没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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3話「町を歩けなくなりましたわ」

 ごきげんよう……ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ……。

 私、今、とっても困ってますのよねえ……。

「……というわけですのよ」

「それは……なんつーか、意外ね。お嬢さん、そういう手合いが苦手なの?」

「自分でも驚きましてよ。もうちょっとバッサリいけるかと思ったのですけれど……」

 ……ええ。私、リタルにあの後、逃げられましたのよ。

 

『あなたの濡れ衣をきっと払ってみせます!』と言ったリタルは、あの後数秒私を見つめて、それから弾かれたように立ち上がって逃げるように去っていきましたのよ。

 ただ、去り際に『何かあったらエスクラン家の別荘にお越しください!いつでもあなたを匿えるように準備をしてありますから!』とか何とか言って去っていったんですのよねえ……。

 ……なんというか、彼、本気っぽいのですわ。ええ。とっても困ったことに。

 

 

 

「まあ、放っておいていいんじゃない?勝手にそのガキがなんかやってるだけなんでしょ?」

「そうは言っても、このままいくと彼、私と武道大会でぶち当たりますのよ」

「その時は蹴散らしておやんなさいよ。できるでしょ、お嬢さんなら」

「余裕ですけどぉ……あーん、なんかやりづらいんですわぁーッ!」

 リタルって今までにないタイプだものですから、なんというか、非常に!やりづらい!のですわ!

「……まー、一途な純情少年をフるのが気が引けるってんなら、いっそのこと振り回してみれば?面白いんじゃない?」

「他人事だと思って好き勝手言いますわねえあなた……さては酔ってますわね?」

「そりゃあ俺はお嬢さんでもドランでもないからな。酒飲んだら気持ちよくもなってきちゃうって訳よ」

 まー羨ましいことですわねえ。私、飲んでも飲んでも酔っぱらわないもんですから、ほら、もうワインが5本ほど空いていてよ。

「……下手な陰謀に巻き込まれるようなら話は別だが、相手が純粋な好意しか抱いていないなら放っておいてもいいんじゃないか」

「純粋な好意だからこそ性質が悪いんですのよ。わかりますこと?これで私が『冤罪』じゃなくてマジモンの犯罪者だと分かったらあの子、勝手に幻滅して勝手に裏切られた気になって何しでかすか分からないじゃありませんの」

「それもそうか。面倒だな」

 だーから面倒だっつってんですのよ!もう!

「自業自得でしょ。自分で蒔いた種なんだから自分でなんとかすれば」

「あーらキーブ?そんなこと言っていいのかしら?あなただって武道大会に参加するのですからリタルに当たるかもしれなくってよ?」

「僕は何とも思わずにそいつ殺せるから」

「……大会は一応、殺しは認められていませんわよ?」

「『故意』ならね。『不慮の事故』なら殺したって文句言われないだろ」

 ……まあその通りなのですけれどね。ええ。

 武道大会ってその性質上、怪我はつきものですもの。その怪我がちょいと行き過ぎて死んでしまったとしてもしょうがない、ということで、そこら辺を了承する誓約書にサインしないと出場できないようになっていますの。

 ですから、実質、殺しもアリ、ということになりますわね。ええ。

 

「……で、ヴァイオリアはそいつの別荘、行くのかよ?」

「行きませんわよ。行ってどうするんですの?あのお坊ちゃまに大事に囲われておいて助かるとは思えませんわね。大体、リタルが武道大会で優勝できるとも思っていませんし」

 いくら修行して強くなってメキメキ成長したからといって、それだけで優勝できるほど甘くなくってよ。

 何と言っても、こちらからは私もドランもキーブも参加しますもの。流石にここ3人ともリタルに負けるとは思いませんわ。

「あー……そういや、なんだっけ?前、お前が話してたの、居たじゃん。クラリノ家の」

「クリス・ベイ・クラリノですの?ええ、彼もそこそこ強いそうですわね。当然、リタルよりは強いと思いますけれど。ええ。当たるのが楽しみですわ」

 そうですわね、リタルと当たることよりも、私としてはそっちを楽しみにしたいところですわ。

「何といっても彼、クラリノ家の次期当主ですものねえ……」

 あの野郎は私が直々にぶちのめす対象に入っておりますのよ。ええ。

「……そのクリスって奴って、そのリタルって奴と親戚なんだよな?仲良いの?」

「そうですわね。まあ、血はどこかでは繋がってるはずですし、不仲ではないはずですわ」

 数の多いクラリノ家ですから、血が繋がっているとはいえ、少々離れているかもしれませんけれど、容姿もそれなりに似ていますし、やり取りはあるようですしね。まあ、不仲ということは無いんじゃないかしら。

「じゃあ、そのリタルって奴使えば、クリスって奴の情報とかもらえんの?」

 

 ……あー。

 まあ、そう、ですわねえ。

 リタルに餌をやった理由は、そこでしたわねえ……。

 当初は、まあ、保険程度に……保身の保険と、クラリノ家の情報源の確保、くらいのつもりで居たのでしたわね。

 ええ、ですから、リタルからクリス・ベイ・クラリノの情報を得るなり、リタル伝いにクリスを誘導したり、クリスに毒を送りつけたり、まあ、色々できることはあるでしょうね。

 けれど……。

「……相手の意図がイマイチ分からない以上、あんまり使いたくない手ですわねえ……」

 何と言っても私、リタルが何考えてるのか、よく分かりませんのよねえ……。

 

「純粋な好意でしょうよ、そりゃあ」

「その『純粋な好意』が分かりませんのよぉーッ!」

 この界隈、そういうの全くありませんもの!例が無いものに対応するのって難しいんじゃなくって!?

 あの手の相手って、相手の目的が本当に分からないんですわあ……。金目当てだとか、命狙いだとか、そういうのが分かりやすい方がありがたいですわね!ええ!

「大体、リタルが何を考えているかは別として、リタルの周囲の人間がリタルと同じように私を助けようとしているかと言ったらそれはまた別の話じゃありませんこと?リタルを使って私を釣って捕まえようとしていてもおかしくなくってよ!」

「そりゃそうだ」

「……ですから、よっぽど困らない限り、リタルは使いませんわ。じゃないとこっちの精神が先に参りそうですもの……」

 相手の目的も相手の周辺の事情もよく分かっていない状況で、相手を上手く利用できる自信はありませんわね。ええ。

 大体、リタルの背後にはクラリノ家、そしてその背後には王家がありますもの。迂闊に動いていい界隈じゃありませんわ。

「あらそ、残念。俺としては貴族のお坊ちゃまを弄ぶお嬢さんを見てみたかったんだけど」

「あなたいい趣味してますわねえ……」

 ジョヴァンの期待には沿えそうもありませんわね。ええ。私、特に面白くない危険な橋は渡らない主義ですのよ。

 

 

 

 ……と、思った3日後。

 昼間のエルゼマリンを散歩していたら。

「あっ!」

 ……げっ。

「ヴァ……いえ、アイル様!」

 り、リタルが居ましたわ……!?

 

 

 

「なんであなたこんな所に居るんですの?王都に居た方がいいんじゃなくって?」

 とりあえず裏通りの喫茶店に入って話すことにしましたわ。ここなら私の顔が利きますし、変に探られることもありませんし。リタルは少々落ち着かないようですけれどね。

「僕は改めて、冒険者としてギルドに登録しに来たんです」

「貴族のお坊ちゃまが冒険者?本当に物好きですわねえ……」

「武道大会までの修業を兼ねて、魔物狩りをしようかと思いまして。こちらに戻ってきてからしばらく、杖を握って居ませんでしたから」

 そういやこいつ、魔法使いでしたわね。

 ……最初に会った時には守護の魔法入りのシルクのローブだの、初心者向けの杖だの、ふざけた格好していましたけれど、今はそれなりにきちんと戦っている冒険者の恰好に見えますわね。

 守護の魔法が込められているであろうローブは、動きやすさを重視しているようで軽装の剣士のそれにも見えますわ。杖は本当に変わりましたわね。正統派ながら玄人向けの、ドラゴンの牙や鱗、そしてドラゴンの持つ宝玉で彩られた杖を使っているようですわね。

 リタルの性格なのでしょうけれど、あんまり癖のある杖は合わない一方で、あまりにも癖の無さすぎるいい子ちゃんな杖だと優柔不断でよわよわな面ばかり増幅されてしまうのでしょうね。ドラゴンの素材で正統派ながらしっかり攻撃性を増していくような杖が合っている、という事なのでしょう。

 ……まあ、要は、それなりに戦ってるんですのね、と分かる恰好ですわ。杖も使いこまれているように見えますしね。

「それにしても、貴族のお坊ちゃまが冒険者の真似事なんてしていていいんですの?お家の都合もあるんじゃなくって?」

「まあ、武道大会に出場する、という点で大目に見てもらっています。それにエスクラン家は貴族ですけれど、あくまでもクラリノ家の分家ですから。本家のクリス兄様のように忙しい訳ではありませんよ」

 まあ、そこら辺の事情は分かりますけれど。

 それでも、貴族のお坊ちゃまがフラフラしていていい顔をされるとは思えないのですけれど……。

「ほぼ丸1年、家を空けていたんです。今更、数日ふらふらしたって文句も無いでしょう」

 ……あー。成程。

 リタルは……こう、何か、色々とこう、吹っ切れちゃったんですのね!?

 クラリノ家の血族なのに弱い自分がコンプレックスだったようですけれど、それも今や払拭されて……なんかこう、浮かれてるんですのね!?その気持ちは分かりますわ!

「それに、ここに来てやっぱり良かったです。ヴァイオリア様にお会いできました!あの、ヴァイオリア様はこの辺りにお住まいなんですか?」

 ……あ、でも本当にこいつ、どうしようかしら……。

 

 

 

 私がエルゼマリンに住んでいるどころかエルゼマリンを陰で牛耳っているなんて知られたらまずいですから、私は適当なところでリタルと別れた後、森に逃げ込みましたわ。そこでしばらくスライムと戯れてから、以前掘った穴を使ってアジトに帰りましたわ。

「……わ、私、しばらく引きこもった方がいいかしら……?」

「ふむ。お前がこうまで弱るとは珍しいな。そのリタルという男、私も興味が湧いてきた」

「そうですわね……あのポヤポヤしたかんじのまま強さだけは強くなったという点で、非常に珍しい野郎ではありますわね……」

「……まあ、元気を出せ。エルゼマリンのギルドに登録したというのなら、奴の拠点は当面、エルゼマリンだろう。しばらくは地下生活を送った方がいいだろうな」

「ああーやっぱりそうなりますのねーッ!?折角エルゼマリンの大通りを真昼間に闊歩できるようになりましたのにーッ!」

 お兄様に慰めて頂きつつ、大いに歯噛みしつつ……私、明日からの生活が不安になって参りましてよ……?

 

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