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【違う、そうじゃない】
予想通りというか、既視感というか。
私も花京院くんも、無事に進級できた。大変だった。頑張った。うんと頑張った。スイミーか。
多分、花京院くんは私より大変だったかもしれない。転校初日から学校に来なかったんだから。
新しいクラスにも慣れ、やっと日常が戻ってきた。それは他の人にも言えるわけで。
「おっ」
渡り廊下から見えたのは、見慣れた茶色の髪。一人ではない、女子生徒に何やら手渡されている。
また告白されてる。多分ガチなやつだ。
数ヶ月前、空条先輩が卒業する前後もそりゃもう凄かった。どうも職員室で教師が話してるのを聞いた誰かから、先輩がアメリカの大学へ行くとバレたらしい。
噂は野火のように広がった。学校では最後のチャンスに賭けた子たちが告白したり手紙を渡したり。自宅付近を張る人まで出て、さすがに問題になった。
が、たまたま応対したホリィさんの「承太郎は多分、好きな女の子には自分から気持ちを伝えると思うわ」の発言で、あっという間に鎮まった。スゴイ。
そして、眼下で繰り広げられた光景である。先輩ほどの異次元なモテ方ではないけど、その分本気の告白率が高そうなんだよね。
「…………」
…なにかこう、了見の狭い考えが湧いてくるような。
こいつと付き合いたいなら俺たちを倒してからにしな!みたいな。いや、ちょっと違うような。……ポルナレフならわかってくれるだろうか。
【空条家へ行こう】
「たのもう! って言いたくならない?」
「道場破りじゃないんですから」
空条家の門前にいる。何回来ても凄い門構えとお屋敷だと思う。
「ずいぶん色々持ってきてますね?」
「ホリィさんへって家から持たされたのと、せっかくだからなんか遊ぼうと思って色々持ってきた」
ボードゲーム、スーパーファミコンその他いろいろ。
「桃鉄99年やろうよ」
「それは一晩で終わらないやつでは」
「スト2とかだと花京院くん無双になっちゃうじゃん」
「僕はそれでもいいですよ」
「私がヤダ」
かと言って接待プレイも嫌なんだ。空条先輩もものの2分で鬼強になっちゃうしさ。どうなってんのこの人たち。
「来たか、お前ら」
「二人とも、いらっしゃい!」
今日は空条家に遊びに来た。泊まりで遊び倒すつもりでいる。
「また承太郎に子供が生まれた」
「子沢山ですねー、先輩」
「さっさとご祝儀よこしな」
「カツアゲじゃないですか、やだー……やった、競馬で大穴が当たった!」
人生ゲーム、会話がヤクザな遊びである。
【当ててみよう】
※旅のどこか
「ここは天国かな? 天使が目の前にいる……天国から迷い出てしまったのかな? その美しい瞳に俺が映ることを許してくれるかい?」
「「「「ポルナレフ」」」」
「正解!」
「完コピじゃのう」
「上手いじゃないか、晶」
「俺そんなかァ?」
「ナンパしてたお前にそっくりじゃないか」
「一言一句、大体同じだったぜ」
「次、誰がやるー?」
国際色豊かだからね、全員に通じるネタって難しい。ムツゴロウさんとかやっても花京院くんと先輩しかピンとこないだろう。
「じゃあ俺! ……それじゃあテメーは地獄の底で寝ぼけな!」
「「「承太郎」」」「先輩」
「正解」
ポルナレフ、ポーズも決めてる。こんなだった?
「わしもやってみるか……なんてことだ。ここは地球だったんだ」
「「「「「猿の惑星」」」」」
「正解じゃ!」
「映画ネタもいいですね。さすがハリウッド」
「半数以上に通じるのって案外難しいかもしれませんね」
「承太郎、お前もなんかやってくれよ」
「面倒くせえ」
「先輩、できないんですか?」
先輩が舌打ちしつつ帽子の鍔をあげた。こういう言い方したらやってくれると思ったんだ。
「ウォッカ・マティーニを。ステアせずシェイクして」
「「「「「ジェームズ・ボンド」」」」」
「正解だぜ」
「よし、じゃあ次はな……」
みんな結構芸達者だよね。
「いいか、人間には三種類いるんだ。神に選ばれたもの、選ばれなかったもの、そして――選ばれたものだ」
「二種類じゃねーか! 誰だよそれ」
「私の従兄弟の鉄板ネタ」
「わかるか!」
【これから】
もうすぐ空条先輩はアメリカへ渡る。気軽に会える距離ではない。仕方がないけど、寂しくなる。帰国してからそんなにしょっちゅう会ってたわけでもないけどさ。
「なにを学ぶんですか?」
「理学部生物学科だ。……お前は今年で卒業だろ、花京院。どうするんだ?」
「僕は文学部を目指すつもりだよ」
「うーん、2人ともそれっぽい」
「柏木さんは決めてるのかい?」
「う、まだ。全然具体的になってない……」
進級できた開放感から抜け切れてなかったんだけど、そろそろ考えないとダメだよね。……焦るなあ。
「SPW財団からスカウトきてなかったか?」
「えっ、なんです? それ」
「よくご存知で……きてるよ。卒業したらうちで働かないかって」
「なんて答えたんです?」
「大学も行ってみたいから保留してもらってる……でもさぁ」
無茶苦茶いいんだよ。待遇も、福利厚生も、賃金も。
「どうしよう……なんか堕落しそう」
「いや……、悪い就職先じゃないとは思いますが」
「ま、よく考えるんだな」
提示された金額に目が眩みそうなんですが。
【呼び方】
ある日の放課後である。
「先輩。先輩ってば」
「…………えッ、僕⁇」
「そうだよー、花京院先輩」
「………………」
「どうしたの、先輩」
「いや……なんでその呼び方を」
「なんでもなにも先輩だなと。今更感すごいけど」
「承太郎を呼んでるみたいに聞こえる」
「学校で普通に呼びまくってるよ」
学校ではそう呼ぶべきかなと思ったんだけどな。なんで固まるのさ。
「実はね、進路相談なんだけど。心理学はどうかなって」
「………………いいんじゃないかな。もっと人の心を知るべきだと思うよ」
「人聞き悪くない?」
「あと、今まで通りに呼んでくれるかい?」
学校外ではもちろんそうするつもりだったんだけどな。まあ、いいか。
【友、遠方より来たる】
「あ、いたいた!」
「相変わらず目立つやつだ」
空港の到着ロビーに現れたのは、ポルナレフだ。見つけやすくて何よりである。
「よう、お前ら! 久しぶりだなァ!」
「久しぶり! 元気だった?」
「変わりないか? ポルナレフ」
「ああ、おかげさんでな! 花京院、お前もしかして、背ェ伸びたか? カ〜〜ッ、若いってのは羨ましいぜ」
「じじくさいよ、ポルナレフ」
「にゃにおう!……どうしたんだ、晶。女の子みたいな格好して」
「清々しいほど失礼なやつだね、そんなだからナンパが成功しないんだよ」
「見てたのか⁉︎」
「……」
ナンパしてたのか。失敗してたのか。日本に来て早々になにやってるの……。
「まあ、せっかくなんだし東京観光しようよ。浅草とかどう?」
「疲れてないか」
「そんなヤワじゃあねーぜ」
エジプトでのお別れから一年以上経つのに相変わらずだなあ。元気そうで安心した。
「おお〜ッ、なんだァ、あのでっかい提灯はッ!スゲーな!」
「わー、やっぱり迫力だねー!」
ポルナレフが雷門を見て歓声を上げた。間近で見るとその大きさに圧倒される。小さい頃連れてきてもらって以来だ。仲見世通りを歩き、土産物屋を冷やかす。買い食いしながら歩いた先にあるのが浅草寺だ。
「おい、あそこスゲー煙上がってるぜ。大丈夫なのか?」
「あれは常香炉だ。あの煙を体の悪いところにかけると治りが良くなると言われている。頭にかけると賢くなるという言い伝えもあるんだ。……かけてきたらどうだ?」
「お前なあ〜〜ッ」
「ポルナレフ、かけに行こう。花京院くんも!」
ポルナレフと花京院くんの腕を掴んで香炉の近くに行く。煙! 二人ともちょっと咽せてる。でも、存分に浴びた。
「お前……プライドとかねーのか」
「私は受験生だからね、験担ぎでもなんでもするよ!」
花京院くんは志望校に危なげなく合格している。4月からは大学生だ。
「そういやそうだったな……頑張れよ」
「うん、ありがとう」
「お参りもしていきましょうか」
お賽銭を入れた。ポルナレフは横目でやり方を見ている。そして、柏手を打った。ポルナレフもそれに続く。
………………やってしまった。
「柏木さん……お寺ですよ」
「うん……打った瞬間に気がついた」
「なんだ? 違うのか?」
「今みたいに手を打つのは神社の方なんだよ……ここはお寺だから、手はそっと合わせるのが正しいの」
今更だけど手を合わせる。は、恥ずかしい。
すみません、仏様。横のフランス人は私の真似して間違えただけです。バチを当てないでやってください。あと私にも。
「おみくじ! おみくじ引こう!」
「おう、おみくじ! 日本の運試しだな! よし、俺が一発、最高に縁起のいいやつを引いてやろうじゃねえか!」
それぞれ出た番号のくじを取る。……中吉だ。微妙だなぁ。学問、努力すれば叶う、かあ。はい、頑張ります。
花京院くんは吉。上から2番目だ。いいなあ。
「ポルナレフは?」
「漢字が読めねえ。なんて書いてあんだ?」
「どれどれ……『凶』だ」
おぅふ。
「あー……ポルナレフ、これ『凶』。Bad luck」
「ハァーーー⁉︎ 嘘だろ⁉︎ 俺の引きが悪いってか⁉︎」
「『旅行(たびだち):わるし』『待ち人:来たらず』『失せ物:出がたし』……完璧なまでに散々な内容だね」
「おい待て花京院! 縁起でもねえこと朗読すんな! これどうすりゃいいんだよ!」
「あそこにある紐に結んで帰れば、神様が引き受けてくれるから大丈夫だ。利き手と違う手で結ぶと吉に転じるとか言うしな」
利き手じゃない方の片手で結ぶって結構難しい。ポルナレフもなかなかに苦戦している。頑張れ。
「旅立ち、わるし、か……。ちっと洒落になんねえな」
「え? 何かあるの?」
「ここじゃな……休憩がてら、座って話そうぜ」
花京院くんと目を合わせる。……これは、何かあったんだな。
近くの喫茶店に入り、それぞれの飲み物がきたところでポルナレフが口を開いた。
「ちょっとばかり、やばいものを探している」
「やばいもの?」
「とある弓矢だ。……そいつに射抜かれたヤツは、スタンドが発現する」
息を飲む。それは、ちょっとどころではないだろう。
「……そんなものがあるなら、悪用し放題じゃないのか?誰でもスタンド使いになるとしたら……」
「いや、そう上手い話じゃあねえ。スタンドの素質がないヤツは……死ぬ」
「……!」
「DIOの部下の中にはそれでスタンドに目覚めたヤツもいただろうよ。DIO自身がそうだったかもしれねえ」
思い出したのは、ホリィさんのことだ。その弓矢で射られた誰かにスタンド使いの素質がなければ。いや、あったとしてもその人の血縁が大勢死ぬことになるんじゃないのか?
「そんなものがどうして」
「どこかの遺跡から発掘されたらしいが…問題は、その弓矢があちこちに散らばったということだ。
今回、日本に来たのはお前らに会いたいのもあったが、このことを伝えるためだ。もしもそれらしいもんに出くわしても絶対に一人でなんとかしようなんて思うなよ」
「それらしいものと言われてもな……どんな見た目なんだ?」
ポルナレフは写真を取り出した。……エンヤ婆だ。手に弓矢を持っている。
「やばいのは矢尻だ……いいか、くれぐれも用心してくれ」
「ポルナレフもね。気をつけて……本当に」
「こっちにゃアヴドゥルもいる。心配いらねーよ。……悪いな、お前らはまだ学生だってのに」
「承太郎だって噛んでるだろう?」
「……まあな。あいつはお前らにはまだ言うなと言ってたが……知らねえ方がマズいと思ってな」
「それはもちろん」
空条先輩らしいなぁ。巻き込みたくないとか思ってるんだろう。
「僕らを除け者にしようなんてあいつも仕方のないやつだ」
本当にね。そういうとこだぞ、空条承太郎。
【見えるもの】
ポルナレフを空港で見送った。
元気そうでよかったけど……心配だ。無茶をする人だから。
帰りの電車は、時間のせいか人もまばらだ。
花京院くんがまたなにか難しい顔をしている。ポルナレフの話を聞いたから、当然と言えばそうなんだけど。
「あのさ、あれ出してよ。エメラルドスプラッシュ。一個だけ」
「いいですけど…はい、どうぞ」
手のひらの半分くらいの透き通った緑色。陽に透かすとキラキラ光っている。
「綺麗だよね、これ。スタンド使いじゃなきゃ見えないんだから、ちょっとだけ得してるんじゃない?」
「…そうかな?」
承太郎とポルナレフがスタンドの矢の調査を始めた時期は、原作でも明確には描かれていません。この世界線ではアヴドゥルが生存しているため、情報収集が早まり、かなり早い段階で弓矢の存在を知った……という設定にしています。
……これで矛盾はないな、ヨシ!(現場猫)
この先の方向性をどうするか、まだ少し悩んでいます。感想などいただけると、とても参考になります。作者は反応があると元気になります。