ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。
私は今、ドラゴンをおめかしさせていますの。
「角も爪も牙も徹底的に磨き上げて、余計な鱗は落として尻尾のラインを美しく整えて、鱗1枚1枚の形まで整えて、雌ドラゴンには角や尻尾に花を飾って……完璧ですわ!」
私の目の前には、飼いドラゴン達。それぞれが私の手によって完璧に整えられた、最高に美しいドラゴンですのよ!
鱗の1枚1枚まで磨いて整えたドラゴン達は、そんじょそこらの野良ゴンには無い気品と美しさがありますわね!
「へー。綺麗になったじゃん」
「当然ですわ!私が磨き上げたドラゴン達ですもの!」
何と言ってもこのドラゴン達、1年も経っていないのにすっかり大きくなってしまって、もう人間よりでっかい図体してやがりますのよ。ですから磨き上げるのも一苦労でしたわ。でも苦労した分以上に美しくなりましたもの。対価はそれで十分でしてよ。
「……で、こいつら働かせんの?」
「ええ。あなたが、ね」
……ええ。
このドラゴン達をここまで美しく磨き上げたのには理由がありますの。
現在、3月。思えばフォルテシア家の屋敷が燃やされてからもうすぐ1年経つわけですけれど……まあ、春ですのよ。今、春ですの。
そして、春といえば、ドラゴンの繁殖期ですわね。丁度ここらへんでドラゴンは番になって、初夏にかけて卵を産んで……といった具合ですの。ですから、今、野良ゴン達は嫁婿探しをしているのですわ。
……けれど、ドラゴンって野良でも気位が高いんですの。自分の理想に合わない異性が何十匹居ようとも、番になることはありませんわ。
それでもドラゴンって寿命が長い生き物ですから、1年2年や何なら5年6年嫁婿探しを続けても、全く問題はないのですわね。
……ええ。そうですの。ドラゴンは、5年やそこら、繁殖が遅れても全く問題ない生き物で、気位も理想も高くて、ついでにそこそこ知能も高いんですのよ。
つまり。
ここで丁度よく美しいドラゴンが居たら、多少ちびっこだろうが何だろうが……捕まえて囲っておいて育てて、自分好みの嫁婿にしようと考える野良ゴンは、とっても多いのですわ!何とも人間臭い考え方ですわね!
さて。
私の目的は、アサンブラ王国に放出する為の大量のドラゴンの確保。
そのためにこの繁殖期を狙って、飼いドラゴンで野良ゴン達を釣る作戦に出ますわ!
「では最終確認よ!チェスタ、ドラゴン達はいう事を聞きますわね?」
「まあ、大人しくしとけ、くらいは聞くぜ。多分」
ならよくってよ!
「ドラン!あなた、ドラゴンに乗れるようになりましたの!?」
「なった」
ならよくってよ!
「キーブ!お兄様!空間鞄の改造は済んだかしら?」
「済んでる。上に一定以上の大きさのものが乗った時、中に勝手に入るようにするんでしょ?あと小さい奴も作っといた」
「私が手伝ってやったのだ!この程度の違法改造、できない訳があるまい!」
素晴らしいですわね!
「そしてジョヴァンは留守番ですわ!」
「はいはい行ってらっしゃーい」
これで準備は万端!あとは飼いドラゴン達を連れて、ドラゴン狩りに行くだけですわ!
……今回考えているのは、ごく単純なつくりの罠ですわ。
飼いドラゴン達の周囲に円状に空間鞄を設置しておいて、周囲に野良ゴンが降り立ったら、その野良ゴンを収納してしまう、というようになっておりますの。
万一、着陸しないまま空からやってくる無礼な野良ゴンが居た場合、私が射落として私の食糧にしますわ!単純ながら完璧な作戦ですわね!
「それでは参りますわよ!ドラゴンのお見合いパーティの始まりですわッ!」
勿論、お見合いにやってきた野良ゴン達は全員生け捕りか焼き肉かのどちらかですわ!美しい薔薇には棘があるように、美しいドラゴンには罠があるのですわ!
移動はドラゴンに乗って行いますわ。
今回、現場に出向くのは私とドランとチェスタの3名。要は、適当に戦える人材、かつドラゴンに乗れる人材、というわけですわね。
キーブはドラゴンに乗れませんし、ジョヴァンは戦闘に不向きですから留守番ですわ。
お兄様も戦えますし、ドラゴンにも乗れるのですけれど……今回は他にやることがあるのでお留守番していただいておりますの。具体的にはウィンドリィ王国にアサンブラ王国の悪評を流して、国民感情を悪化させに行っておいでですのよ。これでウィンドリィ王国がアサンブラ王国を支援しない、という証明ができれば万々歳でしてよ!
「この子も随分素直に飛ぶようになりましたわね」
「そうだな。俺もようやく乗れるようになった。ここまで長かったな」
以前は私が乗った時、このドラゴン達はすっかり委縮してしまって可哀相なビビりっぷりだったのですけれど、今は素直に飛びさえすれば私が怖い事なんて何も無い、と気付けたようで、悠々と大空を飛んでくれていますわ。
ドランについても、ドラゴンがビビっていましたけれど、こちらは友好的に接することで随分打ち解けていますわね。チェスタは言わずもがなですわ。何故か前々から随分ドラゴンに懐かれていますわ。なんでですの?
「……あ。遠くに見える影。あれ、ドラゴンじゃねえの?」
「あら。野良ゴンですわねえ。幸先がよくってよ」
春先、王都から離れてド田舎の険しい山間に来ると、空にドラゴンやワイバーンが飛んでますわね。春を過ぎて初夏になると、今度はドラゴン達がこぞって巣ごもりを始めて、残っているのはカップル成立とならずあぶれた悲しいドラゴン達だけになってしまいますけれど……今がドラゴン狩りの旬ですわね!
「……幸先が良い、か。やはりお前は恐れしらずだな」
ただ……まあ。
この時期のドラゴンって、血眼になって番を探していますから……多少、凶暴性が増しておりましてよ。
具体的には、この時期、冒険者がドラゴン狩りをすることはほぼ無い、という程度には、ドラゴン達、凶暴ですわ……。
遠くの空に見えていたドラゴンですけれど、ふと気づいたら、その影が大きくなってきていますわね……。
「……前方のドラゴン、こっちに向かってるんじゃねえの、あれ」
「ああ……接近してきている。どうする」
「捕まえますわよ。こんなところで一々殺していたらドラゴンが勿体なくってよ」
どうやら、早速釣れたようですわ。まあ、これだけ美しいドラゴンが3匹も居るのですから、野良ゴンにとっては絶好のチャンス、というわけでしょうね。
そして勿論、私にとってもドラゴン狩りのチャンスですわ。
私は弓に矢をつがえて、じっと前方のドラゴンを狙いますわ。
ドラゴンは真っ直ぐ、こちらへ向かってきていますわね。恐らく、接近した瞬間、瞬時に好みの異性ドラゴンを判別して、翼か尾で叩き落としに来ますわ。そして叩き落とした先で番になろうとしてくるのでしょう。ドラゴンの求愛は滅茶苦茶なんですのよねえ。全く以て紳士的じゃあありませんわ!
「来るぞ」
「ええ。問題なくってよ」
でも、その愚直なまでにまっすぐ突っ込んでくる姿勢、悪くなくってよ。何といっても、狙いやすくて仕方ありませんわ!
私は弓を引き絞って……そして、野良ゴンが接近してきてこちらのドラゴンに攻撃する、そのギリギリの瞬間に矢を放ちましたわ。
ちなみに、この矢は特別製ですの。
なんと、矢の先に最小サイズの空間鞄が括りつけてありますのよ。
「うまくいきましたわ!」
ドラゴンを操って地面に降り立った私は、地面に落ちた矢から空間鞄を回収して、その中にドラゴンがしっかり収まっていることも確認しましたわ!
記念すべき1匹目!こんなに早く捕まえられるとは、幸先がよくってよ!
「……なあ、罠とか設置するんなら急いだ方が良いぜ。結構来てる」
「あら。あっちに居るのはワイバーンかしら?ドラゴン程じゃありませんけれど、あいつらも捕まえられたらアサンブラ王国の空が賑やかになりますわねえ」
「ヴァイオリア。急いだ方がいい。四方八方がドラゴンの縄張りだ。もう気づかれている」
あらあら。見渡せば遠くの空にドラゴンらしいものの影がちらほら、見えていますわねえ。
なら、ここらで罠の設置にかかりましょうか。そして大量の野良ゴンを捕まえて、さっさと次のドラゴン生息地に行きますわよ!
私達の飼いドラゴンは、やはり大人気でしたわね。ピンハネ嬢の時が一本釣りだったとすると、今回のは地引網漁かしら……?
人間の手で濃やかに整えられた容姿は、野良ゴン達と比べれば天と地ほどの差。そんなドラゴン達がちょっと空を飛んでいたら、たちまちの内に数匹の野良ゴンがつられてやってきますの。それを適当に誘導して着陸させれば、もう空間鞄の中にすっぽり、ですもの。楽でいいですわね!
「繁殖期のドラゴンってやっぱり凶暴だよなあ……ってて、結構深くいっちまった」
「大丈夫か」
……まあ、その一方で、多少の怪我はありますわね。今もチェスタがドラゴンのブレスに掠ってしまって、右足が火傷になっていますのよ。まあ、多少は仕方ありませんわね。危険と効率を天秤にかけて、一番いいところがここなのですもの。
「遠巻きにはそんなに俺達に気付いてないっぽいんだけどな。近づいたら上に人間が乗ってるってバレるよなあ、そりゃ……」
「ドラゴンは人間に手厳しいですものね」
当然ですけれど、ドラゴンは人間を見ると、すぐさま襲い掛かってくることが普通ですわ。襲い掛かってこないドラゴンは卵から孵した奴だけですわね。まあ、人間はしょっちゅうドラゴンを狩りますし、生け捕りにしますし、卵を盗りますから、ドラゴンにとっての天敵なのでしょうね。
「まあ、もうしばらくの辛抱ですわよ。もう少しで目標数に到達しますわ」
「つまり、50匹かよ……うっわ……」
ええ。50匹ですわ。道中でヒマつぶしに捕まえたワイバーンやシコタマドンドコショウィングなんかも入れればもっと数は多くなりますけれど。
……50匹のドラゴンが空を飛ぶ空は、さぞかし壮観でしょうね。うっとりしてしまいますわぁ……。
「……おい。大群がお出ましだぞ」
うっとりしていたら、いつの間にか東の空に中々の大きさの影が来ていましてよ。あれは……ドラゴンの群れ、ですわね!
「あら。あの大きさですと、この辺りのボスかしら?ということは、周りのドラゴンは雌ですの?」
「ああ。ハーレムを作ってきた帰りのように見えるな」
ドラゴンって一夫多妻を平気でやる生き物ですから、ハーレムで1つ群れができていることも珍しくありませんわね。
けれど、あの数のドラゴン、となると……そのハーレムの中心に居るドラゴンは……。
「よっぽど魅力的な雄ドラゴン、ということですわね……?」
あれを捕まえてアサンブラ王国の空を飛ばせたら、きっといい絵になりますわね!
「あれを捕まえますわよ!」
「マジかよ。俺、逃げたいんだけど、駄目?」
「駄目ですわ!っていうか、今更逃げても間に合いませんわよ!」
……あれは恐らく、100歳を超えたドラゴンですわね。感じる魔力が桁違いでしてよ。
私達の上空に現れた巨大なドラゴンは私達を睥睨しながら……ブレスの準備をするために、大きく、息を吸い込み始めましたの。
「やっぱり空間鞄ですわぁ」
「……矢に空間鞄を括りつける案は正解だったな」
まあ、100歳を超えたドラゴンでも、ブレスを吐く前に鞄に入れてしまえばそれまででしてよ!
「さあさあさあ!残った雌ドラゴンも全部捕まえますわ!生け捕りにできないなら今夜の焼き肉にしますわよッ!」
「うっわあ……おい、ドラン。頼むよ。ヴァイオリアが全部仕留めたら俺達食えないじゃん」
「仕方ないな……」
アサンブラ王国へ嗾ける兵士と今日のディナーをたんまり手に入れるまでは私、帰りませんわよーッ!