ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
私は今、ピンハネ嬢が処刑台に上がったのを見ておりますの。
ピンハネ嬢の罪状が読み上げられていく中、民衆の期待はどんどん高まっていますわね。
やっぱり公開処刑は盛り上がりますわね。王都にはピンハネ嬢を知る人が多いようで、盛り上がりはまた格別なものとなっていますわ。そりゃあまあ、大したこともしていないのに特別待遇されていたせいで方々から恨み妬みは買っていたでしょうし、納得の結末ですわね。
自分が直接知っている、自分よりちょっと上の立場にいる、自分が嫌いな相手が公開処刑されるなんて、民衆にとっては楽しい娯楽でしかありませんものね。ええ。人間、自分よりずっと高みに居る人間が死んでも大した感動はありませんけれど、自分よりちょっとだけ幸運でちょっといい思いをしていた奴が引きずり降ろされる、というのは大好きなものですわ。
「私は無実ですぅ!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアとは関係ないんですぅ!本当に無実の人を殺しちゃ駄目ですよねぇ!?殺さないでくださぁい!」
……ピンハネ嬢は処刑台の上で何か喚いていますけれど……まあ、大したことは言っていませんわ。最早、耳を貸す者は居ませんわね。私の時とは大違いでしてよ。
一応、ピンハネ嬢が何を言おうが困らないように、色々と対策はしておりましたのよ。
まず、聖騎士について。
昨日の私は『そこら辺の聖騎士を伸して鎧兜を奪った』という設定ですので、聖騎士の中に私が居るということはありませんわ。今日も別の恰好でここに来ていますし、キャロルについている聖騎士の甲冑の中身はキャロルの同窓生……まあ、教え子達ですわね。ちなみにドランのガタイは鎧の外から見ても絶対に私じゃありませんのでそのまま続投でしてよ。
次に、キャロルが知っていた情報について。
こちらは元々、ピンハネ嬢に『こんなことを聖女が知っていた』と告発されても困らないようにはしてありましたのよ。だってキャロルが知っていたのはあくまでも『噂』だったのですもの。
エルゼマリンの船乗りの中には、他国と貿易している商船に乗っている者も居ますわ。ですから、エルゼマリンの大聖堂に居れば、他国の情報も入ってきますのよ。色々と疑わしい情報をキャロルが知っていてもおかしくはありませんわね。特に、私が一時期ウィンドリィに居たことは真実なのですし。
あとは武器商人か何かが『最近、アサンブラ近辺で大きめの取引があったらしい』とでもいうような噂を流せば、そこから戦争を想起することは十分可能ですし。
大体、キャロルとピンハネ嬢の会話を証言する者は居ませんから、あとはキャロルとピンハネ嬢の信用勝負、ということになりますけれど……当然、キャロルが勝ちますわね。
というか、キャロルを勝たせないといけないのですわ。国王は。
キャロルが何を考えていようが、国王がこの国を保つ方法は、大聖堂と協力関係になって民衆の機嫌を損ねないようにすることですもの。ええ。最早国王はキャロルを疑おうとも、罰することなんてできない、という訳ですのよ。
……ということで、唯一キャロルを裁ける立場であろう国王は、キャロルを疑うことは絶対にしませんわ。というかできませんわ!
ましてや、キャロルを殺すことなんて絶対にできませんのよ。民衆に対して信用勝負を仕掛けたら、国王とキャロルだとキャロルが勝ちますもの。おほほほほ。
国王も思うところが無い訳じゃないとは思いますわ。でも、それよりも大聖堂へのすり寄りを優先するでしょうねえ……。ピンハネ嬢の命1つと大聖堂の信頼、天秤にかけたらどちらが重いかは明白ですもの。
そして民衆は、今更ピンハネ嬢が何を喚こうが、知ったこっちゃないとばかりに聞き流していますわね。だって彼女、罪状に『虚偽の情報を流して国を混乱させた』罪も数えられているのですもの。嘘つきは信用されなくて当然ですわ。おほほほほ。
処刑台の横に設えられた国王席では、国王が仰々しく頷いて、兵士に何か指示を出すところのようですわ。恐らく、処刑開始の合図でしょう。
「無実ですぅ!私は無実なんですぅ!ヴァイオリアもフォルテシアも知りませんよぉ!仲間なんかじゃないんですよぉ!どうして信じてくれないんですかぁ!」
民衆がピンハネ嬢や国王に注目する中、ピンハネ嬢の横には遂に処刑人が立ちますわ。
そして、斬首用の剣が振り上げられて……。
「私は悪くないですよぉー!」
剣が振り下ろされた時には、ピンハネ嬢はもうこの世に居ませんでしたわね。
あっけないお別れでしたけれど、まあ、こんなもんですわね。別に今更のことですし、特に嬉しいとも思いませんけれど……まあ、ちょっぴりすっきりしましてよ。偶には燃やさないのも悪くないですわねえ。
処刑の直後、聖女からのスピーチがありましたわ。
……最初にピンハネ嬢のお弔いに始まって、次に、アサンブラ王国で起きたドラゴン襲来事件について。
この国でもスライムが大量発生しているわけですから、もしかしたらドラゴンが大量発生することもあるかもしれない、と不安を煽ることは簡単ですわね。
しめやかに不安を煽ったら、続いて大聖堂からの支援をいくつか発表しますの。
貧民への炊き出し支援。就職口が無い者への職の斡旋。開拓地をまた新たに作る計画。そして、元々作っていた開拓地には、エルゼマリンから冒険者を招いて、ある程度の戦力を常に町に確保しておくという案。
……これらは民衆に大いに受け入れられましたわね。
貧民には当然嬉しいですし、中流階級の者には都市と都市の間に町が増えることは喜ばしいですし、冒険者は雇われる先が増えてやっぱり喜ばしいですわ。
唯一、無関係にも思える貴族共には、キャロルが当選してから今までに健気にも貢いできた寄付のご褒美としてキャロルがこの場で直々に名前を読み上げて御礼申し上げれば十分ですわね。
……そう。これからの大聖堂は、祈るだけではない、真の救いを齎す大聖堂。
キャロルによって齎された変化は、民衆に大いに受け入れられていますわね。これで大聖堂の地位も盤石ですわ!
ええ、今、大聖堂は間違いなく王城よりも強く輝いていますわ!キャロルがこの国のナンバーワンでしてよ!
……そしてキャロルのスピーチの間中、ずっと国王が渋い顔で大臣と話しているのが見えていましたの。
民衆はキャロルにばかり目が行って気づかなかったかもしれませんけれど……私はしっかり確認しましてよ!
何かあったのかしら?国王が渋い顔をするような状況はまあいつものことですけれど、今、ここで、というのは……。
キャロルのスピーチが終わって、民衆が歓声を上げる中、ようやく国王が立ち上がりましたわ。
何事か、とようやくざわつく民衆を前に、国王は壇上に上がって……そして、発表しましたのよ。
「愛すべき我がオーケスタ王国の国民諸君はもう知ってのことと思うが」
前置きをしてから……国王の横で兵士が、用意していた張り紙を大きく広げて、見せましたわ。
「5月に武道大会を行うこととした。参加資格は問わない。腕に覚えのある者は自由に参加するがよい。優勝した者には、望みを1つ叶える権利を与えよう」
あー……。
そういえば、ありましたわねえ、こういうの……。
すっかり忘れていましたけれど、そういえばそうでしたわ。国王はアサンブラ王国との戦争準備のため、兵力を集めるために武道大会を開催することにしていたんですわ……。
勿論、アサンブラ王国との戦争なんて一切無しになった今となっては、武道大会の意味もありませんわね。それでも一度発表してしまったものを引っ込めるわけにもいきませんから、国王は渋々、武道大会の発表をせざるを得なかった、というわけですわね!ええ!
戦争を起こそうとしていたなんて、国民に知れたら大変ですものねえ。武道大会の開催を今更渋ったらおかしいですものねえ。だからこうして渋々発表しなければならなかった国王の気持ちを考えるととても幸せな気持ちになりますわねえ!あの国王のしょっぱい顔を肴にワイン1本いけますわー!
国王が内心でしょんぼりしているだろうに、そんなことを知らない民衆は早速、お祭り騒ぎの予感にまた騒ぎ始めましたわ。
こいつら娯楽なら公開処刑でも武道大会でもなんでもいいんですのね……。
でもまあ、よくってよ。王家には精々、無駄な武道大会のために準備を頑張って頂きましょう。強者が集まってきたなら、それなりに楽しい催し物にはなるのでしょうし。
それに……。
久々の武道大会、というのは、私も楽しみですのよ。
ええ。思う存分、利用させて頂きますわよ。
その日の夜、エルゼマリンのアジトでささやかながら勝利の祝杯を上げて、ついでにチェスタを酔い潰して、キーブが丸くなって寝てしまったのを撫で回しながらお兄様とジョヴァンと談笑していたのですけれど……。
「戻ったぞ」
そこにドランが戻ってきましたわ。
「あら、お帰りなさいまし。どうでしたの?」
「大した話はしていなかったな。アマヴィレ・レントについては告発よりも保身の発言の方が多く、また、昨夜発見されてからずっと、正気かどうか疑わしい有様だったらしい。少なくともこちらに疑いは向いていない」
ドランは聖騎士としてキャロルに付いていましたから、国王とキャロルの会話も聞いてきているのですわ。こういう時、2人で動いていると対処が楽でいいですわね。
「国王はアマヴィレ・レントのことよりも、武道大会のことで頭がいっぱいらしいな」
「そうでしょうねえ。随分大規模にやるみたいですし……」
国王としてはさぞかし複雑なことでしょうね。国民の機嫌はとれそうですけれど、国民の期待が高まっているだけに開催中止にすることもできず、資金を投じ続けるしかなくなってしまって……ええ、考えると本当に幸せな気持ちになれましてよ!
「ま、国民にそういう内情を気取られないように精々盛大にやるしかないんじゃあないの。平民にゃいい娯楽でしかないわけだし」
「そうだろうな。そうして怒りを忘れ、適当な娯楽を与えられ、国民は飼い慣らされてゆくのだ。このままいけば武道大会が終わるころには再び国民は王家に素直に従うようになると、私は予想するぞ」
お兄様の危惧はその通りだと思いますわ。怒りって長続きしませんのよね。王家への不満があっても、時が過ぎれば忘れてしまうのが国民の悲しい性、といったところかしら。
まあしょうがないことですわね、と思う反面、国民の怒りが収まっていってしまうのはあまり面白くなくってよ。
「俺はこの国を転覆させたいんだが……武道大会を中止に追い込むべきか?」
特にドランはこの国の王家への復讐が目的なわけですから、ちょっと発想が短絡的で過激な方向に進んでいますわねえ。
……そうですわね、確かに、戦争と同じように、武道大会も中止に追い込んでしまえば……王家は準備が全部無駄になって愉快なことになるでしょうし、民衆は娯楽を取り上げられてまた駄々を捏ね始めますわね。ええ。それはそれでよくってよ。
……でも、私、思うんですの。
「ドラン、そう焦るもんじゃなくってよ。折角の武道大会、利用しない手は無いんじゃなくって?」
「……利用?」
「ええ。国民が集まるのですから、彼らを扇動するにもいい舞台ですし、兵力もある程度手に入ったら頼もしいですわね?会場にはあちこちから腕に覚えのある者達が集まるのでしょう?」
国王が狙っていたことを私達が掻っ攫っていく、というのは実に魅力的な話ですわ。用意は敵に全部やらせて、成果はこちらが全部頂く。こんなに素敵なことってそうそうありませんわよ。
「そうか……お前のことだから、武道大会の会場に放火する、と言い出すかと思っていたが」
「私のこと、放火魔だと思ってますの……?」
流石になんでもかんでもは燃やしませんわよ……?いえ、確かに、燃やしたくなったものがあったら燃やしますけれど……。
「……そろそろ、本格的に王家を潰す機会が得られると思っている。王家は今、大聖堂の信用を借りてなんとか立っている状態だ。民衆の協力を得られれば、十分に国家転覆を図れると思っている」
「ほう。中々面白いことをやっているのだな、お前達は」
ドランの言葉に、お兄様は笑顔で頷かれましたわ。
「私も別の方向からではあるが、国家転覆を狙っていた」
「そうでしたの!?」
「勿論。フォルテシアに手を出した愚かな王家には死あるのみだろう。……まあ、私は城を燃やすつもりで居たのだが」
「何?お嬢さんといいお兄ちゃんといい、フォルテシアのお宅は放火魔養成学校かなんかなの?」
違いますわ。少々派手好きなだけでしてよ。
「現在、私は国境の外で既に大砲の準備をしている。城を囲んで撃てば、城を一気に破壊し尽くせる算段だ」
「……さらっととんでもないこと言ってくれるじゃないの。俺はこれどういう反応すればいいの?たまげておけばいい?今更だって嘆いておけばいい?」
「どっちでもよくってよ!流石お兄様ですわ!素敵ですわ!もうあの城を落とせる程に武力を高めておいでだったなんて!」
私が褒め称えると、お兄様は満足げに頷かれましたわ。ああ、お兄様が隠れてやってらっしゃったのは、こういうことでしたのね……。
……城を一発でぶち壊せる大砲って、一体何なのかしら……。ちょっぴり気になりますわねえ……。
「勿論、城を一気に破壊する、というのは少々芸が無いかもしれんな。理想を語るなら、王を引きずり出して磔刑に処し、フォルテシアに手を出したことをじっくり後悔させてやりたいところだが……まあ、もし大砲を使うにしても、それ以外の方法をとるにせよ、大砲を動かす人間や戦う人間が必要だ。そう考えても、武道大会を用いて人間を集めるというのは悪い手ではないだろうな!ふははははは!」
……なんだかトントンと話が進んでしまっていますけれど……ま、まあ、素晴らしい事ですわ!
そうですわね、私も、できれば国王やダクター様を城と一緒に心中させてやるよりは、燃える城を背景に火刑なりなんなりに処してやりたい気持ちですけれど……どちらにせよ、人も民意も必要ですものね。ええ。
「さて。そういうわけで、私は人を集めたい。優秀な戦士なら尚のこと良い。のだが……武道大会で人を集めるにはどうすればいいと思う?」
「空間鞄で捕まえる、というのはどうだ」
「ドラン。いけませんわ、そんなこと。いうことを聞かない人間を集めたって意味がありませんのよ」
空間鞄を使えば人間だって攫い放題ですけれど、それをやっても駒は手に入りませんのよね。全員を奴隷にしてしまう、というのも手ではありますけれど……。
「そういや王家は武道大会で人を集めるってのはいいけど、それをどうやって兵士にしようとしてたのかね。金で釣るとか?」
あら、そういえばそうですわ。
あの王家がまさか、高い給金で釣るつもりだったのかしら?お金も無いのに?うーん……それはちょっと考えにくいですわね。
「金で釣ったとは考えにくいですわ。あの王家、金欠ですもの。でしたらまだ、『国王に選ばれる名誉』とかほざきつつ兵役に就かせるですとか、或いは『実力を見込んで』とか何とか言って適当に騎士の役職にでも就かせて釣るとか、その方がそれらしいですわ」
「……ん?騎士ぃ?」
話していたら、唐突に向かいのソファで酔い潰れていたチェスタがもぞもぞ動いて起き出してきましたわ。
「今、騎士の話、してる?」
「してますわよ」
絶対に酒だけじゃなくて薬もキメてそうな様子のチェスタに、それでも一応真っ当な返事をしてやったところ。
「……国の騎士、って、カッコいいよなぁ。俺、大きくなったらさあ、騎士になるんだ……」
ばっちりキマったお返事がきましたわ……。
「……お前、騎士に片腕を奪われたんだろうに」
「大きくなったらっていつ?これ以上でかくなるつもり?」
「少なくとも飲んだくれてラリって寝てる奴は子供じゃないですわねえ……」
「騎士に憧れているのか?随分と純真なことだな」
私達が各々反応する中、チェスタはまたもぞもぞしながら丸くなって、眠ってしまいましたわ。なんなんですのこいつ?
……でも、ああ。チェスタの言葉を聞いて、なんとなく分かってしまいましたわ。
そういえば、『真っ当な』人間にとって、国の騎士は正義と力の行使者……『憧れ』でしたわね。
勿論、実態としては力を振るうのが正義のためとは限りませんし、チェスタなんかはそのせいで片腕を失っているわけですし……何とも言えませんけれど。
でも、憧れ、って、人を動かす理由になり得ますわね。
……ということは。
「ねえ。王家の狙いは、『憧れ』なのではないかしら?」
「どういうことだ」
「簡単な事ですわ。王家は武道会を使って、自分達の手の者の誰かに『憧れ』を向けさせるつもりなのですわ!そう、他の戦士達も憧れて、ついて行くような……そういう『英雄』を生み出すつもりなのですわ!」
言ってしまえば、大聖堂のキャロルと同じようなものですわね。
大聖堂に関して言えば、大聖堂自体よりも、大聖堂を導く立場として人々の前に現れるキャロル自身が人々の人気を集めて、その人気を大聖堂へと流している、ということになりますわ。
……王家はきっと、それをやろうとしていますのよ。
「……面白いですわ。なら私、彼らを英雄にはさせませんわよ」
私、素敵な事を思いつきましたわ。
王家の狙いも、『英雄になる予定の』誰かも、全てへし折る方法。
更に、それらの代わりに兵力も民意も集める方法。
それは……。
「私、武道大会に出ますわ」
私が英雄になることですわ。