ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
私は今、アジトで雁首突き合わせて、野郎共と相談中ですわ!
即ち、『どのようにして戦争が起こらないことを証明するか』ですわ!
「無いものの証明って難しいのよ、お嬢さん」
「分かってますわ!」
「だったらこういう無理難題は持ち込まないでほしいんですがね」
「知ったこっちゃなくってよ!」
難しいことだなんて、とっくに分かっていましてよ!だからここに相談に来ているんじゃあありませんのッ!
「放っておいても成果は得られると思うが。アサンブラ王国が戦争を起こす気が無いと証明できても、王家が拍子抜けすることとアマヴィレ・レントの罪が重くなることくらいしか起こらないんじゃないか」
……そうですわね。その通りですわ。
ここで『アサンブラ王国が戦争を仕掛けてくるなんて嘘でした』と分かったところで、王家が今まで頑張っていた準備が全て無駄になって、国民の不満だけがそのまま残されて、ついでにピンハネ嬢が多分死ぬだけですわ!
でも!だからこそ!私はそこに力を注ぎたいんですのよ!
「だって面白そうなんですもの!」
復讐って、ただ相手をサクッとやってしまえば気が済むってもんじゃあなくってよッ!
「面白……そうか?」
「ええ!このままでは、王家は軍備を整えて、適当に難癖付けた挙句アサンブラ王国に攻め入って土地も財産も奪い取りに行きますわ!戦争に勝てば、国民感情は向上!王家は安泰!そんなの全く面白くなくってよ!どのみち、どこかで何らかの形で戦争は潰してやらなきゃあならないのですわ!」
「……成程な。確かに、アサンブラ王国が仕掛けてこなくとも、いつか痺れを切らしたオーケスタ王家の方から仕掛けに行きそうではあるが」
ええ!ですからどうせ戦争は止めますのよ!この国が負けたらそれはそれで楽しいですけれど、それだと私が殺したかった連中が私じゃない誰かの手で死にそうですし!それでは面白くない!面白くないのですわッ!
フォルテシア家を燃やしたあの連中には相当愉快な死に方をしてもらわなければ、私の腹の虫は収まりませんのよッ!
「……と考えた時、一番面白そうなタイミングは今ですの。民衆は食料を取り上げられて、王家は武器集めに大枚叩いて、ついでに大規模な武道大会の開催まで決定して、その告知も終わった今こそがその機ですわ!」
「僕もヴァイオリアに賛成する。確かに、今が一番面白い。平民への被害も一番少ないしね」
あら。キーブの意見も同じですのね。ええ。そうでしょうとも。やっぱり今ですわ!今しかありませんわ!
……キーブは平民への被害を心配していますけれど、それも良い事ですわね。この国の王家ではなく、国自体の消耗を避けたい、という考え方をするならば、平民への被害は避けたいですわ。となると、やっぱり今ですわね!
「確かに、どのみち放っておくだけというわけにはいかないのか」
「ええ。私、あの王家が馬鹿だって信じていますもの」
賢く控えめな王ならやらないであろうこともあのゴーツクバリはやらかしますわ!きっと!
ですからやっぱり、『戦争が起こらない証明』はしなければなりませんのよ。
「時期はいいけど、結局どうすんのよ。無いものの証明が難しいってのはさっき言った通りだけど」
さて。いよいよ難しいところ、本題に入って参りますわよ。
今回、オーケスタ王家にピンハネ嬢からもたらされた情報は、『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアによってアサンブラ王国が嗾けられ、ウィンドリィ王国の支援の下、オーケスタ王国に戦争を仕掛けに来る』ということでしたわね。
さて。ここから考えられるのは大きく分けて2つの道ですわ。
1つ目の道は、『戦争が起こらない状況を作り出す』方法ですわ。
即ち……『不可侵条約』を結ばせる、ということですわね。
不可侵条約を結ばせる、というのは中々難しくってよ。何といっても、オーケスタ王家かアサンブラ王家かのどちらかに介入しなければできませんもの。
しかも唐突に不可侵条約がやってきたら、流石に警戒しますわよね?逆に裏に何かあるんじゃないかと疑われても仕方なくってよ。
……でも、正直なところ、これ以外に『戦争が起こらない証明』を確かにできるものってありませんのよ。それくらい、『無いものの証明』は難しいのですわ。
さて。そして2つ目の道は、『戦争を起こせないことを証明する』方法ですわ。
こちらは、『あれが無いから戦争に成り得ない』という方法ですわね。
例えば、『アサンブラ王国にヴァイオリア・ニコ・フォルテシアが連絡を取ったことはない』という証明がもしできれば、それは当然、ピンハネ嬢の嘘を証明することになりますわね。尤も、私が居なかった証明なんてできませんけれど。
けれど……そうですわね、例えば、『現在のアサンブラ王国には傭兵が足りない』とか、『現在のアサンブラ王国とウィンドリィ王国の間に妙なやり取りが無い』とか、『現在の』状況に目を向けて、その上で戦争を起こすには足りない、という証明ができれば、それであのバカな国王もちょっとは考えるのではないかしら?
「……ということですけれど、やっぱり私達の力で不可侵条約は厳しいものがありますわね」
「そうだな。フォルテシアの力を以ってしても、両国の王家に介入するということは極めて難しい。ましてやこちらの王からは決して動かんだろうしな」
「むしろフォルテシアの力とか使ったら余計にややこしくなるじゃん」
そうなんですのよねえ……。この中で最も力を持っているのは間違いなくフォルテシア家である私とお兄様なのですけれど、両者共にお尋ね者ですわ。おほほほほほ。
……ですから、これは早速、却下ですわ。よっぽど条件が綺麗に整わない限り、できっこないですわね。
「っつうことは、『あれが無いから戦争に成り得ない』って方?」
「そうですわね。そっちしかありませんわ」
しょうがないですから、アサンブラ王国が戦争の準備なんてしていない、ということを分かりやすく示してあげればいいのですわ。
……まあ、これが難しいのですけれど……。
「兵糧が不足している、というのは厳しいな。不作だったのはこの国ぐらいだ」
「ええ。スライムが大量発生したのはこの国くらいですものね……」
他所の国でスライムをぶちまけることはしていませんから、多分、他所の国には兵糧もありますわ。すくなくとも、この国よりは。
「武器、は……証明、ってのが難しいのよね。どーしたもんかしら」
そして何より、武器も兵糧もですけれど、『無い事を証明する』のが難しすぎるのですわ!他所の国の事情を事細かに証明することなんてできまして!?
「となると、ヴァイオリアじゃない?ヴァイオリアがもっと別の国と談合してるとか、そういう情報流せば?」
「それはアリですわねえ……。あっ。そういえば私、ウィンドリィ王国は結構ボロボロにしてきましたわ!あの国、戦争の支援なんてできる状況じゃありませんわよね!?」
「隠しているかもしれない、と言われてしまえばそれまでだが……」
……そうなんですのよねえ。どうしたものかしら……。
逆に考えましょう。もし、『私が』持っている武器や兵士の量を証明することになったら……その時は、外に全部、出すかしら。
武器の取引をした証文でしょう?それから、実際に雇っている兵士が居れば、そいつらも外に並べておいて……。
……実際にそういう状況って、起こり得ませんわねえ。何ですの、兵士が見える状態って。
兵士が外に出ている状態って……。
あっ。
「閃きましたわッ!」
私、閃きましたわ!
『戦争が起こりえない証明』!『兵士や武器の量の証明』!
これらが起こる状況は、ただ1つ!
「実際に戦争が起きれば兵士の量も武器の量も分かりますわね!」
つまり!私がやるべき事は!
アサンブラ王国に戦争を!起こすこと!ですわーッ!
「流石に国が襲われたら、兵も武器も出しますわよね。そこでアサンブラ王国が劣勢になったら、『ああ、この国の戦力はこんなものか』って判断が付きますわよねえ?」
ああ、我ながら良い案ですわ!
戦争が起きて、アサンブラ王国が大した兵力を持っていないことが証明されれば、アサンブラ王国の方から戦争吹っ掛けてくるつもりだなんて嘘だとバレますわね。
何なら、そこでアサンブラ王国からオーケスタ王国へ救援要請でも出てくればより良いですし、ウィンドリィ王国が一切援助しなかったらいよいよピンハネ嬢の嘘がバレますわ!
「……そうだな。だが、戦争が起きない証明の為に戦争を起こす、というのは本末転倒じゃないのか」
まあ、唯一の問題はそこですわね。
戦争を起こさないために戦争を起こす。
これでは一見矛盾しているように思えますけれど……簡単なことでしてよ!
「あら?何もアサンブラ王国とオーケスタ王国とで戦争にならなくってもいいのですわ!他所の国だって……何なら、ウィンドリィ王国で秋ごろそうだったように、『魔物が』国を襲ってもいいんじゃありませんの?」
さて。
やることはもう、決まりましたわ。
そうね、精々、武道大会の前までにアサンブラ王国が襲われて兵力を出しきって見せてくれればいいのですから、たっぷり2ヶ月は準備していても余裕がありましてよ。
ですから……ここは贅沢に、いきますわ!
「魔物が必要ですわ。それも、とびっきり強い奴。機動力にも破壊力にも優れた……ドラゴンを大量に率いて、アサンブラ王国を落としますわよ」
私、またドラゴン狩りに行きますわ。
それも、生け捕りという形で。
より、効率よく。
……1つ、良い案がありますのよ。