The Blank Card   作:カナヤン

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女教皇

 

自分の人生で潜水艦に乗る日が来るとは、想像すらしなかった。

海洋学者とか海自とか、そういう仕事でもない限り乗る機会は滅多にあるものじゃないだろう。

潜水艦っておいくら万円するんです? 庶民からすると震えるものがあるよ。大富豪の道楽って理由が通るってことは、買う人が存在するってことだもんね。

 

アヴドゥルさんの変装は、これを買うためだったそうだ。……その割にはノリノリで演技してたと思うけど……。

 

「アフリカ大陸の海岸が見えたぞ」

潜望鏡をのぞいていたアヴドゥルさんが言った。

 

このまま自然の侵食でできた海底トンネルを通り、内陸200メートルの地点で上陸することになる。

いよいよ、エジプトだ。

本当にここまでいろいろあった。みんな、感慨深い顔をしている。

 

「おい…花京院、なぜカップを7つ出す? 6人だぞ」

「おかしいな。うっかりしてたよ。6個のつもりだったが…」

 

その時、ジョースターさんが手にしていたカップが弾けるように姿を変え、左手を切り飛ばした。

切断された義手の指がジョースターさんの首もとに突き刺さる。倒れ込む彼を花京院くんが受け止めた。

 

「ジョースターさん! 大丈夫ですか⁉︎」

気を失っている。

傷そのものはそれほど深くはないみたいだ。花京院くんと代わってジョースターさんを支える。私なら重さを気にしなくていいからね。

 

襲ってきたスタンドは潜水艦の計器に化けて見えなくなった。

アヴドゥルさんが聞いたことがあるスタンドだった。

女教皇(ハイプリエステス)』の暗示を持つスタンド――金属やガラスなどの鉱物なら何にでも、プラスチックやビニールにまで化けられるという。

しかも、攻撃してくるまで見分ける方法はないそうだ。……これは、かなり厄介な能力じゃないかな。わかっていても対処するのは難しいだろう。

 

「し…しかし、どこからこの潜水艦にもぐり込んで来たんだ?」

 

ポルナレフの疑問はその言葉とほぼ同時に解消された。勢いよく海水が侵入して来たのだ。

 

「なるほどこーゆーこと? 単純ね……穴をあけて入ってきたのね?」

「浮上システムを壊していやがった。どんどん沈んでいくぞ!」

「いつの間にか酸素もほとんどない。航行不可能だ」

「つかまれッ!海底に激突するぞッ!」

 

轟音とともに潜水艦は海底で動かなくなった。

 

「やっぱりこーなるのか。俺たちの乗り物って必ず大破するのね」

本当それ。

 

何より問題なのは、『女教皇(ハイプリエステス)』がどこに潜んでいるかもわからないことだ。

 

「花京院…『スタンド』のやつ、どの計器に化けたか目撃したか?」

「た…たしかこの計器に化けたように見えたが…」

 

花京院くんが指したあたりを空条先輩が慎重に確認している。

 

「違うッ!承太郎ッ!もう移動しているッ!花京院の後ろにいるぞッ!」

アヴドゥルさんが警告したその瞬間、背後から襲ってきた『女教皇(ハイプリエステス)』の爪が花京院くんの首元を切り裂いた。

スタープラチナがすかさず反撃するが、またもや計器の中に姿を消した。

 

「大丈夫⁉︎ これで押さえて」

ハンドタオルを首元に押し当てる。

「ありがとう…そう深く切れたわけじゃなさそうだ」

 

ゾッとする。

首だ。

こいつ、最初から致命傷しか狙っていない。

 

「みんなドアの方へ寄れ! い…いつの間にか機械の表面を化けながら移動しているんだッ!

この部屋にいると全員どんどんケガをしてダメージを受けるぞッ! 花京院、大丈夫か‼︎

みんな隣の部屋に行くんだッ! 密室にして閉じ込めるんだ!」

 

アヴドゥルさんの指示でみんなドアへ向かう。

――つかんだそのドアに『スタンド』が化けていた。でも、それが攻撃するより早く先輩のスタープラチナが捕まえた。

ん? こいつ、何にでも化けられる(・・・・・・・・・)んだよね?

 

「先輩、そいつを離して!」

 

間一髪だった。手を離したその瞬間に、『女教皇(ハイプリエステス)』はカミソリの刃に姿を変えていた。あ、危なかった……。

そして、宙に浮かんでいる。

 

「…はい、捕まえた」

 

変身を解いた『女教皇(ハイプリエステス)』は空中でもがいている。

 

「こいつをどうする?」

「迂闊にさわれんからな…『魔術師の赤(マジシャンズレッド)』で焼くか」

「このまま生け取りにして、ジョースターさんの『スタンド』で情報収集するのは?」

「うむ、そうだな…。地上まで維持出来るか?」

「この状態なら問題ないです」

「お、おい! そいつ、また変身するぞッ!」

 

今度は水中銃に姿を変えた。こちらに切先を向けようとするが、そうはさせない。向きをそらし、さらに勢いよく回転させた。

 

「ム、ムキャキャイイイ! や、やめ、止めてッ………!…グ……」

元の姿に戻った。目を回している。

油断も隙もないな。ちゃんと見張ってないと。

 

敵は捕まえたが、この潜水艦はもう浮上も出来ない。スキューバダイビングで海上を目指すことになった。

ジョースターさん以外、誰も経験者がいない。

装備を身に付けて基本的な仕組みを教わる。ハンドシグナルは、この場の全員がスタンドで話せるから必要ない。

 

「なあ〜〜んだ、ハンドシグナルなら俺もひとつ知ってるのによ……」

フランス人にもパンツーまる見えって通じるんだ……。花京院くんと男子小学生みたいなことをやってる。仲良いな、君たち。

 

「こんな非常事態だというのに、くだらんことやっとらんで行くぞッ」

ごもっとも。

 

潜水艦って、多分億単位はするよね。さっきから念の為にクルクル回転させてる『女教皇(ハイプリエステス)』を見て、思わずつぶやく。

 

「本体を捕まえたら、こいつに潜水艦の弁償させられるかな」

「下手したら10億円超えですよ。無理じゃないですか?」

「…そういや、俺たちを殺したらDIOの野郎から100億ドル貰えるらしいぜ。前金で少しは貰ってるんじゃねーか」

「じゃあ、こいつの財産差し押さえるってことで」

「晶、急にどうしたんだよ」

「2度となさそうな潜水艦体験を無茶苦茶にされてムカついてる」

 

だんだん、部屋に水が満ちてきた。そろそろレギュレーターを付けないと。

 

「それじゃあね、さよなら、窒息号」

「イヤな名前付けてんじゃあねえ」

え〜、いい名前なのに〜。

 

世界でも有数の透明度を誇るという紅海の美しさは圧巻だった。透き通る海、珊瑚礁。名前もわからないたくさんの魚の群れ。

 

「なんて美しい海底だ……ただのレジャーで来たかったもんだぜ…」

本当にね。のんびり楽しむわけにはいかないもん。

そうは言っても、やっぱり綺麗だなあ。

 

……あれ?目の錯覚かな? 『女教皇(ハイプリエステス)』のサイズがおかしいような……。大きくなってる……⁇

 

「――おい!そいつ、でかく(・・・)なっているぞッ!」

 

さっきまで顔くらいの大きさだった『スタンド』が、見る間に巨大化していく――やばい、リミナルスフィアの制御から外れた!

 

「ごめん、私のスタンドじゃ抑えられない!」

 

海底と一体化した巨大なスタンドが、その口を開いた。

 

「なんだ⁉︎ この大きさは、このスタンドのパワーは⁉︎

今まであんなに小さかったのに⁉︎」

「スタンドのパワーがこんなに大きいのは、本体が距離的に近くにいるせいだッ! きっとものすごく近いぞッ!」

 

“その通りッ あたしはそこから7メートル上の海岸にいるよッ! しかしお前らは『女教皇(ハイプリエステス)』の中ですりつぶされるから、あたしの顔を見ることはできないッ!”

 

突然強い水圧がかかる。

全員、その巨大な口の中に吸い込まれてしまった。

 

“お前、さっきはよくもやってくれたわね! ぶっ殺すッ!”

「えッ」

 

巨大な舌になぎ払われる――岩みたいに硬い!

叩きつけられた先は、歯の上だ。え、これってまさか……

――さっきはよくもって、高速回転で目を回させたこと?窒息号の賠償責任を強調したこと?

そんなこと恨んでるの⁈――この間、0.2秒。

 

叩きつけられたせいで身動きもできない。う、わ、ダメだ……!

なにかが私の腕をつかんで、放り投げた。

代わりに歯の上で押さえているのは、

 

「先輩!」

「承太郎を助けろッ!ひっぱり出すんじゃーッ!」

 

伸ばしたスタンドは、わずかに間に合わない。

歯が噛み合わされ、ボンベが破裂した。

 

「そんな……!」

「承太郎が歯でスリつぶされたーーっ‼︎」

「いや、待て……なにか聞こえるぞ」

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーーーーーッ‼︎」

 

先輩は、ダイヤと同じ硬さだというスタンドの歯を掘って出てきた。他の歯も端からへし折っている。

 

「やれやれ。ま…確かに硬い歯だがたたき折ってやったぜ……。ちとカルシウム不足のダイヤモンドだったようだな」

 

 

そして、無事に海岸にたどり着いた。

足の力が抜けそうになる。みんな、生きてて良かった。

 

誰かが倒れている。

 

「『女教皇(ハイプリエステス)』の本体のミドラーだ」

「どうします。再起不能でしょうか…」

「美人かブスか見てくるかな」

 

ポルナレフが様子を見に行った。

「ノーコメント、やめろ、見るのはやめろッ!」

だそうだ。

歯、全部折られたもんね……。

 

 

ついにエジプト上陸だ。実に1か月、とうとうここまで来た。

 

「ジェットなら20時間で来る所を…30日もかかったのか」

「いろんな所を通りましたね。脳の中や夢の中まで」

「夢? なんだそれは? 花京院」

「あ」

「あ…そうか、みんな知らないんでしたね」

 

花京院くんと目が合う。

そう言えば、みんなにちゃんと話してなかったね。

…ま、いいか。今は、まだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「窒息号」の元ネタわかる人いるでしょうか。

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