The Blank Card   作:カナヤン

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おや?承太郎の様子が…

 

花京院くんが負傷したのは目だ。設備の整った病院での治療が必要だ。

彼はアスワンの病院で入院することになった。……失明するかもしれないそうだ。そうなってしまったら、もう旅どころではなくなってしまうだろう。

 

それでも、私たちは旅を続けるための準備をしなければいけない。ずっと砂漠を移動していたから、大きな町に来るのも久しぶりだ。

少し休もうと入ったカフェで、注文した紅茶を飲もうとした時だ。

 

「きゃあ、この犬が! あたしのケーキをッ!」

「誰だ、犬を店の中に連れこんだのはァ!」

 

イギーが隣の席の人のケーキに飛びついている。

全員、紅茶を噴いた。

ごめん、花京院くんのことが心配でうっかりしてた。お腹すいてたんだね。

ケーキを取られた女性がイギーに皿やカトラリーを投げつけている。

外に走り出したイギーを追いかけて、店を出た。店の人たち、ごめんなさい……。

 

 

買い物を終えて戻ると、誰かが車の中にいる。

 

「そこにいるのは誰だッ! 俺たちの車の中にいるのはッ!」

「ポルナレフ、承太郎じゃあないのかッ!」

「違うぞ!用心しろ、2人ともッ! 承太郎はアヴドゥルと直接病院へ行くと、さっき俺に言ったんだ!

おい、隠れてんじゃあねーぜッ!」

「何者だ、出て来いッ!」

 

物盗りか何か? それとも――

 

「おいおい。なにを慌ててるんだ。俺だぜ、ポルナレフ」

「なんだ、承太郎か」

「しかし、どうした? お前、直接病院へ行くと言ってたじゃあないかよ」

「アヴドゥルさんは? 一緒じゃないんですか?」

「え? え え!ああ…アヴドゥル…病院へか…………

車に忘れものしてよ、取りに来たんだ。財布だよ、財布を忘れてな。アヴドゥルは先に行ったぜ。やれやれだぜ」

 

……なんか変だな、先輩。いつもの落ち着きがない。

 

学ランが汚れたからクリーニング中だと言う先輩の服は、正直ちょっと微妙だ。……もしかして私服のセンスがアレだからこの長旅でも学ランだったの? 先輩のモテの何パーセントかは制服で出来てたの? 白衣がカッコよく見えるとかいうあれと同じ?

……なんとなく生暖かい目で先輩を見てしまう。

何はともあれ、病院に向かって出発した。

 

「あ、おかえり、イギー! すごいね、走ってる車に飛び乗ってきたよ!」

「オレンジをくわえてるぜ。盗んできたのかイギー。

花京院へのいい土産になるがな」

 

先輩が変な叫び声を上げた。大丈夫ですよ、イギーは隣に私たちが座るのはもう許してくれてるから。

イギー、ご飯は病院に着いたらあげるからね、もう少しだけ待っててね。

 

「なあ承太郎……もう一回例の特技やってくれよ」

「例の……特技ィ?…………」

「お前から俺は教わったんだぜ。これ(・・)だよ、これ(・・)!」

 

あ〜、あれか。初見では我が目を疑ったよ。スタンド使ったって言われた方がまだ納得のいく特技。

ポルナレフがくわえたタバコを口に入れた。スゴイ! 上達したね! 結構ムキになって練習してたもんね。

 

「いいぜ! やってやるよ。簡単だぜ」

「よしッ! 5本くわえてやるやつだぜ、承太郎!」

「ごっ5本だとォーーッ」

「ハハハハハ、早くやってくれよ。もう一回みたいぜ……」

「ホント、あれどうなってるんです? 私も見たい」

 

先輩は火のついたタバコ5本を口に入れた。おお、スゴイ! でも、前見た時はもっとスムーズにやってなかった?

 

「ほれ、さらにそれで火を消さずにジュースを飲んだよな。この間…」

 

ポルナレフがジュースを手渡す。早くやらないと、さすがに口の中ヤケドしませんか?

 

「ウッギャアアアーッ」

「あっ 失敗したッ!」

「承太郎! 大丈夫か⁉︎ オー・マイ・ゴッド!」

「やっぱり危ないじゃないですか!」

 

いや本当、どうしたんです⁇ 体調でも悪いんですか?

涙目になってる……。

 

ポルナレフが手の組み方を見て、先輩の前世は女だと大笑いしている。

 

「俺は右親指が上だから、『前世は男』との占いだもんねーーっ」

「もう! 前世が女だったらなにか悪いわけ? 今の空条先輩の姿で想像するから面白くなっちゃうだけじゃん!あ、その占いじゃ私は前世男だった。右親指が上になる」

「へー、本当か? わしも自然に左が上になるぞっ」

「おっ、そうか〜! ジョースターさんも間違いなく『前世は女』だねーーーっ」

「何が間違いなくだッ! どーやって証明するんじゃよーーっ」

いやー、どうせなら私は今男だったらいいのにな。みんなさりげなく気をつかってくれるんだよね。休憩とか部屋割りとか色々。やっぱり男と女の間には深くて暗い川がある……違うか。

 

ポルナレフがオレンジの一口食い競争を持ちかけると、先輩が慌てて止めた。イギーが拾ったやつだから、汚れてるかもしれないと。

……それは確かにそうかも。犬は好きだけど、それはそれ、これはこれだよね。

 

 

先輩は、お腹が痛いと車を降りて行った。もう少しで病院に着くのに。まあ、出物腫れ物ところ構わずって言うけどさ。

なんか変だったのは体調不良だったのかな?

ポルナレフが、やっぱり拾ったオレンジは汚れてるかもしれないと窓から捨てた。ちゃんとゴミ箱に捨てなきゃダメじゃん!

 

遠くで何かが爆発する音がした。

 

「なんでしょうね? ガスでも爆発したのかな」

「ほっとけ。工事かなんかじゃろ」

 

 

病院に到着すると、アヴドゥルさんと先輩がいた。

ええ? なんで先にいるの? 服も学ランに戻ってるし。

 

「承太郎は、ずっと私と一緒にいたぞ」

 

…………。……えっ、ということはさっきまでいたあの先輩は…………

 

その時、救急車が到着した。

運ばれて来た男の服は、さっき先輩が着ていたものととてもよく似ている……というか同じ服だ。

……違和感の点と点がつながった。

 

 

先輩は、ため息をつきながら、私たちの迂闊さを叱っている。

「おい、ジジイ、てめーはカフェでなんて言ってた?

今まで以上にどこに敵が隠れていて、いつ敵が襲ってくるかわからんと言ってなかったか?」

 

返す言葉もございません。

うん、違和感の塊だったよ、よく考えなくても。……私服のセンス終わってるとか思ってごめんなさい。

救急車の男と子供は、敵のスタンド使いだった。試しにスタンドで殴るふりをしたら悲鳴をあげていた。……入院レベルの怪我人をさらに殴ったりしないよ。見えるか確認しただけだから。

まあ、こちらは怪我もしてない…というか襲撃終わってから気が付いたし。どうするべきかな。

アヴドゥルさんが、「ちょいと釘を刺してくる」と彼らになにか言っていた。

その後? 真っ青になっていた、とだけ。

 

 

花京院くんの目は、思っていたよりも軽傷ですんだ。数日もすれば包帯も取れるそうだ。

良かった。本当に、良かった。見えるようになるんだね。

みんなの表情も明るい。心配してたんだよ。……良かったよぉ……。

 

…………さっきの偽空条承太郎、花京院くんがいたら秒で正体を見破ってたんじゃなかろうか。戻って来てくれるの待ってる、切実に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

「……抜けていいんだぜ、柏木」

 

 

 

 

 

 

 

夜明けの直前に目が覚めた。そのまま眠れずに、ホテルのバルコニーから太陽が昇るのを待っていると、隣の部屋のバルコニーから声をかけられた。

 

「おはようございます、先輩。早いですね」

「おめーもだろ、柏木。たまたま、目が覚めちまったからな。…吸うか?」

「やめときます。禁煙に苦労した話を聞いてるので。あ、朝日が昇りますよ」

 

早朝の冷たい空気の中、赤く、白く、黄金色に、空が一瞬ごとに表情を変えていく。やがて、青に染まる空。今日もいい天気になりそうだ。言葉もなく明けの空に見とれていると、先輩が口を開いた。

 

「……抜けていいんだぜ、柏木」

「……なんです、今更。冗談なら面白くないですよ」

 

急になにを言い出すんだ、この人は。思わず、身を固くする。

先輩は、前を見たまま煙を吐いた。

 

「コトが終わるまで、SPW財団で保護してもらえ。そう長くはかからねえ」

 

先輩がこんな事を言い出したのは、花京院くんが一時離脱したからだ。失明するかもしれないと聞いた時、あらためて思い知ったんだろう。

死んでもおかしくない。回復も見込めない怪我をするかもしれない。

それが恐ろしくないとは、言えない。だけど、逃げるのはもっと恐い。

 

「それで逃げてみんなに何かあったら、その後一生後悔します。生きてても死んだみたいになる。真っ平です、そんなの」

「俺の母親のために、死ぬ覚悟までしてんのか?」

 

一拍、沈黙が落ちる。

 

「死ぬ気なんかありませんよ。私は、大切な人たちのためにも生きていたいんで。でも、ひとつ言わせてください」

 

旅の間、たくさんの話をした。ジョースターさんの若かりし頃の戦いの事も。まるでお伽話みたいな、スタンド使いの私でも信じられないようなことばかりだった。

間違いなくかつて起こったこと。誰にも語られない英雄譚だ。だけど私は、もう知っている。

のん気に生きていたこの世界を、守ってくれた人たちがいたことを。

 

「空条承太郎。あなたもジョースターさんも、もっと私たちに甘えて頼ってください。……迷惑かけていいんです」

 

私がこんな事言うなんて、身の程知らずかもしれない。

それでも――

 

「ていうか、遠慮しないで滝のように迷惑かければいいでしょう。今さら迷惑だなんて誰も思いませんよ。

私がここで立っていられるのもあなたの一族や友人が命をかけて戦って守ってくれたからです。

自分たちのために戦えって言ってもいいくらいです。…それくらい思ったって、バチは当たらないんじゃないですか?」

 

きっと、この人たちはそんなこと考えもしない。私が勝手にそうするだけだ。私は、あなたたちに借りがある。だから、今度はほんの少しだけ、私の番だ。そうできたらいい、本当に。

なにより、今は仲間で、友達だから。

 

「……もの好きなやつだ」

 

ぶっきらぼうな口調で、でもその目は少しだけ揺らいだ。

「勝手にしろ」、そう言って先輩はタバコを深く吸い込み、再び空へ目を戻した。

 

勝手にするともさ。だから、今ここにいるんだよ。

 

 

 





前半と後半の温度差がひどい回ですが、楽しんでいただけましたか?
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