海での漂流の後、救助された私たちはようやくシンガポールに到着した。
陸の上!人の住む街!――文明って素晴らしいね!
さすがにみんなも嬉しそうだ。今日は普通にベッドで眠れる。
ポルナレフの荷物がゴミと間違えられるハプニングもありつつ、私たちはホテルへ向かう。
シンガポールでは路上にゴミを捨てると500シンガポールドルの罰金なのだそうだ。道理でゴミひとつ落ちてないはずだ。
――それはいいとして。
アンちゃんが私たちに着いて来ている。一緒にいるのは危険なんだけどな。
「おい、おやじさんに会いに行くんじゃあないのか?」
「俺たちにくっついてないで早く行けばぁ」
ジョースターさんとポルナレフが声をかけるが、
「5日後に落ち合うんだよ!どこ歩こうがあたいの勝手ろ。てめーらの指図はいらねーよ」と彼女はそっけなく答えた。
5日間どうするんだろう。まさか野宿?
「あの子われわれといると危険だぞ」
「しかしお金がないんじゃあないのかな」
「密航するくらいだしね」
「しょうがない、ホテル代を面倒みてやるか」
花京院くんたちも同じ考えだった。ジョースターさんも、このまま放り出す気にはなれないみたいだ。
「ポルナレフ、彼女のプライドを傷つけんようつれて来てくれ」
えっ、ジョースターさん、それは人選ミスでは? 花京院くんの方が適任だよ。なんなら私の方がマシかもしれない。
……いや、ポルナレフだって大人だし、フランス人だし、女の子に優しいし、きっとスマートに誘ってくれるよね!
「おい!貧乏なんだろ?恵んでやるからついて来な!」
全員、ため息をもらした。ポルナレフ、君ねえ……!
デリカシーは海に落として来ちゃったの? だったら回収不可能だな!
ホテルは混み合っているらしく、私たちは別々のフロアに部屋を取ることになった。
先ほどの、ポルナレフによるデリカシー0の誘いで若干不機嫌なアンちゃんは、私と同室だ。
「よろしくね、アンちゃん」
「……よろしく」
部屋に着いて最初にすることは決まっている。シャワーだ。も〜、漂流の間風呂が恋しかったのなんの!
「アンちゃん、シャワーお先にどうぞ」
「いや、あんたが先に浴びなよ」
「それじゃ、じゃんけんで決めよう」
結果、私が先になった。潮風でベタついていたのが、やっとスッキリした。生き返った気分だよ。待たせるのも気の毒だし、急いで済ませた。
「え、早くない?」
「寝る前にまたゆっくり入るから。さっぱりしておいでよ」
「……ありがと」
髪を乾かしていると、ジョースターさんから電話が入った。
なんと、ポルナレフが部屋で敵に襲撃されていた。シンガポールに着いて早々のそれに緊張が走る。アヴドゥルさんによると、能力の詳細は不明だが、かなり危険な相手らしい。
みんなで対策を立てようと、ジョースターさんたちの部屋に集合することになった。
シャワーを終えたアンちゃんに、私が戻るまで誰かが来てもドアを開けないように言うと、なにか言いたそうな、複雑な顔をしている。
「あんたはなんで、そんな危険な旅をしてるの?あの不思議な力を持ってるから?」
「ジョースターさんから聞いたでしょう?ホリィさんを助けるためだね。あの力は……なければ、一緒に来ることはできなかったよ」
「ジョジョのお母さんは、別にあんたの家族でもなんでもないだろ?なんで?……もしかして、ジョジョのこと好きなの?」
おおっと、そう来たか〜。少しばかりトゲのある言い方に苦笑する。空条先輩、ワールドワイドにモテてるなぁ。確かにむちゃくちゃカッコいいけどね。それは関係ないと言っても納得しなさそうだ。
「うーん、きっかけはホリィさんを助けるためだけど。結局は自分のためだよ。うまく言えないけど」
自分のためだ。
私は、スタンドをもっと知りたかった。スタンド使いのことも。
エジプトに行くのを決めた時は、はっきりわかってなかったけど――
きっと、一緒に来てよかったんだ。だけど、これは誰かに言う必要のないことだ。
それに――
「ついでに言うと、空条先輩はすごい人だと思ってるけど、恋人にはなりたくないかな。大変そう」
「えーっ、なんで⁉︎」
おお、食いつくなぁ。
空条承太郎と付き合うなら、空気を読むスキルは必須だろう。あとホリィさん並みの包容力。よほどできた女じゃなければ務まらない気がする。
「例えばさ、トム・クルーズはカッコいいけど、世界中の女がみんな彼に恋するわけじゃないでしょ。それと同じだよ」
「……なんか納得いかないけど、ちょっとわかるかも。でもさ、トムは画面の向こう側だけど、ジョジョは目の前にいるんだよ?」
アンちゃんが少しだけ笑った。
その顔を見て、私もつられて笑う。漂流と戦闘の連続だった日々の中で、ようやく息がつけた気がした。
学校にいる時の先輩は、画面の向こう側のアイドルみたいなもんだったよ。今は……まあ、案外いろいろツッコミどころのある人だなぁと思ってるけどね!
ジョースターさんたちの部屋に行くと、先輩と花京院くんが先に来ていた。
「おお、来たか。あの子はどうしたんじゃ?」
「部屋にいるように言ってきました。その方が安全かと思ったんですが……」
「それもそうだな。……それにしてもポルナレフは遅いのお!時間にルーズなやつじゃ!」
待ち合わせた時間は過ぎている。でも、足を怪我したんだよね?手当てしてるんじゃないの?
そこへ、ポルナレフがやって来た。
「遅いぞ、ポルナレフ」
「よし、みんなそれでは早速だが、呪いのデーボに襲われた時の対策を練るとするか」
ポルナレフは壁を背にへたり込んだ。……え、血まみれじゃない⁉︎ ポルナレフ、大丈夫⁉︎ ポルナレフ――‼︎
――みんなで対策を練る前に、ポルナレフが一人で戦っていた。……ごめん、部屋に誰かが迎えに行くべきだった。
油断も隙もないってこんなのをいうのか……。