没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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26話「それではごきげんよう!」

 ヴァイオリアですわ!大変ですわ!なんとあのピンハネ嬢が脱獄しましたわ!

 いくら処刑を翌日に控えた身だからといって、まさか、あのピンハネ嬢が脱獄するなんて……本当にびっくりですわ!

 ……私、今まで、自分の脱獄スキルが高いからこそ脱獄できていたのだと思っていましたけれど……もしかして単純に、この国の収監スキルが低いだけですの……?

 

 

 

 それにしても予想外でしたわ。あのピンハネ嬢に脱獄するだけの気力体力があったなんて、本当にびっくりでしてよ!

 まあ、私の時のようにガッチガチの牢獄にぶち込まれていたわけでもなく、貴賓牢で軟禁状態だったわけですから、その分段違いに脱獄はしやすかったのでしょうね。それでもびっくりですけれど。

「脱獄?一体どうして……」

「お、恐らくは窓から。窓から逃げたのです。まさか、あの鉄格子を潜り抜けていくとは……」

 私、生憎とこの城の貴賓牢に入ったことはありませんから構造は分かりませんけれど、本来、貴賓牢というものは、窓からの脱獄なんていうはしたない真似はしない高貴な身分の者を入れておく場所ですから……窓からの脱獄には甘い造りになっていたのかもしれませんわね。

 ……いえ、でも……どう考えても無理ですわ!

 

 貴賓牢は確か5階。そこの窓から逃げるなら、ロープか何かを伝って壁を降りなければなりませんわね。

 ロープ自体は寝具なり服なりを使ってなんとか工面できたにしても、5階分の高さをロープ伝いに下りる、なんて真似、ピンハネ嬢にできるはずがありませんわ!ロープ伝いに壁を降りるって、結構筋肉使いますのよ!?

 ということは……。

 ……私はキャロルに目くばせすると、キャロルは頷いて、代わりに言ってくれましたわ。

「……そろそろ本当のことを仰っていただけますか?本当の事を仰っていただければ、聖騎士も私もアマヴィレさんを探すお手伝いができるかもしれません」

 

 

 

 それから大臣を問い詰めたところ、動転した大臣は色々と話してくれましたわ。

 まず、ピンハネ嬢が逃げたのは案の定、貴賓牢に居るところからではなく、処刑前日の最後の入浴の時、だったそうですの。

 囚人の最期とはいえ、貴賓牢に入れていた囚人ですもの。ずっと大人しくしていて、最期の我儘として入浴を所望したなら許されたのでしょうね。或いは、王の弱味の1つや2つ、どこかで握っていても……あ、戦争の準備をしていた、という事自体が弱味でしたわねえ……。

 まあ、そうして上手いこと浴場に連れていかれて……そこで当然、兵士の目からは離れますわ。兵士の大半は男ですから、女性用の浴場への侵入はできないことになりますもの。

 勿論、女性の見張りが居たのでしょうけれど……どこかでうまく隙をついて逃げた、と。そういうことなのでしょうね。

 ということは……もしかして、今、ピンハネ嬢は全裸で逃走中ですの?それはそれで愉快ですけれど……まあ、あの小物にその度胸は無いでしょうし……。

 

 ……ええ。もう見当がつきましてよ。

 

 

 

 私は王城の兵士達に協力する聖騎士、という建前で、ピンハネ嬢探しを始めましたわ。

「随分と迷いが無いな」

「ええ。見当は付いていますの」

 ドランと一緒に走る先は、王城の裏手の裏通りの方ですわ。

 ……ピンハネ嬢のことですから、全裸で脱走するなんてことはできないはずですわ。

 そしてそもそも、浴場から脱走できたとするならば、浴場にお湯を入れるための浴場の管理室へ繋がる、使用人用出入り口を通ったとしか思えませんわね。

 そこって使用人がお湯を沸かしたりするための部屋なのですけれど、まあ、そこって暖かいわけですから、使用人達が洗濯物を干したりするには丁度いい部屋なのですわ。

 恐らく、ピンハネ嬢はそこで服を一着盗んで、そのまま使用人のふりをして脱走したのですわね。

 となると、ピンハネ嬢が城の外に出るために使ったのは必然的に城の裏門。使用人達が使うための門、ということになりますわ。

 ……もし、私でしたら、門を出た時点で人通りの多い方へ逃げると思いますの。夜でも王都の大通りにならそれなりに人が居ますから、隠れるにはぴったりでしてよ。

 でも、ピンハネ嬢だったらきっと、そうは考えませんわね。

 逃げることと隠れることしか考えていない小心者なら……人の少ない方へ、少ない方へと逃げていくことでしょう。ええ。きっと彼女、下町や路地裏には詳しいですわ。庶民ですものね。

 

 城の兵士達が物々しく行き交う中、私とドランは真っ直ぐ、真っ直ぐ向かいますのよ。

 ……路地裏のどん詰まりの、ゴミ箱の方へ。

 

 

 

「ごきげんよう」

 私がゴミ箱の蓋を開けたら……やっぱり。

 そこにはゴミ箱の中にすっぽり納まって隠れるピンハネ嬢が居ましたわ。

 

 

 

 凍り付いたように動かず、ただじっと私達を見上げるピンハネ嬢を前にして、とりあえず私は兜の前で人差し指を立てましたわ。

「あら、声は上げないでね。王家の兵士に気づかれてしまいますわ」

 この言葉の意味をピンハネ嬢はしばらく理解できなかったみたいですけれど……兵士の足音が聞こえてきたところで私がそっとゴミ箱の蓋を閉めたのを見て、どうやら自分に猶予が生まれたらしい、ということを理解したようですわね。

 もしかしたら『猶予』ではなく『救済』だと勘違いしているかもしれませんけれど、それはまあどうでもよくってよ。

「私、少しあなたとお話ししたいんですの。お時間を頂いてもよろしくて?」

 私はこいつとお話しできればそれで満足なのですから。

 

 

 

 どん詰まり袋小路ですから、そうそう兵士が見に来るとは思えませんけれど、念のため、袋小路の入り口でドランを見張りに立たせておきますわ。

 そして、私はゴミ箱の中のピンハネ嬢とお話ししますの。

 ……さて。

「あなた、どうして脱獄したんですの?処刑が嫌だったのかしら?」

 最初からちょいと飛ばしていきましたら、ピンハネ嬢はぽかんとした後、少し苛立ちのようなものを見せさえしましたわ。

「当然じゃないですかぁ!そ、そもそも、死にたい人なんていないんじゃないんですかぁ?」

「あら、あなたの意思なんて関係なくってよ。ただ、罪人は死ぬべきだとは思いませんこと?それともあなたの考えは違うのかしら?」

 ピンハネ嬢は『何を言ってるんだ』とでもいうような顔をしていますけれど、これ、大事なことでしてよ。

「あなただって過去に、他の誰かが罪を犯して公開処刑に処されるのを見て笑っていたんじゃないのかしら?それとも、他人ならよくて自分だと駄目だという理屈ですの?勿論、それならそれで構いませんけれど」

「そ、それは、悪い人が死ぬのは良い事じゃないですかぁ!私は無実なのにこんな目に遭うなんて、おかしいですよぉ!」

 ……もし、こいつが『他人が死ぬのはいいけれど自分が死ぬのは嫌だ』なんて素敵できちんと自分勝手なことを言うようなら、少し見直しましたわ。

 でも結局こいつ、この程度ですのねえ。

「つまり、あなたは善人だと?ふふふ、おかしなことを言いますのね。あなた、あれだけ悪ぶっておいて、今更無罪もないんじゃありませんこと?」

「な、なんなんですかぁ、さっきから!そんな、私が酷いみたいに言って……!あなた一体誰なんですかぁ!?何の権利があってそういうこと言うんですかぁ!?」

「あら。忘れたとは言わせませんわよ」

 私は兜を脱いで、ピンハネ嬢の前に堂々と立ちましたわ。

「ごきげんよう。『あなたが手を組んでいた』ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ」

 

 

 

「な……なんでここに!?」

 あらあら、随分驚かれましたわね。でもゴミ箱の中で驚かれてもちょっぴり困ってしまいますわね。

「あら。ずっとこの辺りに居ましたけれど。聖女投票の時にお会いしましたわよね?あの時もあなた、とても面白いことをしてらっしゃったけれど」

「ひ、ひどい……どうしてそういうこと言うんですかぁ……投票の時だって、私に酷い事して……なんでそんなことするんですかぁ……」

「まあ、私だって多少は楽しみの為に動きますわ。あとは……丁度いい所に丁度良くあなたが居たから、ですわね。でも、あなただったから利用させて頂いて、ついでに楽しませて頂いたの。あなたじゃなかったらああはしませんでしたわね。まあ、自業自得だと思って頂戴な」

「自業自得ですってぇ!?」

 きちんと質問に答えてやったら、ピンハネ嬢はやっと、ゴミ箱の中で立ち上がりましたわ。でもゴミ箱から出られていませんから、新手のスカートを履いているような格好になっていますわね。

「だ、大体、私がこんな目に遭うのも全部あなたのせいじゃないですかぁ!私は何にも悪い事してないのに!あなたが勝手に悪い事してるだけじゃないですかぁ!なのに私が、私が処刑だなんておかしいですよぉ!」

 

「まあ、それはそうですわね。ええ。あなたの言うことは『正しい』ですわ。あなたの罪状のほとんどは偽のものですものねえ。処刑までいくのは確かにおかしいかもしれませんわね」

 私はにっこり笑ってそう言って……ピンハネ嬢に、提案して差し上げますの。

「ですから、私を密告して王家に売ってくださったことは水に流して差し上げますわ。あれは『正しい』ことでしたものね?そして……ええ。私、あなたを助けて差し上げてもよくってよ」

「え?」

 ピンハネ嬢は唖然として私を見上げますわ。数回、頭の中で私の言葉を反芻して、それから意味を理解したのでしょう。その顔に希望が見えましてよ。

「た、助けてくれるんですかぁ!?」

「ええ。よくってよ。勿論、頂くものは頂きますけれど」

 私がそう言えば、ピンハネ嬢は少し身構えましたけれど、素直に頷きましたわ。素直なのは良い事ですわ。

 でもこの場合、愚かですわね。

「そうですわね。今ここで……そうね、金貨5枚で結構よ。私があなたに『お貸しした』分はそれくらいだったかしら?それで手を打ちますわ」

 

 

 

「……え?」

「あら、覚えてらっしゃりませんの?あなた、私の依頼達成報奨金からピンハネして自分の懐に入れたでしょう?私がランク4の冒険者だという事にすれば、ランク2との差額をピンハネできますものね」

 そう言ってやれば、ピンハネ嬢は思い出したようですわね。自分が私に何をしたか。

「正しさを名乗れるのは清廉潔白な者だけですわ。一度でも自ら悪事に手を染めたなら、もうそいつは悪人ですの。でしたら落ちきって大悪党になって、力で世にのさばるか、中途半端の小物になって隠れ続けるか野垂れ死ぬか。2つに1つ。どちらかですわ」

「そ……そんなの」

「あら、関係ないと仰りたいのかしら?だとしても甘いですわね。私は悪党ですのよ?悪党ってルールを破るから悪党なんですの。私があなたのルールに合わせてやる義理がどこにありまして?私が、私からピンハネした相手を金も無しに助けてやることなんてありえませんわ」

 私が詰め寄ると、ピンハネ嬢は姿勢を崩して、またゴミ箱の中に逆戻りしながらも震えて、必死に声を上げましたわ。

「だ、だって、そんなお金持ってるわけ無いじゃないですかぁ!私、私、牢屋を出てきたばっかりで……」

「そうね。あの時あなたにピンハネされた私も、牢屋を出たばっかりでしたわ」

 条件が同じ、とは言いませんわ。多分、ピンハネ嬢の方が脱獄の時の条件は良かったはずですもの。

 ……ええ。あとは本人の能力次第。そして、自分の能力を見誤らず、身の程を知った行動ができたか、というだけの違いでしたわね。

「払えないなら、ここまででしてよ。それではごきげんよう」

「ま、待って!待ってよぉ!」

 ピンハネ嬢が喚くのを聞きながら、私は袋小路を後にしましたわ。

 

 

 

 その後、さっさと鎧を脱いで逃げた私は、喚き声の上がる袋小路へ兵士達が駆けつけていくのをそっと見守り……その後、錯乱して喚き続けるピンハネ嬢が連行されていくのも見届けましたわ。

 これで明日の公開処刑は無事、終わりそうですわね!

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