The Blank Card   作:カナヤン

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アヌビス神

 

アスワンからはナイル河を下る船での移動だ。

今日はエドフという街を目指している。その途中、コム・オンボで一時下船することになった。

コム・オンボは有名な観光地だけあって、たくさんの人で賑わっている。

 

「あれ? ポルナレフがいない」

「はぐれたかの。ま、出航前には戻ってくるだろう」

 

……ポルナレフの単独行動ってどうも心配なんだけど。変な引きの良さがあるというか。口に出したらフラグになりそうだから黙っていようかな。

 

「大丈夫か? あいつの単独行動はろくな事がないぞ」

「あ」

アヴドゥルさん――!!

「……探しに行くか」

「やれやれだぜ」

 

ポルナレフを探すのはそんなに難しい事じゃあない。なんと言っても目立つからね。どうも神殿の方へ向かったみたいだ。

 

「あ、いたいた、ポルナレフ!」

「そこにいたのか⁉︎ ひとりでいなくなるから心配したぞ…………。敵に襲われたらどうする?」

 

神殿の近くに座り込むポルナレフを見つけた。

しかし、すでに敵に襲われた後だった。マジか。

涼しい顔してるけど、怪我してるじゃないか。もうポルナレフは単独行動禁止でいいんじゃないかな。

アヌビス神の暗示のスタンド使いで、剣の達人だったそうだ。

 

「ポルナレフ、助かったからよかったが、必ず2人以上で行動するんだ。気をつけろ。ほんの数分ひとりになった所を襲ってくるやつらだからな…。

さあ、船に戻るぞ。今日中にエドフまで行くのだ」

 

再び船に乗り込む。早く手当てしようよ。

 

 

 

エドフまでは特に何事もなくたどり着いた。今日はこの街で宿をとる。

ポルナレフは、神殿で戦った相手の剣を持って来ていた。遺跡に置いて行ったら誰が拾うかわからないからだ。

この街で警察に届けるそうだ。どうみたって凶器だもんね。立派な剣だし高価そうだ。

 

 

「ほれほれ、もう少しで届くぞ〜」

 

ジョースターさんがイギーの上でガムをちらつかせてからかっている。もう、一枚くらいあげてくださいよ!

ご機嫌を損ねたのか、イギーがとことこ歩いて行ってしまった。……短い尻尾、後ろ姿までキャワイイ。

 

「ちょっとイギーと散歩行って来ます。すぐ戻りますから」

「気をつけるんだぞ。人気のないところには行かないようにな」

「は〜い」

 

 

異国情緒溢れる街並み。雑踏の中で流れる音楽も、行き交う人々の言葉も、何もかもが物珍しい。

その中を気ままに歩くイギーを見失わないように着いて行く。今日も完璧に可愛いよ、イギー!

 

しっかし結構暑いな〜、熱中症になりそう。ちゃんと水分取らなきゃ。売店で水を買っていると、向かいの床屋に空条先輩の後ろ姿が見えた。遅いと思っていたら散髪してたのか。ポルナレフも一緒かな?

 

先輩たちと合流して帰ろうと床屋に向かうと、突然店内から何かが割れたような破壊音がした。何事⁉︎

慌てて駆け寄ると、ポルナレフのシルバーチャリオッツが何者かと戦っている。

 

「先輩、ポルナレフ!」

「晶、下がってろッ! こいつはアヌビス神、剣が本体なんだ!この男を操っているッ!」

 

敵のスタンド使いとポルナレフが剣戟を繰り返している。

とても近寄れない。むしろ、邪魔になるだろう。

目で追うのも困難なスピードだ。

この間合いに入ったら、何もできずに巻き込まれるだけだ。

相手の武器は剣、拳で殴るスタープラチナも手を出しあぐねている。

 

「こいつ、戦うたびに学習して強くなりやがるッ!」

 

言葉の通り、徐々にポルナレフが押され始めている。相手のスピードとパワーが増しているんだ。

思わず息を呑む。斬り結ぶごとに自分より強くなるって、どうすれば……うん?

それなら、近寄らなきゃいいんじゃない? スピードもパワーも敵わないが、これなら…。

手に持ったペットボトルを見る。ーーこれしかない。

振りかぶって投げたペットボトルは弧を描いてアヌビス神の顔へ。

 

あっさり切り払われる。

 

「馬鹿め、そんな物が当たるわけ…」

 

嘲笑う声はそこで途切れた。

切られたボトルからこぼれた水が、磁石のように吸い寄せられ顔に張り付いている。

鼻と口を覆う水の膜は、彼が必死に頭を振っても離れない。

 

「当たらないのは分かってた」

静かに呟く。

「でも、水は…切れないでしょう?」

 

ゴボっ、ゲホッ…‼︎‼︎

アヌビス神は間合いを詰めて斬りかかろうとする。ポルナレフや先輩以上のスピード、そのままなら私は避けることもできずに斬られただろう。そのままならば。

アヌビス神の体は、少しだけ地面から浮いている。もう近寄ることもできない。

 

いくら剣が強くなっても、操る人間は生身の体だ。2分も経たないうちにアヌビス神は白目を剥いて倒れ、手から離れた剣は地面に落ちた。

 

言葉もなく見つめる先輩とポルナレフの前で、近くの石を拾い、思い切り振り下ろす。

砕け散った剣を見て、ポルナレフは目を見開いている。

 

「え…そこまでやるのか…?」

 

先輩も眉をひそめるが、言葉は出さない。

 

さらに店内の箒とちりとりを拝借し、破片を残らず回収する。

黙々と片付ける私に、二人は顔を見合わせる。

 

「どうすんだ、それ」

 

ポルナレフ。手に持っただけで相手を操るなんて、そんな物騒なもの、この世にあっては駄目だよ。

 

「こうする」

 

すぐ近くのナイル川に剣を捨てた。

 

「……やるじゃねーか」

先輩がポツリと呟いた。

 

私が振り向くと、先輩が先程剣を奮っていた男の背中を踏みつけている。

 

「え?トドメ?」

「違えよ。コイツは剣に操られてただけだ。水を吐き出させなきゃ危険だ」

「先輩、何も踏んづけなくても…」

「オメーが人工呼吸でもしてやるか?」

「あ、そのままお続けください」

 

男が水を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

「先輩と!ポルナレフが!苦戦してた相手を!」

 

ジョースターさんとアヴドゥルさんの前で、私は腰に手を当て胸を張った。

 

「この私が華麗に倒したわけですよ!」

 

満面の笑みに、ポルナレフは苦笑いを浮かべ、空条先輩は小さく鼻を鳴らした。

 

「いや、マジで助かったけどよ、ドヤ顔がすげえな。…ありゃあ確かに見事なもんだったぜ」

「…まあな」

 

「すごいじゃないか、晶」

「どうもです、アヴドゥルさん!」

「わしも見たかったのぉ」

「えへへ〜♪」

 

アヴドゥルさんとジョースターさんの言葉に、さらに頬が緩んでしまう。もっと褒めてくれてもいいよ!

 

応用力はあるが決定打に欠ける自分のスタンドの初勝利。

1カ月以上旅して初の白星だもん、ちょっとは浮かれてもいいよね。

しかも先輩とポルナレフ、二人がかりで苦戦してた相手に。自分でもびっくりだよ!

夕陽に照らされる美しい街並みを眺め、側には可愛いイギー。

気分は最高にハイってやつだ!

 

「バカ犬、なに見てんだァ?んなとこに食いもんはねぇぜ?」

 

ポルナレフがイギーを小突いて、次の瞬間、髪をむしられていた。……学習しないなぁ。




オリ主の初勝利の回でした。23話目にしてやっとの白星。
自制してますが、本人はその辺でクルクル回りたいくらいには浮かれてます。
1カ月以上、途中離脱もなく旅しているのに戦果無しでしたから。
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