1話「時の流れって残酷ですわ」
ごきげん!よう!ヴァイオリア!よ!
……私は!今!お兄様と戦って……あっ。
「よし。一本あったな。私の勝ちだ」
……武器を弾かれて一本とられましたわぁ……。
「ずるいんですのよ、お兄様は!力での競り合いになったら私、絶対に勝てませんもの!」
「ふはははは!自分の特性を理解した戦い方を選ぶのは当たり前のことだな!」
はい。私、お兄様と模擬戦をしていましたの。
なんでって、そりゃあ武道大会のためですわ!今から訓練しておかなくてはなりませんもの!
最近、剣で戦うことはあまりありませんでしたから、ここらでちょいと腕を磨き直しておかなければならないと思ったんですの。
……ただ、やっぱりお兄様は流石でしてよ。歯が立ちませんわぁ……。
「……俺、戦闘に詳しかないけどね。けど、お兄ちゃんの方の戦い方がとんでもないってこた、分かるわ。何、アレ。技術身に着けたドラン?」
「そうなんですのよ。お兄様ったら涼しい顔して、ドラゴンを一本背負いできるくらいには身体強化魔法がお得意ですの。さっきのアレも、フェイントのくせに一撃が滅茶苦茶に重いんですのよ……本命の攻撃だけじゃなくて、その一挙手一投足がドラゴン殺害級ですわ」
「へー。それドランじゃねえか。すげー」
「さっきから俺の名前を化け物の代名詞のように使うんじゃない」
でもドランは十分化け物でしてよ。少なくとも私、お兄様以外でドラゴンを素手で殺せる人はドランしか知りませんわ。
「あーあ、私、多少は強くなったと思っていましたけれど、まだまだですのねえ……」
「何、気にすることはない。悔しいが、単純な技術だけなら私もヴァイオリアには勝てん。今も、鉄パイプでの殴り合いだからこそ私が勝っているが、剣になったら五分と五分だろうな」
……ちょっぴり落ち込んでいたら、お兄様に慰めてもらえましたわ。ちょっぴり役得ですわ!
「……あのさあ。ヴァイオリア、本気で出るの?」
「え?出ますわよ?何を言っているの?」
鉄パイプの素振りをしていたら、キーブに呆れた顔をされましたわ。呆れられる謂れは無くってよ!
「いや、だってさ。出場資格は問わない、なんて言っても、わざわざ公衆の面前、それも王も兵士も居る所に出てくなんて馬鹿だろ?」
「そこは上手くやりますわ。捕まってやる気はサラサラ無くってよ」
それに捕まったとしてもまた脱獄するだけですわ!
「……その度胸ってどこから来るわけ?」
「そうですわねえ、怒りが原動力の1つであることは間違いないですけれど、それ以上に私、武道大会にちょっぴり心が躍っていますのよ」
「へー……」
あ、あら?またキーブに呆れた顔をされましたわ!さっきから何なんですの!?可愛い恰好をさせられたいんですの!?
「あんま、無茶しないでよね」
……あっ。
「も、もしかして心配してくれたんですの……?」
「え?は?違うって。僕は変に巻き込まれるのは御免だっつってるんだよ」
キーブはそう言いますけれど……な、なんだか可愛いですわ!つっけんどんな言い方も、照れ隠しに見えましてよ!
「可愛いですわぁ!やっぱりキーブは可愛いですわぁーッ!ね、キーブ!あなたも出場しませんこと?きっとあなたの可愛さなら優勝間違いなしでしてよ!」
「何の大会にだよ……」
できれば美少女コンテストに出てほしいところですわ。ええ。
「……まあ、出るんだけどね」
「えっ出ますのッ!?」
「エルゼマリンのギルドに、要請が来てたんだってさ」
「美少女コンテストの!?」
「武道大会の!」
……えっ?
「なんか、王家から『ギルドで一番強くて人気の冒険者を武道大会に出してくれ』って要請が来たんだってさ」
「ああ、それでキーブですのね?」
そういうことなら納得ですわ。
キーブには表との連絡役を担ってもらう都合上、ギルドへの登録もお願いしていましたの。当然、ギルド員として怪しまれない程度に冒険者活動もしていたはずですけれど……まさかそれでキーブが『一番強くて人気の冒険者』に選ばれることになるとは思いませんでしたわね!
「一番人気、は分かりますけれど、あなた、いつのまに強さなんて誇示してたんですの?」
「だって僕、今のエルゼマリンのギルドで一番成績いいし」
えっいつの間に!この子ったら!そんなことになっていたなんて!
「一体いつの間に何をやったんですの?」
「大したことはしてない。ドラゴンの死体で余った奴持ってったりとか、あと、暇な時に適当に依頼こなして遊んでただけ。魔法の練習もしたかったし」
「あなた、マメですのねえ……」
そういや確かに、聖女投票の後からこの方はずっと、キーブに暇させてましたわね。ええ。まさかギルドで活動していたとは思いませんでしたけれど。
「ああ、嬉しいですわ。キーブが優秀だと認められた、ということですものね?おめでとう」
色々とびっくりしましたけれど、とりあえず嬉しい事には変わりありませんわ。素直におめでとうと言いましょう。
「ありがと。……ま、ちなみにギルドの成績、歴代だと僕、2位だってさ。あーあ」
「え?あなたの上が居ましたの?」
聞いてみたら、じっとりとした目で睨まれましたわ。……あ。
「アイル・カノーネ。……聞き覚え、あるんじゃねーの?」
ありますわぁ……。私ですわぁ……。
「そうか。なら、出場はヴァイオリアとキーブの2人になるんだな」
とりあえずドランに報告しておきましたわ。出場は私とキーブの2人になりそうですわよ、と。
「僕は嫌だ。なんでヴァイオリアが出るんだよ」
「あらぁ、そんなの楽しそうだからに決まってましてよ!」
「お前が出たら僕が楽しくないんだよ!」
「おほほほほ!それはごめんあそばせ!でも出ますわ!」
キーブとしては複雑みたいですけれど、まあ、折角の武道大会ですもの。私だって出たいのですわ!
「ちなみに私とキーブの2人、ということでしたけれど、他はもう出ませんの?」
「え?俺が出ると思った?お嬢さん、そりゃあちょいと無理よ」
「分かってますわ。ジョヴァンが出たら死にますわ。でも例えば……ドランやチェスタやお兄様は出てもいいのではなくって?」
私が声をかけると、3人とも複雑そうな顔をしましたわ。
「いやー、俺は駄目だろ?腕がこんなんなってる奴、他に居ねえし。一発でバレるって。俺、一応犯罪者だしさあ」
あっ、そういえばそうでしたわね。エルゼマリンの貴族街を全滅させた時もチェスタを多少なりとも使っていますし、顔を出させるのは危険、かしら……。
「それと……城の騎士様はあんま見たくねえんだ。対戦するとかなったら変に力入っちまいそうでさ」
……そういえばそうでしたわね。ええ。
なら、私も無理にとは言いませんわよ。
「あとさあ、戦った後、気分上がったらキメたくなっちまうんだよなあ……」
……あとは何よりも薬中でしたわ、こいつ。薬って違法でしたわ。うっかり会場でキメてラリったら一発でお縄でしたわッ!
「ええと、ではお兄様はいかがですの?フルフェイスの甲冑を着られない、ということも無いでしょう?」
「まあ、私も出たいのは山々なのだがな……。お前が出るというのならやめておこう。目立つ者は1人に絞った方がいい。そして今、目立つべきは私よりはお前だろう」
あらぁ……お兄様と武道大会で一戦交えられることを楽しみにしていましたけれど、そういうお考えなら仕方ありませんわね。
「そして何より、私にはお前を会場から無事に脱出させるという別の任務があるからな!」
「あら、ありがとうございます、お兄様!」
そこんとこは全く考えていませんでしたから、とっても助かりますわ!
「ではドランならいいんじゃなくって?」
「いや、俺は……」
「チェスタは義手を使った戦い方をしますから難しいですけれど、あなたの場合、フルフェイスの甲冑で出場する分には問題ないのではないかしら?」
ドランの能力は、その異様な身体能力と、その異様な身体能力をよりバケモンにする身体強化魔法。その2つでしたら、顔を隠していても十分使えましてよ。
「俺まで出る意味は無いだろう。ヴァイオリアとキーブが出るなら十分だと思うが」
「十分不十分の話じゃありませんのよ。だって、折角の機会でしょう?」
「そう言われてもな。俺が出る必要は無いだろう」
ドランは必要じゃないことをする意欲に欠けるんですのよねえ……。多少、面白いか面白くないか、とか、そういうことで判断してくれてもいいんですけれど。
「いいんじゃあないの。ドラン。出ろよ」
……と思っていたら、ジョヴァンがニヤニヤしながらドランを小突きましたわ。
「俺は見たいね。ゴツい甲冑の野郎が馬鹿みたいな力押しだけで勝ち上がっていくの」
「おい」
「そういうのもいいじゃない!な!面白そうだし、出ろって」
ジョヴァンに背中をバシバシやられて迷惑そうな顔をしていたドランですけれども、背中バシバシの間ずっと考え込んで……やっと、頷きましたわ。
「……なら俺は聖騎士として出る。いいか?」
聖騎士?聖騎士ですの?ちょっと意外でしたわね。
「え?そりゃあ勿論……キャロルの許可は必要でしょうけれど、良いんじゃあないかしら?でもどうして聖騎士ですの?」
もしかしてキャロルの護衛として聖騎士の甲冑を着ている間に、あの甲冑、気に入ったのかしら?
「王家の連中は、大聖堂の者に勝ちたいだろうと思ってな」
……あら。
「そこで聖騎士が王家の兵士をなぎ倒していったら、『面白い』だろう」
「……ええ。それはとっても『面白い』ですわねえ。ええ。是非そうして頂戴な。私も見たいですわ、それ」
王家の狙いが圧し折られていくのは絶対に面白いですわ!ええ、是非、ドランには聖騎士の役をやってもらいましょう。折角彼自身、『面白い』と思ってくれたことですし。ね。
……ということで。
私達、それぞれに手続きを済ませましたの。
キーブはギルドで。ドランはキャロル伝いに。そして私は一般応募用の登録所で。それぞれ、武道大会への参加申し込みを行いましたわ。
キーブはそのままですけれど、ドランと私はそれぞれ偽名で登録しましたわよ。ドランの方は知りませんけれど、私は『ストラ・バリウス』ですわ。おほほほほ。
王都の登録所で無事、武道大会参加申し込みを済ませた私は、そのままフラッと王都の街並みを散策しますわ。
元々、王都の裏通りをふらつくのは結構好きですの。変わったものもたくさんあって、見ているだけでも面白くってよ。……まあ、エルゼマリンの裏通りとは方向性が大分違いますけれど。
エルゼマリンへのお土産ということで、お気に入りのお菓子屋さんに立ち寄ってお菓子をいくらか買い込んで、さて、そろそろドラゴンに乗って帰ろうかしら、と思った、その時。
「あっ、ごめんなさい」
前方不注意の野郎にぶつかられましたわ。まあ、肩がぶつかった程度ですけれど。私はしっかり体幹を鍛えておりますから、全くぶれませんでしたけれど。
「前にはお気を付けなさいな」
なので私、さっさと通り過ぎることにした、のですけれど……。
「あ、あの!」
すれ違った後から、手首を捕まえられて、咄嗟に懐の短剣に手をやりながら振り返って……そこで、ちょいと、意外な顔に出くわしたのですわ。
金色の髪に青空色の瞳。
……どう見ても、クラリノ家の血族、ですわねえ……?
クラリノ家って本家も傍系も含めるととんでもない数が居ますから、どこの家の誰かは分かりませんけれど、とりあえずクラリノ家と関係のある誰かだろうということだけは分かりますわ!
仕立てたばかりに見える上等な服に、それなりに鍛えた体つき。露出している部分は手と顔ぐらいですけれど、少し傷がありますわ。戦ってついたものに見えますわね。
……でもその割に、剣を振る仕事をしているようには見えませんわ。まあ、クラリノ家は軍人の家系ですから、誰でもある程度は武術を身に着けているのでしょうし、魔物狩りが趣味、という貴族も居ない訳ではないのですけれど……。
ということは、目の前の男性は多少体を鍛える趣味があるけれど職業軍人ではないクラリノ家の一族のどこかに属する誰か、ということになりますわね。駄目ですわ。全然絞れてなくってよ。
「……あ、あの。アイル・カノーネ様、ですよね?」
「えっ?」
しかも予想外なことに、そう名前を呼ばれたのですわ。駄目ですわ。全然こいつが誰か分からなくってよ!
え、ええと……私が『アイル・カノーネ』を名乗って活動していたのって、2つだけですのよ。
1つは冒険者として活動していた時にこの名前を使っていましたわね。
そしてもう1つは、先代の聖女様やそこらへんで使いましたわね。
……ということは、目の前のこいつは大聖堂関係者、かしら……?
だとしたら、聖騎士、かしら。騎士にしては細めに見えますけれど、でも見たところ、まだまだ少年と言っても差し支えない程度の年頃ですし、なら聖騎士見習いとして大聖堂に出入りしていたとか、そういったところかしら……?
う、うーん、駄目ですわ、全然記憶になくってよ!
私が只々困惑していると、目の前の金髪野郎は身長の都合でちょいと私を見下ろす格好になりながら、困ったように、こう言ったのですわ。
「あの、覚えておられませんか?僕、リタルです。リタル・ピア・エスクランです」
……えっ?
「去年、あなたのドラゴン狩りに参加させていただいた……」
えっ?え?……え?
私の記憶では、リタル・ピア・エスクランというのは貴族のお坊ちゃまで……温室で大事に育てられたお花みたいな、或いはふかふかの雲の上でお昼寝してる天使みたいな、そういうガキだったのですけれど……?
え?目の前のこいつ、どう見ても私よりタッパありますけれど……?
「あ、あなた……リタル、ですの……?」
「はい!そうです!」
怖々、尋ね返してみたら……目の前の野郎は、ぱっと表情を明るくして、満面の笑みで元気にお返事してくれましたのよ。その笑顔には確かに、私が冒険者をやっていた時に世話してやったガキンチョの面影があって、余計に混乱してきましたわ!
何が起きましたの!?これ、一体、何が起きていますの……!?