小話4の後書きにおまけを載せたつもりだったのですが、編集ミスで消えてしまっていました。読者の方からのご指摘で気づき、現在は小話4の後書きに改めて掲載しています。
すでに小話4を読んでくださった方で、おまけが見当たらなかった方は、お手数ですが後書きをご確認ください。ご指摘ありがとうございました。
始まりは、友人からのSOSだった。
***
やって来ました杜王町。
そして、ホテルのロビーで一際目立つ偉丈夫との久しぶりの再会である。……眉間に皺寄せてるなあ。
――なんでここに
――誰からの情報だ
いろいろ頭をよぎっているんだろう。
「来ちゃった」
語尾にハートマークなんか付けないよ。
「……お前な……」
空条さんが深くため息を吐いた。やれやれだぜ。
情報源は彼の奥方、イリーナさんだ。電話越しの声は今にも泣き出しそうだった。徐倫ちゃんの高熱が下がらないのに、帰って来てくれないと。
――『これが大西洋の真ん中にいるなら仕方ないわ。でも、いるのは日本なのよ? 1日あれば帰って来られるじゃないの』
ため息を吐きたいのはこっちだよ、空条さん。あなた、私に情報回らないようにSPW財団にまで根回ししたでしょう。
私、職員なんですけど? 空条さんの鶴の一声で上司も同僚も情報遮断してくれちゃってさ。
だけどね、女同士のネットワークを甘く見過ぎです。特に何もなくても連絡してるんだよ、私たちは。
『課長、どうして空条さんがスタンド絡みの件で日本にいるのを隠してるんです?』
『なんでそれを⁉︎ 誰から聞いたんだ』
『今、課長からです』
『…………』
『…隠してる資料出してくださいね』
……これは空条さんには内緒だけれど。オブラートに何重にも包んでスタンドのことはイリーナさんには話してある。
この世界には、異能が本当に存在していること。空条さんも私も、それと無関係でいることは難しいこと。
納得がいかない、理由を語らない不在がきっとあるだろうことを。
空条さんは何も知らせないことで守ろうとしている。だけど、守られる側にも覚悟が必要でしょう。何も知らなければ無駄に心をすり減らしてしまう。
彼女が連絡してくれて良かった。
事情を聞いたら、隠したくなった理由もわからなくもない。……ジョースターさん、あなた…………。
空条さんもホリィさんも複雑だろう。スージーQさんは…、うん、存分に怒っていいと思う。
それは仕方がないとして、そこから先はいただけない。スタンドの弓矢が出た時点で連絡して欲しかったな。報連相が足りな過ぎる。
「とりあえず、情報のすり合わせしましょう。話はそこからです」
「……ここじゃマズい。場所を変えるぞ」
ホテルのプライベートビーチ、海を向いたベンチに座った。電気の配線がある場所では相手に筒抜けになりかねないからだという。厄介な能力だ。
遮断されてた分の報告書も読んではいたけど、なかなかにとんでもないことになってる。こんな一地方都市にあり得ない密度でスタンド使いがいる。見境なくスタンドの矢を使うとこんな事になるのか。
……スタンド使いの素質がないために亡くなった人はどれほどいるのだろう。
「こちらからも報告。ジョースターさんは明後日の正午、港に到着予定です」
「そうか……」
「ところで空条さん。仗助くんって、どんな子でした?」
どうにも好奇心が抑えられそうにない。とうとう口に出してしまった。
「いい奴だぜ。キレると手が付けられんが……ジジイの到着前には会える。『レッド・ホット・チリ・ペッパー』からジジイを守ってもらわねばならん。仗助の他にも協力を頼むことになる」
キレると手の付けられないいい子。ええー? ちょっと想像つかない。
「……あいつは知ってるのか?」
「それは、まあ。明後日には彼もこっちに来ますよ」
黙ってるわけにはいかないでしょう。ジョースターさんにはちょっとだけ申し訳ないとはいえ。
「典明くん、どうしても外せない打ち合わせが入ってるから、終わったらすぐこっちに向かうって。こんなきっかけだけど、仗助くんに会うのは楽しみにしてますよ。もちろん私も」
空条さんがまたもや深くため息を吐いた。複雑な気分なのはよーくわかるけど、幸せが逃げますよ。
私がなんのために杜王町に来たか薄々わかってるだろうに、なんにも言わないんだから。
多分、私1人だったら説得できないんだろうな。私もまだまだだね。
一応、トライしてみよう。
「空条さん、明後日、『チリ・ペッパー』を捕まえたら一度家に帰ってください。私だけじゃあ頼りないかもしれませんけど、典明くんもいます。財団のバックアップだってあります。…まだ、足りませんか?」
あー、海が綺麗だ。ひねもすのたりのたりかなってやつだ。
「……ヤツを捕まえたらな」
早いとこ典明くん来てくれないかな……って、はいいいいぃ!!??
隣に座った男の顔を見上げる。前を見る。うん、海だな。再び空条さんの顔を見た。
開いた口が閉じない。今、すごく間の抜けた顔してるだろうな。
「えッ……今、え、な、なに」
「……なんだ、その反応は。お前ら2人がかりの説得は鬱陶しくてたまらんだろーよ。結果は同じだろうぜ」
そうかもしれないけど。まさか私の説得を聞いてくれるとか。
「……え、マジですか?」
「俺はお前が頼りにならんと思ったことはねえ」
……………………。えッ、何、明日雪でも降るの? それとも私、死ぬの? 今この人なんて言いました?
えええええええ!!!
クララが立った! ラピュタは本当にあったんだ! ものども、出会えー!!
頭の中に法螺貝が響き渡った。
「ちょ、今の、もう一回! 録音しますから!」
「やかましい!」
どうしよう、この驚きを共有したい。でも今は電話はマズいんだ。……『チリ・ペッパー』、陣痛でも起こせばいいのに。
***
杜王町の地図を広げ、報告書に上がっているスタンド使いの居住地と照らし合わせる。改めて見ても、相当な人数だ。
この元凶だった虹村形兆は『レッド・ホット・チリ・ペッパー』に殺害された。自分がスタンドを目覚めさせた相手に。
因果応報と言えばその通りだけど、彼の経歴を知るとやはり哀れだと思う。子供の頃からたった1人で弟を守り、変わり果てた父親の世話をしてきたのか。
まだ高校生だったのに。10年かけてスタンドの弓矢のこと、DIOのことを調べ上げ、空条さんたちの存在にも辿り着いた。優秀な子だったんだろう。
弟の虹村億泰は、兄が何人をスタンド使いにしたのか正確なことは知らないのだという。おそらく、虹村形兆は弟を守るためにも情報を伏せたのだ。
「誰かに助けを求められれば良かったのに」
取り返しのつかないことをする前に。子供だった虹村兄弟には何の罪もなかった。
DIOと敵対した私たちに助けを求めるのは難しかったかもしれないけれど。彼らの父親も、自業自得とはいえ不死の化け物になって永劫生きるほどの悪人ではなかっただろう。
いなくなった後までろくなことしないな、DIO。
ホテルの部屋の電話が鳴った。
「はい」
『おい、お前は何者だ? スタンド使いか? 部屋が別ってことは空条承太郎の女ってわけじゃあねーんだな。まあ何でもいい。悪いこた言わねえ、ヤツを連れてさっさとこの町を出ろ』
「誰です、あなた」
誰ですも何も『チリ・ペッパー』なんだろうけど。
『質問してるのは俺だぜ? 大人しく言うことを聞けば命だけは助けてやる』
勝手に点いたテレビから火花が散る。『チリ・ペッパー』が姿を見せた。
「テレビが勝手に…」
『おい、聞いてるのか? こっちを見ろッ!』
視線はテレビに向けている。意味があるかはわからないが、なるべくこちらの情報は渡したくない。
『チッ……反応がねえな。スタンド使いじゃねーのか⁉︎ 警告はしたぜ。空条承太郎にも伝えろ、俺の町から出ていけってな!』
受話器を持った手に静電気のような衝撃が走った。……結構痛いじゃないか。
それにしても、「俺の町」ねえ。急に強い力を持って万能感に酔っているのか。こいつの言うがままに町を出て行ったりしたら、どれだけ増長するかわからない。
空条さんが帰れないわけだ。
承太郎の妻の名前は原作では明かされていないため、本作では便宜上「イリーナ」としています。公式設定を見落としていた場合は、確認のうえ修正します。