没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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18話「私はゴミ箱じゃありませんのよ!?」

 ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!

 今、王城の前に居ますの。

 

 

 

 久しぶりですわね、この城門をくぐるのは。

 ……私はキャロルと一緒に馬車に乗って、あっさりと城門をくぐり、あっさりと王城前に降りましたわ。

 キャロルをエスコートしながら馬車から降りて、改めて王城を見上げますの。

 私の第二の実家となるはずだったこの城は、何度見ても美しいものですわね。大聖堂の荘厳なかんじもいいですけれど、王城の豪奢なかんじも悪くなくってよ。

 それでいて私、この王城にはそれなりに親しんでいますもの。ですからこんな状況でも、緊張より懐かしさが勝ちますわね。

 ……ただいま、王城。ここに踏み入るのは私の公開処刑の時以来。堂々として居られるのはダクター様暗殺の濡れ衣を着せられたとき以来。

 なんだか感慨深いですわぁ……。

「それでは聖女様。ご案内致します」

 城の係の者が出てきて案内を始めたので、私はキャロルの後ろについて歩き始めましたわ。

 今日の私はキャロルを守る聖騎士ですもの。同じく聖騎士の鎧に身を包んで顔を隠しているドランと共に、しっかり任務を果たしますわよ!

 

 

 

「これはこれは、聖女キャロル。よくおいで下さった」

「本日はお招きいただきありがとうございます」

 早速、城の中、玉座の間へ案内されると、そこで国王がゆったり構えてキャロルを出迎えましたわ。

 ……ただの小娘ならこれだけで『国王』という肩書きにビビって萎縮して、王家の思うがままにこの後の会談が進むのでしょうけれど……キャロルは違いますわ!

 何と言ってもキャロルには、『国王の王冠の下、禿げてますのよ』と教えてありますの!ですからキャロルは今、国王に威圧されるようなことも無く、しっかりと『目の前に居るのは単なるハゲ親父』と認識できていますわ!国王の威厳たっぷりな様子より、ずれそうでずれない王冠に意識が行っているはずですわ!

 地位の高い人物の威厳なんて、ほとんど錯覚ですのよ。なんとなく偉そうな気がするから偉そうな気がする。そんなもんですわ。

 ですから、国王陛下が只の普通のハゲ親父なのだと分かるような……他にも、『幼少期に蝶を追いかけていて植え込みに頭から突っ込んで1時間そのままだった』とか『若い頃に出場した武道大会でサクラを仕込みまくりイカサマも仕込みまくったにもかかわらず優勝を逃した』とか『ハゲてからハゲを隠せるようなデザインに王冠を作り変えたため国税をとんでもない額使った』とかそういうしょうもないお話をたっぷり教えてあげましたの。

 おかげでキャロルは……国王の予想を完璧に裏切る形で、堂々として全く物怖じしていませんわ!流石ですわ!

「……それでは早速だが、食事を用意している。食堂へ向かおうか」

 国王はキャロルの堂々とした貴婦人の……いいえ、隣国の女王と言っても差し支えない程の立ち居振る舞いに少々面食らった様子ではありましたけれど、キャロルを伴って移動することになりましたわ。

 ちなみにキャロルには何かあった時の為に城内の地図を叩きこんでありますから、何所へ向かっているのかは分かっておりますの。完璧ですわね!

 

 

 

 食堂へ少々遠回りして辿り着いて、そこで昼食となりましたわ。

 食器が人数分揃えてあって、如何にも会食、といった雰囲気ですけれど……。

「どうぞ、聖騎士の皆様もご着席ください」

 大臣が笑ってそう言ってくれるのですけれど、当然ですが私達、兜を脱いだら一発でムショ行きですわ。

「いえ、お構いなく。我々はキャロル様をお守りするために居りますので」

 私が声を出したらそれはそれでバレそうな気がするので代わりにドランが答えてくれましたわ。

「……王城の中でそのような危険があるとでも?」

「何があるか分かりません。現に、聖女投票の当日も大きな騒ぎがあったと聞いております」

 この返答には大臣も黙るしかありませんわね。これって現に『大聖堂は王城を信用していない』という言動なのですけれど、キャロルが温和な分、丁度いいですわね。

 国王には『キャロル1人を懐柔すれば済む問題ではない』と思ってもらっておいた方がよくってよ。たとえ『フリ』だけだって、安く買いたたかれるのは御免ですわ。

 

 ということで、私とドランがキャロルの背後、壁際に立って控えている状態で、会食が始まりましたの。

 王城の食事ですから、当然のように豪華な食事ですわ。キャロルが聖職者であるという事を意識してか、肉っ気は控えめかしら。

 メインは白身魚のムニエルにハーブのソースをかけたもの。スープはお芋の冷製スープ。サラダは新鮮な生野菜にワインビネガーと塩で調理したものと、グリルして卵黄のソースをかけたもの。お野菜のゼリー寄せに帆立と茸のフリット……。

 メニューはお野菜を主軸にしたものですわね。ただ、品数の多さと調理法の多さが豪華さを演出していますわね。

 お味も王城の厨房で調理されたものともあれば、当然のように美味しいのでしょうねえ……。

 ……ちょっと羨ましいですわ!帰ったらドラゴン肉でパーティーしてやりますわッ!

 

 

 

「聖女キャロルよ。食事は口に合っているかな?」

「はい。とても美味しいです」

 食事中、和やかな雰囲気の中、国王はにっこり微笑みつつキャロルに話しかけ始めましたわ。少しでも親しみを覚えてもらおうとしているのでしょうね。分かりますわ。私も過去に同じように話しかけられ始めたことありますわ。

「そうか。それはよかった。何分、聖女様へ出す食事ということでな、料理人達も少々悩んだらしいが、気に入ったようなら何よりだ」

 国王はそう言いながら、どうやって本題を切り出そうか、みたいな顔してますわね。

 ……でも遅くってよ。

 迷っている間に、こっちのキャロルは先手を打っていきますの。

「国王陛下。1つ、確認したいことがあります」

「な、なんだ」

 まさか先手を打たれるとは思っていなかったらしい国王は流されるまま、キャロルの言葉を許しますわ。

「エルゼマリンの北部に新しくできた町をご存知ですか」

 

「……ああ、知っている。2ヶ月ほど前から開拓地として発展を遂げた場所があると報告を得ている」

 国王はここでやっと自分の失態に気付いたのでしょうけれど、キャロルは攻撃の手を緩めませんわよ!

「はい。そこについ3週間ほど前、王家からの使いだという兵士の方々が『攻め入って』きました」

 知らないはずはありませんわね。王家の兵を動かせるのは王だけ。勿論、それって形式的な意味ですから、派兵を決めるのは兵団であったり大臣であったりするわけですけれど、最終的な確認は全て王を通るはずですのよ。

 それに、開拓地への襲撃は間違いなく、王の指示ですわね。だってあれはキャロルが聖女にならないようにするための妨害工作でしたもの。

「大罪人が隠れているから、というお言葉でしたが、その後私が調査したところ、町にそのような方はいらっしゃいませんでした」

「そ、そうか。それは何よりだ」

 国王はしどろもどろによく分かんないことを言いつつ……でもまあ、流石にここで盛大なボロを出すほど馬鹿ではないですわね。

「こちらに寄せられた情報では、その大罪人がそちらの町に滞在している可能性がある、という程度のものだった。だが、可能性がある以上、調査しないわけにはいかなかったのだ」

「ええ。可能性を潰すことの重要性は理解しております。しかし、ならばどうして事前に協力を仰いでいただけなかったのでしょうか?それに、家屋を破壊する意味はありましたか?」

「それは……」

 できるだけ町に損害を与えて、キャロルへ投票する人間を減らしたかった、ということなのでしょうけれど、そこの言い訳は流石に用意できていないようですわねえ!

「……それは申し訳なかった。兵士達が勝手にやったことだ。厳重に注意しておこう」

「ええ。あのような事が二度と無いよう、よろしくお願いします」

 キャロルはそう言って、小さなため息と共に食事を再開し始めましたわ。

 

 ……国王としてはこれ、大変に痛いことだと思いますの。

 多分、国王は開拓地を交渉材料にしたかったんだとおもいますわ。

 キャロルが下手に出てきたなら、適当に開拓地に難癖つけて、開拓地に派兵するような事を言っておいて、それから『派兵しない代わりに大聖堂には協力してもらいたい』みたいなことを言って大聖堂の協力を買おうとしていたんだと思いますわ。

 ……でもキャロルは国王の予想から外れて、権威で押し潰せる相手ではなかった。

 対等に渡り合おうとしてくる相手にそんな稚拙な脅しじみたことは言えませんし、そもそもの非は王家にあるわけですから、先手を打ってこられたら当然、開拓地について謝罪することはできても、開拓地の安全を餌に交渉することなんてできない、というわけですのよ!おほほほほほ!

 ……更に。

「それで、あの町に居た可能性のある大罪人とは、一体誰だったのですか?」

 キャロルが至極当然の疑問を投げかけたなら、まあ、困りますわよね!

 さあ、答えて頂きましょう!居もしなかった大罪人とやらの名前を!

 

 

 

「……それは答えかねる。治安維持上の機密なのでな」

「あの町には私がお世話になった方々も大勢いらっしゃいます。それに、あの町の始まりは元々、農民への支援不足です。不作で、支援も無く、冬を越せない農民の皆さんが集まってできた町ですから、大聖堂としてはあの町を保護していきたい考えです。ですから、またあの町が狙われるようなことがあってはなりません。大聖堂も協力して情報を集めていきますので、『大罪人』の名前を教えて頂きたいのです」

 ぐうの音も出ませんわね。しかもこれ、大聖堂の方から一部だけとはいえ『協力』を申し出ている訳ですから、王家としては突っぱねられませんわ!

 ……いえ、勿論、居もしない大罪人を探す協力なんて、されても王家には迷惑でしかありませんわ。でも、『協力を申し出たのに断られた』という実績が大聖堂側にできてしまえば、今後王家は大聖堂と協力関係になりにくくなりますのよ。『あの時こっちから申し出た協力関係は断った癖に』となってしまいますものね。

 さあさあさあ!国王の顔色が悪くってよ!

 存在しない大罪人の名前を出して、何ならその大罪人についての情報も出して!どんどん嘘に嘘を重ねて苦しくなっていくか!はたまた、大聖堂を取り込むことを諦めるのか!

 さあ、どっちですの!?

 

「……ならば、教えよう。大罪人はあなたも知る人物だ」

 成程!それは一体誰ですの!?

「大罪人の名はヴァイオリア・ニコ・フォルテシア。……その者がそちらの開拓地に潜んでいるという情報があったのだ」

 ……はいッ!大正解!ですわーッ!

 

 

 

 まあ妥当ですわね。というか多分、王家としては他の嘘は吐きにくいところだったと思いますわ。

 だってこの国で『町を荒らしてまで捕らえたい大罪人』なんて私以外に居ませんもの。

 強いて言うなら、人狼ってことでドランもいい線行くかもしれませんけれど、でもまあ、所詮そんなもんですわ。

「ヴァイオリア・ニコ・フォルテシア、というと……あの日、投票所で皆さんを助けて下さった方、ですか……?」

 でも国王陛下はお忘れのようですわね!

『聖女キャロル』は『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシア』に対して恨みなんて欠片もありませんのよ!

 

 早速、キャロルから戸惑いと疑いの目を向けられる国王は、咳払いをしながら弁明を開始しましたわ。

 ……まあ、私の罪状を有ること無いことベラベラ喋って下さっただけですけれど。ええ。まさか、『スライムの大量発生による不作に隠れて農作物の強奪をしていた』なんて罪まで着せられるとは思いませんでしたわ。ちょっと面白くってよ。

「……そう、ですか。それで王家の皆さんは、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアという方を探してらっしゃる、と」

「そうだ。あの悪の根源、放っておくわけにはいかぬ。何としても捕らえなければ、この国に未来は無い」

 そう国王は言いますけれど、キャロルは平民出身ですし、投票所での私の演説も聞いていますから、これにはなんとも言えない顔をするだけですわね。ええ。

「分かりました。確かに、それほどの罪を重ねた方なら、名前を出しただけで怯える方もいらっしゃるでしょう」

「だからこそ、名前を伏せて捜査するしかなかった。……こちらの事情は分かって頂けただろうか」

「ええ。納得はできました。ただ……1つ、気になることがあるのですが」

 キャロルの素朴な疑問が発される前振りに、国王側は一斉に身構えましたけれど……身構えたからって、どうにかなるもんじゃなくってよ。

「その方があの町に居る、という情報はどこから得たものだったのでしょうか?それが分かれば大聖堂でもよりお手伝いができると思うのですが」

 ほーら!どうにもなりませんわねッ!さっさと困り果てておしまいなさいな!おほほほほほ!

 

 

 

 ……しかし、国王はしばらく黙った後……起死回生の一手を、投じましたのよ。

 

「アマヴィレ・レントだ」

「え?」

「アマヴィレ・レント。……あなたも見たことがあるな?聖女投票の時に……」

「え……あ、あの方、ですか……?」

 キャロルも困惑のあまり、ちょっとこっち見たりしてますわ!でも大丈夫ですわ!そのまま!話はそのまま続けてくださいまし!

「ああ。あの女がヴァイオリア・ニコ・フォルテシアについての情報を運んできたのだが……知っての通り、現在は収監中となっている」

 ……なんというか、ややこしいもんは全部ゴミ箱に突っ込んでやれ、ぐらいの感覚で私やピンハネ嬢の名前を出してませんこと……?

 ピンハネ嬢はまだしも、私をゴミ箱感覚で使うもんじゃありませんわーッ!ムキーッ!

 

 

 

 ちょっと扱いが不服ですけれど、でもまあ、これはチャンスでしてよ!

「……あの、1つお願いがあるのですが」

「おお、どうした」

 キャロルの『お願い』に、国王はちょっと嬉しそうな顔をしましたわ。まあ、先に『お願い』を聞いてやれば、王家との協力を『お願い』する敷居が低くなりますものね。

 ……でも。

 

「お会いしてみたいのです。アマヴィレ・レントさんに」

 流石に、キャロルにそう言われて、国王達はそれを利用することなんて考える余裕はないようですわねえ……。

 

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