アヴドゥルさんの顔見知りだという情報通の男は、物乞いの姿からスーツに着替えると高級車で出発して行った。3時間で写真の館を探せると言い残して。
広場で待つ事になったが、約束の時間が過ぎても戻って来ない。
日暮れが近づく頃、アヴドゥルさんの顔には焦りが浮かんでいた。
もしかしたら、見つけたからこそ戻って来ないのかもしれないと。
館に近づくことを阻止するスタンド使いがいてもおかしくない、言われてみればその通りだ。……無事でいてくれるといいんだけど。
広場の喧騒が、ゆっくりと遠ざかっていく。
街は夕焼けに赤く染まり、石畳に落ちる影が長く伸びた。
とりあえずは体を休めないといけない。宿で待つ事になった。
もう一つ心配な事がある。イギーが戻って来ないのだ。いつもふらっといなくなってもしばらくすると帰って来るのに。
「イギー、戻って来ないね」
「…あのクソ犬のことだ、そのうち戻って来るだろうぜ」
「そうだね……」
ポルナレフも口ではそう言うけど、心配してるんだろう。ずっと窓の外を見ている。イギーは強いスタンド使いだ。そう滅多なことはないとは思うけど、夜になっても帰って来ないなんて初めてだ。
……どこかで無事でいてくれるなら、戻って来なくてもいいのかもしれない。私も他のみんなも、自分で選んでここにいる。イギーだけは違う。無理に連れて来られたんだ。
闘う義理も、義務もない。
逃げてどこかで元気にしてるなら、その方がいい。
イギーなら、どこにいても王様だ。どこに行くのも自由だし、誰に従わなくてもいい。
もう眠らないと。横になって、目を閉じた。眠れば朝になる。朝になれば、きっと何かが動く。
眠れないかもしれないと思ったが、杞憂だった。いっそ皮肉なくらい、深く眠れた。
朝になってもイギーは帰って来なかった。
DIOの館捜索を頼んだ男の人も、戻って来なかった。
昨日の広場に向かった。空条先輩が何やら周囲を気にしている。誰かがわたしたちを呼んだような声がしたらしい。
その時、ふらふらとしながら現れたのは、イギーだった。
「イギー!」
駆け寄って抱き上げる。――あちこち怪我をしている。抱えた瞬間に気がついた。何よりも、
「イギー……足が」
「おい……こいつ……前足がないぞ…………」
そう、イギーの左前足が、ない。一体、何があったの⁉︎ ジョースターさんにイギーを手渡した。
おそらく、敵に襲われたんだろう。アヴドゥルさんも、イギーは交通事故に遭うようなタマではないと断言している。
「しかし誰かに手当てしてもらったようだ! それも見事な外科のテクニックだ……」
先輩はまだ辺りを見回している。
「イギーの声じゃなかった。確かに人間の言葉で俺たちを呼んだんだぜ」
「イギーは敵と遭遇したようです……。
死にかけて少年に連れられているのを手当てしたのは、SPW財団の医師です。僕の目と同じように…」
その声に振り返る。
「ああ‼︎ お…おめーはッ!」
「花京院ンンンンーーーッ! 花京院じゃあねーかッ! おいッ‼︎」
「会いたかったぞ!」
「おい、お前ッ! もう目はいいのかッ!」
「みんなご無事で……」
「花京院くん、待ってたよ!」
「傷は治ったのか?」
「ええ…もう大丈夫です…。少し傷は残ってるんですが、しっかり視力は戻りました」
先輩は無言で花京院くんと握手している。
あ〜、もう! 待ってたぜくらい言わないのかね!
2人の背中を叩いた。
花京院くんが、帰って来た。いよいよDIOに近づいた、この時に。……おかえりなさい。
イギーがジョースターさんの腕から抜け出し、歩き出した。私たちをどこかへ案内したいみたいだ。
「こんな酷い怪我してるのに…」
「だからこそ、なんでしょう。敵スタンドと闘って何があったのかは知らないですが、かなり痛めつけられて怒っているようです」
花京院くんが戻って来たばかりだけど、積もる話をする間もない。いろいろあったというのに。
イギーの後をついて行くと、壊れた車が運び出されている。……見覚えがある車だ。
「こ…この車はッ! あの物乞いが乗っていた高級車だ……。こ…この破壊のあとは……」
車はひしゃげ、血の跡がある。心配していた事が起こってしまったようだ。おそらく、あの物乞いは……。
そして、そのすぐ側にあったのは――ずっと探していた、あの写真の館だった。
「いる……。この感覚は間違いなくヤツだッ! ヤツは今この館の中にいるッ!」
「我々の旅は…」
「ついに終点を迎えたわけだ」
とうとうたどり着いた。
ここにDIOがいると思うからだろうか? 異様な気配が漂っているように感じる。
やけに喉が渇く。
館の門は開かれていた。外には人の姿は見えない。
「わしにヤツの存在がわかるように、ヤツの方もわしの到着に気がついている。
うっかりこの館に入るのは敵の胃袋に飲み込まれるようなもの。さて…どうしたものか」
その時、扉がひとりでに開いた。全員身構えるが、扉の側には誰もいない。その向こうに広がるのは、終わりが見えないほどの長い廊下だった。