The Blank Card   作:カナヤン

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空条邸

空条先輩の家に到着した。噂には聞いていたが、すごいお屋敷だ。これは本当に個人の家なの?時代劇で見る武家屋敷みたいだ。そんな場合じゃないのに驚いてしまう。庭に池があるよ……。

廊下を進むと、話し声が聞こえる。

 

「今、承太郎ったら学校で私のこと考えてる!今、息子と心が通じ合った感覚があったわ」

「考えてねーよ」

 

先輩の容赦のないツッコミに女性が悲鳴をあげた。先輩のお母さんなのかな?朗らかで可愛い感じの美人だ。こんなふんわりと優しそうな人に育てられて、なんでこんなワイルドに育ったんだろう。

 

「すみません、お邪魔します」

 

会釈をするが、お母さんはそれよりも、先輩が肩に担いだ怪我人を見て驚いている。当然の反応だと思うけど、先輩はそれに取り合わずお祖父さんの居場所を聞くとさっさと歩き出した。が、振り返ってお母さんの顔色の悪さを指摘した。

にこやかに元気だと答えるお母さんに背中を向けてまた歩き出す。

……わかりづらいけど、優しいんだろうな、先輩は。肉親はこれでいいかもしれないけど、察してくれる人ばかりじゃないでしょうに。これは意外と損するタイプなのかも。

 

 

「だめだな、こりゃあ。手遅れじゃ。こいつはもう助からん。あと数日のうちに死ぬ」

 

畳に寝かせた花京院を見て、先輩のお祖父さん――ジョースターさんはキッパリと言った。

思わず息を飲む私たちに、ジョースターさんは花京院の額を見せた。肉でできた蜘蛛のようなものがついている。よく見ると動いている――気持ち悪い。

これはDIOという吸血鬼(!)の細胞でできた洗脳装置だという。これを植え込まれるとDIOを崇拝し、決して逆らえなくなり、いずれは脳を食い荒らされて死ぬのだと。

花京院――くんは、だから先輩を殺しに来たんだ。

ジョースターさんと一緒にいた民族衣装を着た男の人――アヴドゥルさんは、数ヶ月前にエジプトでDIOに会い肉の芽を植え込まれそうになったが、自分がよく知る迷路のような町だったおかげで逃げることができたそうだ。

生きている肉の芽は外科的手術でも摘出できない。僅かでも動けば脳が深刻なダメージを受けるからだ。

先輩は自分の正確で素早いスタンドで抜き取ると花京院くんの肉の芽に手を伸ばした。

ジョースターさんたちは慌ててそれを止めようとした。理由は一目で分かった。

私は小さく悲鳴をあげた。肉の芽から伸びた触手が先輩の手から潜り込み、頭の方へ伸びているのだ。

 

「手を放せジョジョ!顔まではい上がって来たぞッ!」

 

見ていられなくなったんだろう、アヴドゥルさんが手を伸ばそうとしたのをジョースターさんが止めた。

 

「待て、アブドゥル。わしの孫はなんて孫だ…体内に侵入されているというのに冷静そのもの…ふるえひとつおこしておらんッ!スタンドも!」

 

感嘆の声をあげるジョースターさんの前で、花京院くんの肉の芽は抜き取られた。肉の芽はジョースターさんが触れると、溶けるように消えてしまった。

 

「今のは一体……」

「これは波紋と言ってな、吸血鬼を倒す特別な呼吸法じゃ」

 

私の呟きにジョースターさんが答えた。

 

「何故おまえは自分の命の危険を冒してまで、わたしを助けた……?

 

花京院くんは呆然としながら言った。先輩はぶっきらぼうに、

 

「さあな……そこんとこなんだが……俺にもようわからん」

 

とだけ。やっぱり先輩の優しさはわかりづらいよ。言葉が足りなくて誤解されそう。死なせたくなかったとか言えばいいのに。

でも、毎日先輩を取り囲んでる女の子たちはもしかしたらこの不器用な優しさにノックアウトされたのかな。だから怒鳴られようと黄色い悲鳴があがるのかも。……そうだったらいいなぁ。

とにかく、ようやく騒動が終わったのだ。

 

 

     * * *

 

 

先輩のお母さん――ホリィさんが花京院くんの傷の手当てをした。花京院くんはまさに憑き物が落ちた、という感じだ。これが本来の彼なんだろう。

しばらくの沈黙のあと、アヴドゥルさんが口を開く。

 

 

「承太郎、そちらのお嬢さんは何者だ? 何故ここへ連れて来た?」

「学校の後輩だ。こいつもスタンド使いで……名前は……」

「柏木晶です。学校で、空条先輩とあの人が戦っているところに遭遇しました」

 

先輩、やっぱり私の名前覚えてなかったんですね?それどころじゃなかったけどさ!

 

「これって、スタンドって言うんですね。今まで周りに見える人がいなかったから、守護霊くんとか背後霊くんとか呼んでました。いつか見える人にも会えるだろうと思ってたんですけど……」

 

言葉を濁すしかなかった。やっと会えたと思ったら、命の取り合いの現場だった。驚いたなんてもんじゃない。

 

「ではあらためて。私はアヴドゥル。災難だったな、お嬢さん。一応言っておくが、こんなことはそうあることじゃないぞ」

「その、DIOって人のせいですか?」

「ああ、そうだな。……君のスタンドを見せてもらってもいいか? 私の魔術師の赤(マジシャンズレッド)は炎を操るんだ」

 

鳥のような頭部のスタンドが手に炎を灯すのを見て、目を丸くした。こんなことができるスタンドもあるんだ。

 

私も、自分のスタンドの姿を見せる。CDの裏側のような色、体の表面には縄文土器のような模様が浮かび、カメレオンみたいな目と関節の球体がゆっくり回転している。

 

壁に足をつけて、そのまま壁から天井へ歩く。重力の方向を自在に変えられるのが私のスタンドだ。上下逆さまでも、髪も制服のスカートも乱れず、床を歩くのと変わらない感覚だった。

 

「重力操作か……!面白い。うまく鍛えれば強力な力になるぞ」

「俺が花京院をここまで運ぶ間も、重さを軽くしてたぜ」

 

皆の視線が集まる中、ふわりと床に降りた。

包帯を巻いた花京院くんも、うっすらと目を開け、虹色に輝くスタンドをじっと見つめている。

 

「スタンドって、見た目も能力も千差万別なんですね。今日まで自分のしか知らなかった」

「僕もエジプトでDIOに出会うまではそうでした」

「スタンド使いは滅多にいないからな」

 

貴重なお仲間とやっと会えたのか。でも、ファーストコンタクトが戦いっていうのはなかなかの衝撃だ。

誰にも見えないスタンド。悪用しようと思えばできた。それこそ、気に入らない相手を傷つけたり――殺すことさえ、容易い。やろうと思えば、だけど。

でもそんなことをしてしまったら、家族にも友達にも会わせる顔がなくなる。

スタンドは怪物じみた力だ。

振り回されたらきっと私は怪物になってしまうだろう。

誰に知られなくても、私はそうなりたくない。

 

「柏木さん……すみませんでした。あなたにも怪我をさせてしまった。恐ろしかったでしょう」

「掠っただけだし、平気だよ。それに、花京院くんの意思じゃないでしょ?」

 

確かにビビりちらかしたけど、と笑うと花京院くんはますますすまなそうな顔をした。自分こそ死ぬような目にあってるのに、生真面目な人だなぁ。

せっかくの機会だし、アヴドゥルさんたちにスタンドについて聞いてみた。

ジョースターさんは一年前、空条先輩にいたってはここ数日にスタンド使いになったんだって。それなのにあの非常事態に動じてなかったなぁ。ちょっと凄すぎない?

アヴドゥルさんも花京院くんも生まれついてのスタンド使いだそうだ。そういうこともあるんだ。

その場合、周りとの付き合い方とか色々大変だったんじゃなかろうか。家族が見えない人なら尚更。

 

「柏木さんはいつから?」

「私は子供の頃に事故にあってね、それから」

 

最初は自分も家族も困惑したものだ。急にイマジナリーフレンドが現れたと心配をかけた。

 

「タンスの後ろに落としたものを易々と回収する娘にスタンドの存在は信じてもらえたけどさ」

「柏木さんの家族はスタンドのことを知ってるのか⁉︎」

 

花京院くんもアヴドゥルさんも驚いている。

「大掃除とかの時には便利に使ってるよ」と言うとみんな呆れたような、感心したような、なんとも言えない顔をした。

 

「僕は家族に打ち明けるなんて考えたこともなかった」

 

花京院くんはなにやら考え込んでいるみたいだ。でも、家族に隠し通すって難しくないかなぁ?よくやってのけたと思うよ。

ジョースターさんは目を丸くして笑った。

 

「そりゃあ、家族は大助かりじゃな!」

 

アヴドゥルさんは穏やかに微笑んで、

 

「そういう使い方も悪くないな。……スタンドの本質は“破壊”ではなく“意思の具現”だ。君のように扱えるなら、それが一番だ」

 

空条先輩は「いいんじゃねぇか」と呟き……な、なんと!少し口角が上がっている!毎日先輩を追いかけるアマゾネスの皆さん!見てくれ!俺は空条承太郎を笑わせたぞ!

 

怒涛の1日だった。目の前でいきなりのスタンドバトル、先生も怪我していたし、医務室は半壊した。そういえばあの壊れた医務室はどうしよう。先輩は「放っとけ。どうせ原因はわからん」だった。わ…わァ……。

結局、その日は空条家でご飯までご馳走になってしまった。ホリィさんの手料理はすごく美味しかったと記録しておく。先輩、毎日こんなの食べてるんだ…いいなぁ。

でもこれ、ヤバくない?アマゾネスの皆さんにバレたら殺されない?

帰宅後、さらに不味いことに気がついた。上着を忘れてきている。……明日は早起きして取りに行かなければ。間違っても誰かに見られないように。自分の平穏な学校生活のためにな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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