ポルナレフが警察で事情聴取を受けることになった。
デーボがホテルのボーイを殺して、その容疑者として疑われているのだ。デーボ自身もホテル内で死んでいるのが発見されている。
私たちはポルナレフの無実を知っている。デーボについては正当防衛だ。でも、説明も証明もできない。
結局、SPW財団から派遣された弁護士の力で釈放されることになった。ポルナレフが戻って来たのはもちろんホッとした。
「でもなぁ……」
先輩たちがチケットを買いに誘ってくれたけど、ホテルに残った。どうも、出歩く気分になれない。
南国のシンガポール、太陽は強く、青空が濃い。日本は冬だったから、余計に明るく見えた。
出発してからまだ一週間も経っていないのに、日本にいたのが遠くに感じる。
飛行機のパイロット、船の乗組員、そしてホテルのボーイ。全員、ただ“私たちと関わりを持った”それだけで命を奪われた。
船員もホテルのボーイも、殺される理由なんてなかったはずだ。
……船員たちとは話もした分、堪える。ほんの数日前までは、笑って手を振ってくれてたのに。
プールサイドでぼんやりと水面を眺めていると、花京院くんに声をかけられた。
「どうしたんですか、こんな所で」
「花京院くんこそ、先輩たちと出かけるんじゃなかったの?」
「どうも置いて行かれてしまったみたいです」
「じゃあ、居心地のいいホテルで冷たいものでもすすっていようよ。トロピカルジュース美味しいよ」
「はは、たまにはのんびりもいいですね。……その、僕の気のせいならいいんですが……なにか元気がないですよね? 力になれることはありますか?」
鋭いな、隠してるつもりだったんだけど。……自分たちが狙われるのは覚悟してたんだけどな。
「……ちょっと考えちゃってね。思ってたよりも、人の命を踏みにじるのを躊躇わないやつがいるんだなって」
風が、プールの水面を揺らす。光の反射に目を細めた。
「……僕は、少しの間だけど、DIOのところにいた」
少し震えた声に、ハッとして花京院くんを見る。エジプトで彼の身に起きたことは聞いていた。でも、あえてその時のことは誰も尋ねてこなかった。軽々しく聞けることじゃないからだ。
花京院くんは視線を前に向けているが、ここではないどこか遠くを見ている。その表情は静かだ。
「肉の芽を埋め込まれていた間の記憶は、曖昧な部分もありますが……あいつは、“背中を押す”のが実に巧みなんです。人の中にある、ほんのわずかな闇や欲を……見逃さない。多分、あいつに会わなければ、ただの小悪党で終わった人間も多いでしょう。おそらく、DIOを放っておけば世界は確実に悪の方へ傾くと思いますよ」
「だからエジプトへ行くの?」
「僕にとっては、もっと……個人的な理由です。あいつへの恐怖で一度は完全に打ちのめされた。このまま……へし折られたままでは、僕は自分の人生を取り戻せない、そう思うんです」
「花京院くんは強いね。逃げないことを選んだんだ」
「そうありたいと思ってます」
花京院くんだけじゃない。先輩も、ポルナレフも、アヴドゥルさんも、ジョースターさんも――みんな、眩しいくらいに真っ直ぐだ。
「私は、ホリィさんを助けたいと思ったのが始まりだけど。……DIOみたいなのをそのままにしちゃいけないと思うようになったかな。いつか、私の大切な人たちが無事じゃいられなくなりそうだから」
「ふふ、あなたもとても強い人だ」
強がりも押し通せば、いつかは板につくのかもしれない。ま、やるだけやってみようか!
空を見上げる。目にも眩しい青、まるで何事も起こらなかったみたいに、世界は今日も綺麗だ。
旅はまだ続く。みんなと一緒に、歩いて行こう。
――ちょうどこの頃、先輩は敵のスタンド使いと戦っていた。しかも相手は、花京院くんに化けていたらしい。
……本当に、気の抜けない旅だ。
次回は、インド到着。