ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
私は今、キャロルの後ろについて王城の地下牢へと向かっているところですわ!
さて、目指す先はピンハネ嬢!彼女はどうしていることかしら。楽しみですわね!
「ここが地下牢、ですか」
キャロルは地下へ足を進めながら、何とも言えない顔をしていますわね。
「荒れていますね」
「……ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアが脱獄した際、他の多くの囚人も逃がされてしまい、その時にこの辺りは兵士と囚人との戦いの場になったのです」
知ってますわ。当事者ですわ。でも壁に穴ボコ開けたのは私じゃなくて隣で聖騎士の鎧着てる奴でしてよ。
「成程、それでこの状態なのですね……」
「ええ。現在、あちこちの牢獄を修繕中です」
半年以上経ってまだ修繕中って、それはどうかと思いましてよ。他で忙しくてこちらに手が回っていない、ということなのかしら……。
なんとも荒れ果てた地下牢を通り過ぎていくと、見覚えのある牢が見えてきましたわ。
「こちらがアマヴィレ・レントの牢です」
……見覚えがある訳ですわ。
これ、私が鍵穴にパン詰めた牢ですわ……。
王家も学習しているのね。牢の中から鍵穴にパンを詰められないように、鍵穴周辺にガードがつけてありましてよ。
なんとも懐かしい気持ちになりながら、私達はまず、国王がピンハネ嬢に近づいていくのを見守りますわ。
「アマヴィレ・レント。何か話す気にはなったか」
国王が牢の中に話しかけるや否や。
「だからぁ!私は何もしてないって言ってるじゃないですかぁ!」
……元気にお返事が返ってきましたわ。
「どういうことですか?アマヴィレ・レントさんがヴァイオリア・ニコ・フォルテシアさんについて知っているのではなかったのですか?」
「それが、この通りでな。目が覚めて以来、自分の犯行を認めようともしない。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアについての情報についても、全く口を割らないという状況で……」
あら。有ること無いこと言いふらして現場を混乱させているかと思ったけれど、それ以上に自分が混乱している、ということかしら……?
ピンハネ嬢は国王やその後ろに居るキャロルを見て、自分の無実を訴えていますわ。もう少し頭を使えば無罪放免とはいかずとも、条件付きの出獄ぐらいはできるかもしれませんのに……。
……いえ、もしかしたら、本当に……?
「……聖女キャロルよ。あれと本当に会話することを望まれるのか?」
「え、ええ。やはり、一度お話ししてみないことには……」
キャロルもピンハネ嬢の必死な形相に引き気味ですけれど、とりあえずここは聖女根性で乗り切ることにしたようですわ。
「あの……こんにちは」
キャロルは牢獄の前、鉄格子に近づいて、中に居るピンハネ嬢に話しかけ始めましたわ。
「私はキャロル。この度、聖女として大聖堂の皆さんのお力をお借りすることになりました。あなたはアマヴィレ・レントさんですね?」
キャロルが目線を合わせてピンハネ嬢に話しかけると、ピンハネ嬢は一瞬の間に表情を変えましたわ。
……『聖女』という名乗りから、聖女投票当日のことを思い出したのかもしれませんわね。ピンハネ嬢が正気を失う前までの記憶をちゃんと保持できているとすれば、キャロルのことも見覚えがあるはずですし。
「……聖女?もう決まったんですかぁ……?」
「え、ええ」
まずそこからなんですのね?
……ピンハネ嬢の顔を見る限り、『やっぱり自分は聖女に当選しそこなったらしい』みたいなかんじに見えるのですけれど、こいつ、もしかして本気で聖女に当選する気でいたのかしら……。
「あの……アマヴィレ・レントさん。お伺いしたいことがあります」
キャロルはちょっぴり困りながら、ピンハネ嬢に聞きたいことを聞いてくれましたわ。
「ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアという人を知っていますか?」
「……もう散々、王様にも聞かれたんですけどぉ。話せることなんて本当に何も無いですぅ」
キャロルの質問に対して、ピンハネ嬢はツンとしてそっぽを向きやがりましたわ。こいつ自分の立場分かってませんの?
やや強硬な姿勢を疑問に思う私達の前で……ピンハネ嬢は、ちょっと馬鹿にしたような顔をして、言いやがりましてよ。
「それとも、私が何か話したら私にいいこと、あるんですかぁ?」
……あっ。
こいつ……こいつ!
自分の立場、本当によく分かってませんのねーッ!?
「はい。あなたが話して下されば、この国の人々の安心に繋がるかもしれません。それは巡り巡ってあなたのためにもなるのではありませんか?」
「えー?よくわかんなぁい。大体ー、私がこんな牢屋なんかに閉じ込められてるのにぃ、どうして私が国のために何かする必要があるんですかぁ?私は無実なのに捕まってる被害者なんですよぉ?」
キャロルの聖女らしさ最大級の言葉も跳ねのけて、ピンハネ嬢は……すごいですわね。この期に及んでゴネ得を狙ってますわ……!
「無実?あなたは自分の罪を認めない、ということですか?」
「だって本当に私、何もやってませんしぃ……調べれば分かるはずですよぉ。ちゃんと調べてくださいよぉ」
そうですわね。ちゃんと調べれば分かるかもしれませんわね。そしてピンハネ嬢が無実だったと分かって、冤罪で囚われていたピンハネ嬢に慰謝料が入ることもあるのかもしれませんわね。
でもちゃんと調べられるはずがなくってよ!
「あなたが無実だというのなら、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアさんとのつながりは?」
「ヴァイオリア?……それは知ってること、ちょっとはありますけどぉ、でも、私は何も悪くないですしぃ……せめてこんな所じゃなくて、ちゃんとしたお部屋でだったら、少しはお話しできるかもしれませんけどぉ、ここは寒くってぇ……」
ついでに、無罪を証明してもらう時間稼ぎのつもりか、本当にゴネ得を狙っているのかは分かりませんけれど、随分図太い事を言いますわねこいつ!私もこれにはビックリですわ!
「そうですか。なら、お部屋へ……」
「……ならぬ。罪人をそうそう簡単に釈放する訳にはいかぬ。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアの二の舞になれば、いよいよ国民に顔向けができん」
まあ、この国の地下牢、大勢に脱獄されている経験がありますものねえ……。
「何もしませんよぉ!どうして誰も信じてくれないんですかぁ!?」
投票所の待機室でアヘアヘしてた奴を信じられる人なんて居なくってよ。
……さて。
それから数分話して、私達はピンハネ嬢とのそれ以上の会話を諦めることになりましたわ。
というか、一時撤退、といったところかしら。ピンハネ嬢に何かするにしても、国王との相談になりますものね。
「あの通り、全く話そうとしない。『何か知っている』ということを匂わせはするのだが、交換条件として釈放や『慰謝料』を求めている。つまり、『無実の罪で捕らえられた』ということにせよと言っておるのだ」
本当にアイツ大したタマですわね!
ムショにぶち込まれながらにしてこれだけ面の皮の厚さとがめつさを発揮できるなんて、本当に素晴らしいですわ!あの横っ面、引っ叩いてやりたくってよ!
「……だが、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアと繋がりがあるような者をむざむざと外に出すわけにもいくまい?ましてや、『冤罪だった』などと国民に対してどのような顔をして言えばよいのだ」
そうですわね。そこは国王の意見も尤もでしてよ。あれを外に出すのは国王の立場からするとちょっと難しいでしょうね。国王からしてみれば、ピンハネ嬢を外に出した瞬間、『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシア』が助けに来ないとも限らないわけでしょうし……。
大体、国民が納得しませんわね。投票所のあのアヘアヘ具合を見た国民なら、きっと尚更。
「そして……その、非人道的な扱いをしたらしたで、後々問題になるといけない。というわけで、我々としてもあれの扱いには困っているのだ」
「そうでしたか……」
本当に困りきった顔の国王は、深々とため息を吐いて……キャロルに向き合いましたわ。
「何か、いい知恵は無いだろうか?」
流石にそれは無茶が過ぎますわねえ……。
一旦、聖女様は休憩、ということで、客室の1つを借りつつ、そこで私達と相談ですわ。
「どうしましょう。聖女の立場からですと、拷問にかけて口を割らせろとは言いにくいですし……」
「そうですわね。でも多分、拷問は王家側が真っ先に考えていると思いますわよ?それでも拷問にかけずに今も悩んでいるということは、恐らく、報復や情報の流出を恐れている、ということでしょうね」
ピンハネ嬢が『もし自分に非人道的な真似をしたらその行いが世間に知れるように準備はしてある』なんてハッタリかましていたら、それだけで国王はビビりそうですものね。まあ、そうじゃなくても何かはピンハネ嬢も対策しているんだと思いますわ。多分。
王家はこれ以上、失敗できない立場。ですから限りなく慎重に動きたいのでしょうけれど……。
「それにしても、『何かいい知恵は無いか』とは暢気なものだな」
「王家としては、大聖堂が動いてピンハネ嬢を何とかしてくれるのが一番ですのよ。他力本願ですわねえ」
……まあ、他力本願も無理はないかもしれませんわね。
ピンハネ嬢をここで殺したら情報は得られない。
拷問にかけたら、どこかからか情報が漏れて王家の不信につながる可能性がある。
かといって要求を呑むわけにはいかない。
こんな雁字搦めじゃあ中々上手くいかないのも分かりますわ。王城の中に、尋問が滅茶苦茶に上手い者が居るとも思えませんし。
……さて。
ここで考えなくてはならないのは、『どうやってピンハネ嬢に喋らせるか』なんてことじゃありませんわ。そんなに王家に親身になってやる必要、無くってよ。
必要なのは、『ピンハネ嬢に何を喋らせるか』ですわ。
「仕方ありませんわねえ。キャロル。今日はあなた、なんとかしてお城へ泊まることになさいな」
「え?」
「夜中に地下牢に忍び込んで、話をつけますわよ」