没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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28話(間奏:王城の会議室にて)

「全く、ようやく静かになったか」

 王城の会議室の窓の外から見下ろす位置。城の前の広場は、ようやく喧噪も収まり、静かになっていくところである。

 正午にアマヴィレ・レントの公開処刑を行ったついでに聖女キャロルからの言葉があり、更にその後、国王から直々に武道大会の宣伝を行った。

 効果は上々。公開処刑に滾った血を、武道大会にぶつけようと考える者はそれなりに多いのではないだろうか。

「……まあ、高い買い物だったが、な」

 国王はそう言って、ため息を吐く。

 ……武道大会の宣伝を行いはしたが、王自身、武道大会に前向きにはなれない。

 何と言っても、戦争を起こせる予定が消えてしまったのだ。得られるはずだった利益は藻屑と消え、後に残ったのは毒にも薬にもならぬ『平和』のみ。

 武道大会も、最早全くの無駄。投資した分はほとんど返ってこない。大枚を叩いて得られたものが国民の機嫌だけとは、何とも空しい話である。

「元凶が死んだことだけが唯一の救いだな」

 だが、元凶たるアマヴィレ・レントは死んだ。

 虚偽に虚偽を重ね、国を陥れようとしたかの悪女は、物言わぬ躯となり果てた。最早、王の邪魔をすることは無い。

 だが……アマヴィレ・レントは死んで尚、王の思考を妨げていた。

 

 

 

 アマヴィレ・レントは死の間際までずっと、自分の無実を訴えていた。

 公開処刑の前夜に脱走した時からずっと、理性を失い錯乱していたようにも見えたが……吐き出す戯言のほとんどは、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアと無関係であること。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアへの罵詈雑言。そして自分が無実であること。

 聖女投票を荒らした罪も、虚偽の情報を流した罪も確かであるため、アマヴィレ・レントが無実であるということはあり得ないのだが……ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアとの関係には確かに疑問が残る。

 ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアは聖女投票の会場で、アマヴィレ・レントが『裏切った』ことを公言した。つまり、それまで2人は手を組んでいたが、仲違いをした、ということになるだろうか。

 つまり、アマヴィレ・レントが嘘の情報を流したことは、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアの思惑とは逆だった、ということになるだろう。アマヴィレ・レントは故意に虚偽の情報を流したのだ。そこには何らかの意図があったと見た方がいい。

 アサンブラ王国で戦争がある、となると、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアは何か困ったのだろうか。

 ……ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアが隣国をあちこち巡っている、というような情報は確かに入っていた。何なら、亡命した、という情報まで入っていたくらいなのだ。他国と何らかのやりとりがあることは間違いない。

 そして……聖女投票の時の様子から考えるに、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアは明白に、この国を滅ぼそうとしているのだ。

「警戒せねばならんな……フォルテシア家の者はどこまでいってもフォルテシアだ」

 それは悪魔か、呪いか。そんな思いで『フォルテシア』の名を口にして、王はまた深々とため息を吐いた。

 ……ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアへの警戒は今後も怠らないようにせねばなるまい。なら、武道大会を開き、兵を集めておくことは悪くないかもしれないのだ。

 そう思えば、多少、武道大会に前向きになれる。

 

 

 

 アマヴィレ・レントとそれにまつわるヴァイオリア・ニコ・フォルテシアへの懸念はひとまず横に置いて、王は現在考えるべきことを考えることにした。

「ところで大聖堂の様子はどうだ」

「はい。現在も聖女投票直後の人気を維持し続け……いえ、以前より勢力を増しているようにも思えます。不安定な情勢においては、宗教が極めて強いかと」

 大臣の答えは以前と変わらない。何なら、以前より悪化しているかもしれない。

 ……聖女投票の時以来、王家への不信は高まり、その反面、大聖堂は民衆の不安を集め、支持を得て、どんどん大きくなっている。

 時が経つにつれ、王家への不信は薄れてきているが……大聖堂との均衡は依然として変わらず、大聖堂がより民衆の心に近いことは変わりなかった。

「……このまま大聖堂の陰に甘んじているべきではないな」

「しかし、王よ。今は耐えるべきです。下手に動いて大聖堂と対立していると思われでもしたら、今度こそ立ち行かなくなります」

 大臣の言葉に王は渋面を作った。

 ……王家よりも大聖堂が優れている、などと評されているのは気に食わない。だが実際、今は大臣の言う通り、大聖堂と対立しないように動かねばならない。それが何とも、苛立たしい。

「このまま大聖堂を国の中心のように扱い続けるわけにもいくまい。王家以外が権力を持ちすぎれば、それは国の滅びに繋がる。状況を改善せねばならんが……」

 大聖堂は様々なものを変えようとしている。

 大聖堂の在り方は実際、キャロルが聖女に就任してから大きく変わり、人々は大聖堂に祈りと許し以外のものまでもを求めて集まるようになった。

 民衆は、大義よりも目先の食べ物に飛びつくのだ。その浅ましさには辟易させられるが、それがこの国の現状なのだ。

 ……そうして集まった民衆はいずれ、大聖堂を第二の王家のように祭り上げるだろう。

 放っておけば、いずれ、大聖堂が第2のヴァイオリア・ニコ・フォルテシアになりかねない。

 そうだ。革命家気取りは1人でもこりごりだというのに。

 

 

 

 ……一番いいのは、すぐにでもヴァイオリア・ニコ・フォルテシアを捕らえ、アマヴィレ・レントよろしく公開処刑に処すことである。かの大罪人が死ねば、民衆も王家の動きに納得するだろう。

 だが、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアの足取りはまたもや靄のように消え失せ、辿ることができていない。

 聖女投票で姿を現して以来、全く姿を見せないヴァイオリア・ニコ・フォルテシアは、果たして、今はどこで何をしているのか。

 この不安を払拭すべく、王家も動きたいところなのだが……。

 

 王は思い出す。

 聖女投票の日、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアが演説めいたことを仕出かしたと聞いている。

 内容は別として、その演説には多くの民衆が聞き入っていた、とも。

 ……民衆は愚かなのである。

 大義より、与えられる食べ物を選ぶ。

 何か不満が1つあれば、全てがひっくり返ってしまってもよいとさえ考える。

 行き先がまるで分かっていないのに、変化を求める。

 だから民衆は、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアの演説になど聞き入るのである。

 ……そう。

 民衆は恐らく、革命家を望んでいるのだ。

 先の知れない変化を。この国を根底から覆す、何者かを。

 それは未来の大聖堂であり……ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアでもあるのだ。

 

 

 

「全く、馬鹿げている。変化が欲しいあまりに、巨悪へ惹かれるなどとは。我が国民のことながら嘆かわしい」

 王が嘆くと、賛同するように大臣や王子王女達が頷く。

 だが。

「……変化が必要だというのであれば、変化を与えてやるべきなのではありませんか?」

 ただ1人。第7王子ダクターは、そう言ったのだ。

「……我々が変化を、与える?それはどういうことだ」

「変化があれば何でもいいとはいえ、国民とて救いようのない馬鹿ではないかと。なら、我々が『正しい』変化を与えてやればよいのではありませんか?」

 戸惑う王子王女達、そして国王に向けて、ダクターは力強く声を上げた。

「今こそ、英雄が必要です。この国を救う、英雄が」

 

 

 

「……そうか。成程。分かったぞ」

 王は目を見開き、それから安堵と期待に微笑んだ。

「思えばこの国の歴史はそうであったな。我が国は英雄の国だ。英雄が国を守り、英雄に続いて巨悪を倒し、その英雄に付き従うことでこの国は成り立ってきた」

 過去に囚われることは愚かなことだが、過去に学ぶことは大いに利益を生む。

 この国は幾度となく危機に襲われたが、その都度、その時代を導く英雄によってこの国は救われ、また、この国は英雄の下に集って力を発揮してきたのだ。

 ならば、今代でも同じようにすればよい。国民も同じ気持ちだろう。国民が待ち望んでいる者……『変化』を齎す『英雄』。それこそが、国民の期待するものなのだ。

 

「ならば、探さねばならぬな。若く見目良く、強い者だ。王国を導き、巨悪を斃す英雄がこの国には必要だ。そういった者が、悪を挫き、この国のあるべき姿を民衆に思い出させなければならぬ」

 王はそう言って……王子王女達を見渡した。

「さて、心当たりは無いか?この国を導く英雄として相応しい者……次の武道大会に出場し、国民にその雄姿を見せつける者に、誰か、心当たりは?」

 王の言葉を聞いて、王子王女も大臣も、皆がざわめき、囁き合う。

 すると、すぐに意見が出始めた。

「クラリノ家のクリス様はどうでしょう?あのお方、お強い上に大層麗しいお方ですわ。クリス様の輝きは、平民の目にも明らかでしょう」

「なら、ダクターはどうだ?ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアと無関係とは言い難いが、婚約を破棄して既に1年が経つ。民衆の中へ出しても問題ないのでは?それにダクターなら十分に人気がとれるだろう。少々若すぎるかもしれないが、我が弟ながら、見目は中々良い」

「ああ、そうだ。民衆へ媚を売るようではありますが、エルゼマリンの街を暴徒から救った英雄が居たとか。その者をうまく出場させられれば、民衆の覚えは良いのでは?」

「民衆に人気の冒険者などを探ってみてもいいですね。聖女キャロルの人気も、庶民派であるところから生まれていたと思われます。英雄も似たような位置からさがしてみてはどうでしょう?」

「英雄の話ではありませんが、大聖堂の騎士を出場させては如何でしょう?大して強くもない騎士が王家の兵士に負けていく有様を見れば、民衆も大聖堂から王家へ傾くのではありませんか?」

 ……次々に飛び出す意見に、王は満足げに頷いた。

 大丈夫だ。この国には何人も、英雄に相応しい者達が居る。

 彼らの半分でも武道大会に出場させられれば、十分に国民の目が集まるだろう。

 そして、そこで武道大会を大いに盛り上げてやればいい。英雄達の華々しい活躍を、最高の娯楽として国民に与えてやるのだ。

 ……そこで、国民達は、望み通りに『変化』を得るのだ。

 鬱屈とした日々から全てを救うように錯覚させる『英雄』を仕立て上げて、彼らは勝手に喜ぶだろう。

 

 粗方意見が出尽くしたところで、王は会議を締めくくる。

「エルゼマリンの英雄や冒険者についてはエルゼマリンのギルドに問い合わせろ。クラリノ家にも至急、伝令を。まあ、断られることは無いと思うが。……そして、ダクター」

「はい」

「是非、お前も参加するがいい。……何も、優勝を狙えとは言わぬ。王家の者の姿を国民達の間近に見せてやれば、それでよい。勿論、よい成績を収めることを期待しているがな」

「承知いたしました」

 国王の言葉に、ダクターは力強く頷いた。『姿を見せる』だけで終わるつもりはない、とばかりに。

「よし。ならば決まりだ。武道大会を大いに盛り上げるぞ。この国の新たなる英雄の誕生を祝うに相応しい、華やかなものとしようではないか!」

 戦争のため、という目的が失われはしたが、また新たな意義を見出され、武道大会への意欲は王の中でまた大きく膨れ上がってきていた。

 先程までの鬱々とした気持ちも晴れやかなものとなり、王は晴れ晴れとした顔で会議室の椅子を立った。

 

 

 

 その時だった。

「陛下!至急、お知らせが!」

 駈け込んで来た兵士の声によって、会議室に緊張が走る。

 一体何が起きたのか、と、それぞれの表情が強張る中……。

 兵士は、笑顔で言ったのだ。

「見つかりました!例の証言者が!……リタル・ピア・エスクランが遂に見つかりました!」

 

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