没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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25話「脱獄ですって!?」

 ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!

 私は今、アサンブラ王国へやってきておりますの。

 そして今から、ドラゴンを放しますわ。

 

「繁殖期の狂暴なドラゴン、そして目の前には人間が沢山いる王国。最高ですわね」

 私はさっさと空間鞄を開けて、中身を取り出しますわ。

 鞄の蓋を開けて、鞄を逆さにして振れば……たちまちの内にドラゴンが出てきて、そして、目の前に広がる王国に驚きつつも、そちらに向かって一直線。

 これは成果が期待できますわぁ……。

 さて。

 ドラゴンをありったけ……ざっと60匹ほど放してしまえばもうそれ以上の用事はありませんから、私は私でドラゴンに乗って帰りますわ!

 帰ったらドラゴン肉でお夜食にしますわよ!

 

 

 

 夜闇に紛れてエルゼマリンへ帰った私は、優雅にドラゴン肉と上等なワインでお夜食を進め、ドラゴン肉の香りにつられてやってきたチェスタを酔い潰し、チェスタを回収に来たドランをワインに付き合わせて、朝を迎えることになりましたわ。

「いい朝ですこと」

「夜と朝の間にドラゴン肉をあれほど大量に食う奴がいるとはな……」

 だって美味しいんですもの。それに、今日は働きづめでお腹が減っていたのですもの。

 私が外に出て動く時は、夜が基本ですわ。夜ならばドラゴンで上空を飛んでいても見つかりにくいですし、見つかったとしてもその上に乗っている私まではまず見つかりませんわ。

 でも、夜中ってやっぱりお腹が空きますのよねえ……。ですから偶にはこんな贅沢な夜食の日があってもいいと思いますのよ。

「さて、お昼頃まで私は寝ますわ。その後、エルゼマリンのギルドから情報が入っていないか確認すればいいでしょうし」

「分かった。俺はこいつを連れて帰る。……元々そのつもりで来たんだが、随分長居したな」

「あら。私は退屈が潰せて丁度良かったですわよ」

 没落してからというものの、すっかり夜型の生活になってしまっていますわねえ。不規則な生活は美容の敵ですから、気を付けなくてはなりませんわね。

 

 ……さて。ドランがチェスタを担いでアジトへ帰っていったのを見届けて、私は自分の部屋で眠ることにしますわ。

 よく働いて、美味しいものをたっぷり頂いて、それからふわふわのベッドでぐっすり眠る。うーん、最高の贅沢ですわね!

 

 

 

 贅沢の途中で起こされましたわ。酷いですわ。

「なんですのぉ……?レディの寝室にずかずかと入り込んでくるもんじゃなくってよぉ……」

「すまない。緊急事態だ。王家が緊急に戦力を集め始めたらしい」

 あら。案外早かったですわねえ。

 現在時刻はお昼。考えるに……アサンブラ王国がドラゴンに襲われた、という情報が入ってすぐ、王家は戦力を集め始めた、ということになりますわね。

 恐らく、アサンブラ王家からの正式な救援要請などはまだですわ。それでもキャロルが呼ばれた、ということは……。

 ……なんだか嫌な予感がしますわねえ……。

 

 

 

「……ということで、今が好機なのだ。アサンブラへ攻め入る」

「愚かなことはおやめください」

 

 案の定でしたわ。キャロルを連れて王城へ押しかけていってキャロルに国王を問い詰めさせたら、案の定でしたわ!

 この国王、アサンブラ王国に普通に戦争吹っ掛けるつもりだったみたいですわ!

 ドラゴンに攻められて弱った今がチャンス!とでも思ったのでしょうけれど、本当に悉く馬鹿なことを考えてくれますわねッ!

「だがこれは攻め時だ。今を逃せば、アサンブラ王国が我がオーケスタへ攻め入ってくるのを待つようなものではないか。戦争を仕掛けてくると分かっている相手を放置しておく理由は無い!」

「国王陛下。お言葉ですが、ドラゴンに襲われてアサンブラ王国が簡単に弱るようなら、そもそもの想定が間違っていた可能性を考慮しなければならないと思います」

 仕方がありませんから、キャロルが解説してあげましてよ!

「そもそもの想定?それは……」

「アサンブラ王国が戦争を仕掛けようとしていた、ということが、間違いだったのかもしれません」

 

「ドラゴンに襲われても、軍備を増強しているところであったならば退けることも可能でしょう。逆に、もしドラゴンがアサンブラ王国をいとも容易く侵攻しているのなら、そもそもアサンブラ王国には軍備が無かった、ということの証明になるのではありませんか?」

「……つまり、アマヴィレ・レントが嘘を吐いていた、と?」

「ええ。その可能性はあります!」

 キャロルがそう言った途端、国王はしょっぱい顔をしましてよ。まあ、戦争吹っ掛けたくて吹っ掛けたくてたまらない国王からしてみれば、口実が無くなることはとてつもない痛手でしょうけれどね。おほほほほほほ!

「そうは言ってもだな……まさか、そんなことが起こり得るとは思いにくい。今回のドラゴン騒ぎも罠かもしれぬ」

「罠なはずがありません。ドラゴンの目撃情報は周辺国からも上がっていますし、ドラゴンを人為的にあれほど大量に集める、ということもまず不可能です!」

「し、しかし……」

 国王は空間鞄が違法改造によって生物を取り込めるようになっていることなんて知りませんから、これに反論できるはずがありませんわね。完璧ですわ!

 

 国王が迷いに迷っているところに、キャロルが追い打ちをかけますわよ。

「……戦争なんて、するべきではありません。もし、元々相手が戦争を仕掛けてくるつもりだったとしても、この状況ではもう難しいでしょう。ならば、最初からなかったことにして、平和に暮らすべきです。むしろ、救援を送って和平を結ぶべきなのでは?」

「し、しかし、食料も武器も、これほど集めてあるのだ。国民にはどう……」

「国民は戦争が起こるかもしれなかったことなんて知りません。武器は魔物退治のため、食料は難民や自国の貧民を救うためにお使いください。それで国は丸く収まるのではありませんか?」

「しかし……しかし……」

 国王は諦めが悪いですわねえ。目の前に一撃入れれば勝てる相手が居るのですから、迷う気持ちは分かりますけれど……まあ、キャロルに見つかったのが運の尽き、でしたわね!

「それとも、まさか、国王陛下は戦争をなさりたいのですか……?」

 キャロルの目がいよいよ疑いに変わってきた時、国王はもう言い訳の余地は無く……ただ、『戦争なんてしない』と約束するしかなかったのですわ!

 

 

 

 さて。

 アサンブラ王国の方は、それから割と丸く収まりましたの。

 何故かって、ギルド依頼にドラゴン狩りが大量に流れてきたからですわ。

 アサンブラ王国の方へ行けばドラゴンが大量に居る、しかも、人間の国を襲ってちょっとは大人しくなったドラゴン達が、今やアサンブラ王国を舞台にして大規模なお見合いパーティをしている、という状況ですから、一攫千金を狙う冒険者達には格好の獲物だったという訳ですの。

 各国から冒険者達が入り込んで、アサンブラ王国のドラゴンはたちまちの内に狩られ、或いは逃げ出してどこかへ消えていきましたわ。あ、ちなみに私も数匹狩りましたわ。美味しかったですわ。

 

 そして、アサンブラ王国が丸く収まった一方、国王は。

 大聖堂と民衆の代理人であるキャロルの目がある以上、戦争なんて始められず。

 戦争で得られるはずだった利益は得られず。

 後に残ったのは無理をして集めた武器と食料、そして民衆の不満だけ。

 こうなっては……国王の不満をぶつける先が、必要になるのですわ。

 そう。国王を騙して、無駄に戦争の準備をさせた大罪人へ、不満をぶつけるしかありませんわね。

 

 

 

 ということで、翌々日にはエルゼマリンのギルドに、『アマヴィレ・レント公開処刑のお知らせ』が届きましたのよ。おほほほほほ。

 

 

 

 ピンハネ嬢の公開処刑については、エルゼマリンでも王都でも、『まあそうだよね』というような感覚で受け入れられましたわ。エルゼマリンではギルドの受付嬢時代に嫌な目に遭わされた者が多いからそうなりますし、王都では聖女投票の時の惨状を見ていた者が多いからそうなりますわ。

 そして久しぶりの公開処刑ですもの。多少、町が浮足立つのは仕方のない事ですわね。

 ピンハネ嬢の罪状は、もうすっかり町中に広まっていましてよ。

『神聖なる聖女投票を穢そうとした』『虚偽の告発で国を陥れようとした』『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアと手を組んでいた疑い』。こんなところかしら?ギルドでのピンハネが罪状に上がっていないのは癪ですけれど、上がっている3つの内2つは冤罪ですからまあ許してやってもよくってよ。

 尤も、『虚偽の告発で国を陥れようとした』事についてはもうどうにも言い訳できないのでやっぱり死ぬしかないでしょうけれど。おほほほほ。

 

 

 

 そうして迎えた公開処刑の前日の夜。

 折角ですから、キャロルと一緒に王城まで冷やかしに行くことにしましたわ。

 一応、名目上は『減刑嘆願』ですわね。キャロルは減刑の嘆願を出していた側ですもの。ここで動いても違和感は無くってよ。

 ……ということで、王城に来たのですけれど……おかしいですわね、なんだか騒がしいですわ。

 公開処刑の準備で忙しいのかしら?いえ、でも、それにしても少し様子がおかしい気が……。

「あの、どうかされましたか?」

 そこで丁度良くウロウロしていた大臣にキャロルが尋ねると。

「ああ、聖女様!そ、それが……」

 大臣は殊更にオロオロして……そして、こう、言いましたのよ。

「アマヴィレ・レントが脱獄しました!」

 

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