって」
なんとなく、まだ見えていない先がある気がしている。
「邪魔してしまいましたか?」
「ううん、ちょっと詰まってたから、ちょうど良かった。……そうだ、ジョースターさん、今更なんですが聞いていいですか?」
「なんだね?」
「あの、吸血鬼って一体なんなんですか? DIO以外にもいるんですか? そもそもいつから、どうして存在してるんでしょう?」
「そういやそうだな。いるんだからいるで終わってたぜ、俺は」
ポルナレフらしいな〜。
でも、スタンド使いからしても現実味のない存在じゃない?
「そうじゃのう。……長い話になるぞ。石仮面と、それを作った柱の男たち。
人類と奴らとの、気の遠くなるような長い戦いの歴史じゃ。無論、教科書にはのっておらんがね」
ジョースターさんの話は驚くべきものだった。
100年前から続くジョースター家とDIOの因縁。それよりずっとずっと昔から続いていた人類と柱の男との戦い。
吸血鬼を食糧にする生き物って凄まじすぎる。
「それじゃあ、最後の柱の男は今も宇宙のどこかを漂っているんですか」
「あれが人間と地球にできる精一杯じゃったよ」
「ジジイの与太話がまさか本当だったとはな」
「承太郎!お前信じとらんかったのか!この義手はその時の名誉の負傷じゃと!」
【悲報】空条承太郎が祖父の話を全然信じてなかった。
「先輩……」
「仕方ねーだろ。スタンド使いでもなかったんだ。そんな突拍子もない話を信じられるか。
戦争で負傷したと思うだろ」
さすがにちょっとバツが悪そうにしている。確かにスタンド使いからしても驚きの話だけどね。
すごい話を聞いたものだ。……でも、もしも他の人に話したって、信じてもらうのは難しいだろう。
案外、世界の終わりってやつは簡単にくるのかもしれないな。
***
「あいつがようやく戻ってくるぞ」
ジョースターさんがポツリと言った。
私と先輩、花京院くんは思わず顔を見合わせる。
それって、もしかしなくてもアヴドゥルさんだよね。無事に怪我が治ったんだ。良かった……。
「サプライズじゃ。もう少し黙っておれよ」
「「「了解」」」
もうちょっとでまた会える。楽しみだ。ポルナレフ、驚くだろうなぁ。
ジョースターさんが操縦する小型艇で紅海を渡り、いよいよエジプトに入ろうとしている――はずだが、どうも違うみたいだ。
方角のズレに気がついた先輩に、ジョースターさんは「エジプトに入る前に、
「この旅にとって、ものすごく大切な男なんだ…」
いよいよ、アヴドゥルさんに会えるのか。
船を停めたのは、小さな島だった。
「ほんとに人が住んでいるのですか……? なんか小さい島だし、無人島のように思えますが…」
花京院くん、とぼけるなぁ。
「たった1人で住んでいる。インドで『彼』は私にそう教えてくれた」
「え? 誰ですって⁉︎ 『彼』って誰ですか?」
「なに? インドでカレー?」
ポルナレフ……これ、いつまで引っ張るの?うっかり笑っちゃったらどうするんだ。
「おいおい。そこの草陰から誰かが俺たちを見てるぜ」
「え?」
誰か()が背中を向けて走り去った。
「あっ、逃げるぞッ!」
…………アヴドゥルさんですよね? なんか髪を白くしてるけど。
「はっ、あ…あの後ろ姿は……見たことがある!」
花京院くん……うん、アヴドゥルさんだからね。
追いかけていくと、小さな家の前で背中を向けたアヴドゥルさん(仮)が、ニワトリに餌をあげている。
近寄ろうとするみんなを制して、ジョースターさんが話しかけた。
「私の名はジョセフ・ジョースター。この4人とともにエジプトへの旅をしているものです」
「帰れッ! 話は聞かんぞッ! わ…わしに話しかけるのはやめろッ!
このわしに誰かが会いに来るのは、決まって悪い話だッ!悪い事が起こったときだけだッ!
聞きたくない! 帰れッ!」
振り返ったその顔は……
「アヴドゥルさんッ!」
「アヴドゥル……」
うん、アヴドゥルさんだね。老けメイクしてるけどね。
アヴドゥルさん(仮装中)は、家の中に閉じこもってしまった。
「まっまさかッ!」
「アヴドゥルの父親だ。世を捨てて孤独にこの島に住んでいる…。
今までお前たちにも黙っていたのは、もしここへ立ち寄る事がDIOに知れたら、アヴドゥルの父親の平和が乱される可能性がある。その事を考えてのことなのじゃ」
なんでこんな凝った設定練ってるの? そんでなんでみんなしれっと合わせてるの? さっきから笑わないように口の中噛んでるんだけど。
「父親」
「だが…息子のアヴドゥルの死を報告するのは……辛いことだ」
ポルナレフが苦しそうに顔を伏せた。
「アヴドゥルの死は君のせいじゃあない、ポルナレフ」
真顔で慰めるんじゃあない、ジョースターさん……!
やばい、顔がひきつる。たまらずに後ろを向いた。
……よーく見ると、ほんのちょっとだけ先輩と花京院くんの顔がひくついている。
限界だ……!
ポルナレフが遠ざかる気配の後、地面に膝をついた。
「あひゃははははは、み、みんなヒドイ!ここまでやる⁉︎」
地面をバシバシ叩いた。あー、おなか痛い。
「柏木さんだって結局のってるじゃあないですか!アハハハハハ!」
花京院くんたちも笑い出した。
「家の中にまで笑い声が聞こえてきたぞ。久しぶりだな、お前たち」
アヴドゥルさんが外に出てきた。変装は解いてないけど。
「アヴドゥルさん!お久しぶりです、おかえりなさい!ブフッ」
ダメだ、残り笑いが抜けない。なんだかしまらない再会になってしまった。
「元気そうだな、晶。みんなも」
「お互いここまで無事でなによりだったぜ」
「もう背中の傷は平気なのか?」
みんな再会を喜んでいる。良かった良かった…………じゃないよ!
「ポルナレフ!ポルナレフを呼んで来よう! サプライズにのっててなんですが、これ以上は可哀想ですよ」
「うむ、それもそうだな…探しに行くか」
そうは言っても、この島はそれなりに広い。ポルナレフはどの辺りにいるんだろう。上空から探してみようかな。
アヴドゥルさんが小さな炎をいくつか浮かべると、その一つがなにやら反応を示した。
「これは生命反応を指し示している。この島は小動物はいるが、人間のように大きな生き物はいない。ポルナレフはあちらの方向にいるようだな」
マジシャンズレッドってそんな事もできるんだ。便利だなぁ。
「じゃあ、ポルナレフを探して来ますね」
「私も行こう」
「アヴドゥルさんはその変装を解いてから来てください。話がややこしくなりますよ」
「なかなかよくできてるだろう?」
全く、なんだってそんなにノリノリで変装してるんですか。
アヴドゥルさんの示した方向に行くことしばし、ポルナレフを見つけた。
あれ?誰かいる…………って、スタンドじゃないか!
この状況で出会うスタンドなんて敵しかいないよね⁉︎
「ポルナレフ!」
「おや、お前も叶えて欲しい願いがあるか? だがまずはお前からだ。大金持ちになりたい、それは叶ったぞ。それだけで満足か? さっきの質問に答えることが願いでいいのか? 3つしかない願いをつまらんことに使うのだな」
あからさまに怪しいこと言ってる。なんか童話かなにかで聞いたことあるようなシチュエーションだ。どんな願いも3つだけ叶うとかそういうやつ。
童話と違うのは、それを持ちかけているのがスタンド使いだってこと。
「ポルナレフ、こんなヤツの言うことに耳を貸しちゃダメだよ。どう考えても敵のスタンドでしょう」
「そう…そうだよな、やっぱり怪しいぜ、貴様ッ!」
「フン、二度とないチャンスを棒に振るのか。どんな望みも叶うというのに」
「やかましいッ!それなら俺の殺された妹を生き返らせてみろッ!友人のアヴドゥルを生き返らせてみやがれッ!できるモンならな!」
ポ、ポルナレフ、アウトーー! なんでそんな迂闊なこと言っちゃうんだ!
……でも、半分は悪ノリした私たちのせいだ。島に着いた時に本当のことを伝えなかったんだから。
「いいだろう。叶えよう。
だが望みを2つ言ったな。1つずつ順番だ!
まずは第2の願い、妹からだ…
そう言うと、スタンドは姿を消した。
このスタンド使いもやっぱり敵だ。グレーどころか真っ黒だよ。願いを叶えるっていうのも嘘。
だって――
「待ちやがれッ」
「ポルナレフ、落ちついて。あいつの言ってたことは全部嘘だよ! スタンドが死んだ命を生き返らせるなんて、できるわけないじゃないか! そもそも、」
その時、近くの草むらから音がした。土を掘り返すような音が。――嫌な予感しかしない。
若い女性のすすり泣く声が聞こえる。ポルナレフは、呆然とした様子で声のする方へ向かう。
呼び止めるが、聞こえていないみたいだ。
地面には、人型に抉れた跡がある。長い髪の毛と、華奢な女性の足あとも。
「嘘だ。嘘…だ。俺の妹はフランスの俺の故郷の墓の下にいるはずだ。
誰だ⁉︎ お前は……誰なんだ?」
泣き声の主は、「来ないで」と答えた。
「苦しいの。
「その声は……シェリー。お…お前か? お前なんだな」
ポルナレフは、目に涙を浮かべながら、背中を向けたままの何かに近づく。
その何かは草むらの中を走り去った。
「どこへ行く⁉︎ シェリー、俺だよ!待ってくれッ!」
悪趣味だ。声を聞くだけで涙が出るほど会いたい人の偽物を作るなんて。
叶わないとわかっていても願ってしまう、心の一番柔らかいところに爪をたてるってことだ。
追いかけようとするポルナレフの腕をつかんだ。
「離してくれ、シェリーが行ってしまう!」
「ポルナレフ、聞いて! あれは妹さんの姿を写した偽物だよ! あのスタンドは願いを叶えるつもりなんてない、そもそもアヴドゥルさんは生きてるんだから!」
「な、な、なんだとォッ⁉︎」
その時、またしても偽物が話しかけてきた。
「お兄ちゃん……あたしのことはもうどうでもいいの? その子がいるから? 苦しいの……助けて、お兄ちゃん……お兄ちゃんを食べれば、完全に元に戻るわ……ねえ、いいでしょ…食べても…」
いつかポルナレフに見せてもらった、写真の妹さんの姿そのままの偽物……その顔の半分を除いて。
わざと不完全な形にしてるんだろう。よりによって顔を歪めている。
咄嗟に動けないポルナレフに向かって、偽物が飛びかかってきた。
マズい!思ったより素早い!
「――リミナルスフィア!」
ほんの一瞬、判断が遅れた。
顔をかばった腕を、偽物の爪が掠める。鋭い痛みが走り、袖が裂けて血が滲んだ。
でも、そこまでだ。もう捕まえた。偽物は宙でもがいている。
人間とは思えない重さ……これは、土でできている。
「! 大丈夫か⁉︎ 血が……! シェリー、やめてくれッ!」
「お兄ちゃん、助けて! そいつをなんとかしてッ!
そいつの血じゃあダメなの!
いつもシェリーの言う事、何でも聞いてくれたじゃない」
「う…うううう……カメオーッ!」
姿を消していたスタンドが、また現れた。
「なんだ…文句があるのか。俺はお前の願いを聞き入れた…。『願いをきく』それだけが俺の能力…。
後は、お前次第さ」
「ならば3つ目の願いを言うぜ。い…妹を消してくれ!
妹を土に戻してくれ!」
「いやだよおォォォォ〜〜〜んンンンン。
まだわからんのかッ!俺は『スタンド』なんだよッ!
俺は『
その人間の心からの願いを『土』に投影して願いを作ってやること!
お前は『自分の心』で自分の妹を作ったのだッ!」
カメオは、妹の復活を願ったことが弱さだと嘲笑っている。
それは弱さだとは私は思わないけどね。
「晶……、すまねえ、怪我までさせた。……面倒かけたな、シェリー…いや、あの土人形を降ろしてくれ」
「……うん」
能力を解除し、土人形を地面にそっと降ろす。
途端にポルナレフに飛びかかってくるが、シルバーチャリオッツは一刀のもとに斬り伏せた。
「ハハハッ! せっかく作ってやった妹に酷いことをするものだな! だが、お前はもう一つ願いを言っているな。『アヴドゥルを生き返らせてくれと!』
草むらから、アヴドゥルさんの姿をした土人形が立ち上がった。
そして、即座に燃え尽きる。――良かった、来てくれた。
「あ…ああ……、本当なんだな」
「バカなッ!死んだはずの!」
「モハメド・アヴドゥル……!」
「YES,I AM!」
本物のアヴドゥルさんの登場にカメオは慌てふためいている。……ポルナレフに黙っていた甲斐があったというものだ。
「『
「3つ目の……第3の願い
ポルナレフは涙ぐんでいる。
良かった。これでやっと全員が再会できたのだ。
「怪我をしているな……大丈夫か?」
「大丈夫。かすり傷ですよ」
ポルナレフの方が痛そうな顔をしてるんだよね。大丈夫だよ。
この期に及んで、カメオは3つの願いを持ちかけてきた。
乗るわけがない、ふざけてるの?
「4つにしてくれ。3つの願いを4つにしてくれというのが願いだ」
アヴドゥルさんはそれを逆手に取ってカメオを圧倒した。
蹴りはカメオのガードを物ともせず、
「第1の願いは貴様に『痛みの叫び』を出させること」
炎のロープで締め上げ、
「そして第2の願いはッ!『恐怖の悲鳴』をあげさせること」
トドメの蹴りを叩き込んだ。
「さらに第3の願いは! 『後悔の泣き声』だッ!」
追い詰められたカメオは、煙を出して姿を消した。
「また消えた!」
「や、野郎! 逃げたぞッ!待ちやがれッ!チクショー」
「しっ、静かに2人とも」
さっきまでの騒ぎが嘘みたいに、風が草むらを揺らす音だけが聞こえる。
「あのパワーとスピード。スタンド使いの本体は…かなり近くに…いなくてはならないのが『スタンド』のルール」
声をひそめてあたりを探す。先程ポルナレフの居場所を示した生体探知の炎が反応した。あちらか。
…………怪しい筒が地面から生えている。
アヴドゥルさんが葉っぱをのせると、呼吸で葉っぱが浮いた。さらに指で筒の口をふさぐ。苦しげなうめき声が聞こえる。
バレバレなのに出てこないな。
ポルナレフが地獄を見せてやる、と筒の中に色んなものを入れ始めた。泥、砂、クモ、蟻、マッチ……小学生男子か。咽せているが、まだ出てこない。
「おい、ポルナレフ! なんかもよおして来たのおー」
ん?
「いっちょ! 久しぶりに男の友情! ツレションでもするかあッ!」
…………ア、アヴドゥルさん?
頭の上にはてなマークが浮かんでそうなポルナレフに、アヴドゥルさんは筒を指さした。
アヴドゥルさんは、若干引いているポルナレフとカメオの潜む筒に向かってツレションを始めた……楽しそうに笑いながら……。
私? ちょっと離れた場所で後ろを向いてるよ。
アヴドゥルさん、あの気合いの入った変装といい、性格変わってませんか?
思わず遠くを見つめる。お空綺麗……。
耐えきれなくなったカメオが、悲鳴をあげながら地中から出てきた。
「ヒイイイイイ‼︎ 許してくださああイイイイーッ‼︎」
「『4つ目の願い』それは……お前の願いはまったくきかないこと…
そして、マジシャンズレッドの炎があたりを染める。
アヴドゥルさんと再会して早々の戦いは幕を下ろした。
…………。……カメオにしたお仕置き、アヴドゥルさん主導だって言ったらみんな信じてくれるかなぁ。
「ホントだもん! 本当にアヴドゥルさんが言い出しっぺなんだもん! ホントだもん!」