【バウムクーヘンエンドじゃないから!】
白いクロスのかかったテーブル。
芝生の上には丸テーブルが並び、風に揺れるリボンと花が陽射しを弾いている。
遠くでグラスの触れ合う音と笑い声がした。
久しぶりの全員集合だ。いつもはしないような盛装をしている。
ジョースターさん、ポルナレフ、花京院くんはスーツ姿。アヴドゥルさんは民族衣装の正装だ。
「皆さん、お久しぶりです。きまってますね、カッコいいですよ」
「久しぶりだな、お前も綺麗になったじゃあねーか」
「ふふん、綺麗は作れるんだよ、ポルナレフ」
「キモノは着ないのか?」
「アヴドゥルさん、振袖を一人で着るのは不可能なんですよ」
「ジョースターさん、今日はおめでとうございます」
「みんな、遠くから集まってくれて感謝するぞ。身内だけの式じゃ、楽しんでいってくれ」
今日は、空条さんの結婚式だ。いやあ、連絡もらった時はたまげたね。
「あの無口無表情でどうやってアメリカ人を口説いたのかは興味あるけどね」
「それは確かに」
「それで、承太郎は?」
「あいつ、ギリギリまで研究室にいたらしいぞ」
「らしいと言えばらしいけど、おいおいおいだな」
ウェルカムドリンクを手に主役の登場を待つ。
「おっ、来たぞ」
あちこちから拍手や口笛が聞こえる。
「わー、見て見て、花嫁さん美人!」
「やるなあ、承太郎のやつ」
「我々も挨拶に行こう」
花で飾られたアーチの下に見慣れた顔の人物が見慣れない格好で立っている。
今日ばかりは空条さんの表情も柔らかい。周りからの祝福に応えている。
「よう、承太郎! おめでとさん!」
「おめでとうございます、空条さん!」
「良かったな、おめでとう、承太郎」
「このハレの日に呼ばれたことを嬉しく思うぞ。末永く幸せにな」
「ああ。ありがとう。……こいつらは、俺の友人だ」
「はじめまして」
微笑む花嫁さんは、優しそうで何より幸せに輝いている。
身内や友人ばかりの式と言っても、新郎新婦は忙しい。祝いを告げる人たちが次々にやって来る。私たちもその場を離れた。
ポルナレフが空条さんの肩に手を回しながらワインを注いでいる。二人ともアルコールは強そうだから大丈夫だとは思うけど。
空条さんを射止めるなんてどんな猛者かと思ったけど、花嫁さんは穏やかで控えめそうな女性だった。日本からの友人枠は私と花京院くんだけ。「日本にいるころの彼の話も聞きたい」と言うことで、連絡先も交換した。
「ちょっと予想が外れたみたいです」
「なんの? あ、ありがとう」
さっきまで空条さんと話していた花京院くんが話しかけてきた。手に持っていたグラスを受け取る。
「僕はてっきりあなたは承太郎が好きなのかと思ってたんですが」
「は? あの暴走列車を? ないわ〜、なんの冗談かな?」
グラスに口をつける前で良かった。吹いてたらどうしてくれるのさ。
「あいつが相手ならちょっと敵わないと思って退いてたんですよ、僕は」
「…………」
えーと、ですね。ここでわからないほど鈍くはないつもりだよ、私は。
「それで言うなら君の理想はホリィさんじゃなかった?」
「よく憶えてますね…。まあ、実際に好きになるのと理想は別物ですから」
「微妙に失礼だな」
「顔、赤いですよ」
「アルコールのせいじゃないかな〜?」
「飲んでも顔に出ないって言ってましたよね」
お黙りなさいよ。
あと、不意打ちは卑怯だと思います! 嬉しそうに笑ってくれちゃってさ。
【明日の自分へ】
「アヴドゥルさん、ちょっといいですか」
場所は二次会のフロアに移っている。会話の邪魔にならない程度の音楽が流れ、あちこちから笑い声も聞こえる。
会場にいくつかあるソファのスペースに座った。
ちょっと自分だけで飲み込めそうもない。
「どうかしたのか?」
「いえ…、自分の鈍さというかアホさというか……あー、ええと」
テーブルに両肘をつき、組んだ指先を口元の前に当てたまま、ぽつりと言った。
「どうも花京院くんが私のこと好きみたいなんですよ」
「ようやくそこか……花京院に乾杯した方がいいかな?」
横目でアヴドゥルさんを見る。なんです、その反応は。
「知ってたんですか。ていうかいつから」
「さてな。日本に帰ってからだと思うぞ。……あの旅の頃とは変わっていたからな。お前もあの頃のままではないだろう」
「えー、だって日本にいるのはお互いだけだし、そりゃ一緒に出かけたりするでしょう。ご飯食べたり映画見に行ったりとか」
「それを世間では付き合ってるとは言わないのか? そもそもなにか問題あるのか?」
問題あるのかってそりゃあ……あれ? えーと、いや、だってさ。
「問題…は……ない、ですけど。なに、みんなそう思ってたんですか? 教えてくださいよ」
「教えるようなものではないだろう……承太郎あたりは気がついていないかもしれんが」
うわああああ。なんてこった。
アヴドゥルさんもポルナレフもジョースターさんもそう思ってたってこと⁉︎
さっきの遠回しな言い方からすると、……あれ、もしかして花京院くん、ずっと前から?
問題あるのかとアヴドゥルさんは言った。そうだね、ないのかもね。何より、嫌だと思う気持ちが心のどこを探してもないんだ。
会場を見渡せば、花京院くんはジョースターさんとなにやら話している。いつもと変わらない様子だ。少しくらい落ち着かなさそうにするとかないのか、こら。私がどう思ってるかとか気にならないのか。
……なんで私ばっかり焦ったり照れたりあわあわしてなきゃならないんだ。
「不公平だ」
「え?」
「なんであっちは平然としてるんです。せめてもうちょっとこう、なんかあるでしょう。私ばっかり振り回されてないですか?」
「そんなことはないと思うが……ポルナレフに話したら存分に振り回してくれるぞ」
それ、私も振り回されるやつ。いずれバレるだろうけど、それは今日ではない。
「どえらい騒ぎになりそうだからやめてください」
アヴドゥルさんが面白くてたまらんという顔をしている。
いや、本当にやめてくださいよ? 今日の主役は空条さんたちです。
なんだよ、みんなして。私だけなのか、ついて行けてないのは。
「……このままだとなんか負けた気がする」
「待て、なんの勝負だ」
「ギャフンと言わせないと」
「いや、本当に待て」
「まあ、この件に関しては明日の自分にぶん投げます……ポルナレフ、あれ空条さんのこと酔いつぶそうとしてないですか?」
「……止めるか」
アヴドゥルさんがため息をつきながら立ち上がった。やれやれだぜ、まったく。明日の自分よ、頑張ってくれ。
空条さんと困ったような顔で笑う花嫁さんの方へ歩き出す。
【今日が明日の続きであるために】
結婚式も無事に終わった。久しぶりに一堂に会し、積もる話もできた。仲間の幸せをみんなで祝うこともできた。
何よりである。
そして、空条夫妻は新婚旅行へ旅立った。お幸せにな!
せっかくアメリカまで来るんだし、ということで観光も楽しみにしていた。ニューヨークにあるジョースターさんの自宅にお世話になる予定だ。イギーもいるしね。
――セントラル・パークにイギーと散歩に行けるな〜とか、のん気なことしか考えてなかったんだよ、私は。
マンハッタンのペントハウスがジョースターさんの自宅だ。ニューヨークの郊外にも家があるそうだ。不動産王って本当なんだと実感させられる。
ハリウッド映画に出てくる部屋みたいだ。
そしてお待ちかねの、
「イギー! 元気だった?」
「アウ」
本当に久しぶりだ。犬の時間は短いからもっと会いたいけど、日本からニューヨークはなかなかに遠い。
抱き上げても大人しくしている。イギーも再会を嬉しいと思ってくれてるのかな。そのまま歩き出した。
ジョースター家の執事のローゼスさんが部屋に案内してくれた……ん、だけど。
「ローゼスさん。なぜ部屋がひとつなんです?」
「奥様にそのようにと命じられましたので」
荷物を取り落とした。イギーのことは落っことしたりしないけどね! 花京院くんと顔を見合わせる。
ジョースターさんんんん――!!
案内された廊下を戻る。
「あら、花京院、晶。何か足りないものでもあった? 部屋はどう? 狭くないかしら?」
「スージーQさん……部屋がひとつなんですけど!!?」
「二人はお付き合いしてるってジョセフから聞いたわよ」
あのジジイ……! 完全に面白がっていやがりますね!!
……なんかもう、否定するのもアホらしくなってきた。
ああそうだよ、間違ってない……間違ってないけどさあああ!!!
私の大声に、イギーは迷惑そうに腕から飛び降りて歩き去って行く。うわーん、行かないでよ、イギー!
「すみません、できればもうひと部屋用意していただけませんか」
「あら、ケンカでもしたの?」
花京院くんの言葉に、スージーQさんは微笑ましいものを見るような目で私たちを見ている。
「いや……、私たち付き合いはじめたばかりなんで」
「私とジョセフは出会って二ヶ月もしないうちに結婚したわよ」
そうなんだ……。空条さんの早婚といい、ジョースター家の伝統なんですかね……。
「まあ、仕方ないわねえ、隣の部屋も用意させるわ。好きな方を使ってちょうだい」
「ありがとうございます……ジョースターさんはいつ戻られるんですか?」
「夕食までには戻ってくるわ。それまでくつろいでいて」
スージーQさんは、ローゼスさんに部屋の用意を頼みにリビングを出て行った。
膝から崩れ落ちる。つ、疲れた……。ジョースターさん、戻ってきたらどうしてくれよう。
そして私たちをどうすれば。
「…………」
「……僕たち、付き合ってるってことでいいんだね?」
「今さらそれ⁉︎……いいよ!」
……ロマンチックとかどこに売ってます? そこになければないんですか!? 取り寄せてくれませんかね!?
本当、どうしたらいいんだよ。頭を抱えそうになる。
ダメだ、沈黙に耐えられそうにない。今までそんなことなかったっていうのに。
「……とりあえず、手でも繋いでみる?」
しゃがみこんだまま花京院くんを見上げる。もうずっと、一番近くにいた人の顔を。
差し出された手を握った。
「「…………」」
違う。これじゃ握手だ。そうじゃないだろう、私よ。
数瞬の間の後、同時に吹きだした。
結局、アヴドゥルさんとポルナレフもジョースター家に泊まるそうだ。……それなのにひと部屋を用意しようとしたのか、ジョースターさん。
夕食の席、いや着いた時から思っていたけど。
ポルナレフが通常運転だ。さぞ冷やかすだろうと思っていたのに。
……これ、ポルナレフだけ何も知らないな。
どうしよう。言う?
多分喜んでくれる。でもだな。
まだ自分でも戸惑ってるのに、どんな風に騒ぐかが手に取るようにわかる。
………ヨシ、内緒だ!
ポルナレフ、君はいいヤツだが、君のデリカシーのなさがいけないのだよ。
次回から四部スタートします。
↓
↓
↓
↓
↓
↓
おまけ