The Blank Card   作:カナヤン

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銀の戦車

香港沖に不時着した飛行機から救助されて、私たちは香港に上陸した。これからの旅の手配にジョースターさんがあちこちに連絡している。

それらの手助けはまったくできないので、ぼんやりジョースターさんの帰りを待っていると、屋台のおじさんが声をかけてきた。

 

「そこのでっかい兄ちゃん、お粥食べないか?香港名物だよ!」

 

確かにさっきからお腹空いてきてたんだよね。

 

「知っているかジョジョ、日本と違って香港では主食としてお粥を食べるんだ」

「花京院くん、よく知ってるね」

「なかなかいいな、食べてみるか」

「僕は定番の皮蛋と豚肉の粥にしようかな」

 

私はどうしようかなと品書きを見ていると、ジョースターさんが行きつけの店に連れて行くと止めた。

食事しながらこれからの予定を話すらしい。屋台の店主はめげずに名物ホットコーラを勧めてきた。

 

「ホットコーラじゃと⁉︎コーラは冷たいものと相場は決まっとる!」

 

ジョースターさんに即座に却下された。微妙に興味あるな〜。めちゃくちゃ甘そう。

 

ジョースターさん行きつけの店は、かなり立派なレストランだった。メニューも豊富だ。漢字だからなんとなくどんな料理か想像できるけど、確か日本と中国で全然違う意味になる漢字があるっていうから油断できない。

それよりも今はこれからのことを聞かないと。

 

「我々はもう飛行機でエジプトへ向かうのは不可能になった」

 

ジョースターさんが口を開いた。もしもまた機内で襲われたら、今度こそ大勢を巻き添えにするかもしれないからだ。

陸路か、海路か。飛行機なしでのルートは見当もつかない。

ジョースターさんの提案は海路だった。アヴドゥルさんも同意見だ。

私はもちろん、花京院くんも先輩も行ったこともない所だ。旅の方針はジョースターさんたちにお任せするしかない。

 

香港に着いてすぐ、家に連絡した。乗っていた飛行機の便は家族も知ってるから、大騒ぎになっていた。怪我はないこと、旅はまだ続くからすぐには帰れないことも伝えた。ごめんね、心配かけてるのはわかってるんだ。必ず帰るから、待っててほしい。

 

花京院くんが、お茶のおかわりを頼むときの作法を披露している。よく知ってるなぁ。私なんか中国歴代王朝を「うさぎとかめ」で覚えるくらいしかネタがないよ。ちなみに水戸黄門の「ああ人生に涙あり」でも同じことができる。

 

「すみません、ちょっといいですか?私はフランスから来た旅行者なんですが……どうも漢字が難しくて、メニューがわかりません……助けてほしいのですが」

 

メニューの漢字がわからない外国人(この場では私たちもそうだけど)が話しかけてきた。

先輩は追い払おうとしたが、ジョースターさんが気さくに引き受けた。

ジョースターさんはメニューくらいの漢字はだいたいわかると、頼まれた料理を注文した。この場には漢字を母国語に使ってる人間が三人もいますよ〜?

出てきた料理は頼まれたものとは全然違うものだった。先輩は案の定だという顔をしている。孫よ、止めておやりなさいよ……。

 

「あ、美味しい!」

「そうだろう!ここのはハズレがないんだ」

 

うん、どれを食べても美味しい。野菜の飾り切りも凝っていて見た目も綺麗だ。

 

「手間ひまかけてこさえてありますなあ。ほら、このニンジンの形。星の形…なんかみおぼえあるなあ〜」

 

思わせぶりなもの言いに、みんながハッとする。

 

「そうそう、わたしの知り合いが首すじにこれと同じ形のアザをもっていたな……」

 

空気が変わった。全員、身構える。

ジョースターさんたち以外に、それがあるのはDIOだけだ。

ほんの一瞬、周囲の喧騒が遠のいた気がした。

 

「きさま!新手の……」

「ジョースターさん、あぶないッ!」

 

アヴドゥルさんが叫んだ瞬間、細身の剣がジョースターさんめがけて斬りかかった。ジョースターさんは咄嗟に義手で受け止めた。

アヴドゥルさんが攻撃したが、男は剣で炎を切り払った。その剣さばきに緊張がはしる。――この人、強い。

剣で空を裂いて炎を封じるなんて考えたこともなかった。この人は、自分にはそれが出来ると信じて小ゆるぎもしないんだ。

こちらには五人もスタンド使いがいるのに、真っ向勝負を挑んでくるなんて、よほど自信があるんだろう。でも、流石に無謀ってやつじゃないかな?

急に燃え上がったテーブルに、周りも騒ぎだした。スタンドの炎は見えなくても、燃え移った火は誰にでも見える。マズい、このままでは店が火事になってしまう。

ジャン・ピエール・ポルナレフと名乗った男は、いつの間にか外にいる。

 

「俺のスタンド…『戦車』のカードの持つ暗示は"侵略と勝利”。

そんなせまっ苦しいとこで始末してやってもいいが、アヴドゥル、お前の炎の能力は広い場所のほうが真価を発揮するだろう?そこをたたきのめすのが俺のスタンドにふさわしい勝利……

全員表へ出ろ!順番に切り裂いてやる!」

 

タワーオブグレーと違いすぎない? 五対一で戦うつもりだった私のほうが卑怯な気がしてきた。

 

ポルナレフが連れてきた場所はタイガーバームガーデンだった。極彩色の彫刻が目に痛いくらい鮮やかだ。

アヴドゥルさんも、ポルナレフの挑戦を受けて立つつもりだ。手伝っちゃダメなんですか?

――そして、アヴドゥルさんの『本気』の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

手伝うとか、いっそのこと失礼なレベルの戦いだった……。

炎と熱を操るって強そうだとは思っていたけど、これほど凄まじいものだったとは。周りへの被害を気にしなくていいと、ここまでの破壊力を出せるんだ。

戦闘が終わってもなお、肌を焼くような熱気が漂っている。

岩も溶ける高温……本当にアヴドゥルさんが味方でよかった。どう考えても勝つ方法が思いつかない。完全な不意打ちでも、良くて相打ちかなぁ。

ポルナレフも、ナイフを渡されたのにそれで背後を襲うこともなく、自分を楽にすることもしなかった。DIOの手先にも、こんな人がいるんだ……。

その額には、肉の芽。花京院くんもそうだったけど、思い通りにならない相手にはこれを使うのか。

先輩が肉の芽を引き抜いた。これ、気色悪いよね。肉の芽は、太陽の光に溶けて消えた。

 

「これで肉の芽がなくなって、にくめないヤツになったわけじゃな」

「花京院、柏木。オメーら、こーゆーダジャレ言うやつってよーっ、ムショーにハラが立ってこねーか!」

 

孫は祖父のダジャレがお気に召さないようだ。先輩はジョースターさんのチャーミングさをちょっと見習ったほうがいい気もするけどな〜。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

船での出発を待つ私たちに、ポルナレフさんが語ったのはひどく重たい、凄惨な過去だった。たった一人の家族の妹さんを襲った事件。

雨の中なのに、男の周囲だけぽっかりと雨粒が避けて落ちていた。そして、刃物も使わずにクラスメイトを切り裂き、妹さんを辱めて殺した。

一命をとりとめた妹さんのクラスメイトの証言は、誰も信じなかったが、スタンド使いならわかる。――犯人はスタンド使いだと。

 

「俺は誓ったッ!我が妹の魂の尊厳とやすらぎは、そいつの死をもってつぐなわなければ取り戻せんッ!

俺の『スタンド』がしかるべき報いを与えてやるッ!」

 

誰も言葉を挟めなかった。ポルナレフさんは、ここではない遠くを睨みながら、話を続けた。

手がかりは、男の両腕が右腕だということだけ。

たった一つの情報を頼りに犯人を探し続けたポルナレフさんは、一年前にDIOに出会った。

 

DIOはこう言ったのだ――

 

『どうだね、ひとつ…わたしと友だちにならないか?

君は悩みをかかえている……苦しみをいだいている……

わたしとつきあえばきっと心の中から取りのぞけると思うんだ。

力を貸そうじゃないか……わたしにも苦しみがあって日光の下に出れない体なのだ。だからわたしにも力を貸してくれ。

この男を探し出してやるよ』

 

「そうして君らを殺してこいと命令された。それが正しいことと信じた……」

「肉の芽のせいもあるが、なんて人の心のすき間に忍び込むのがうまいヤツなんだ」

「うむ…しかし話から推理すると、どうやらDIOはその両手とも右腕の男を探し出し仲間にしているな」

 

ポルナレフさんの口から「DIO」という名が出た瞬間、アヴドゥルさんと花京院くんも、あの出会いの記憶に引き戻されたようだった。

 

「俺はあんたたちと共にエジプトに行くことに決めたぜ。DIOをめざしていけばきっと妹のかたきに出会えるッ!」

「…仕方あるまい。ダメだと言っても勝手についてくるだろう」

「やれやれだ「すみませ〜ん。ちょっとカメラのシャッター押してもらえませんか?」

「お願いしまーす」

 

先輩の口ぐせを黄色い声がさえぎった。観光客っぽい女性二人が先輩を取りかこんでいる。

わー、既視感。学校じゃ毎日こんな感じだったもんね〜。モテるのもここまでくると大変だ。シリアスな空気だったのに、話しかけてくる人たちもチャレンジャーだなぁ。先輩もうんざりした顔をしている。

 

「やかましい。外のヤツに言え‼︎」

「まあまあ、写真ならわたしが撮ってあげよう」

 

あれ?

 

「君、キレイな足しているから、全身入れよーね。シャッターボタンみたいに君のハートも押して押して押しまくりたいな〜!」

 

ポルナレフさんがナンパしてる。いやいや、さっきまでの復讐に燃える騎士はどこいったの⁇

 

「なんか、よくわからぬ性格のようだな」

「ずいぶん気分の転換が早いな」

「というより、頭と下半身がハッキリ分離しているというか」

「フランス人ってこうなんですかね?」

「やれやれだぜ」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

「それにしても、何だって君みたいな女の子までこんな旅に参加してるんだ? 俺みたいに女性だからって見逃すような甘い相手ばかりじゃないぜ」

 

旅の同行者になったポルナレフさんが話しかけてくる。もっともな心配だけど、今更だ。今のところあんまり私は役に立ってないけど、帰るつもりはない。

 

「……柏木、もしも私ではなく君がポルナレフと戦っていたらどうしていた?」

 

隣にいたアヴドゥルさんが片眉を上げて、少し楽しそうに私の答えを待っている。

 

「そうですねぇ。手頃な岩を盾にしつつ、重力操作のギリギリ内側でポルナレフさんごと上空に行きます。その間はポルナレフさんをクルクル回転させて体勢を崩して、ある程度の高さから落とす……かな?」

「……」

「うん、自分のスタンドを活かした良い戦い方だな」

 

ポルナレフさんは若干引きつった顔をしている。なんでさ!

アヴドゥルさんは満足そうに頷く。どうでしょうか、先生。

 

「柏木さん、案外容赦ないですね」

 

どうすれば勝てるか考えたからね。花京院くんたちと比べるとどうも決定的なパワーがないし。操作できる強さも0〜3Gの範囲だ。相手の動きを鈍くさせたり、バランスを崩すことはできても、それだけでは足りないだろう。

 

「ポルナレフ、君は強い。だが慢心しないことだ。無敵のスタンドなど存在しない」

「肝に命じるぜ」

「皆も覚えておけ。スタンド使いはそれぞれ切り札と言える隠し玉を持っていることも多い。油断大敵だぞ」

「はい、アヴドゥル先生!」

 

良い子のお返事でこたえると、アヴドゥルさんは少し照れくさそうに笑った。

 

 

「よーく考えると今の作戦、みんなには通じないんだよね」

「何でだよ、ジョジョには効くだろ、近距離タイプだぜ」

「いやー、空条先輩隙がないもん。何か対抗手段見つけそう」

「俺は隙だらけだって言いたいのか、柏木ッ!」

「さんをつけた方がいいんじゃあないか、ポルナレフ」

「…味方同士で戦うことはねーだろ」

 

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